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プライシング

景品表示法と価格表示:二重価格・有利誤認を避ける

9分で読める|2026/04/15|
プライシング法規制景品表示法コンプライアンス

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価格表示が景品表示法上のリスクになるかどうかを分けるのは、値引き率の大きさではありません。分かれ目は、その価格が何と、いつ、どの条件で比較されているかを一文で言えるかどうかです。そしてEC・SaaSでその一文がしばしば崩れるのは、担当者の法務知識が足りないからではなく、LP、料金ページ、カート、請求画面が別々の担当者によって別々のタイミングで更新されるという運用構造そのものが原因です。

私は、価格表示の安全性は法務レビューの厳しさではなく、担当者が「この価格は何と比べているか」を一文で書けるかどうかで決まると考えています。一文で書けない訴求は、景品表示法上の判断を待つまでもなく、公開前に弱めるべきです。ただしこれはEC・SaaSの表示運用という範囲での立場であり、個別案件が違法かどうかの最終判断ではありません。最終判断は、消費者庁の公表資料と弁護士等の専門家確認を前提にしてください。

このプライシング法制度ガイドは全8回のシリーズとして書き進めていますが、独占禁止法(第1回)や下請法(第3回)を書き終えたあとに本記事を書くと、同じ「価格」を扱う法律でも、日常的に判断の当事者になる担当者の顔ぶれがまるで違うことに気づきます。独占禁止法が扱う不当廉売やカルテルの判断、下請法(取適法)が扱う協議の証跡は、どちらもキャンペーン設計や発注交渉の節目で法務・調達が関与する話です。これに対して景品表示法は、LPのコピー、キャンペーンバナーの文言、料金ページの一文が対象になるため、法務ではなくマーケティング担当者が毎週、場合によっては毎日、判断の当事者になります。シリーズを並べて書いてみて、景品表示法だけが「法務が構える法律」ではなく「マーケティングが日常的に運用する法律」としての性格を強く持っていると、私はみています。

“

免責事項 本記事は法制度の一般的な解説を目的としており、法的アドバイスではありません。 法令や運用は更新されることがあるため、具体的な案件では最新の公的資料と弁護士等の専門家確認を前提にしてください。

前提:比較対照価格の実在性と「一文テスト」

景品表示法の有利誤認表示について、消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方(価格表示ガイドライン)」は、価格そのものの高低ではなく、実際の取引条件との乖離を判断の軸に置いています(価格表示ガイドライン)。本記事では、この枠組みを実務で使える2つの道具に分解します。

比較対照価格の実在性とは、その価格で、同じ商品・プラン・条件を、実際に販売していた事実を、価格履歴、掲載期間、販売画面のスクリーンショットなどの資料で示せることを指します。示せなければ、実在しているとは扱いません。

一文テストとは、「この価格は、いつ・どこで・どの条件の何と比較しているか」を一文で書けるかどうかのテストです。この一文が書けない訴求は、比較対照価格の実在性がどこかで崩れているという合図になります。以下の各節は、この一文がどこで、なぜ崩れるかを見ていきます。

なぜ運用で崩れるのか

強い訴求を思いつくのは簡単です。難しいのは、その訴求を支える一文を、公開後も維持し続けることです。EC・SaaSでは、LP、料金ページ、カート、請求画面が別々の担当者、別々のタイミングで更新されます。LPを作った担当者は比較対照価格の根拠を知っていても、その根拠は料金ページの担当者やカートの実装担当には自動的には伝わりません。一文はLPの中では成立していても、画面をまたいだ瞬間に前提が共有されなくなり、静かに崩れます。

この崩れ方は、本シリーズの別記事「SaaSの解約条件と自動更新の見せ方」が指摘する構造とほぼ同じです。同記事は、消費者向けSaaSで揉めるのは料金水準そのものよりも、画面の順番、確認メール、運用ログの欠けだと整理しています。申込前表示が崩れる場所と、比較対照価格の実在性が崩れる場所は、どちらも同じ運用の継ぎ目にあります。

この記事とpricing-law-consumer-jpが挙げる崩れ方を並べて突き合わせると、崩れる情報の中身は違っても、崩れる構造は同じだとわかります。consumer-jp記事が挙げる「更新日が分かりにくい」「停止期限が遠回し」「通知の役割が弱い」という崩れ方は、必要な情報そのものが欠けているのではなく、存在する情報がどの画面の、どの担当者の管理下に置かれるかという設計の問題として整理されています。景品表示法における比較対照価格の実在性も同様に、根拠となる情報(いつ、いくらで売っていたか)自体はどこかの画面や資料に存在しているのに、画面をまたいだ瞬間にその情報の受け渡しが途切れ、担当者の間で共有されないまま一文が崩れるという、同じ「情報の所在と受け渡し」の設計問題として起きていると分析できます。

比較対照価格タイプ別の実在チェック

比較対照価格には主に5種類あり、それぞれ確認すべき点が異なります。

比較対照価格実務で確認したいこと
自社の過去価格実際に販売していたか、直近の価格か、同じ商品・同じ条件か
メーカー希望小売価格現在も有効な資料があるか、対象SKUが一致しているか
競争事業者の価格比較対象が同等条件か、調査日時を残しているか、付帯費用まで揃うか
月額と年額の比較契約期間、初期費用、途中解約条件、無料期間を含めて同条件か
キャンペーン前価格と後価格の比較いつまでその価格だったか、対象者は誰か、終了後に表示を戻せるか

「8週間」は目安であって、通過点ではない

実務では、自社の過去価格を通常価格として示すときに「8週間ルール」という言い方がよく使われます。ここで一文テストを崩しやすいのが、「8週間さえ満たせば安全、満たさなければ違法」という、日数の充足だけを見る発想です。価格表示ガイドラインが求めているのは日数の充足そのものではなく、継続性(テスト的に短期間だけ付けた価格ではなく実態として販売していたか)、直近性(長く使っていない古い価格を、いまの通常価格のように見せていないか)、同一性(同じ商品・プラン・条件・チャネルの価格同士を比較しているか)の3点だと考えられます。日数の条件を満たしていても、この3点のどれかが崩れていれば、一文テストは通りません。

ここで数字として使われる「8週間」自体は、消費者庁「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方(価格表示ガイドライン)」(価格表示ガイドライン)が明文で定める合格ラインではなく、実務上の目安として使われている数字だと理解しています。同ガイドラインが判断の軸に置いているのは日数という形式要件ではなく、実際の取引条件との乖離です。8週間という数字を満たしたことは、継続性・直近性・同一性という3点を検討する出発点にはなっても、それ自体が適法性を保証するものではない、という位置づけで扱うのが実務的には安全だと考えています。

一文で書けなくなる5つの崩れ方

ここまでの一文テストを、実際によく見る5つのパターンに当てはめます。

セールが常態化する

「今だけ」「期間限定」と表示しながら実際には長期間その価格で売り続けると、一文の主語が崩れます。「今の価格は、キャンペーン前の通常価格と比較している」と書こうとしても、キャンペーン前の通常価格を最後に販売した記録がなければ、その一文は書けません。

比較条件が揃わないまま割引率だけ出す

年額プランを月額換算して「お得」と見せる場合、初期費用、最低利用期間、対象機能、サポート範囲のどれかが違えば、比較しているのは同じ商品ではありません。一文テストは「同じプランの月額換算価格と比較している」と書けることを要求しますが、条件が違えばこの一文は成立しません。SaaSでは営業見積もりとセルフサーブ価格が混在しやすく、ここでずれが生まれやすくなります。

最安・最上位表現を広く使う

「業界最安」「地域最安」「最も選ばれている」は、価格表示だけでなく比較広告の論点も持ち込みます。一文テストに当てはめると、「どの範囲の、いつの時点の、どの条件の価格と比較して最安か」まで書けて初めて成立する表現です。対象範囲、調査時点、比較条件のどれかが言えないなら、順位表現を使わずに、このプランに含まれる価値そのものを説明したほうが一文は書きやすくなります。

画面間で表示がずれる

LPでは「初月無料」、申込画面では「契約初期費用あり」、請求画面では「日割りなし」。ひとつひとつは小さなずれに見えても、一文テストを画面ごとに書いてみると、答えが画面によって変わってしまいます。同じ一文がLP、申込画面、請求画面のどこで読んでも成立して初めて、表示は崩れていないと言えます。

料金改定で旧価格を見せ続ける

料金改定の案内で旧価格を見せる場合も、崩れ方は同じです。改定前後の比較自体が問題になるのではなく、旧価格が「改定前価格」だという位置づけを失ったまま画面に残ることが問題になりやすくなります。いつまでの価格か、どの顧客に適用されるかを一文で書けなくなった時点が、表示を整理するタイミングです。

EC・SaaSで先に整えたい運用フロー

価格表示のリスクは、法律知識だけでは減りません。企画、設定、公開、運用、保管の流れを誰が持つかを、先に決めておく必要があります。

フェーズ確認項目残しておきたいもの
企画比較対照価格の根拠、対象者、対象チャネル、終了条件企画メモ、承認ログ、比較根拠の一文
設定LP、料金ページ、カート、見積書、請求画面で同じ条件が表示されるか画面一覧、文言一覧、更新担当者
公開適用開始日、終了日、除外条件、無料期間後の課金条件が見えるか公開時スクリーンショット、配信設定
運用セール終了後に旧表示が残っていないか、営業資料が古いまま残っていないか週次点検ログ、差分確認記録
保管問い合わせや指摘があったときに根拠を説明できるか価格履歴、比較調査メモ、過去画面の控え

法務確認を入れたいトリガーは、次のような場面です。

  • 新しい比較対照価格を使うとき
  • 「最安」「No.1」など順位表現を出すとき
  • 自動更新や長期契約を含むキャンペーンを打つとき
  • 代理店、販売店、営業見積もりなど複数チャネルで同時展開するとき
  • 旧価格、新価格、キャンペーン価格が短期間で何度も切り替わるとき

この運用フローが特に効いてくるのは、基準価格の設計や年額表示を作る場面です。本シリーズの姉妹記事「アンカリング効果とは?価格判断の基準を整える設計ガイド」は、判断の土台としての基準価格の置き方を設計論として扱っていますが、その基準価格をどこまで比較対照価格として使えるかの法的な限界線は、上で見た実在性・同一性・直近性の3点で決まります。同様に「月額契約と年額契約の設計ガイド」が扱う月額換算の前払い割引表示も、「比較条件が揃わないまま割引率だけ出す」崩れ方の直接の制約を受けます。

7項目のチェックリストは、1つの一文に畳める

公開前チェックとして、次の7項目がよく使われます。

  1. 比較対照価格は、実在した価格か
  2. 比較しているのは、同じ商品・同じプラン・同じ条件か
  3. 対象者と対象チャネルは明確か
  4. セールや無料期間の終了後、何円になるか見えるか
  5. LP、申込画面、請求画面、営業資料で説明が一致しているか
  6. 表示を下ろす日と担当者が決まっているか
  7. 根拠資料を社内で出せるか

7項目は別々のチェックに見えますが、並べ直すと1つに畳めます。1と2は、比較対照価格の実在性の言い換えです。3、4、5は、その一文が対象者・タイミング・画面のどこで読んでも同じ内容になっているか、という言い換えです。6と7は、その一文をいつまで、誰が、何を根拠に説明し続けられるか、という言い換えです。つまり7項目は、「この価格は、いつ・どこで・どの条件の何と比較しているか」という一文を、あなたが今書けるかどうかという1つの問いに戻ります。

7項目のうち私が最初に固めておきたいのは、6の「表示を下ろす日と担当者が決まっているか」だと考えています。1から5のどこかが崩れていても、気づいた時点ですぐに直せる体制があれば実害は抑えられますが、6が決まっていないと、崩れに気づいても表示を止める人がいないまま画面が残り続けます。6は、他の6項目のどれかが万一崩れたときの回復力を保証する項目であり、優先順位としては最初に固めておくべき一項目だと考えています。

私がこの記事で持ち帰ってほしいのは、表示を強くする前に、この一文を書けるかどうかを先に確認してほしいということです。書けないなら、直すべきは表示のコピーではなく、比較の設計そのものです。

プライシング法制度ガイドはこのあと、下請法という別の力学に移ります。景品表示法が「表示を見る消費者」との関係を扱うのに対し、下請法は「価格を交渉する取引先」との関係を扱います。同じ「価格の説明可能性」というテーマが、相手が変わるとどう形を変えるのかは、次回で確認します。

参考リソース

消費者庁

  • 二重価格表示について
  • 不当な価格表示についての景品表示法上の考え方(価格表示ガイドライン)
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プライシング法制度ガイド

回タイトル
1独占禁止法と価格設定
2景品表示法と価格表示(この記事)
3下請法と価格交渉
4消費者契約法・特商法
5アメリカの価格規制
6EUの価格規制
7GDPR・価格パーソナライゼーション
8グローバルコンプライアンス

この記事の著者

猪良 幸太郎

猪良 幸太郎

東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。

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