Claude Code創設者Boris Cherny:「モデルに逆張りするな」──眠れなかった3ヶ月と生産性150%革命
この記事の要約
Claude Code創設者Boris ChernyがY Combinatorで語った全貌。AppleScript AGI体験から眠れない3ヶ月、「モデルに逆張りするな」のビターレッスン、Anthropic生産性150%増、Plan Mode日曜夜30分実装、「ソフトウェアエンジニアというタイトルは消える」まで。
この記事は Inside Claude Code With Its Creator Boris Cherny の内容を基に作成しています。
2024年9月のある夜、Boris ChernyはAnthropicのAPIを試していた。「何の音楽を聴いている?」とモデルに聞いた。モデルはAppleScriptを書き、Macの音楽プレイヤーを操作して答えを返した。
"That was my first I think ever feel the AGI moment where I was just like, 'Oh my god, the model—it just wants to use tools. That's all it wants.'"
「初めてAGIを感じた瞬間だった。モデルはただツールを使いたいんだ。それだけだ」
その夜から3ヶ月間、眠れなくなった。誰にも頼まれていないのに、ターミナルで動くAIコーディングツールを作り始めた。それがClaude Codeだ。
本記事の表記について
- 下線付きの用語にカーソルを合わせると解説が表示されます
- Claude CodeはAnthropicが提供するAIコーディングエージェント(CLI版)
- Y CombinatorはAirbnb・Stripe等を輩出したスタートアップアクセラレータ
この記事でわかること
- AppleScript AGI体験: Claude Code誕生の瞬間と「ツールを使いたいモデル」の発見
- 「モデルに逆張りするな」: ビターレッスンの壁ポスターとスキャフォールディング哲学
- 生産性150%増の実データ: Metaでの2%が「奇跡」だった対比
- 「ソフトウェアエンジニアというタイトルは消える」: Boris自身の予測
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 動画チャンネル | Y Combinator |
| ゲスト | Boris Cherny(Claude Code Creator & Head) |
| ホスト | YCパートナー陣 |
| カテゴリ | 開発者ガイド・AIコーディング |
| 難易度 | 中級 |
| Boris Chernyの経歴 | |
|---|---|
| 出自 | ウクライナ・オデッサ出身(祖父はソ連初期のプログラマー) |
| 学歴 | UC San Diego |
| 前職 | Meta Principal Engineer(5年間、コード品質・生産性因果分析) |
| 著書 | 『Programming TypeScript』(O'Reilly) |
| Anthropic | 2024年9月入社、Claude Code Creator & Head |
| Claude Code基本データ(2026年3月) | |
|---|---|
| ラン・レート | 推定$1B超 |
| 公開コミットシェア | 全パブリックコミットの4% |
| Anthropic社内効果 | エンジニア生産性+150% |
| コンテキスト | Opus 4.6で100万トークン |
Claude Code開発サイクル概念図「何かを掴んだ。それから3ヶ月間、眠れなかった」
Boris Chernyが語るClaude Code誕生(1)"I kind of felt like I was on to something and then that's when I wasn't sleeping."
「何かを掴んだと感じた。それから3ヶ月間、眠れなかった。2024年9月のことだ」
Boris ChernyがAnthropicに入社したのは2024年9月。その前は日本の田舎に住んでいた。Hacker NewsでClaude 2に触れ、「息を飲む感覚」でAnthropicへの転職を決意。Ben Man(Anthropic)に口説かれた。
入社後、Anthropic Labsチームに所属。同チームはClaude Code、MCP、Desktop Appという3つの製品を生み出した。だがClaude Codeは誰にも頼まれていないプロジェクトだった。
ターミナルに留まった理由:ビターレッスン
壁に額装されたRich Sutton論文
Claude Codeの開発室には、Rich Suttonの「The Bitter Lesson(苦い教訓)」が額装されて壁に飾られている。
要点はシンプルだ。「人間が設計した特殊なルールより、より汎用的なモデルのほうが常に勝つ」。
"We don't build for the model of today. We build for the model six months from now."
「今日のモデルのために作らない。6ヶ月後のモデルのために作る」
UIを作っても6ヶ月で陳腐化する。だからターミナルに留まった。エディタ統合を最小限にした。スキャフォールディング(足場)を組んでも、次のモデルで帳消しになるから。
"Never bet against the model... We could build a feature into Claude Code, or we could just wait a couple months and the model can probably just do the thing instead."
「モデルに逆張りするな。機能を実装することもできる。あるいは数ヶ月待てばモデルが代わりにできるようになる」
ビターレッスンの議論(8)スキャフォールディングの削除サイクル
"All of Claude Code has just been written and rewritten and rewritten over and over. There is no part of Claude Code that was around 6 months ago."
「Claude Code全体が何度も書き直され続けている。6ヶ月前に存在していた部分は一つもない」
数週間ごとにツールを追加し、モデルが進化したら削除する。この「追加→検証→削除」のサイクルこそがClaude Codeの設計哲学だ。
CLAUDE.mdの哲学:「肥大化したら削除して書き直せ」
ユーザーが自然にmarkdownファイルを書き始めた──それがCLAUDE.mdの起源だ。コーディング規約、アーキテクチャ決定、レビューチェックリストを書き込むコンテキスト注入ファイル。
"If you hit this my recommendation would be delete your CLAUDE.md and just start fresh... do the minimal possible thing in order to get the model on track."
「CLAUDE.mdが肥大化したら、削除してゼロから書き直すことを勧める。モデルを軌道に乗せるための最小限だけやればいい」
CLAUDE.mdとClaude Codeの比較(20)Plan Modeは日曜夜10時に30分で生まれた
ユーザーの行動を観察した
"This was like Sunday night at 10 p.m. I was just like looking at GitHub issues... I just wrote this thing in like 30 minutes and then shipped it that night. It went out Monday morning. That was Plan Mode."
「日曜の夜10時にGitHub issuesを読んでいた。30分で書いて、その夜にリリースした。月曜朝に出た。それがPlan Modeだ」
ユーザーがプロンプトに「計画してからコードを書いて」と書いていた。だから専用モードを作った。
"People will only do a thing that they already do. You can't get people to do a new thing. If people are trying to do a thing and you make it easier, that's a good idea."
「人はすでにやっていることしかしない。新しいことはさせられない。すでにやっていることをもっと簡単にするのが良い製品だ」
Plan Modeは1ヶ月後に不要になるかもしれない
"Maybe in a month. No more need for Plan Mode in a month."
モデルが進化すれば、わざわざ「計画してから実装」と分離する必要がなくなる。自分で作った機能の消滅を予告する──ビターレッスンの実践だ。
Daisyエンジニアの「ツールをテストするツール」
入社数週間後のエンジニアDaisyが出したPRが、Boris自身を驚かせた。
"She put up a PR to give Claude Code a tool so that it can test an arbitrary tool and verify that that works. And then she had Claude write its own tool instead of herself implementing it."
「彼女はClaude Codeにツールをテストするツールを持たせるPRを出した。そしてClaude自身にツールを書かせた」
AIにAIのツールをAIに書かせる──メタ再帰の実例。新しいエンジニアリングパラダイムの最も鮮明な具体例だ。
生産性150%増──Metaでの2%が「奇跡」だった
"Since Claude Code came out, productivity per engineer at Anthropic has grown 150%."
「Claude Code登場後、Anthropicのエンジニア1人当たりの生産性は150%成長した」
PR数ベースでの測定。驚くべきは対比だ。
"Back then seeing a gain of something like 2% in productivity—that was like a year of work by hundreds of people."
「以前は2%の生産性向上が、数百人の1年間の仕事だった」
Meta時代のBorisは、コードベース品質向上と生産性の因果分析を担当していた。Instagram、WhatsApp等全プロダクトのコード品質を所管し、2%の改善が奇跡だった。それが150%。
「全パブリックコミットの4%がClaude Code製」
Semi Analysisの調査によると、全パブリックコミットの4%がClaude Codeによって生成されている。NASA火星探査機Perseveranceにも活用されており、Borisが「最も誇らしい」と語った事例だ。
Claude Codeの活用状況(30)マルチエージェントと「ママClaud」
サブエージェントは「再帰的Claude Code」
「サブエージェントはただの再帰的Claude Code。Claude Codeが別のClaude Codeを起動する」
BorisはこれをチームのSlackで「ママClaud」と呼んでいる。親エージェントが子エージェントに指示を出し、子が作業を完了して報告する。
Cowork:10日でClaude Code自身が書いたGUI版
Cowork(非技術者向けのデスクトップ版)は10日間で完成した。しかも100%をClaude Code自身が書いた。Pluginsフィーチャーも週末にエージェントスウォームで完成。
「今Claude Codeが起動するエージェントの大半は、Claude Code自身が起動したサブエージェントだ」
Dario予測と現実
Dario Amodei(Anthropic CEO)は「Anthropicのコードの90%がClaudeに書かれるようになる」と予測した。Boris自身は?
「Opus 4.5以降、100%だ。IDEをアンインストールした」
「ソフトウェアエンジニアというタイトルは消える」
"I think we're going to start to see the title software engineer go away. And I think it's just going to be maybe builder, maybe product manager..."
「ソフトウェアエンジニアというタイトルは消えていく。代わりにビルダー、プロダクトマネージャーになるだろう」
全員がコードを書ける時代。重要なのは「何を作るか」であって「コードを書けるか」ではない。
バイモーダルな組織が最も有効
Borisが観察した最も生産性の高い組織形態は「超スペシャリスト vs 超ジェネラリスト」の二極化だ。中間的なスキルセットは価値が薄れる。
AnthropicとAIの安全性:「SFを大量に読んだ人間だ」
Boris自身がAnthropicを選んだ最大の理由は安全性だ。
「私はSFを大量に読む人間だ。最悪のシナリオを知っている」
DarioはASL(AI Safety Level)を定義している。現在のモデルはASL3。モデルが再帰的自己改善を始めるとASL4に移行する。Borisにとって、Claude Codeを作ることと安全性を追求することは矛盾しない──最も能力の高いモデルを安全に運用する技術を開発することが、両方を同時に達成する道だ。
よくある質問(FAQ)
Q1. Claude Codeとは?
AnthropicのAIコーディングエージェント(CLI版)。ターミナルで動作し、ファイル読み書き・コード生成・テスト実行・Git操作を自律的に行う。Boris Chernyが2024年9月に「誰にも頼まれず」作り始めた。
Q2. CLAUDE.mdとは?
セッション開始時に読み込まれるコンテキスト注入ファイル。コーディング規約・アーキテクチャ決定・レビューチェックリストを記述。推奨200行以内。肥大化したら削除して書き直す。
Q3. 「ビターレッスン」とは?
Rich Suttonの論文。「人間が設計した特殊なルールより、汎用的なモデルのほうが常に勝つ」という教訓。Claude Codeの開発室に額装されて飾られている。
Q4. Plan Modeはなくなる?
Boris自身が「1ヶ月後には不要になるかもしれない」と予告。モデルが進化すれば計画と実装を自動で分離できるようになり、専用モードは不要に。
Q5. 生産性150%増はどう測定した?
PR(Pull Request)数ベースでの測定。Anthropic社内での実績。Meta時代は2%の改善に数百人・1年かかっていた対比。
Q6. Claude Codeの競合は?
主要競合はCursor(ARR $1B超)、GitHub Copilot(470万有料ユーザー)、Windsurf。開発者の95%が週次でAIツール使用、平均2.3個のツールを併用。Claude Codeは市場シェア過半数を8ヶ月で獲得。
まとめ
主要ポイント
- 「モデルに逆張りするな」がすべて: スキャフォールディングを組んでも次のモデルで帳消し。6ヶ月前のClaude Codeのコードは一行も残っていない。ビターレッスンの実践
- 生産性革命は数字で証明されている: Anthropic社内で+150%、全パブリックコミットの4%がClaude Code製。Metaでの2%が「奇跡」だった時代との断絶
- 「ソフトウェアエンジニア」は消え、「ビルダー」が残る: Daisyの「ツールをテストするツール」、Boris自身の「IDE削除」──コードを書くことではなく、何を作るかが問われる時代
次のステップ
- 自分のCLAUDE.mdを見直す──肥大化していたら削除して最小限から書き直す
- 「スキャフォールディング vs モデル待ち」のトレードオフを自チームで議論する
- 1つの業務プロセスでClaude Codeのサブエージェント(マルチエージェント)を試す
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参考動画
この記事は以下の動画を参考に作成しました:
- Inside Claude Code With Its Creator Boris Cherny - Y Combinator
本記事はネクサフローのAI研究シリーズの一部です。
この記事の著者

中村 知良
代表取締役
早稲田大学卒業後、ソフトバンク株式会社にてAI活用やCEO直下案件のプロジェクトマネージャーに従事。その後、不動産スタートアップPit in株式会社の創業、他スタートアップでの業務改善・データ活用を経験後、2023年10月、株式会社ネクサフローを創業し代表取締役CEO就任。
