この記事の要約
独占禁止法における価格規制の基本を解説。不当廉売の要件、価格カルテルの禁止、再販売価格維持の規制を、電力カルテル事件(1010億円)などの事例とともに説明します。
価格設定は企業の自由裁量に委ねられていますが、すべてが許されるわけではありません。
独占禁止法は、公正な競争を阻害する価格行為を規制しています。2023年には電力カルテル事件で過去最高額となる1,010億円の課徴金が命じられました。
本記事では、価格設定に関わる独占禁止法の規制内容を解説します。
免責事項 本記事は法制度の一般的な解説を目的としており、法的アドバイスではありません。 具体的な対応については、弁護士等の専門家にご相談ください。
独占禁止法における3つの価格規制の全体像| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象法令 | 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法) |
| 所管官庁 | 公正取引委員会 |
| 対象読者 | 経営層、法務担当、プロダクト担当 |
| 難易度 | 初級〜中級 |
独占禁止法は、公正かつ自由な競争を促進し、消費者の利益を確保するための法律です。
価格設定に関しては、主に以下の3つの行為が規制されています。
| 規制類型 | 概要 | 主な違反者 |
|---|---|---|
| 不当廉売 | 原価を著しく下回る価格での継続販売 | 小売事業者、EC事業者 |
| 価格カルテル | 競合他社との価格の取り決め | 全ての事業者 |
| 再販売価格維持 | メーカーによる小売価格の拘束 | メーカー、卸売事業者 |
不当廉売とは、正当な理由なく、商品やサービスをその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為です。
独占禁止法第2条第9項第3号および一般指定6項に規定されています。
不当廉売が違法と判断されるには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
| 要件 | 内容 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 価格要件 | 供給に要する費用を著しく下回る対価 | 総販売原価(仕入原価+販管費)を下回る価格 |
| 継続性要件 | 継続して供給すること | 相当期間にわたり繰り返し行われること |
| 競争阻害要件 | 他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれ | 競争者の顧客獲得を妨げる蓋然性 |
公正取引委員会のガイドラインでは、以下の基準が示されています。
以下の場合は「正当な理由」として不当廉売に該当しない可能性があります。
ただし、これらも長期間継続すると違法となる可能性があります。
価格カルテルとは、競合する事業者が共同して、商品やサービスの価格を決定・維持・引き上げることを合意する行為です。
独占禁止法第2条第6項の「不当な取引制限」に該当し、違反した場合は課徴金の対象となります。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 共同行為 | 競合他社との意思の連絡(明示・黙示を問わない) |
| 相互拘束 | 価格に関する合意に基づき行動を拘束し合うこと |
| 競争の実質的制限 | 市場における競争が実質的に制限されること |
2023年3月、公正取引委員会は電力会社に対して過去最高額の課徴金を命じました。
| 会社名 | 課徴金額 |
|---|---|
| 中国電力 | 約707億円 |
| 中部電力 | 約201億円 |
| 中部電力ミライズ | 約73億円 |
| 九州電力 | 約27億円 |
| 合計 | 1,010億円 |
2018年頃から、各社は「事業者向け電力」について互いの営業エリアで顧客獲得をしないよう申し合わせていました。
カルテルを主導した関西電力は、公正取引委員会への自主申告(リーニエンシー制度)により課徴金を免除されています。
再販売価格維持(Resale Price Maintenance)とは、メーカーが卸売業者や小売業者に対して、商品の再販売価格を指定し、これを守らせる行為です。
不公正な取引方法として原則禁止されています。
以下の著作物については、再販売価格維持が認められています。
これは、文化の保護・普及という政策目的に基づく例外です。
| 事業者 | 措置内容 |
|---|---|
| 関家具 | 排除措置命令 |
| 日清食品 | 警告 |
| 九州シジシー | 警告 |
独占禁止法違反に対しては、排除措置命令に加えて課徴金納付命令が出される場合があります。
| 違反類型 | 算定率(大企業) |
|---|---|
| 価格カルテル・入札談合 | 売上高の10% |
| その他の不当な取引制限 | 売上高の10% |
| 支配型私的独占 | 売上高の10% |
| 排除型私的独占 | 売上高の6% |
| 不公正な取引方法(不当廉売等) | 売上高の3% |
カルテルや入札談合について、公正取引委員会の調査開始前に自主申告した事業者は、課徴金が減免されます。
| 申告順位 | 減免率 |
|---|---|
| 1番目 | 全額免除 |
| 2番目 | 50%減額 |
| 3番目以降 | 30%減額(上限あり) |
電力カルテル事件で関西電力が課徴金を免除されたのは、この制度によるものです。
| 場面 | リスク | 対応策 |
|---|---|---|
| 競合との情報交換 | 価格カルテルの疑い | 価格に関する情報共有を避ける |
| 業界団体での会合 | 暗黙の合意形成 | 価格に関する議題を設定しない |
| 原価割れキャンペーン | 不当廉売の疑い | 期間・目的を明確にし記録を残す |
| 販売代理店への価格指示 | 再販売価格維持 | 「希望」に留め、強制しない |
無料プランを提供するフリーミアムモデルは、それ自体が不当廉売に該当するわけではありません。
ただし、以下の場合は注意が必要です。
競合より安く売ること自体は違法ではありません。
違法となるのは、「供給に要する費用を著しく下回る価格」で「継続的に」販売し、競争者の事業活動を困難にさせる場合です。効率化によるコスト削減で実現した低価格は問題ありません。
程度によりますが、価格に関する情報交換はカルテルの端緒となり得るため、避けるべきです。
特に以下は危険です:
「希望小売価格」の設定自体は違法ではありません。
違法となるのは、その価格を守らない販売店に対して、出荷停止や取引条件の不利益変更などの制裁を加えることです。あくまで「希望」であり、販売店が自由に価格を決められる状態を確保する必要があります。
課徴金の納付は罰金ではなく、違法行為によって得た経済的利得を剥奪する行政措置です。
課徴金に加えて、排除措置命令(違反行為の停止等)が出されます。また、悪質な場合は刑事告発の対象となり、役員に対して懲役刑が科される可能性もあります。
プライシング法制度ガイド
本記事はプライシング法制度ガイドシリーズの一部です。
この記事の著者

東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。