景品表示法と価格表示:二重価格・有利誤認を避ける
AIサマリー
景品表示法における価格表示規制を解説。8週間ルール、有利誤認表示の要件、2024年改正の直罰規定と課徴金制度について、違反事例とともに説明します。

「通常価格10,000円が今だけ5,000円!」——このような価格表示は、消費者にとって魅力的に映ります。
しかし、「通常価格」に販売実績がなければ、景品表示法違反となる可能性があります。2024年10月からは直罰規定が導入され、悪質な違反には即座に罰金が科されるようになりました。
本記事では、価格表示に関する景品表示法のルールを解説します。
免責事項 本記事は法制度の一般的な解説を目的としており、法的アドバイスではありません。 具体的な対応については、弁護士等の専門家にご相談ください。
この記事でわかること
- 二重価格表示: 「8週間ルール」と違反となる条件
- 有利誤認表示: 消費者を誤認させる価格表示の禁止
- 2024年改正: 直罰規定の導入と課徴金制度の強化
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象法令 | 不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法) |
| 所管官庁 | 消費者庁 |
| 対象読者 | マーケティング担当、EC事業者、法務担当 |
| 難易度 | 初級〜中級 |
景品表示法と価格表示
景品表示法の目的
景品表示法は、消費者が商品やサービスを適切に選択できる環境を守るための法律です。
価格表示に関しては、「有利誤認表示」を禁止しています。
有利誤認表示とは
有利誤認表示とは、商品やサービスの価格その他の取引条件について、実際のものよりも著しく有利であると消費者に誤認させる表示です。
景品表示法第5条第2号で禁止されています。
| 類型 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| 実際より有利 | 実際の取引条件より有利に見せる | 存在しない「通常価格」からの値引き |
| 競争事業者より有利 | 他社より有利であるかのように見せる | 根拠のない「業界最安」表示 |
二重価格表示と8週間ルール
二重価格表示とは
二重価格表示とは、現在の販売価格と比較対照価格を並べて表示し、値引きやお得感を訴求する表示方法です。
例:
- 「通常価格10,000円 → セール価格5,000円」
- 「メーカー希望小売価格12,000円のところ8,000円」
- 「当店通常価格から30%OFF」
8週間ルールの内容
自社の過去の販売価格を比較対照価格として表示する場合、消費者庁のガイドラインでは以下の条件を満たす必要があります。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 販売期間 | セール開始時点からさかのぼる8週間のうち4週間以上の販売実績 |
| 販売開始後8週間未満の場合 | 販売期間の過半かつ2週間以上の販売実績 |
| 最終販売日からの経過 | 2週間以内であること |
8週間ルールの適用例
| 状況 | 8週間中の販売期間 | 判定 |
|---|---|---|
| 通常価格で6週間販売後、セール開始 | 6週間(75%) | ✅ 適正 |
| 通常価格で3週間販売後、セール開始 | 3週間(38%) | ❌ 違反の可能性 |
| 通常価格で販売した最終日から3週間後にセール | — | ❌ 違反の可能性 |
比較対照価格の種類と注意点
| 比較対照価格 | 表示可能な条件 |
|---|---|
| 自社の過去の販売価格 | 8週間ルールを満たすこと |
| メーカー希望小売価格 | 実際に設定されていること |
| 競争事業者の販売価格 | 同一商品・同等サービスであること、調査時点が明確なこと |
違反となる表示パターン
パターン1:架空の「通常価格」
「通常価格」として表示した価格での販売実績がない、または極めて短期間しか販売していないケース。
違反例:
- 発売開始から「セール価格」のみで販売し、存在しない「通常価格」を表示
- 1日だけ高い価格で販売し、その後「値下げ」と称して販売
パターン2:二重価格の長期継続
セール期間が長期化し、「セール価格」が実質的な通常価格となっているケース。
違反例:
- 1年間「期間限定セール」を継続
- 「通常価格」での販売期間よりセール期間の方が長い
パターン3:不明確な比較対照価格
何との比較か不明確な価格表示。
違反例:
- 「50%OFF」(何からの値引きか不明)
- 「お買い得価格」(比較対象なし)
2024年景品表示法改正
改正の概要
2024年10月1日、景品表示法の改正法が施行されました。
主な改正点は以下の通りです。
| 改正項目 | 内容 |
|---|---|
| 直罰規定の新設 | 故意の違反行為に100万円以下の罰金を即座に科せる |
| 課徴金の加算 | 一定期間内の繰り返し違反で課徴金を1.5倍に加算 |
| 確約手続の導入 | 自主的な是正計画の認定で処分を免除 |
| 返金措置の弾力化 | 電子マネーによる返金も認容 |
直罰規定の詳細
従来、景品表示法違反に対しては、措置命令→課徴金納付命令という段階を踏む必要がありました。
2024年改正により、故意の優良誤認表示・有利誤認表示に対しては、行政処分を経ずに100万円以下の罰金を科すことが可能になりました。
| 対象行為 | 要件 | 罰則 |
|---|---|---|
| 優良誤認表示 | 故意であること | 100万円以下の罰金 |
| 有利誤認表示 | 故意であること | 100万円以下の罰金 |
注意 直罰と行政処分(措置命令・課徴金)は併科可能です。悪質な違反には両方が適用される可能性があります。
課徴金制度
景品表示法違反には、措置命令に加えて課徴金が課される場合があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 算定方法 | 売上額 × 3% |
| 対象期間 | 最長3年分の売上額 |
| 加算要件 | 一定期間内の繰り返し違反で1.5倍 |
最近の違反事例
事例1:スクール運営事業者(2024年12月)
消費者庁は、メイク・ネイルスクール運営事業者に対し、二重価格表示に関する措置命令を発出しました。
違反内容:
- 「通常授業料」として表示した価格での提供実績がなかった
- 8週間ルールを満たしていなかった
事例2:EC事業者の価格表示
オンラインショップにおける典型的な違反パターン。
違反内容:
- 商品登録時から「セール価格」で販売
- 比較対照となる「通常価格」での販売実績なし
SaaS・サブスクリプション事業者への示唆
注意すべき価格表示
| 表示 | リスク | 対応策 |
|---|---|---|
| 「通常月額○○円が初月無料」 | 通常月額での課金実績が必要 | 無料期間後の実際の課金価格を明示 |
| 「年額プランで○○%お得」 | 月額との比較が適正か確認 | 比較対象を明確に表示 |
| 「期間限定キャンペーン価格」 | 長期継続すると違反の可能性 | キャンペーン期間を明示し、終了後は価格を戻す |
料金改定時の注意
料金改定を行う際、旧価格を「通常価格」として表示することは問題ありません。
ただし、以下の点に注意が必要です。
- 旧価格での販売実績が8週間ルールを満たしていること
- 「旧価格」であることを明示すること
- 改定後は速やかに表示を更新すること
よくある質問(FAQ)
Q1. メーカー希望小売価格からの値引き表示は問題ないか?
メーカー希望小売価格が実際に設定されている場合は、それとの比較表示は可能です。
ただし、以下の場合は問題となります。
- メーカーが希望小売価格を設定していない(オープン価格)
- 希望小売価格が形骸化している(ほとんどの小売店で無視されている)
Q2. 「業界最安」「地域最安」の表示は可能か?
根拠となる調査を行い、それが事実であれば表示可能です。
ただし、以下の条件が必要です。
- 調査時点を明示すること
- 比較対象(競合他社、地域範囲)を明確にすること
- 定期的に調査を更新すること
調査が不十分なまま「最安」を謳うと、有利誤認表示に該当する可能性があります。
Q3. キャンペーン価格を長期間続けても問題ないか?
キャンペーン価格が長期間継続すると、その価格が「通常価格」とみなされる可能性があります。
この場合、「通常価格○○円」からの値引きと表示することが不当表示に該当する可能性があります。キャンペーンには明確な終了日を設け、終了後は通常価格に戻すことが推奨されます。
Q4. 課徴金を支払えば営業を続けられるのか?
課徴金の納付は罰金ではなく、違法行為によって得た経済的利得を剥奪する行政措置です。
課徴金に加えて、措置命令(違反行為の停止、再発防止策の実施等)が出されます。また、2024年改正により、故意の違反には直罰(100万円以下の罰金)も併科される可能性があります。
まとめ
主要ポイント
- 8週間ルール: 過去8週間のうち4週間以上の販売実績がなければ「通常価格」として表示不可
- 2024年改正: 故意の違反には100万円以下の直罰、繰り返し違反は課徴金1.5倍
- SaaS事業者: 料金プランの比較表示、キャンペーン価格の運用に注意
次のステップ
- 自社の価格表示を点検し、8週間ルールに適合しているか確認
- キャンペーン・セールの期間と終了日を明確に設定
- 価格表示に関する社内ガイドラインを整備
参考リソース
消費者庁
解説記事
プライシング法制度ガイド
本記事はプライシング法制度ガイドシリーズの一部です。
この記事の著者

猪良 幸太郎
東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。


