
価格決定権は誰が持っているか:リーダーとフォロワーの戦略
AIサマリー
業界の価格を決めているのは誰か。価格リーダーシップの3つのパターンと、フォロワーの戦略を解説します。
業界の価格はリーディングカンパニーが決めていると思っていないでしょうか。実はそうとは限りません。
本記事では、価格決定権の概念と、リーダー/フォロワーそれぞれの戦略を解説します。
この記事でわかること
- 価格決定権の概念: 誰が業界の価格水準を決めているか
- 3つのパターン: 支配型、バロメーター型、暗黙の協調型
- フォロワーの戦略: 価格リーダーにどう対応するか
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | 価格リーダーシップ |
| カテゴリ | プライシング戦略 |
| 難易度 | 中級〜上級 |
| 対象読者 | 事業企画、経営層、プライシング担当 |
「価格決定権」の概念
価格決定権(Price Leadership)とは、業界の価格水準に影響を与える力のことです。
価格リーダーとは
価格リーダーは、以下の特徴を持つ企業です。
- 価格を変えると、競合も追随する
- 市場の「基準価格」を設定している
- 顧客も「○○社の価格」を参照する
価格リーダーは最大手とは限らない
重要なのは、シェア最大の企業が必ずしも価格リーダーではないことです。
| 市場 | シェア最大 | 価格リーダー |
|---|---|---|
| スマートフォン | Samsung | Apple |
| クラウド | AWS | 各社が牽引 |
| 通信(日本) | NTTドコモ | 楽天モバイル(価格破壊者) |
価格リーダーシップの3つのパターン
価格リーダーシップには3つのパターンがあります。
| パターン | 特徴 | 代表例 |
|---|---|---|
| 支配型 | 1社がシェア圧倒、他社が追随 | Salesforce(CRM) |
| バロメーター型 | 先読み企業が価格を先導 | 航空業界の燃油サーチャージ |
| 暗黙の協調型 | 複数社が暗黙のうちに安定 | AWS / Azure / GCP |
1. 支配型(Dominant Firm Model)
最大手が価格を決め、他社が追随するパターン。
特徴
- 1社が圧倒的なシェアを持つ
- 小規模競合は価格を受け入れる
- リーダーの値上げ・値下げに市場全体が追随
例
- 石油業界: かつてのExxonMobil
- クラウドCRM: Salesforce
2. バロメーター型(Barometric Model)
市場の変化を読む企業が価格を先導するパターン。
特徴
- シェア最大ではないが、業界動向の「先読み」に優れる
- 他社が「あの会社が動いた」と参照する
- コスト変動、需要変化を価格に反映する先駆け
例
- 航空業界: 燃油サーチャージの先行導入企業
- SaaS: AI機能の価格設定を先導する企業
3. 暗黙の協調型(Tacit Collusion Model)
複数社が暗黙のうちに価格を安定させるパターン。
特徴
- 明示的な合意はない(違法ではない)
- 各社が「この価格帯」を暗黙の了解とする
- 急激な価格変動が起きにくい
例
- クラウドインフラ(AWS、Azure、GCP)
- プロジェクト管理SaaS(Asana、Monday、ClickUp)
SaaS市場における価格決定権の事例
CRM市場
リーダー: Salesforce(支配型)
SaaStrの分析によると、Salesforceは2025年に大幅な値上げを実施し、成長の72%が価格上昇によるものでした。他のCRMツールもこの動きを参照しています。
| 企業 | ポジション | 戦略 |
|---|---|---|
| Salesforce | リーダー | 高価格・高機能 |
| HubSpot | フォロワー | リーダーより20-40%安く |
| Zoho | フォロワー | 低価格路線 |
コミュニケーションツール市場
価格決定権の変遷
| 時期 | リーダー | 状況 |
|---|---|---|
| 2015年頃 | Slack | 市場を創造、価格を設定 |
| 2020年頃 | Microsoft Teams | 無料/低価格で攻勢 |
| 現在 | 均衡状態 | 各社が独自路線 |
SlackはかつてのリーダーからTeamsの攻勢を受け、価格決定権が揺らいでいます。
クラウドストレージ市場
リーダー: Google / Microsoft(価格破壊者)
Google DriveとOneDriveが無料/低価格で参入し、Dropboxの価格決定権が弱まりました。
価格決定権の変遷自社が価格決定権を持つための条件
価格リーダーになるには、以下の条件が必要です。
条件1: 差別化
競合にない価値があれば、自社の価格が「基準」になります。
例: Apple
- 「プレミアムスマートフォン」の価格を設定
- 競合はAppleの価格を参照して自社価格を決める
条件2: 市場シェア
一定以上のシェアがあれば、価格変更の影響力が大きくなります。
目安: 市場シェア20%以上が一つの基準
条件3: 顧客ロックイン
顧客が離れにくい状況を作れば、価格決定権が強まります。
ロックインの手段
- データの蓄積(CRM、分析ツール)
- 他ツールとの連携(API、インテグレーション)
- 学習コスト(専門知識が必要)
フォロワーの戦略
価格リーダーではない企業は、どう戦うべきでしょうか。
戦略1: 価格追従
リーダーの価格に合わせる戦略。
メリット
- 価格設定の手間が省ける
- 市場から逸脱しない安心感
デメリット
- 差別化ができない
- リーダーの値下げに引きずられる
戦略2: 差別化による脱却
価格以外の軸で競争する戦略。
例: Notion vs Confluence
- Confluenceが「エンタープライズ向けWiki」なら
- Notionは「オールインワンワークスペース」で別軸
戦略3: 特定セグメントへの特化
リーダーがカバーしない領域で勝負する戦略。
例: Zoho CRM
- Salesforceがエンタープライズに注力する中
- 中小企業向けに特化し、低価格で勝負
戦略4: 価格破壊
圧倒的な低価格で市場を再定義する戦略。
例: 楽天モバイル
- 大手キャリアの価格構造を破壊
- 業界全体の値下げを誘発
リスク: 体力がないと持続できない
よくある質問(FAQ)
Q1. 価格リーダーの値上げに追従すべきか?
必ずしも追従する必要はありません。自社の差別化要素、顧客層、コスト構造によって判断してください。リーダーが値上げした場合、「価格据え置き」で差別化するチャンスでもあります。
Q2. 価格破壊者が現れたらどうすべきか?
すぐに追随しないことが重要です。まず「どの顧客層を狙っているか」を分析してください。顧客層が異なるなら静観、重なるなら差別化強化または対抗が選択肢です。
Q3. 自社がフォロワーの場合、どう差別化すべきか?
3つのアプローチがあります。(1) 機能の特化(特定ユースケースで最強)、(2) サービスの差別化(サポート、オンボーディング)、(3) 価格体系の工夫(課金単位、無料枠)。
まとめ
主要ポイント
- 価格リーダーは最大手とは限らない
- 3つのパターン: 支配型、バロメーター型、暗黙の協調型
- 価格決定権には差別化、シェア、ロックインが必要
- フォロワーは追従、差別化、特化、価格破壊の選択肢がある
次のステップ
- 自社が属する市場の価格リーダーを特定する
- リーダーの価格変更履歴を分析する
- 自社のポジション(リーダー/フォロワー)を明確にする
参考リソース
価格リーダーシップ
SaaS価格動向
競合ベースプライシング完全ガイド
| 回 | タイトル |
|---|---|
| 1 | 競合ベースプライシング入門 |
| 2 | 競合の定義 |
| 3 | 競合価格の調査方法 |
| 4 | 競合ベース戦略の5パターン |
| 5 | ポジショニングと価格の単位 |
| 6 | ゲーム理論で読む競合の反応 |
| 7 | 価格決定権は誰が持っているか(この記事) |
| 8 | 競合ベースを超えて |
本記事は競合ベースプライシングシリーズの一部です。
この記事の著者

猪良 幸太郎
東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。


