アメリカの価格規制:FTC・州法のSaaS事業者向けガイド
AIサマリー
アメリカの価格規制を解説。Robinson-Patman Act、FTC Negative Option Rule、カリフォルニア州自動更新法について、Amazon Prime事件(25億ドル和解)などの事例とともに説明します。

アメリカのサブスクリプション規制は、近年急速に厳格化しています。
2025年9月、AmazonはFTCとの和解で25億ドル(約3,750億円)を支払いました。これはFTC史上最大の民事制裁金を含む和解です。違反内容は、Prime会員への「同意なき登録」と「解約の困難化」でした。
本記事では、アメリカでSaaS・サブスクリプション事業を展開する際に知っておくべき価格規制を解説します。
免責事項 本記事は法制度の一般的な解説を目的としており、法的アドバイスではありません。 具体的な対応については、弁護士等の専門家にご相談ください。
この記事でわかること
- Robinson-Patman Act: 価格差別禁止法の復活と執行強化
- FTC規制: Negative Option Ruleとサブスク規制の動向
- 州法: カリフォルニア自動更新法(2025年7月施行)
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主要法令 | FTC Act、Robinson-Patman Act、州法(カリフォルニアARL等) |
| 規制当局 | FTC(連邦取引委員会)、DOJ(司法省)、州検事総長 |
| 対象読者 | 米国展開を検討するSaaS事業者、法務担当 |
| 難易度 | 中級〜上級 |
Robinson-Patman Act(価格差別禁止法)
概要
Robinson-Patman Act(1936年制定)は、競合する購入者に対して同一商品を異なる価格で販売することを禁止する連邦法です。
約25年間執行が休止していましたが、2024年以降FTCが執行を復活させています。
禁止される行為
| 行為 | 内容 |
|---|---|
| 価格差別 | 競合する購入者に同一商品を異なる価格で販売 |
| 広告・サービスの差別 | 広告手当やサービスの不平等な提供 |
| 優遇の強要 | 購入者が販売者に差別的条件を強要すること |
認められる抗弁
| 抗弁 | 内容 |
|---|---|
| コスト正当化 | 価格差がコスト差に基づく場合 |
| 競争対抗 | 競合他社の価格に対抗するための価格設定 |
2024年の執行復活
| 日付 | 事件 | 内容 |
|---|---|---|
| 2024年12月 | FTC v. Southern Glazer's | 約25年ぶりの政府によるRPA訴訟。独立系小売店への価格が大手より12-67%高いと主張 |
| 2025年1月 | FTC v. PepsiCo | Walmartへの優遇的価格設定を問題視(後にトランプ政権下で取り下げ) |
FTC Negative Option Rule
概要
Negative Option Ruleは、サブスクリプション・会員制・定期課金における不公正・欺瞞的慣行を規制するFTC規則です。
2024年10月に大幅改正され、Click-to-Cancel Ruleとして知られています。
主要な要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 虚偽表示禁止 | ネガティブオプションに関する重要事実の虚偽表示を禁止 |
| 開示義務 | 課金前に重要情報を提供 |
| 明示的同意 | 課金前に消費者のインフォームドコンセントを取得 |
| 簡易解約 | 登録と同等に簡単な解約方法の提供(Click-to-Cancel) |
規則の現状
重要 2025年7月8日、第8巡回控訴裁判所がFTC Negative Option Ruleを無効化しました。 ただし、ROSCA(Restore Online Shoppers' Confidence Act)やFTC Act第5条、州法に基づく執行は継続しています。
違反時のペナルティ
| 違反 | 罰則 |
|---|---|
| FTC規則違反 | $53,088/違反(複数カウント可能) |
| ROSCA違反 | 差止命令、消費者払戻 |
最近の執行事例
Amazon Prime事件(2025年9月)
FTC史上最大の和解事例です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 民事制裁金 | 10億ドル(約1,500億円) |
| 消費者払戻 | 15億ドル(約2,250億円) |
| 合計 | 25億ドル(約3,750億円) |
違反内容:
- ダークパターンによる同意なきPrime登録
- 解約プロセスの困難化(社内で「Iliad」と呼称)
- 7年間で3,500万件以上の非同意登録
消費者への返金:対象者1人あたり約**$51**
その他の主要事例
| 年 | 企業 | 和解額 | 内容 |
|---|---|---|---|
| 2024年12月 | Grubhub | 1.4億ドル | サブスクリプション慣行に関する和解 |
| 2024年6月 | Adobe | 訴訟中 | 解約条件の不明確な開示 |
| 2025年6月 | Match Group | 和解 | サブスクリプション慣行 |
カリフォルニア州自動更新法(ARL)
2024年改正の概要
カリフォルニア州の自動更新法(Assembly Bill No. 2863)は、2024年9月に改正され、2025年7月1日に施行されました。
全米で最も厳格な自動更新規制とされています。
主要な要件
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 適用範囲拡大 | 無料トライアル→有料への自動変換も対象 |
| 明示的同意 | 事前チェックボックスでの同意は不可 |
| 同意記録保持 | 3年間または契約終了後1年間(いずれか長い方) |
| Click-to-Cancel | 登録と同じ方法で解約可能に |
| 年次更新通知 | 年1回のリマインダー送信義務 |
| 価格変更通知 | 値上げの7〜30日前に通知、解約方法を明示 |
FTC規則との関係
FTC規則が無効化されても、カリフォルニア州法は引き続き有効です。州法はFTC規則より厳格な場合が多く、両方に準拠する必要があります。
SaaS事業者への実務的示唆
対応が必要な事項
| 項目 | 対応内容 |
|---|---|
| 解約フロー | オンライン登録と同等に簡単なオンライン解約の提供 |
| 自動更新の開示 | 価格、頻度、解約方法を明確に開示 |
| 同意取得 | 事前チェックボックスではなく、明示的な同意を取得 |
| 同意記録 | 3年間の保持 |
| 解約確認 | 解約確認の即時送信 |
カリフォルニア州向け追加対応
| 項目 | 対応内容 |
|---|---|
| 年次通知 | 更新リマインダーの年1回送信 |
| 価格変更通知 | 値上げの7-30日前に通知 |
| セーブオファー画面 | 「Click-to-Cancel」ボタンを設置 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 日本企業でもアメリカの法律は適用されるのか?
アメリカで事業を行っている、またはアメリカの消費者にサービスを提供している場合は適用されます。
特にカリフォルニア州法は、カリフォルニア州の居住者にサービスを提供する事業者に適用されるため、日本企業でもアメリカ市場向けにサービスを提供していれば対象となります。
Q2. FTC Negative Option Ruleが無効化されたが、もう対応不要か?
いいえ。以下の規制は引き続き有効です:
- ROSCA: オンラインでのネガティブオプション規制
- FTC Act第5条: 不公正・欺瞞的行為の禁止
- 州法: カリフォルニアARL、ニューヨーク州法等
FTCはこれらの法律に基づく執行を継続しています。
Q3. 価格差別は全面的に禁止されているのか?
Robinson-Patman Actは「商品」の価格差別を禁止しており、「サービス」には直接適用されません。
ただし、SaaSでもソフトウェアの販売要素がある場合は適用される可能性があります。また、FTC Act第5条の不公正な取引方法として問題となる可能性もあります。
Q4. 違反した場合の最大リスクは?
Amazon Prime事件のように、FTC違反は数十億ドル規模の和解に発展する可能性があります。
| リスク | 金額 |
|---|---|
| FTC違反罰金 | $53,088/違反 |
| 消費者払戻 | 数億〜数十億ドル |
| 集団訴訟 | 損害額+弁護士費用 |
まとめ
主要ポイント
- Robinson-Patman Act: 価格差別禁止の執行が25年ぶりに復活
- FTC規制: Negative Option Ruleは無効化されたが、ROSCA・州法は有効
- カリフォルニア州法: 全米最厳格。Click-to-Cancel、年次通知等が必須
次のステップ
- 解約フローがClick-to-Cancelに準拠しているか確認
- 自動更新の開示内容を点検
- カリフォルニア州居住者向けの対応を整備
参考リソース
FTC
法令
プライシング法制度ガイド
本記事はプライシング法制度ガイドシリーズの一部です。
この記事の著者

猪良 幸太郎
東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。


