コストプライシングが不要なビジネスとは?判断基準を解説
AIサマリー
SaaS、デジタル製品、高級ブランド。コストプライシングが機能しない業界と理由を解説。

コストプライシングはすべてのビジネスに適しているわけではありません。特にSaaS、デジタル製品、高級ブランドでは、コストを積み上げても適切な価格にならないケースがあります。
本記事では、コストプライシングが「機能しない」ビジネスの特徴と、代替となる価格戦略を解説します。
この記事でわかること
- 機能しない条件: コストプライシングが適さない3つのパターン
- 業界別の分析: SaaS、高級ブランド、デジタル製品
- 代替戦略: バリューベース、ティア型、フリーミアム
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | コストプライシングの適用判断 |
| カテゴリ | プライシング戦略 |
| 難易度 | 中級 |
| 対象読者 | SaaS事業者、ブランドマネージャー |
コストプライシングが機能しない3つの条件
条件1: 限界費用がほぼゼロ
限界費用とは、1単位追加で生産するときに発生するコストです。この限界費用がゼロに近い場合、コストプライシングは機能しません。
| ビジネス | 限界費用 | 理由 |
|---|---|---|
| ソフトウェア | ≒ 0円 | コピーにほぼコストがかからない |
| デジタルコンテンツ | ≒ 0円 | 配信にほぼコストがかからない |
| 製造業 | 変動 | 1個追加で材料費・人件費が発生 |
限界費用がゼロなら、原価を基準にした価格設定は意味をなしません。
条件2: 価値が原価と無関係
製品の価値が「原価」ではなく「ブランド」「ステータス」「希少性」で決まる市場。
例: 高級ブランドバッグ
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 材料費 | $200-500 |
| 製造費 | $100-200 |
| 原価合計 | $300-700 |
| 販売価格 | $3,000-10,000 |
| マークアップ | 10〜30倍 |
高級ブランドの価値は「所有する喜び」「ステータス」にあり、原価とは無関係です。
条件3: 差別化が容易
独自の技術、特許、ネットワーク効果などで差別化できる場合。その価値を価格に反映しないのは、利益を逃すことになります。
コストプライシングが機能しない3つの条件SaaS・デジタル製品では使えない理由
ソフトウェアの原価構造
SaaSの原価構造は、製造業と根本的に異なります。
| 費用 | 製造業 | SaaS |
|---|---|---|
| 開発費 | 設計費(固定) | 初期開発費(大きい) |
| 製造費 | 材料費 + 加工費 | ≒ 0円 |
| 限界費用 | 中〜高 | ほぼゼロ |
"The subscription SaaS business model is not compatible with the cost-plus pricing strategy."
「サブスクリプションSaaSのビジネスモデルは、コストプラス価格戦略と両立しない」
コスト積み上げの限界
仮にSaaSの原価を計算しても、価格設定の参考になりません。
例: 月額1,000円のSaaSツール(仮定)
| コスト項目 | 1ユーザーあたり月額(仮定) |
|---|---|
| サーバー費用 | 5円 |
| サポート費用(按分) | 50円 |
| 合計 | 55円 |
仮に原価55円に30%マークアップを加えても72円。しかし市場の価格帯は月額1,000〜10,000円です。原価ベースでは価格が決まりません。
SaaSに適した価格戦略
| 戦略 | 内容 | 例 |
|---|---|---|
| バリューベース | 顧客が得る価値で価格決定 | Salesforce |
| ティア型 | 機能・容量で複数プラン | Slack, Notion |
| フリーミアム | 無料版で獲得、有料で収益化 | Zoom, Dropbox |
| ユーセージベース | 使用量に応じた課金 | AWS, Stripe |
高級ブランドで使わない理由
ブランド価値の構造
高級ブランドの価格は「希少性」「ブランドストーリー」「社会的ステータス」で決まります。
Hermès Birkin バッグの例:
| 要素 | 価値への寄与 |
|---|---|
| 素材・製造品質 | 10% |
| ブランドストーリー | 30% |
| 希少性・入手困難さ | 30% |
| 社会的ステータス | 30% |
原価が価値の10%しか占めない製品で、コストプライシングは意味をなしません。
価格が品質シグナルになる
高級品市場では、「高い価格」それ自体が品質のシグナルになります。
"In luxury markets, a high price can actually increase demand."
「高級品市場では、高い価格がむしろ需要を増やすことがある」
コストから価格を決めると、ブランド価値を毀損するリスクがあります。
判断フレームワーク
自社ビジネスにコストプライシングが適しているかを判断するフレームワークです。
2軸マトリクス
| 限界費用 高い | 限界費用 低い | |
|---|---|---|
| 差別化 困難 | コストプライシング | 競合ベース |
| 差別化 容易 | ハイブリッド | バリューベース |
判断チェックリスト
以下の質問に「はい」が多いほど、コストプライシングが適しています。
| # | 質問 | はい/いいえ |
|---|---|---|
| 1 | 製品1単位の追加生産にコストがかかる | |
| 2 | 製品仕様が業界で標準化されている | |
| 3 | 顧客は価格を容易に比較できる | |
| 4 | 原材料価格の変動が大きい | |
| 5 | 価格の根拠説明が必要な取引が多い |
3つ以上「はい」: コストプライシングが有効 2つ以下「はい」: バリューベースを検討
価格戦略選択マトリクス代替となる価格戦略
コストプライシングが適さない場合の代替戦略を紹介します。
1. バリューベースプライシング
顧客が感じる価値に基づいて価格を決定。
実施手順:
- 顧客インタビュー・調査で支払い意思(WTP)を測定
- 顧客セグメントごとにWTPを分析
- 価値訴求ポイントを明確化
- WTPの80-90%を価格設定
適した市場: 差別化が容易、顧客データが豊富
2. ティア型プライシング
機能・容量・サポートレベルで複数プランを提供。
例: Slackの料金体系
| プラン | 月額 | 主な機能 |
|---|---|---|
| Free | $0 | 基本機能、履歴90日 |
| Pro | $8.75 | 無制限履歴、ゲスト |
| Business+ | $15 | 高度なセキュリティ |
| Enterprise Grid | 要問合せ | 大企業向け機能 |
出典: Slack Pricing
3. フリーミアムモデル
無料版でユーザー獲得、有料版で収益化。
成功の条件:
- 無料版でも価値を感じられる
- 有料版への明確なアップグレード理由がある
- 無料ユーザーが有料ユーザーを呼び込む
4. ユーセージベース(従量課金)
使用量に応じて課金。
例: AWS、Stripe、Twilio
| サービス | 課金単位 |
|---|---|
| AWS | コンピューティング時間、データ転送量 |
| Stripe | 決済金額の2.9% + $0.30 |
| Twilio | SMS/通話ごとの単価 |
よくある質問(FAQ)
Q1. SaaSでコストプラスは完全にNG?
完全にNGではありません。「コストを下限として設定し、価値で上乗せする」ハイブリッド型は有効です。ただし、コストだけで価格を決めるのは避けるべきです。
Q2. 高級ブランドがコストを公開したらどうなる?
ブランド価値を毀損するリスクがあります。「安く作って高く売っている」という印象を与え、ステータス価値が低下する可能性があります。
Q3. デジタル製品の適正価格はどう決める?
以下の方法を組み合わせます:
- 競合価格のベンチマーク
- 顧客インタビューでWTP測定
- A/Bテストで価格感度を検証
Q4. 限界費用ゼロでも原価企画は使える?
使えます。原価企画は「目標価格から許容コストを逆算する」考え方なので、開発費・マーケティング費の配分を最適化するために活用できます。
Q5. 自社のビジネスがどちらか判断できない場合は?
以下を確認してください:
- 製品1個追加するときのコストはいくらか
- 顧客は何に価値を感じているか
- 競合と比較されやすいか
迷う場合は、「コストで下限、価値で上限」のハイブリッド型が安全です。
まとめ
コストプライシングが不向きな条件
| 条件 | 理由 | 代替戦略 |
|---|---|---|
| 限界費用がゼロ | 原価を積み上げても意味がない | バリューベース、ティア型 |
| 価値が原価と無関係 | ブランド価値が価格を決定 | プレミアムプライシング |
| 差別化が容易 | 価値を取りこぼすリスク | バリューベース |
次のステップ
- 自社の限界費用構造を分析する
- 顧客が価値を感じるポイントを特定する
- 判断フレームワークで適合性を評価する
参考リソース
SaaS価格設定
高級ブランド
コストプライシング シリーズ
概念を理解する
自社に適用する
成功事例に学ぶ
本記事はコストプライシングシリーズの一部です。
この記事の著者

猪良 幸太郎
東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。


