ゲーム理論で読む競合の反応:価格戦争を避ける方法
AIサマリー
競合が値下げしたらどう対応すべきか。ゲーム理論の視点から、価格競争の回避策と均衡点の見つけ方を解説します。

自社が値下げしたら、競合も値下げするのか?その反応を予測できれば、価格戦略は変わります。
本記事では、ゲーム理論の視点から、競合の反応予測と価格戦争の回避策を解説します。
この記事でわかること
- プライシングとゲーム理論: 囚人のジレンマと価格競争の関係
- 競合の値下げへの対応: 追従すべきか、無視すべきか
- 価格戦争の回避策: いつ仕掛け、いつ避けるべきか
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | ゲーム理論と価格競争 |
| カテゴリ | プライシング戦略 |
| 難易度 | 中級〜上級 |
| 対象読者 | 事業企画、経営層、プライシング担当 |
プライシングとゲーム理論の基礎
価格設定は「ゲーム」です。自社の決定が競合に影響し、競合の決定が自社に影響します。
囚人のジレンマと価格競争
ゲーム理論の代表的なモデル「囚人のジレンマ」は、価格競争を理解する上で役立ちます。
囚人のジレンマ(価格版)利得表設定
- A社とB社が競合関係にある
- それぞれ「価格維持」か「値下げ」を選択
- 相手の選択によって利益が変わる
利得表(単純化した例)
| B社: 価格維持 | B社: 値下げ | |
|---|---|---|
| A社: 価格維持 | A: 100, B: 100 | A: 50, B: 120 |
| A社: 値下げ | A: 120, B: 50 | A: 70, B: 70 |
なぜ価格戦争が起きるのか
上記の表を見ると、相手が何を選んでも、自分は「値下げ」を選んだほうが有利です。
- B社が価格維持なら: 値下げで120 > 価格維持で100
- B社が値下げなら: 値下げで70 > 価格維持で50
結果、両社とも値下げを選び、両社とも利益が減る(70, 70)という結末になります。
これが価格戦争の構造です。
ナッシュ均衡と価格均衡点
ナッシュ均衡とは
ナッシュ均衡とは、「どのプレイヤーも、自分だけ戦略を変えても得にならない状態」です。
上記の例では、(値下げ, 値下げ)がナッシュ均衡です。どちらか一方が価格維持に変えても、相手が値下げを続ける限り損をします。
価格均衡の例
スマートフォン市場では、AppleとSamsungが相対的に安定した価格構造を維持しています。
| 企業 | フラッグシップ価格帯 |
|---|---|
| Apple | $999〜$1,199 |
| Samsung | $999〜$1,199 |
どちらも大幅な値下げをしない──これは一種の均衡状態です。
競合が値下げしたときの対応
競合が値下げした場合、どう対応すべきでしょうか。
値下げ対応フローチャートフレームワーク: 3つの問い
- 値下げの理由は何か?
- 自社への影響はどの程度か?
- 追従するコストと便益は?
問い1: 値下げの理由は何か?
| 理由 | 対応方針 |
|---|---|
| コスト削減による値下げ | 追従を検討 |
| 在庫処分、一時的なキャンペーン | 静観 |
| シェア獲得のための攻撃 | 戦略的対応 |
| 誤った判断(焦り) | 静観 |
McKinseyの調査によると、価格戦争の89%は意図せず始まります。競合の値下げを「攻撃」と誤解して対抗することが原因です。
問い2: 自社への影響はどの程度か?
| 影響度 | 判断基準 | 対応 |
|---|---|---|
| 高 | シェアが明確に減少 | 対応を検討 |
| 中 | 一部顧客が流出 | 監視を継続 |
| 低 | 顧客層が異なる | 静観 |
問い3: 追従するコストと便益は?
| 選択肢 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 追従(値下げ) | シェア維持 | 利益率低下、さらなる値下げを誘発 |
| 静観 | 利益率維持 | シェア喪失の可能性 |
| 差別化強化 | 価格競争から脱却 | 時間とコストがかかる |
価格戦争を仕掛けるべき時
積極的に価格戦争を仕掛けるべきケースもあります。
条件1: 体力差がある
自社が競合より資金力・コスト競争力で優位な場合、価格戦争で競合を疲弊させられます。
例: Amazon
- 薄利でも耐えられる財務体力
- 競合が撤退するまで低価格を維持
条件2: 規模の経済が働く
販売量が増えるほどコストが下がる構造なら、低価格でシェアを取ることで有利になります。
例: SaaSの限界費用
- 追加ユーザーのコストはほぼゼロ
- シェアを取れば利益率は回復可能
条件3: 市場退出を促したい
競合を市場から退出させたい場合、価格戦争は有効な手段です。
ただし、独占禁止法の「不当廉売」に抵触しないよう注意が必要です。
価格戦争を避けるべき時
逆に、価格戦争を避けるべきケースもあります。
条件1: 差別化が可能
独自の価値があるなら、価格で戦う必要はありません。
例: Superhuman
- 競合(Gmail、Outlook)より高価格
- 「速度」「UX」で差別化
条件2: 価格弾力性が低い
価格を下げても販売量が増えない市場では、値下げは無意味です。
例: エンタープライズSaaS
- 価格より信頼性、サポート、機能で選ばれる
条件3: 市場が成熟している
成熟市場で価格戦争を仕掛けても、全員が損をするだけです。
例: クラウドインフラ(AWS、Azure、GCP)
- 一定の価格下落はあるものの、急激な値下げ合戦は起きていない
- 各社が「暗黙の了解」で価格を維持
SaaSにおける「暗黙の協調」
明示的な合意がなくても、価格が安定するケースがあります。
価格透明性のパラドックス
価格が公開されていると、競合の動きがわかりやすくなります。結果として、急激な価格変動が起きにくくなる傾向があります。
例: プロジェクト管理ツール市場
| ツール | 価格帯(Pro相当) |
|---|---|
| Asana | $10.99/ユーザー/月 |
| Monday.com | $10/ユーザー/月 |
| ClickUp | $7/ユーザー/月 |
価格差はあるものの、大幅な値下げ合戦は起きていません。各社が「この価格帯」を暗黙の基準としています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 競合が不当廉売をしている場合はどうすべきか?
公正取引委員会への相談を検討してください。不当廉売(コストを下回る価格での販売)は独占禁止法違反の可能性があります。ただし、一時的なキャンペーンは不当廉売に該当しないことが多いです。
Q2. 価格戦争はどのくらい続くのか?
ケースバイケースですが、数ヶ月〜数年続くこともあります。航空業界、通信業界では長期の価格戦争が観察されています。体力のない企業から撤退・統合が始まると、終息に向かいます。
Q3. ゲーム理論を実務で使うにはどうすればいいか?
シンプルな利得表の作成から始めてください。競合の選択肢と自社の選択肢を洗い出し、各組み合わせでの利益を推定します。完璧でなくても、「構造を理解する」ことが重要です。
まとめ
主要ポイント
- 価格競争は「囚人のジレンマ」構造を持つ
- 競合の値下げには「理由」「影響」「追従コスト」で判断
- 体力差・規模の経済があれば価格戦争を仕掛ける選択肢
- 差別化可能・弾力性低・成熟市場なら価格戦争を避ける
次のステップ
- 主要競合との簡単な利得表を作成する
- 競合の過去の値下げ理由を分析する
- 自社の差別化要素を棚卸しする
参考リソース
ゲーム理論
価格戦争
競合ベースプライシング完全ガイド
| 回 | タイトル |
|---|---|
| 1 | 競合ベースプライシング入門 |
| 2 | 競合の定義 |
| 3 | 競合価格の調査方法 |
| 4 | 競合ベース戦略の5パターン |
| 5 | ポジショニングと価格の単位 |
| 6 | ゲーム理論で読む競合の反応(この記事) |
| 7 | 価格決定権は誰が持っているか |
| 8 | 競合ベースを超えて |
本記事は競合ベースプライシングシリーズの一部です。
この記事の著者

猪良 幸太郎
東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。


