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インテントセールスとは?Sales Marker・FORCAS・6senseの実力と限界

21分で読める|2026/05/19|
インテントセールスSales MarkerインテントデータABMセールステック

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B!

「今期のターゲットリスト、かなり多めに作りました。順番にメールしてください」

営業企画が表計算で作ったリストが配られる。業界×従業員規模で絞り込んだだけのリスト。そのうち、今まさに自社製品を検討している企業が何社あるかは誰も知らない。それでも「数を打てば当たる」と言われ、翌月も同じように送る。

一方、別の会社では違うアプローチを取っている。「先週、競合のA社の料金ページを複数回閲覧した企業がある。そのうち、直近で組織変更を発表した企業だけに、組織変更に伴う課題に言及したメールを送る」。接触数は減るが、営業が話す理由は明確になる。

この差を生んでいるのがインテントセールス——顧客の購買意図(インテント)を示すデータに基づいて営業する手法だ。

日本ではSales Marker(セールスマーカー)がこのカテゴリを強く打ち出している。公式サイトでも、Web検索行動を可視化して「今、あなたのサービスがほしい企業」を特定する、という説明が前面に出ている。だからこそ、記事ではベンダーの主張と、導入後に成果を出すための運用条件を分けて読む必要がある。

本記事では、インテントセールスの仕組みを解説したうえで、日本と海外のツールを比較し、RedditやXで見える導入後の不満も踏まえて実力と限界の両面を検証する。

“

本記事の表記について

  • 料金、機能名、データ件数は変わるため、導入時は公式ページを確認する
  • RedditやXの投稿は、事実の裏取りではなく、利用者が詰まりやすい論点として扱う

この記事でわかること

  1. インテントセールスの定義と仕組み: 従来の営業手法(コールドアウトバウンド・ABM)との構造的な違い
  2. インテントデータの3分類: ファーストパーティ・セカンドパーティ・サードパーティの使い分け
  3. 日本のツール比較: Sales Marker・FORCAS・SPEEDAの機能・強み・弱みを第三者視点で整理
  4. 導入後に起きる不満: RedditやXで見える「通知はあるが動けない」問題
  5. インテントセールスの「限界」: 導入しても成果が出ない構造的な3つの理由
  6. 成功させるための運用設計: GTMエンジニアリング的なアプローチの必要性

ただし、先に断っておく。「インテントセールスを導入すれば営業が変わる」という単純な話ではない。本記事を最後まで読むと、この手法がどこで威力を発揮し、どこで破綻するかの境界線が見える。その境界線こそが、導入判断の最も重要な材料になる。

基本情報

項目内容
定義購買意図(インテント)データを活用した営業手法
代表ツール(日本)Sales Marker, FORCAS(スピーダ顧客企業分析)
代表ツール(海外)6sense, Bombora, ZoomInfo
重要な論点検知したシグナルを、誰が、何の文脈で、いつ動くか
インテントセールスの仕組み

インテントセールスとは何か

定義: 購買シグナルに基づく営業手法

インテントセールスとは、顧客の「検索行動」「ウェブサイト閲覧」「コンテンツ消費」などの行動データから購買意図(インテント)を検出し、そのシグナルに基づいてアプローチする営業手法である。

従来の営業手法との違いを整理する。

コールドアウトバウンドABM(アカウントベースドマーケティング)インテントセールス
ターゲティングの根拠リスト(業界×規模)企業属性(ICP=理想の顧客像)購買シグナル(行動データ)
アプローチのタイミング営業側の都合キャンペーン設計次第顧客の検討タイミング
パーソナライズの深さ低(テンプレート差し込み)中(企業別にカスタマイズ)高(検討内容に応じて)
スケーラビリティ高(量産可能)低〜中(企業ごとに工数)中〜高
精度の前提統計的な確率(数打ちゃ当たる)企業選定の質データの品質と解釈力

核心的な違いは**「誰に」ではなく「いつ」にある。コールドアウトバウンドは「数を打てば当たる」、ABMは「正しい企業を選べば当たる」。インテントセールスは「正しいタイミングで打てば当たる」——アプローチの起点が営業側の都合から顧客側の行動**に移る。

具体例で理解する: SaaSの営業担当の1日

従来のアプローチとインテントセールスのアプローチで、営業担当の1日がどう変わるかを見てみる。

従来型の営業(コールドアウトバウンド)

  1. 朝、営業企画から配られた500社のリストを開く
  2. 上から順にテンプレートメールを送る(「御社の課題解決に貢献できます」)
  3. 返信を待つ。5通来たら上出来
  4. テレアポで20件かける。アポは0〜1件
  5. 夕方、SFAに活動を記録する(面倒なので簡略化)

インテントセールス型の営業

  1. 朝、ダッシュボードを開く。「昨日、自社サービスの競合比較ページを2回以上閲覧した企業」が12社表示されている
  2. そのうち、直近で資金調達を発表した3社を優先ターゲットに設定
  3. 各社の閲覧ページ(料金ページ、API連携ページ)から推測される検討段階に合わせてメールを作成
  4. 3社にパーソナライズメールを送信。午後に1社から返信「ちょうど検討していたところです」
  5. 残りの9社には自動フォローメールを設定

同じ1日で、接触する企業数は少ないが「検討中の企業」にだけ時間を使っている。これがインテントセールスの基本構造である。

インテントデータの3つの種類

インテントセールスの精度は、使用するインテントデータの種類によって大きく異なる。

種類定義具体例精度入手コスト
ファーストパーティ自社サイト・自社ツールでの行動データ料金ページの閲覧、資料DL、デモ申し込みページへのアクセス高低(自社で取得可能)
セカンドパーティパートナーサイト・レビューサイトでの行動データITreviewでの競合製品閲覧、G2での比較検討中〜高中(パートナー契約が必要)
サードパーティ外部プロバイダーが収集・集約した行動データ特定キーワードの検索増加、業界メディアの閲覧パターン低〜中高(ツール契約が必要)

最も精度が高いのはファーストパーティデータだ。「自社の料金ページを3回見た人」は、「業界メディアでCRMの記事を読んだ人」より購買意図が明確である。にもかかわらず、多くのインテントセールスツールが売りにしているのはサードパーティデータ——つまり最も精度が低いカテゴリのデータである。この矛盾が、後述する「限界」につながる。

インテントセールスの4ステップ

インテントセールスの実行プロセスは、以下の4ステップで構成される。

  1. シグナル検知: インテントデータから購買意図を示す行動を検出する。「セキュリティ」関連キーワードの検索急増、競合サイトの閲覧頻度上昇など
  2. アプローチ対象の特定: シグナルを発している企業を特定する。IPアドレスの逆引き、Cookie、アカウントレベルのトラッキングなどの手法を使う
  3. 連絡先の特定: 該当企業内の意思決定者・担当者を特定する。米国ではLinkedIn + ZoomInfoで個人レベルまで到達できるが、日本ではここがボトルネックになる(後述)
  4. パーソナライズされたアプローチ: 検討内容に合わせた提案を実施する。「料金ページを見た企業にはROI試算を送る」「競合比較ページを見た企業には差別化ポイントを送る」など

Step 1-2(検知・特定)はツールが自動化できる。Step 3-4(連絡先・アプローチ)は人間の判断が必要。 この「自動化できる部分」と「できない部分」の境界を理解しているかどうかが、インテントセールスの成否を分ける。

日本市場でのStep 3-4の現実

Step 3(連絡先特定)を日本市場で実行する場合、米国のLinkedIn + ZoomInfoの組み合わせは使えない。代わりに以下の手法が現実的だ。

  • 名刺DBの活用: 過去に交換した名刺データ(Sansan、Eight)から該当企業の担当者を検索する。展示会やセミナーで接点のある人物がいれば、インテントシグナルと組み合わせて「接点あり + 検討中」の最優先リストを作れる
  • EDINET・適時開示からの組織情報取得: 有価証券報告書の役員欄や組織図、プレスリリースに記載された担当者名を活用する。新任CIOやDX推進室長の就任は、購買意思決定者が変わったシグナルでもある
  • 代表電話+部署指定: 直通番号がない場合、「情報システム部の○○様宛に」と部署名・役職名を添えて代表電話にかける。精度は落ちるが、シグナルがある企業に絞れば確度は高い

Step 4(パーソナライズ)では、日本のBtoB SaaS企業が使い始めている手法がある。

  • 検討段階別のコンテンツマッピング: 料金ページ閲覧者にはROI試算シート、API仕様ページ閲覧者には技術ホワイトペーパー、導入事例ページ閲覧者には同業種の事例PDFを送る。あるSaaS企業では、この段階別送り分けによりメール返信率が3.2%から11.8%に改善した
  • 適時開示に連動したメッセージ設計: 「先日発表された中期経営計画でDX投資を重点施策に掲げていらっしゃいましたが、当社の○○がその計画にどう貢献できるか、具体的な試算をお持ちしたい」——単なる「御社の課題解決に」よりも、相手が「なぜ今連絡してきたか」を理解できる

ツール比較: 日本で使えるインテントセールスツール

インテントセールスツール比較

Sales Marker(セールスマーカー)

項目内容
運営株式会社Sales Marker(2022年設立)
主な訴求Web検索行動の可視化、インテントセールス、AI活用
データの見方検索行動や自社接点を企業単位のシグナルとして扱う
特徴「インテントセールス」というカテゴリを強く打ち出している

強み: 日本企業向けに「Web検索行動を営業シグナルへ変える」文脈を分かりやすく提示している。営業が「どの企業を先に触るか」を考える入口として使いやすい。

注意点: 検索行動が見えることと、営業が成果を出せることは別である。どのシグナルを強いと見なすか、どの営業担当へ渡すか、どのメッセージに変えるかを決めないと、通知が増えるだけになる。

料金: 公式サイトでは非公開。問い合わせベース。

FORCAS(スピーダ 顧客企業分析)

項目内容
運営株式会社ユーザベース(SPEEDA、NewsPicks等を運営)
主な機能企業データベース、ABMターゲティング、企業スコアリング、Salesforce連携
特徴ABM寄りのアプローチ。SPEEDAの経済データと連携

強み: ユーザベースの経済情報プラットフォームSPEEDAとの連携が最大の特徴。業界動向、企業の財務データ、ニュースを統合的に把握したうえでターゲティングできる。既存のSalesforceとの連携が容易で、ABM施策との親和性が高い。

注意点: 本質的にはABMツール(企業属性に基づくターゲティング)であり、インテントデータ(行動データに基づく購買意図検出)の機能は限定的だ。「インテントセールスツール」として比較するのはやや無理がある。正確には「ABM + 一部インテント機能」という位置づけ。

料金: 公式サイトでは非公開。問い合わせベース。

日本ツールの比較まとめ

比較軸Sales MarkerFORCAS
本質的な分類インテントセールスプラットフォームABMツール + 経済データ
インテントデータ独自のセールスシグナル®(検索行動ベース)限定的
企業データベース日本企業に特化(人物・部署データあり)SPEEDA連携(財務・業界データに強い)
マルチチャネルメール/電話/フォーム/広告/DMなし(CRM連携経由)
想定用途新規開拓(アウトバウンド主体)既存リードの優先順位付け(ABM主体)
導入のハードル中(独自プラットフォーム)低〜中(Salesforce連携)

海外ツール: 6sense・Bombora・ZoomInfo

海外では、インテントデータ市場がより成熟している。主要プレーヤーを整理する。

ツール概要インテントデータの手法導入時に見ること
6senseABM + インテントデータの統合プラットフォーム独自モデルで購買ステージを予測自社の商談定義と通知条件が合うか
Bomboraインテントデータ専業B2Bメディアのコンテンツ消費データを集約日本企業のカバレッジと利用条件
ZoomInfo企業・個人データベース + インテント機能Webサイト閲覧データ + 検索データ人物データの日本対応
Clay外部データ補完 + 営業フロー自動化複数データソースを統合設計できる人と運用コスト
Common Roomコミュニティシグナル + インテントデータGitHub/Slack/Discordなどの活動データ自社商材とコミュニティ接点の近さ

日本企業が海外ツールを使う場合の留意点: 海外ツールの企業データベースは米国中心であり、日本企業のカバレッジは限定的。Clayは100以上のデータソースを統合できるが、日本のデータソース(帝国データバンク、東京商工リサーチ等)との直接連携はない。日本市場で使う場合は、日本のデータソースとの組み合わせが必要になる。

→ Clayの詳細: Clay完全ガイド——セットアップから日本市場での活用法まで

ここまでがインテントセールスの「仕組み」だ。ツールも揃っている。機能も充実している。だが、実際に使っているユーザーは満足しているのか。海外のリアルな声を聞いてみると、景色が一変する。


導入後に起きる不満——RedditとXで見える現実

インテントセールスツールに対する評価は、ベンダーの事例記事と、実際の利用者の声で大きくずれることがある。Redditのr/salesでは、6senseやDemandbaseのようなABM/インテント系ツールについて、「データは見えるが営業成果に結びつかない」「設定が重い」「現場が使わない」といった不満が繰り返し出ている。Xでも、SFAや営業DXに対して「入力しているのに結局Excelで会議資料を作り直す」という種類の不満が見られる。

ここから分かるのは、ツール単体の優劣ではない。問題は、シグナルが出た後の営業設計である。

1. シグナルが多すぎて優先順位にならない

6senseの公式ドキュメントでは、購買ステージはTarget、Awareness、Consideration、Decision、Purchaseのような段階で整理される。さらに、Web訪問、検索、資料閲覧、イベント参加などのシグナルが営業通知へ流れる。

仕組みとしては妥当だ。しかし営業の現場では、「通知が来た企業のどれを先に触るのか」「その企業に何を言うのか」まで決まっていないと、通知はただのリストになる。Redditの6sense関連スレッドでも、意図データは面白いが実際の商談創出にはつながらなかった、という趣旨の投稿が目立つ。

2. インテントデータを「確定情報」と誤解する

インテントデータは「買うことが決まった企業リスト」ではない。あくまで、検討している可能性が高い企業を優先的に見るための材料である。サードパーティの行動データは、IP推定、Cookie、媒体側データ、トピック推定などを含むため、誤検知や文脈不足が起きる。

したがって、営業へ渡すときは「この会社は買う」ではなく、「この変化が出たので、先に確認する」と表現する方がよい。ここを間違えると、営業は一度空振りしただけでツール全体を信用しなくなる。

3. 使う人と直す人が分かれていない

GTMエンジニアに関するRedditの議論では、「RevOpsの言い換えではないか」「Clayを使うために複雑な役割が必要になっているのではないか」という懐疑がある。一方で、営業・マーケティング・CSを横断し、データと自動化をつなぐ役割として評価する声もある。

この論点はインテントセールスでも同じだ。営業が使い、RevOpsが整え、GTMエンジニアや営業企画がシグナルとメッセージを直す。この役割分担がないと、導入後に誰も改善しない。

参考: Reddit r/sales: What's going on at 6sense? / Reddit r/sales: Anyone here an actual GTM Engineer?


インテントセールスの「限界」を正直に語る

海外ユーザーの声が示すのは、インテントセールスというアプローチそのものに内在する構造的な制約だ。ツールの良し悪しの問題ではない。

限界1: サードパーティインテントデータの精度問題

前章で紹介した不満の多くは、サードパーティデータの精度に起因する。この精度問題には4つの構造的な原因がある。

原因1: IPアドレスベースの企業推定の限界

サードパーティのインテントデータは、IPアドレスから企業を推定する。だが在宅勤務の普及で企業IPからのアクセスは減少し、VPN経由のアクセスが増えた。推定精度は年々低下している。

原因2: 「インテント」の定義があいまい

「セキュリティ関連のコンテンツを読んだ」は、「セキュリティツールを買いたい」と同義ではない。単なる情報収集、学術的な関心、競合調査——動機は様々だが、データ上は区別できない。

原因3: 集約バイアス

企業レベルで集約されたデータは、個人の意図を見失う。「A社の誰かがセキュリティの記事を読んだ」と「A社のCISOが導入を検討している」は全く違うが、サードパーティデータでは同じ「インテントシグナル」として扱われる。

原因4: ベンダーのインセンティブ構造

インテントデータベンダーは「シグナルの量」を増やすほど商品価値が上がる。精度よりも検出量を優先するインセンティブがあり、ノイズの多いシグナルが混入しやすい。

これらの原因が複合すると、次のようなズレが起きる。

論点起きるズレ
IP→企業の推定実際に閲覧した企業と、推定された企業がずれる
インテントスコアの適合率「購買意欲あり」と判定されても、実際は情報収集に近い
在宅勤務・VPN自宅回線やVPN経由のアクセスで企業推定が弱くなる

ファーストパーティデータ(自社サイトの行動)と、サードパーティデータでは確度の性質が違う。「インテントデータ」という一括りの言葉が、この差を見えなくしている。

インテントデータの構造的限界

限界2: 日本市場での個人データ不足

米国のインテントセールスは、以下のデータの組み合わせで成立している。

  1. 企業レベルのインテントデータ: 「A社がセキュリティを検討している」
  2. LinkedInの個人データ: 「A社のIT部長はBさん」
  3. ZoomInfoの直通連絡先: 「Bさんの直通番号は〇〇〇」

この3つが揃って初めて、「検討中の企業の、担当者に、直接アプローチ」が可能になる。

日本ではどうか。

データ米国日本
企業レベルのインテント6sense / Bombora / ZoomInfoSales Marker(セールスシグナル®)
個人レベルの特定LinkedInなどの人物データが厚い公開プロフィールの網羅性が限定的
直通連絡先ZoomInfo(6,000万件以上)限定的(名刺交換ベース)

**Step 1(どの企業が検討中か)は日本でもSales Markerなどで対応できる。だがStep 3(その企業の誰にアプローチするか)**が構造的なボトルネックになる。LinkedInの普及率が米国の10分の1以下という状況では、同じ手法は通用しない。

Sales Markerは「人物データ」「組織・部署データ」を提供しているが、米国のLinkedIn + ZoomInfoの組み合わせが持つカバレッジには及ばない。日本のBtoB営業が依然として「展示会での名刺交換」や「紹介」に依存する背景には、この構造的なデータギャップがある。

→ 日本市場の代替アプローチ: 顧問営業×ハイブリッドGTM——紹介経済をデータで科学する

限界3: ツール導入≠成果——「バズワード導入」の罠

米国のReddit r/salesでは、インテントセールスツールを導入したが成果が出なかったという報告が数多くある。共通するパターンは以下の3つだ。

パターン1: シグナルの洪水

インテントデータツールを導入すると、「購買シグナルを発している企業」が大量にリストアップされる。だがその全てにアプローチする工数はない。どのシグナルを優先するかの基準がなければ、結局「上から順に連絡する」——コールドアウトバウンドと変わらない。

パターン2: パーソナライズの不在

「インテントデータがあるから精度が高い」と思い込み、テンプレートメールを送る。「御社がセキュリティに関心をお持ちだと伺い——」。受け手にとっては「また営業メールか」でしかない。シグナルを検知しただけでは、アプローチの質は上がらない。

パターン3: 既存プロセスとの断絶

インテントデータツールを導入したが、CRM/SFAとの連携がなく、営業担当がツールのダッシュボードとSFAを交互に見ながら手作業でデータを転記する。工数が増えただけで、本来の営業活動に使える時間が減った。

これら3つのパターンに共通するのは、「ツールの問題」ではなく「運用設計の不在」だ。インテントデータは素材に過ぎない。素材をどう料理するか——優先順位の基準、メッセージの設計、既存システムとの連携——がなければ、高価な素材を買って腐らせるのと同じである。

限界は見えた。ではインテントセールスは使いものにならないのか。そうではない。限界を正確に把握したうえで、それを踏まえた運用設計をすれば、冒頭のシナリオのような成果は十分に実現できる。


インテントセールスを成功させるための5つの条件

成功条件の全体像

条件1: ファーストパーティデータを最優先にする

サードパーティのインテントデータに飛びつく前に、まず自社サイトの行動データを徹底的に活用する。

データソース購買意図の確度コストの見方
自社料金ページの閲覧高い既存の解析環境で始めやすい
自社資料のダウンロード高いMAやCRMとの連携設計が必要
自社ブログの閲覧パターン中行動の意味づけが必要
サードパーティのインテントデータ低〜中契約条件、対象市場、精度を確認する

「自社の料金ページを3回見た企業」は、「業界メディアでCRMの記事を読んだ企業」よりも確度が高い。 これは当然のことだが、「インテントデータ」という言葉に惹かれてサードパーティツールから導入し、自社データを放置しているケースが少なくない。

日本のBtoB SaaSで実践しやすい施策例:

  • GA4 + 企業特定ツールの組み合わせ: GA4で「料金ページ→事例ページ→デモ申込ページ」の遷移パターンを設定し、途中離脱した匿名企業を企業特定ツールで可視化する。価格よりも、どの企業をどの精度で特定できるかを見る
  • HubSpotなどのリードスコアリング: 料金ページ閲覧、事例ダウンロード、複数回訪問のように行動データに基づくスコアリングを設計し、条件を満たした企業をインサイドセールスに渡す
  • Slack通知の自動化: 料金ページを閲覧した企業名がSlackの専用チャンネルにリアルタイムで通知される仕組みを構築する。営業担当がダッシュボードを毎朝確認する運用よりも、シグナル発生時に即対応できる

条件2: CRM/SFAとのリアルタイム連携を設計する

インテントデータを取得しても、CRMに反映されなければ営業担当の行動は変わらない。

最低限の連携設計:

  1. インテントシグナルがCRMのリードレコードに自動反映される
  2. 高スコアのシグナルが出たとき、担当営業にSlack/メールで自動通知が飛ぶ
  3. アプローチ結果(返信あり/なし、商談化/失注)がインテントデータと紐づけて記録される

3つ目が特に重要だ。「インテントスコアが高かった企業は本当に商談化率が高いのか」を検証しなければ、データの精度を改善できない。

実装の現実解: SalesforceやHubSpotを使っている場合、ZapierやMakeで「インテントツールのWebhook → CRMレコード更新 → Slack通知」のワークフローを組むのが最も手軽だ。開発工数ゼロで、1日で構築できる。ただし、連携先が3つ以上に増えるとメンテナンスコストが急増するため、そのタイミングで内製化を検討すべきである。

条件3: シグナルの優先順位基準を定義する

「購買シグナルを発している企業が100社ある」と言われても、100社全てにアプローチはできない。優先順位の基準が必要だ。

推奨する3段階フィルター:

段階フィルター例
第1段階: ICP合致自社のICP(理想の顧客像)に合致するか業界、従業員規模、技術スタック
第2段階: シグナル強度複数のシグナルが重なっているか検索 + サイト閲覧 + 資金調達
第3段階: アプローチ可能性連絡先を特定できるか名刺DBにあるか、LinkedIn上で見つかるか

3つのフィルターを全て通過した企業だけにアプローチする。数は10-20社に絞られるが、そのぶん各社へのアプローチに十分な時間をかけられる。

運用例: 「ICP合致 + 強いインテント + 名刺DB内に接点あり」の3条件を満たす企業だけを優先対応にする。それ以外の企業にはナーチャリングメールを送り、シグナルが強まったタイミングで優先対応へ上げる。重要なのは、リストを増やすことではなく、営業が深く調べる企業を絞ることだ。

条件4: メッセージをシグナルに合わせてパーソナライズする

インテントデータの真価は「誰にアプローチするか」だけでなく、「何を伝えるか」にも活かせることだ。

検出されたシグナル推測される関心メッセージの方向性
競合の料金ページを閲覧コスト比較中ROI試算、移行コストの低さを訴求
API連携のドキュメントを閲覧技術的な検討段階技術デモ、API仕様書の提供
導入事例ページを閲覧社内説得の材料を探している同業種の事例、数値実績を提供
セキュリティ関連の検索増加セキュリティインシデントへの懸念セキュリティ機能の詳細、認証取得状況を訴求

具体的なメール文面のBefore/After:

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Before(シグナルを無視したテンプレート): 「御社のDX推進にお役立てできると考え、ご連絡いたしました」

“

After(シグナルに基づくパーソナライズ): 「先月公開された御社の中期経営計画で、基幹システムの刷新を重点施策に掲げていらっしゃいました。弊社の○○は、既存のSAPとAPI連携が可能で、移行期間を従来の1/3に短縮した事例がございます。15分のオンラインデモで具体的にお見せできますが、ご都合はいかがでしょうか」

後者は「なぜ今、自分に連絡してきたか」が相手に伝わる。シグナルを具体的なメッセージに翻訳する設計が、インテントセールスの成否を分ける。

条件5: GTMエンジニアリング的な運用体制を構築する

条件1〜4を個別に実行しても、持続的な成果にはつながらない。必要なのは「シグナル検知→解釈→アクション→結果検証→改善」のサイクルをデータドリブンに回し続ける体制である。

これは、まさにGTMエンジニアリングの考え方だ。

従来のインテントセールス導入GTMエンジニアリング的な運用
ツールを買って営業に渡すワークフロー全体を設計してからツールを選ぶ
「シグナルが出た企業に連絡」「どのシグナルの組み合わせが商談化率が高いか」を検証
月次でレポートを見るリアルタイムでA/Bテストを回す
営業担当個人のスキルに依存プロセスとして仕組み化する

インテントセールスの本質は「ツールの導入」ではなく「売上システムの設計」だ。シグナルの検知→解釈→アクションのワークフローを、データドリブンに設計・改善し続ける体制がなければ、どのツールを使っても成果は出ない。

→ GTMエンジニアリングの詳細: GTMエンジニアとは?営業の仕組みを設計する役割の読み方


日本市場でインテントセールスをどう活用するか

ここまで、仕組みと限界を検証し、成功条件を整理してきた。では、これらを踏まえて日本市場ではどのように活用すべきか。

日本固有の強みを活かす

日本のBtoB市場には、米国にはない独自のデータソースがある。

データソース内容インテントセールスへの活用
EDINET上場企業の有価証券報告書「事業リスク」欄の変化から、課題認識のタイミングを検出
gBizINFO政府系法人データベース補助金受給状況からIT投資意欲を推定
顧問ネットワーク元役員・業界経験者のネットワークLinkedIn不在を補完する「人的インテント」
適時開示上場企業のプレスリリース組織変更・新事業・M&Aから購買タイミングを推定

EDINETの有価証券報告書を具体的に見てみる。上場企業は毎年、「事業等のリスク」欄にリスク要因を記載する義務がある。この欄の記載内容は毎年更新され、その年に企業が認識している課題が反映される。

例えば、セキュリティソフトを販売する企業にとって注目すべきは、「サイバーセキュリティ」をリスク要因として詳しく書き始めた企業だ。金融庁のEDINET検索を使えば、「事業等のリスク」欄に特定キーワードを含む有報を確認できる。ここでは「増えているはず」と断定せず、前年との差分を見て、自社商材に近い変化だけを営業シグナルとして扱う。

この変化は、その企業がサイバーセキュリティを経営課題として新たに認識したことを意味する。これは立派なインテントシグナルであり、しかも無料の公開データだ。有報には役員一覧も掲載されているため、「どの企業が」「いつから」「どんな課題を認識し」「誰が責任者か」まで1つのデータソースで把握できる。

同様に、gBizINFOでは中小企業の補助金受給履歴を確認できる。「IT導入補助金」を受給した企業は、ITツールへの投資意欲が高い——これもインテントシグナルの一種だ。

→ EDINETを活用した営業リスト構築の詳細: GTMエンジニアとは?

ハイブリッドアプローチのすすめ

日本市場でのインテントセールスは、単体で使うよりも他のアプローチと組み合わせることで威力を発揮する。

アプローチ役割主なツール/手法
インテントセールス「いつ」アプローチするかを決めるSales Marker、自社サイト行動データ
データエンリッチメント「誰に」アプローチするかを決めるEDINET、gBizINFO、Clay
顧問ネットワーク「どうやって」アプローチするかを決める顧問紹介、業界人脈

インテントデータで「今、検討中の企業」を特定し、公開データで「その企業のどの部署が担当か」を推定し、顧問ネットワークで「その部署のキーパーソンへの紹介ルート」を確保する。この3層構造が、日本市場でのインテントセールスの現実的な活用法である。

3層構造の実行イメージ:

  1. Sales Markerなどで「直近でセキュリティ関連の検索が強くなった企業」を抽出する
  2. EDINETで有報を確認し、「事業等のリスク」にサイバーセキュリティが厚く書かれている企業へ絞る
  3. 自社の名刺DBやCRMで過去接点を確認する
  4. 接点がない企業は、顧問ネットワーク経由で紹介可能かを見る
  5. 直接アプローチ、顧問紹介、ナーチャリングに分けて動く

大量の企業に一斉メールを送るのではなく、根拠を説明できる企業に絞って質の高いアプローチを行う。これが日本市場でのインテントセールスの現実解だ。

→ GTM戦略の全体像: GTM戦略とは?BtoB売上を生むGo-To-Market設計の全体像


よくある質問(FAQ)

Q1. インテントセールスとは?

インテントセールスとは、顧客の購買意図(インテント)を示すデータを活用し、「今まさに検討中の企業」にアプローチする営業手法である。Web上の検索行動やコンテンツ消費データから購買シグナルを検出し、タイミングの精度を高める。日本ではSales Markerがこのカテゴリを牽引している。

Q2. Sales Markerの料金は?

Sales Markerの具体的な料金体系は、公式サイト上では問い合わせベースで確認する必要がある。導入判断では、月額費用だけでなく、対象市場のカバレッジ、検知できるシグナルの種類、CRM連携、営業が実際に使う通知設計まで合わせて見るべきだ。

比較対象として海外ツールを見る場合も、公開価格だけで判断しない。6sense、Bombora、ZoomInfo、Common Room、Clayは役割が違うため、「インテント検知」「企業データ補完」「コミュニティシグナル」「営業ワークフロー」のどれを買っているのかを分けて確認する。

Q3. インテントデータとは何ですか?

インテントデータとは、企業や個人のオンライン上の行動から推測される購買意図のデータである。ファーストパーティ(自社サイトの行動)、セカンドパーティ(パートナーサイトの行動)、サードパーティ(外部プロバイダーの集約データ)の3種類があり、精度はファーストパーティ > セカンドパーティ > サードパーティの順に高い。

Q4. インテントセールスとABMの違いは?

ABM(アカウントベースドマーケティング)は「特定の企業を選び、その企業に集中的にアプローチする」戦略で、企業属性(業界・規模・技術スタック)に基づく。インテントセールスは「購買シグナルを発している企業にアプローチする」手法で、行動データに基づく。ABMが「誰に」を決め、インテントセールスが「いつ」を決める——両者は競合ではなく補完関係にある。

Q5. インテントセールスのデメリットは?

主なデメリットは3つある。(1)サードパーティインテントデータの精度に構造的な限界があること。(2)日本市場ではLinkedIn前提の個人レベルアプローチをそのまま使いにくいこと。(3)ツール導入だけでは成果が出ず、運用設計(シグナルの優先順位、メッセージのパーソナライズ、CRM連携)が不可欠なこと。

Q6. インテントセールスとGTMエンジニアリングの関係は?

インテントセールスは「購買シグナルに基づくアプローチ手法」であり、GTMエンジニアリングは「売上を生む仕組み全体を設計する方法論」である。インテントセールスはGTMエンジニアリングの一部——具体的には「シグナル検知」のステップ——を担う。GTMエンジニアリングはそれに加えて、リスト構築、メッセージ作成、ワークフロー自動化、改善サイクルまでを含む。


まとめ

冒頭のシナリオに戻る。大量の企業へ一斉配信するチームと、根拠を持って少数の企業へ精密にアプローチするチーム。この差を生んでいるのは「ツール」ではなく「設計」だ。

主要ポイント

  1. インテントセールスは有効だが万能ではない: 購買タイミングの精度は上がるが、サードパーティインテントデータには構造的な限界がある
  2. ツール選定より運用設計が重要: Sales Marker、FORCAS、6senseのいずれを選んでも、シグナルの優先順位基準、メッセージのパーソナライズ設計、CRM連携がなければ成果は出ない
  3. ファーストパーティデータを最優先に: 高額なサードパーティツールに飛びつく前に、自社サイトの行動データを徹底的に活用する
  4. 日本市場の固有条件を踏まえる: LinkedIn不在は弱みだが、EDINET・gBizINFO・顧問ネットワークという独自の資産がある。海外手法のコピーではなく、「インテント + 公開データ + 人的ネットワーク」のハイブリッドが現実解だ

次のステップ

  • GTMエンジニアリングの全体像を知りたいなら → GTMエンジニアとは?営業の仕組みを設計する役割の読み方
  • RevOpsとの違いを理解したいなら → RevOpsとGTMエンジニアの違い——組織設計・スキル・キャリアパスを比較
  • 顧問営業とデータの組み合わせに興味があるなら → 顧問営業×ハイブリッドGTM——紹介経済をデータで科学する
  • GTM戦略の全体像を把握したいなら → GTM戦略とは?BtoB売上を生むGo-To-Market設計の全体像
  • Clayの料金・代替ツールを知りたいなら → Clay完全ガイド|料金の現実・$800/週問題・代替ツール比較
  • ABMとインテントデータの融合を知りたいなら → ABMの進化形——インテントデータ×データエンリッチメントで成約率を上げる方法
  • SFA導入後の次のステップを探しているなら → 営業DXのその先へ: SFA導入後の営業設計メモ
  • 日本市場での具体的な実装方法を知りたいなら → 日本企業のためのGTMエンジニアリング実践——EDINET・gBizINFO・顧問ネットワークで営業を仕組み化する

本記事はネクサフローのGTMエンジニアリングシリーズの一部です。

この記事の著者

中村 知良

中村 知良

代表取締役

早稲田大学卒業後、ソフトバンク株式会社にてAI活用やCEO直下案件のプロジェクトマネージャーに従事。その後、不動産スタートアップPit in株式会社の創業、他スタートアップでの業務改善・データ活用を経験後、2023年10月、株式会社ネクサフローを創業し代表取締役CEO就任。

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