消費者契約法・特商法:SaaSの解約・自動更新ルール
AIサマリー
消費者契約法と特定商取引法がSaaS・サブスクリプションに与える影響を解説。解約料規制、最終確認画面の要件、自動更新条項のルールについて説明します。

「年間契約の途中解約で、残り期間分の料金を全額請求された」——このような解約料は、消費者契約法で無効となる可能性があります。
また、2022年6月の特定商取引法改正により、サブスクリプションサービスの最終確認画面には厳格な表示義務が課されています。違反した場合、1億円以下の罰金(法人)の対象となります。
本記事では、SaaS・サブスクリプション事業者が知っておくべき消費者保護法制を解説します。
免責事項 本記事は法制度の一般的な解説を目的としており、法的アドバイスではありません。 具体的な対応については、弁護士等の専門家にご相談ください。
この記事でわかること
- 解約料規制: 消費者契約法の「平均的損害」ルール
- 最終確認画面: 特商法で義務付けられた6項目の表示
- 自動更新条項: 無効となる条件と適正な運用方法
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象法令 | 消費者契約法、特定商取引法 |
| 所管官庁 | 消費者庁 |
| 対象読者 | SaaS事業者、サブスクリプション事業者、法務担当 |
| 難易度 | 中級 |
消費者契約法と解約料規制
平均的損害ルール
消費者契約法第9条第1項第1号は、解約に伴う損害賠償額・違約金について、「平均的な損害の額」を超える部分を無効としています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 無効となる部分 | 平均的損害額を超える解約料・違約金 |
| 平均的損害の定義 | 同種契約を類型的に考察した場合の損害額の平均値 |
| 立証責任 | 消費者側が負う |
平均的損害の考え方
SaaS・サブスクリプションにおける「平均的損害」は、以下の要素を考慮して判断されます。
| 要素 | 考慮事項 |
|---|---|
| 逸失利益 | 解約がなければ得られたはずの利益 |
| 固定費 | 解約により回収できなくなった初期費用 |
| 代替可能性 | 他の顧客に転売・再契約できる可能性 |
問題となる解約料の例
| 条項 | 問題点 |
|---|---|
| 「残存期間分の料金全額」 | 事業者に逸失利益以外の損害が生じないなら過大 |
| 「年間契約は理由を問わず返金不可」 | 平均的損害を超える可能性が高い |
| 「解約手数料として○万円」 | 実際の事務コストを大幅に超える場合は無効 |
2023年改正:解約料の説明努力義務
2023年6月施行の改正により、事業者には解約料の算定根拠を説明する努力義務が課されました(第9条第2項)。
| 対象 | 義務内容 |
|---|---|
| 消費者への説明 | 解約料の算定根拠の「概要」を説明(努力義務) |
| 適格消費者団体への説明 | 具体的な費用項目・算定式を説明(努力義務) |
特定商取引法と最終確認画面
2022年改正の概要
2022年6月1日施行の特定商取引法改正により、通信販売(インターネット販売を含む)における最終確認画面の表示義務が新設されました。
サブスクリプションサービスも対象となります。
最終確認画面の必須6項目
| # | 表示事項 | 定期購入・サブスクの場合 |
|---|---|---|
| 1 | 分量 | 各回の提供内容 + 総分量 |
| 2 | 販売価格・対価 | 各回の代金 + 総額 |
| 3 | 支払の時期・方法 | 各回の請求時期 |
| 4 | 引渡・提供期間 | 次回の提供時期等 |
| 5 | 申込みの撤回・解除に関する事項 | 解約方法・連絡先・条件 |
| 6 | 申込期間 | 申込期間を設ける場合はその旨 |
禁止される表示
以下の表示は特商法違反となります。
- 契約の申込みとなることを誤認させる表示
- 上記6項目について誤認させる表示
- 重要事項の不明確な表示
消費者の取消権
誤認表示により申し込んだ消費者は、契約を取り消すことができます(法第15条の4)。
違反時のペナルティ
| 違反行為 | 罰則(個人) | 罰則(法人) |
|---|---|---|
| 必要な表示の欠如 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 | 1億円以下の罰金 |
| 虚偽の表示 | 3年以下の懲役または300万円以下の罰金 | 1億円以下の罰金 |
| 誤認させる表示 | 100万円以下の罰金 | 100万円以下の罰金 |
自動更新条項のルール
消費者契約法第10条との関係
自動更新条項は、消費者契約法第10条の「消費者の利益を一方的に害する条項」に該当する可能性があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 要件1 | 任意規定と比べて消費者の権利を制限/義務を加重する |
| 要件2 | 信義則に反して消費者の利益を一方的に害する |
有効・無効の判断基準
| 有効となりやすいケース | 無効となりやすいケース |
|---|---|
| 契約時に自動更新が明確に表示 | 利用規約の中に目立たず記載 |
| 更新しない選択肢がある | 無料→有料への自動移行が不明確 |
| 更新前に通知がある | 通知なしで自動更新 |
| 解約方法が明確 | 解約方法が分かりにくい |
特商法による追加規制
サブスクリプションサービスの最終確認画面では、自動更新の場合は以下を明記する必要があります。
- 自動更新であること
- 更新のタイミング
- 解約方法と期限
SaaS事業者への実務的示唆
解約料設計のポイント
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 平均的損害の算定 | 実際の損害(逸失利益、固定費回収不能分)を根拠に設定 |
| 日割り計算の検討 | 残存期間分全額ではなく、日割り返金を基本とする |
| 説明資料の準備 | 解約料の算定根拠を説明できる資料を整備 |
最終確認画面のチェックリスト
| 項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 分量 | 提供内容が明確か |
| 価格 | 月額/年額、総額が明示されているか |
| 支払時期 | 課金タイミングが明確か |
| 解約条件 | 解約方法、連絡先、期限が明示されているか |
| 自動更新 | 更新の有無とタイミングが明確か |
| ボタン表示 | 「申込み確定」等、契約となることが明確か |
自動更新の運用
| 推奨事項 | 内容 |
|---|---|
| 更新前通知 | 更新の30日前までにメール等で通知 |
| 解約導線 | ワンクリックまたは簡易な手順で解約可能に |
| 明示的同意 | 契約時に自動更新への明示的な同意を取得 |
よくある質問(FAQ)
Q1. BtoB SaaSにも消費者契約法は適用されるのか?
消費者契約法は消費者と事業者の間の契約にのみ適用されます。法人間取引(BtoB)には適用されません。
ただし、BtoB SaaSであっても、2020年4月施行の民法・定型約款規制(第548条の2第2項)により、不当条項が無効となる可能性があります。
Q2. 年間契約の途中解約で返金しないのは違法か?
一律に「返金しない」という条項は、消費者契約法上問題となる可能性があります。
平均的損害を超える部分は無効となるため、以下を検討してください:
- 日割り計算での返金
- 残存期間に応じた段階的な返金率設定
- 解約料の根拠となる実損害の算定
Q3. 無料トライアルから有料への自動移行は問題ないか?
以下の条件を満たせば、問題ありません:
- トライアル開始時に有料移行を明示的に告知
- 有料移行前に通知を送信
- 移行前に解約する機会を提供
- 最終確認画面で自動移行を明記
Q4. 解約方法を電話のみにしても問題ないか?
特商法上、解約方法を過度に制限することは問題となる可能性があります。
オンラインで申し込んだ契約については、オンラインで解約できる手段を提供することが推奨されます。電話のみの場合、つながりにくい等の状況があれば、消費者の解約権を実質的に制限していると判断される可能性があります。
まとめ
主要ポイント
- 解約料: 「平均的損害」を超える部分は無効。根拠を説明できる準備を
- 最終確認画面: 6項目の表示義務。違反は1億円以下の罰金(法人)
- 自動更新: 明確な告知、事前通知、容易な解約手段の確保が必要
次のステップ
- 自社の解約料が「平均的損害」の範囲内か検証
- 最終確認画面が6項目を満たしているかチェック
- 自動更新の通知・解約フローを点検
参考リソース
消費者庁
執行状況
プライシング法制度ガイド
本記事はプライシング法制度ガイドシリーズの一部です。
この記事の著者

猪良 幸太郎
東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。


