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スタートアップ分析

インテントセールスとは?Sales Marker・FORCAS・6senseの実力と限界

15分で読める|2026/05/19|
インテントセールスSales MarkerインテントデータABMセールステック

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B!

「今期のターゲットリスト、かなり多めに作りました。順番にメールしてください」

営業企画が表計算で作ったリストが配られる。業界×従業員規模で絞り込んだだけのリストで、そのうち今まさに自社製品を検討している企業が何社あるかは誰も知らない。それでも「数を打てば当たる」と言われ、翌月も同じように送る。

一方、別の会社では違うやり方をしている。「先週、競合のA社の料金ページを複数回閲覧した企業がある。そのうち、直近で組織変更を発表した企業だけに、組織変更に伴う課題に言及したメールを送る」。接触数は減るが、営業が話す理由は明確になる。

この差はツールの差ではない。同じインテントセールスツールを入れても、この二つの会社に分かれうる。差を生んでいるのは、シグナルを「検知する」設計と、検知したシグナルを「成約に変換する」設計を、別の作業として切り分けられているかどうかだ。

日本ではSales Marker(セールスマーカー)がインテントセールスというカテゴリを強く打ち出している。Web検索行動を可視化して「今、あなたのサービスがほしい企業」を特定する、という説明が前面に出ている。本記事が検証したいのは、ベンダーの主張そのものではなく、検知したシグナルが営業アクションに変わる条件のほうだ。なお、料金や機能名は変わるため導入時は公式ページで確認してほしい。RedditやXの投稿も、事実の裏取りではなく利用者が詰まりやすい論点として引用する。

私はネクサフローのGTMエンジニアリングシリーズで、日本のBtoB営業設計を検証してきた立場からこの問いに答えたい。私の見立ては次の通りだ。インテントセールスの成否は、ツール選定ではなく「シグナルを検知する層」と「シグナルを成約に変換する層」を分けて設計できるかで決まる。特に日本では、米国のLinkedIn+ZoomInfo前提をそのまま輸入すると、後述する「誰にアプローチするか」の工程で詰まる。EDINET・gBizINFO・顧問ネットワークで人物層を組み替える「インテント+公開データ+人脈」のハイブリッドが、現時点での現実解だと考えている。

これは日本のBtoB営業を前提にした話だ。人物データが厚い米国SaaSの前提にそのまま当てはめるつもりはない。また、サードパーティのインテントデータ単体には懐疑的な立場を取る。まず自社のファーストパーティデータを使い切るべきだ、というのが私の考えだ。


前提: 検知と変換、2つの定義

以降で繰り返し使う2つの概念を、先に定義しておく。定義がなければ、後段の主張は検証できない。

検知(detection)と変換(conversion)の分離。シグナルを「表示すること」と、そのシグナルを「誰に、何を言って、どのシステムで動かすか」に翻訳することは、別の作業だ。前者はダッシュボードに企業名が並べば達成される。後者は、優先順位の基準、メッセージの設計、CRM連携、担当者の役割分担という、ツールの外側の意思決定を必要とする。検知が強いツールを買っても、変換の設計がなければ、通知はただのリストで止まる。この記事は、この1本の軸で以降のすべてを見ていく。

インテントデータの確度階層。インテントデータには、取得経路によって3種類ある。

種類定義具体例精度入手コスト
ファーストパーティ自社サイト・自社ツールでの行動データ料金ページの閲覧、資料DL、デモ申し込みページへのアクセス高低(自社で取得可能)
セカンドパーティパートナーサイト・レビューサイトでの行動データITreviewでの競合製品閲覧、G2での比較検討中〜高中(パートナー契約が必要)
サードパーティ外部プロバイダーが収集・集約した行動データ特定キーワードの検索増加、業界メディアの閲覧パターン低〜中高(ツール契約が必要)

「自社の料金ページを3回見た企業」は、「業界メディアでCRMの記事を読んだ企業」より購買意図が明確だといえる。にもかかわらず、多くのインテントセールスツールが売りにしているのはサードパーティデータ、つまり精度がもっとも低いカテゴリのデータだ。この精度差がなぜ構造的に生じるかは、後段の「サードパーティ精度の構造的限界」で扱う。

この確度階層を複数重ねて絞り込む設計(Data Waterfall)については、ABMの進化形で詳しく扱った。


インテントセールスの仕組み

インテントセールスの仕組み

インテントセールスとは、顧客の「検索行動」「ウェブサイト閲覧」「コンテンツ消費」などの行動データから購買意図を検出し、そのシグナルに基づいてアプローチする営業手法だ。

従来の営業手法と並べると、違いが見える。

コールドアウトバウンドABMインテントセールス
ターゲティングの根拠リスト(業界×規模)企業属性(ICP)購買シグナル(行動データ)
アプローチのタイミング営業側の都合キャンペーン設計次第顧客の検討タイミング
パーソナライズの深さ低(テンプレート差し込み)中(企業別にカスタマイズ)高(検討内容に応じて)
精度の前提統計的な確率企業選定の質データの品質と解釈力

核心的な違いは「誰に」ではなく「いつ」にある。コールドアウトバウンドは「数を打てば当たる」、ABMは「正しい企業を選べば当たる」、インテントセールスは「正しいタイミングで打てば当たる」。アプローチの起点が営業側の都合から顧客側の行動に移る。

実行プロセスは4ステップに分かれる。

  1. シグナル検知: セキュリティ関連キーワードの検索急増、競合サイトの閲覧頻度上昇などを検出する
  2. アプローチ対象の特定: IPアドレスの逆引き、Cookie、アカウントレベルのトラッキングでシグナルを発している企業を特定する
  3. 連絡先の特定: 該当企業内の意思決定者・担当者を特定する
  4. パーソナライズされたアプローチ: 検討内容に合わせた提案を実施する

この4ステップは、先に定義した検知と変換にそのまま対応する。Step1-2(検知・特定)はツールが自動化できる。Step3-4(連絡先・アプローチ)は変換層の仕事で、人間の判断が必要になる。米国ではLinkedIn+ZoomInfoでStep3まで機械的に到達できるため、検知と変換の境界が見えにくい。日本ではこの境界が構造的なボトルネックとして表に出る。詳しくは後段の「日本の構造ギャップ」で扱う。


日本で使えるインテントセールスツール

インテントセールスツール比較

Sales Marker(株式会社Sales Marker、2022年設立)は、日本企業向けに「Web検索行動を営業シグナルへ変える」文脈を分かりやすく提示している。検索行動や自社接点を企業単位のシグナルとして扱い、営業が「どの企業を先に触るか」を考える入口として使いやすい。ただし、検索行動が見えることと、営業が成果を出せることは別だ。どのシグナルを強いと見なすか、どの営業担当へ渡すか、どのメッセージに変えるかを決めなければ、通知が増えるだけになる。

FORCAS(スピーダ顧客企業分析、株式会社ユーザベース運営)は、本質的にはABMツールだ。SPEEDAの経済データとの連携が最大の強みで、業界動向・財務データ・ニュースを統合的に把握したうえでターゲティングできる。だが行動データに基づく購買意図検出、つまりインテントデータの機能は限定的だ。「インテントセールスツール」として比較するのはやや無理があり、正確には「ABM+一部インテント機能」という位置づけになる。

比較軸Sales MarkerFORCAS
本質的な分類インテントセールスプラットフォームABMツール+経済データ
インテントデータ独自のセールスシグナル(検索行動ベース)限定的
企業データベース日本企業に特化(人物・部署データあり)SPEEDA連携(財務・業界データに強い)
想定用途新規開拓(アウトバウンド主体)既存リードの優先順位付け(ABM主体)

海外では、インテントデータ市場がより成熟している。

ツール概要インテントデータの手法
6senseABM+インテントデータの統合プラットフォーム独自モデルで購買ステージを予測
Bomboraインテントデータ専業B2Bメディアのコンテンツ消費データを集約
ZoomInfo企業・個人データベース+インテント機能Webサイト閲覧データ+検索データ
Clay外部データ補完+営業フロー自動化複数データソースを統合
Common Roomコミュニティシグナル+インテントデータGitHub/Slack/Discordなどの活動データ

海外ツールの企業データベースは米国中心で、日本企業のカバレッジは限定的だ。日本市場で使う場合は、日本のデータソースとの組み合わせが必要になる。この制約こそが、後段で扱う日本固有の構造ギャップの入口になる。

いずれのツールも、導入判断では月額費用だけを見ない方がよい。対象市場のカバレッジ、検知できるシグナルの種類、CRM連携、営業が実際に使う通知設計まで合わせて確認する。海外ツールを比較対象にする場合も、公開価格だけで判断しない。6sense、Bombora、ZoomInfo、Common Room、Clayは役割が違うため、「インテント検知」「企業データ補完」「コミュニティシグナル」「営業ワークフロー」のどれを買っているのかを分けて見る必要がある。

ここまでがインテントセールスの「仕組み」だ。ツールも揃っている。機能も充実している。だが、実際に使っているユーザーは満足しているのか。海外のリアルな声を聞いてみると、景色が一変する。


なぜ成果に変わらないのか

インテントセールスツールに対する評価は、ベンダーの事例記事と実際の利用者の声で大きくずれることがある。Redditのr/salesでは、6senseやDemandbaseのようなABM/インテント系ツールについて、「データは見えるが営業成果に結びつかない」「設定が重い」「現場が使わない」といった不満が繰り返し出ている(Reddit r/sales: What's going on at 6sense?)。Xでも、SFAや営業DXに対して「入力しているのに結局Excelで会議資料を作り直す」という種類の不満が見られる。

これらの不満は、症状こそ違うが機構としては一つに収束すると言えそうだ。検知は動いているが、変換の設計がない。この機構が、少なくとも3つの現れ方をする。

シグナルの洪水。6senseの公式ドキュメントでは、購買ステージがTarget、Awareness、Consideration、Decision、Purchaseのような段階で整理される。Web訪問、検索、資料閲覧、イベント参加などのシグナルが営業通知へ流れる。仕組みとしては妥当だが、「通知が来た企業のどれを先に触るのか」「その企業に何を言うのか」まで決まっていないと、通知はただのリストになる。Redditの6sense関連スレッドでも、意図データは面白いが実際の商談創出にはつながらなかった、という趣旨の投稿が目立つ。優先順位の基準がなければ、結局「上から順に連絡する」、コールドアウトバウンドと変わらない結果に戻る。

確定情報との混同。インテントデータは「買うことが決まった企業リスト」ではない。検討している可能性が高い企業を優先的に見るための材料だ。サードパーティの行動データは、IP推定、Cookie、媒体側データ、トピック推定を含むため、誤検知や文脈不足が起きる。営業へ渡すときは「この会社は買う」ではなく「この変化が出たので、先に確認する」と表現しなければ、営業は一度空振りしただけでツール全体を信用しなくなる。

既存プロセスとの断絶。インテントデータツールを導入しても、CRM/SFAとの連携がなければ、営業担当がダッシュボードとSFAを交互に見ながら手作業でデータを転記することになる。工数が増えただけで、本来の営業活動に使える時間が減る。GTMエンジニアリングに関するRedditの議論でも、「RevOpsの言い換えではないか」という懐疑がある一方、営業・マーケティング・CSを横断し、データと自動化をつなぐ役割として評価する声もある(Reddit r/sales: Anyone here an actual GTM Engineer?)。使う人と直す人が分かれていなければ、導入後に誰も改善しない。

ここまでの3つの現れ方――シグナルの洪水、確定情報との混同、既存プロセスとの断絶――は、症状の見え方こそ違うが、私は同じ一つの原因に帰着すると考えている。ツールが担保できるのは「シグナルを見せること」までであり、見せたシグナルをどう扱うかを決める変換レイヤーは、ツールの外側に置き去りにされたままだということだ。Reddit上の不満の多くが、機能不足そのものではなく運用設計の不在を指しているように読めるのは、この境界線を裏付けていると私はみている。


サードパーティ精度の構造的限界

海外ユーザーの声が示すのは、インテントセールスというアプローチそのものに内在する構造的な制約だ。ツールの良し悪しの問題ではない。前段で定義した確度階層のうち、サードパーティデータの精度が構造的に低くなる理由は4つある。

IPアドレスベースの企業推定の限界。サードパーティのインテントデータは、IPアドレスから企業を推定する。在宅勤務の普及で企業IPからのアクセスは減少し、VPN経由のアクセスが増えた。推定精度は年々低下している。

インテントの定義があいまい。「セキュリティ関連のコンテンツを読んだ」は「セキュリティツールを買いたい」と同義ではない。単なる情報収集、学術的な関心、競合調査。動機はさまざまだが、データ上は区別できない。

集約バイアス。企業レベルで集約されたデータは、個人の意図を見失う。「A社の誰かがセキュリティの記事を読んだ」と「A社のCISOが導入を検討している」はまったく違うが、サードパーティデータでは同じ「インテントシグナル」として扱われる。

ベンダーのインセンティブ構造。インテントデータベンダーは「シグナルの量」を増やすほど商品価値が上がる。精度よりも検出量を優先するインセンティブがあり、ノイズの多いシグナルが混入しやすい。

この4つが複合すると、IP→企業の推定がずれ、「購買意欲あり」と判定されても実際は情報収集に近く、在宅勤務・VPN経由のアクセスで企業推定がさらに弱くなる。ファーストパーティデータとサードパーティデータでは、確度の性質そのものが違う。「インテントデータ」という一括りの言葉が、この差を見えなくしている。

インテントデータの構造的限界

日本の構造ギャップ: Step3で止まる

米国のインテントセールスは、企業レベルのインテントデータ(6sense/Bombora/ZoomInfo)、LinkedInの個人データ、ZoomInfoの直通連絡先(6,000万件以上)、この3つの組み合わせで成立している。この3つが揃って初めて、「検討中の企業の、担当者に、直接アプローチ」が可能になる。

日本ではどうか。

データ米国日本
企業レベルのインテント6sense/Bombora/ZoomInfoSales Marker
個人レベルの特定LinkedInなどの人物データが厚い公開プロフィールの網羅性が限定的
直通連絡先ZoomInfo(6,000万件以上)限定的(名刺交換ベース)

Step1(どの企業が検討中か)は日本でもSales Markerなどで対応できる。だがStep3(その企業の誰にアプローチするか)が構造的なボトルネックになる。LinkedInの普及率が米国の10分の1以下という状況では、同じ手法は通用しない。Sales Markerは「人物データ」「組織・部署データ」を提供しているが、米国のLinkedIn+ZoomInfoの組み合わせが持つカバレッジには及ばない。

私はここで、米国の手法を日本語に翻訳するのではなく、日本の人物データ層そのものを組み替える必要があると考えている。EDINETの役員欄、gBizINFOの補助金・認定情報、顧問ネットワークという、日本のBtoB営業が長年頼ってきた資産を、Step3を埋める材料として設計に組み込む。日本のBtoB営業がなお「展示会での名刺交換」や「紹介」に依存する背景には、この構造的なデータギャップがある。

Step3を実際にどう埋めるかの実装レベルの解は、日本企業のためのGTMエンジニアリング実践と顧問営業×ハイブリッドGTMの2本で具体的に示している。前者は、EDINETの「事業等のリスク」欄を前年と突き合わせ、新規に出てきたキーワードの数と記述量の増加率でスコアを付け、そこにgBizINFOの補助金・認定・調達履歴を重ねて「営業が確認する順番」を作るPoC設計だ。後者は、そのスコアで絞った企業リストを、顧問への依頼のときに「業界全体」ではなく「このリストの中で」に絞り込み、「変化のシグナル」「課題の推定」「自社の適合性」の3要素で依頼理由を言語化する設計を示している。名刺DB・EDINET役員欄・顧問紹介のどれが最も効くかを比較した実測値は、公開できる形ではまだ持っていない。ただし、この2本の記事が示す設計――事業等のリスク欄の差分をスコア化し、そのスコアを顧問への依頼理由に翻訳する――が、Step3を「誰にも当てられない」状態から「確認する順番がある」状態に変える具体的な一本の線になっている。


変換設計のレバー

成功条件の全体像

検知は買える。変換は設計するしかない。ここまでの限界を踏まえたうえで、変換層を強くするレバーを5つに整理する。

レバー1: ファーストパーティを最優先にする

サードパーティのインテントデータに飛びつく前に、まず自社サイトの行動データを徹底的に活用する。「自社の料金ページを3回見た企業」は「業界メディアでCRMの記事を読んだ企業」よりも確度が高い。これは前段で定義した確度階層そのものだ。「インテントデータ」という言葉に惹かれてサードパーティツールから導入し、自社データを放置しているケースは少なくない。GA4と企業特定ツールを組み合わせて料金ページ→事例ページ→デモ申込ページの遷移を追う、HubSpotなどでリードスコアリングを設計する、料金ページ閲覧をSlackへリアルタイム通知する。いずれも既存の解析環境で始められる。

レバー2: CRM/SFAとのリアルタイム連携を設計する

インテントシグナルがCRMのリードレコードに自動反映され、高スコアのシグナルが出たとき担当営業に自動通知が飛び、アプローチ結果(返信あり/なし、商談化/失注)がインテントデータと紐づけて記録される。3つ目が特に重要だ。「インテントスコアが高かった企業は本当に商談化率が高いのか」を検証しなければ、データの精度を改善できない。SalesforceやHubSpotを使っている場合、ZapierやMakeで「インテントツールのWebhook→CRMレコード更新→Slack通知」のワークフローを組むのが手軽な現実解になる。ただし連携先が3つ以上に増えるとメンテナンスコストが急増するため、そのタイミングで内製化を検討すべきだ。

レバー3: シグナルの優先順位基準を定義する

「購買シグナルを発している企業が100社ある」と言われても、100社すべてにアプローチはできない。ICP合致、シグナル強度(複数シグナルの重なり)、アプローチ可能性(連絡先を特定できるか)という3段階のフィルターを通過した企業だけにアプローチする。数は10〜20社に絞られるが、そのぶん各社へのアプローチに十分な時間をかけられる。重要なのは、リストを増やすことではなく、営業が深く調べる企業を絞ることだ。

レバー4: メッセージをシグナルに合わせて翻訳する

競合の料金ページを閲覧していればROI試算を、API連携のドキュメントを閲覧していれば技術デモを、導入事例ページを閲覧していれば同業種の事例を、というように、検出されたシグナルをメッセージの方向性に翻訳する。「御社がセキュリティに関心をお持ちだと伺い」のようなテンプレートでは、受け手にとって「また営業メールか」でしかない。検討段階別のコンテンツマッピングは、日本のBtoB SaaS企業が使い始めている手法だ。送り分けの精度を上げる王道は、レバー2で触れたCRM連携を使い、どのシグナルとどのメッセージの組み合わせが返信や商談化につながったかを継続的に記録し、送り分けのルールを更新し続けることだ。この効果は自社のCRMに残る一次データでしか語れないため、本記事では無出典の数値を挙げない。

日本市場ならではの翻訳材料もある。EDINETの有価証券報告書は、上場企業が毎年「事業等のリスク」欄にリスク要因を記載する義務を負う。この欄は毎年更新され、その年に企業が認識している課題が反映される。前年との差分を見て、自社商材に近い変化だけを営業シグナルとして扱えば、「先日発表された中期経営計画でDX投資を重点施策に掲げていらっしゃいましたが」というメッセージが成立する。有報には役員一覧も掲載されているため、「どの企業が」「いつから」「どんな課題を認識し」「誰が責任者か」まで1つのデータソースで把握できる。gBizINFOでも、中小企業の補助金受給履歴を確認できる。「IT導入補助金」を受給した企業は、ITツールへの投資意欲が高いというインテントシグナルとして読める。いずれも無料の公開データだ。

レバー5: 検知と変換を別の役割として設計する

レバー1〜4を個別に実行しても、持続的な成果にはつながらない。必要なのは、シグナル検知→解釈→アクション→結果検証→改善のサイクルをデータドリブンに回し続ける体制だ。営業が使い、RevOpsが整え、GTMエンジニアや営業企画がシグナルとメッセージを直す。この役割分担がなければ、導入後に誰も改善しない。インテントセールスの本質は「ツールの導入」ではなく「売上システムの設計」であり、検知(Step1-2)と変換(Step3-4)を同じ人・同じ工程で扱おうとすることが、多くの導入が止まる最初のつまずきだと私は見ている。


冒頭の2社の差に戻る。大量の企業へ一斉配信するチームと、根拠を持って少数の企業へ精密にアプローチするチーム。両社とも、同じインテントセールスツールを検討できる立場にある。分かれ目は、ツールの検知精度に払う金額ではなく、検知の後に変換を設計する工数をどれだけ確保しているかだ。

導入を検討しているなら、まず自分に問うてほしい。ツールの月額費用は見積もれても、優先順位の基準を決める人、メッセージを翻訳する人、CRM連携を保守する人の工数は見積もっているか。日本市場であれば、Step3を埋めるためにEDINET・gBizINFO・顧問ネットワークのどれに投資するかは決めているか。この工数を先に確保できないなら、どのツールを選んでも通知が増えるだけで終わる可能性が高い。

私自身、この記事で定義した検知と変換の分離を、日本市場の実装としてどこまで再現できるかを、日本企業のためのGTMエンジニアリング実践と顧問営業×ハイブリッドGTMで検証を続けている。次に確かめたいのは、この変換層の設計を、GTMエンジニアという専任の役割なしに、営業企画だけでどこまで回せるかだ。それはまだ検証できていない。


本記事はネクサフローのGTMエンジニアリングシリーズの一部です。

この記事の著者

中村 知良

中村 知良

代表取締役

早稲田大学卒業後、ソフトバンク株式会社にてAI活用やCEO直下案件のプロジェクトマネージャーに従事。その後、不動産スタートアップPit in株式会社の創業、他スタートアップでの業務改善・データ活用を経験後、2023年10月、株式会社ネクサフローを創業し代表取締役CEO就任。

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