ボリュームディスカウントの設計|数量割引の価格テーブル作成方法
AIサマリー
数量割引の価格テーブル設計を実践的に解説。ティア型・累進型の違い、割引率の決め方、契約交渉での活用方法を具体例とともに紹介します。

数量割引(ボリュームディスカウント)は、大口顧客を獲得し長期契約を促進する強力な武器です。しかし設計を誤ると利益を圧迫します。
この記事でわかること
- ボリュームディスカウントの基本: ティア型と累進型の違い
- 価格テーブルの設計方法: 段階数・閾値・割引率の決め方
- 契約交渉での活用: 年間コミットメントとのセット提案
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | 数量割引の価格設計 |
| カテゴリ | ディスカウント戦略 |
| 難易度 | 初級〜中級 |
ボリュームディスカウントの全体像ボリュームディスカウントとは
数量に応じた割引の仕組み
購入数量が増えるほど単価が下がる価格構造です。
BtoBビジネスで一般的に用いられます。
目的:
- 大口顧客の獲得
- 長期契約の促進
- 競合との差別化
ティア型 vs 累進型
数量割引には2つの計算方式があります。
ティア型と累進型の違いティア型(All Units)
全数量に同じ単価を適用します。
購入数量が閾値を超えると、全体の単価が変わります。
例:
| 数量 | 単価 | 合計金額 |
|---|---|---|
| 1-10 | 1,000円 | 10,000円(10個) |
| 11-50 | 900円 | 9,900円(11個) |
| 51-100 | 800円 | 8,000円(10個の場合) |
10個と11個で合計金額が逆転する「価格の崖」が発生します。
累進型(Incremental)
各ティアの数量にそれぞれの単価を適用します。
例:
| 数量 | 単価 | 小計 |
|---|---|---|
| 1-10個目 | 1,000円 | 10,000円 |
| 11-50個目 | 900円 | 36,000円(40個分) |
| 51個目以降 | 800円 | - |
合計50個の場合: 10,000 + 36,000 = 46,000円
価格の崖が発生せず、滑らかに移行します。
推奨: 累進型の方が顧客に優しく、説明しやすいです。
価格テーブルの設計
ティアの数(段階数)
推奨: 3〜5段階
多すぎると複雑になり、少なすぎると柔軟性が失われます。
典型的な3段階構成:
- スモール: 小規模顧客・試用
- ミドル: 標準的な取引量
- エンタープライズ: 大口顧客
各ティアの閾値設定
顧客の購買パターンを分析して決定します。
分析手順:
- 過去の取引データを集計
- 数量分布のヒストグラムを作成
- 集中している数量帯を特定
- その境界線をティアの閾値に設定
例(SaaS製品):
| ティア | ユーザー数 | 割合 |
|---|---|---|
| Tier 1 | 1-10 | 60% |
| Tier 2 | 11-50 | 30% |
| Tier 3 | 51-200 | 8% |
| Tier 4 | 201+ | 2% |
60%の顧客が10名以下なので、Tier 1の上限を10に設定します。
価格テーブル設計例割引率の設計
基本原則: 段階的に割引率を上げる
急激な割引は利益を圧迫します。
推奨パターン:
| ティア | 割引率 | 単価の下げ幅 |
|---|---|---|
| Tier 1(基準) | 0% | 10,000円 |
| Tier 2 | 5-10% | 9,000-9,500円 |
| Tier 3 | 10-20% | 8,000-9,000円 |
| Tier 4 | 20-30% | 7,000-8,000円 |
Tier 4で30%を超えると利益率が急激に低下します。
注意: 粗利益率を確認しながら設定してください。
数量割引の計算例
実践的な計算表
前提:
- 基準単価: 10,000円
- 粗利益率: 40%(原価6,000円)
| ティア | 数量 | 単価 | 割引率 | 売上 | 原価 | 粗利益 | 粗利益率 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 1-10 | 10,000円 | 0% | 100,000円 | 60,000円 | 40,000円 | 40% |
| 2 | 11-50 | 9,500円 | 5% | 475,000円 | 300,000円 | 175,000円 | 37% |
| 3 | 51-100 | 9,000円 | 10% | 900,000円 | 600,000円 | 300,000円 | 33% |
| 4 | 101+ | 8,500円 | 15% | 1,275,000円(150個) | 900,000円 | 375,000円 | 29% |
Tier 4で粗利益率が29%まで低下します。
この水準が許容範囲かを確認します。
利益シミュレーション
シナリオ分析:
顧客Aが50個購入する場合
- ティア型: 50個 × 9,000円 = 450,000円
- 累進型: (10個 × 10,000円) + (40個 × 9,500円) = 480,000円
累進型の方が売上が30,000円高くなります。
ティア型を採用する場合、価格の崖対策として「50個で450,000円」と明示的に示します。
契約交渉での活用
年間契約とのセット提案
ボリュームディスカウントは年間コミットメントと組み合わせると効果的です。
提案例:
「年間1,000個のご購入をお約束いただければ、Tier 4の単価8,500円を適用します」
単発購入では到達しにくい数量でも、年間契約なら可能です。
コミットメント割引の設計
年間契約のメリット:
- 売上の予測可能性が向上
- 顧客の離脱率が低下
- 交渉の余地が生まれる
提案フレーム:
| 契約期間 | 年間数量 | 単価 | 総額 |
|---|---|---|---|
| 月次契約 | 800個 | 9,000円 | 7,200,000円 |
| 年間契約 | 1,000個 | 8,500円 | 8,500,000円 |
年間契約で300個多く購入してもらい、売上を130万円増やします。
交渉時の注意点
最低発注数量を設定する:
「Tier 4の単価は年間1,000個以上のご契約が前提です」
最低数量を明示しないと、小口顧客も同じ割引を要求します。
柔軟性を残す:
「ご予算に応じて年間契約数量を調整できます」
交渉の余地を残すことで、成約率が上がります。
注意点
過度な割引による利益圧迫
適切な割引率設計割引率を30%以上にすると、利益率が急激に低下します。
リスク:
- 粗利益率が目標を下回る
- 大口顧客に依存し、小口顧客が離脱
- 値上げが困難になる
対策:
- 粗利益率の下限を設定(例: 25%以上)
- 年間契約の場合のみ高割引を適用
- 定期的に価格テーブルを見直す
小口顧客とのバランス
大口優遇しすぎると、小口顧客が不満を持ちます。
バランスの取り方:
- Tier 1の価格を適正に設定
- 小口顧客向けに別の価値(サポート、迅速対応)を提供
- 「成長すればTier 2に移行できる」と示す
例:
「現在は月10個ですが、月15個になればTier 2の単価が適用されます」
成長インセンティブを与えます。
価格の透明性
価格テーブルを公開するか、非公開にするか。
公開のメリット:
- 営業効率が上がる
- 顧客の信頼が高まる
非公開のメリット:
- 個別交渉の余地が残る
- 競合に価格を知られない
推奨: 標準的なティアは公開、大口は個別見積もり。
よくある質問(FAQ)
Q1. ティア型と累進型、どちらを選ぶべきですか?
累進型を推奨します。
価格の崖が発生せず、顧客にとって理解しやすいです。
ティア型は「10個と11個で合計金額が逆転する」など、説明が難しくなります。
Q2. ティアの数は何段階が最適ですか?
3〜5段階が標準です。
3段階: シンプルで分かりやすい 5段階: 細かく調整できる
顧客の数量分布を分析して決定してください。
Q3. 割引率の上限はどう決めるべきですか?
粗利益率の下限から逆算します。
例: 粗利益率25%を下限とする場合、原価率75% 基準単価10,000円、原価6,000円なら、最低単価は8,000円(20%割引)
それ以上の割引は利益を圧迫します。
Q4. 既存顧客にも新しい価格テーブルを適用すべきですか?
段階的に移行します。
既存顧客への急な価格変更は反発を招きます。
移行プラン:
- 新規顧客から適用開始
- 既存顧客には6ヶ月の猶予期間
- 契約更新時に新価格を適用
事前に通知し、理解を得ます。
Q5. 競合が大幅な割引を提示してきた場合、どう対応すべきですか?
価格以外の価値を強調します。
割引競争に巻き込まれると利益が消えます。
対応策:
- サポート品質の高さ
- 納期の安定性
- 柔軟なカスタマイズ対応
「安さだけで選ぶと後悔する」と示します。
まとめ
主要ポイント
- 累進型を推奨: 価格の崖が発生せず、顧客に優しい設計
- 3〜5段階で設計: 複雑すぎず、柔軟性を持たせる
- 粗利益率を守る: 割引率の上限を設定し、利益を確保
次のステップ
- 過去の取引データを分析し、数量分布を把握する
- 3〜5段階の価格テーブルを設計する
- 年間契約とセットで提案する
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参考リソース
本記事はネクサフローのプライシング研究シリーズの一部です。


