ポジショニングと価格の単位:比較されにくい価格設計
AIサマリー
価格を比較する「単位」が戦略を左右する。比較されにくい価格設計と、ポジショニングマップの作り方を解説します。

「価格を比較する」とき、何と何を比較しているのか?その「単位」が戦略を左右します。
本記事では、価格比較の「単位」問題と、比較されにくい価格設計について解説します。
この記事でわかること
- 価格比較の単位問題: 機能単位、ユーザー単位、総額など
- 比較されにくい価格設計: Slack、Stripeの事例
- 価格ポジショニングマップの作り方: 自社の位置づけを可視化
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | 価格の単位とポジショニング |
| カテゴリ | プライシング戦略 |
| 難易度 | 中級 |
| 対象読者 | プロダクトマネージャー、マーケティング担当 |
価格比較の「単位」問題
「競合より高いか安いか」──その答えは、何で比較するかによって変わります。
比較の4つの単位
| 単位 | 例 | 特徴 |
|---|---|---|
| 機能単位 | 「この機能はいくら?」 | 機能の価値で比較 |
| ユーザー単位 | 「1人あたりいくら?」 | よく使われる比較 |
| プラン単位 | 「このプランはいくら?」 | パッケージで比較 |
| 総額単位 | 「年間でいくら?」 | TCO(総所有コスト)で比較 |
同じ製品でも見え方が変わる
例: 100人のチームでSaaSを導入する場合
| 製品 | ユーザー単価 | 年間総額 | 見え方 |
|---|---|---|---|
| A社 | $10/月 | $12,000 | ユーザー単価は安い |
| B社 | $15/月(50人以上のチームは全員$7.50) | $9,000 | 総額は安い |
| C社 | 定額$500/月 | $6,000 | 大人数なら最安 |
顧客がどの単位で比較するかによって、勝敗が変わります。
SaaSの価格メトリクス
SaaSで使われる主要な課金モデルを整理します。
| モデル | 代表例 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| ユーザー課金 | Salesforce、HubSpot | わかりやすい、スケールしやすい | 大人数で高額 |
| 従量課金 | Stripe、AWS | 初期コスト低い、使った分だけ | コスト予測難しい |
| 定額 | Basecamp | 予測しやすい、大人数ほど割安 | 小規模に割高 |
| ハイブリッド | HubSpot、Notion | 柔軟、特定ニーズに対応 | 複雑になりやすい |
ユーザー/シート課金
定義: 利用者1人あたりに課金
例: Salesforce、HubSpot、Notion
メリット
- わかりやすい
- スケールしやすい
デメリット
- 大人数になると高額に
- 「使っていないユーザー」にも課金
従量課金(Usage-Based)
定義: 使用量に応じて課金
例: AWS、Stripe、Twilio
メリット
- 初期コストが低い
- 使った分だけ払う
デメリット
- コスト予測が難しい
- 利用が増えると高額に
フラット料金(定額)
定義: 人数や使用量に関係なく固定
例: Basecamp($299/月、人数無制限)
メリット
- コストが予測しやすい
- 大人数ほど割安
デメリット
- 小規模チームには割高
- 収益のスケールが難しい
ハイブリッド
定義: 基本料 + 従量課金の組み合わせ
例: HubSpot、Salesforce、Notionなど(基本プラン + 追加ユーザー課金)
「比較されにくい」価格設計
競合との単純比較を避ける設計を紹介します。
Slack: アクティブユーザー課金
Slackは「14日間でメッセージを送信したユーザー」のみに課金します。
効果
- 「全ユーザー課金」の競合と単純比較できない
- 「使わない人に払わない」という顧客メリット
- 導入ハードルの低減
比較例
| 条件 | Slack | Microsoft Teams |
|---|---|---|
| 登録ユーザー | 100人 | 100人 |
| アクティブユーザー | 70人 | - |
| 月額 | $7.25 × 70 = $507 | $4 × 100 = $400 |
単純なユーザー単価では比較できません。
Stripe: 従量課金
Stripeは「決済額の2.9% + $0.30/件」で課金します。
効果
- 「月額いくら」の競合と比較しにくい
- 初期コストゼロ(売上がなければ課金なし)
- 売上に連動するため「高い」という感覚が薄い
Notion: ワークスペース課金
Notionは「チーム」単位で課金し、ゲスト招待は無料です。
効果
- 外部パートナーを招待しても追加コストなし
- 「招待するとコストが増える」競合との差別化
価格ポジショニングマップの作り方
自社と競合の位置関係を可視化する方法です。
価格ポジショニングマップステップ1: 軸を決める
2つの軸を選びます。
よく使われる軸の組み合わせ
| 縦軸 | 横軸 | 適した市場 |
|---|---|---|
| 価格 | 機能数 | SaaS全般 |
| 価格 | 使いやすさ | B2C、SMB向け |
| 価格 | カスタマイズ性 | エンタープライズ |
| 価格 | サポート品質 | サービス重視 |
ステップ2: 競合をプロットする
主要競合を軸上に配置します。
注意点
- 公開情報に基づく
- 主観を排除する
- 複数人で検証する
ステップ3: 空白地帯を見つける
「誰もいないポジション」を探します。
例: CRM市場
- 高価格×多機能: Salesforce
- 中価格×使いやすさ: HubSpot
- 低価格×シンプル: 空白?
ステップ4: 自社のポジションを決める
現在地と目指す位置を明確にします。
「比較されない」ポジションの取り方
究極の差別化は「比較されない」ことです。
カテゴリ創造
新しいカテゴリを作り、比較対象をなくす戦略。
例: Superhuman
- 「メールクライアント」ではなく「生産性ツール」
- GmailやOutlookと同列に比較されにくい
価値軸のずらし
競合と異なる軸で価値を訴求する戦略。
例: Notion
- 「ノートアプリ」の価格競争には参加しない
- 「オールインワンワークスペース」として独自ポジション
顧客セグメントの特化
特定セグメントに特化し、汎用製品と比較されにくくする。
例: Figma
- 「デザインツール」全般ではなく
- 「コラボレーティブデザイン」に特化
よくある質問(FAQ)
Q1. どの課金モデルが最も良いのか?
「最も良い」ものはありません。顧客の使い方、市場の慣習、自社のコスト構造によって最適解は異なります。SaaS Pricing Benchmark 2025によると、56%の企業が何らかの従量課金要素を取り入れています。
Q2. 複雑な価格設計は顧客に嫌われないか?
複雑すぎると嫌われます。ただし、Slackのように「顧客にもメリットがある」複雑さは受け入れられます。「計算が難しい」ではなく「公平」と感じさせることが重要です。
Q3. ポジショニングマップはどのくらいの頻度で更新すべきか?
四半期に1回が目安です。競合の大きな動き(価格変更、新製品発表)があった場合は随時更新してください。
まとめ
主要ポイント
- 価格比較の「単位」によって勝敗が変わる
- 比較されにくい価格設計で差別化できる(Slack、Stripe)
- ポジショニングマップで自社の位置を可視化する
- 究極の差別化は「比較されない」ポジションを取ること
次のステップ
- 自社の課金モデルを見直す
- 競合との比較単位を整理する
- ポジショニングマップを作成する
参考リソース
価格モデル
市場データ
競合ベースプライシング完全ガイド
| 回 | タイトル |
|---|---|
| 1 | 競合ベースプライシング入門 |
| 2 | 競合の定義 |
| 3 | 競合価格の調査方法 |
| 4 | 競合ベース戦略の5パターン |
| 5 | ポジショニングと価格の単位(この記事) |
| 6 | ゲーム理論で読む競合の反応 |
| 7 | 価格決定権は誰が持っているか |
| 8 | 競合ベースを超えて |
本記事は競合ベースプライシングシリーズの一部です。
この記事の著者

猪良 幸太郎
東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。


