バリューベースプライシング入門:顧客価値から価格を決める
AIサマリー
バリューベースプライシングとは顧客価値から価格を決める手法。コストベース・競合ベースとの違い、メリット・デメリット、適用条件を初学者向けに解説します。全8回シリーズの第1回。

「価格はコストの1.3倍」という決め方では利益が出ない。顧客価値から価格を決めるバリューベースとは何か。
本記事の表記について
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この記事でわかること
- バリューベースの定義: 顧客価値から価格を決める手法の基本概念
- 3大アプローチの違い: コスト・競合・バリューの比較と使い分け
- メリット・デメリット: 利益率向上の可能性と導入の課題
- シリーズ全体像: 全8回の学習ロードマップと推奨パス
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | バリューベースプライシング |
| カテゴリ | 価格戦略・プライシング |
| 難易度 | 初級 |
| 対象 | 事業企画・PM・マーケター・営業企画 |
| シリーズ | 全8回の第1回 |
バリューベース概念図バリューベースプライシングとは何か
定義:顧客が感じる価値から価格を決める
バリューベースプライシングとは、製品やサービスが顧客にもたらす価値を基準に価格を決定する手法です。コストや競合価格ではなく、顧客が感じる価値を出発点とします。
英語では「Value-Based Pricing」と呼ばれます。価格設定の起点が「自社のコスト」でも「競合の価格」でもなく、「顧客が感じる価値」にある点が特徴です。
従来の価格設定では「原価100円の製品に利益率30%を上乗せして130円」と決めていました。しかし、顧客がこの製品に200円の価値を感じているなら、130円で売るのは機会損失です。バリューベースでは、この200円を基準に価格を設定します。
WTPとEVCという考え方
バリューベースプライシングを理解する上で重要な2つの概念があります。
WTP(Willingness to Pay:支払意思額)
顧客が製品・サービスに対して支払ってもよいと考える最大金額です。顧客の価値認識を定量化した指標と言えます。
例えば、営業支援SaaSが「営業工数を月100時間削減できる」場合、顧客企業にとっての時給が3,000円なら、月間30万円の価値があります。このとき、顧客のWTPは30万円(または少し下)となります。
EVC(Economic Value to Customer:経済的顧客価値)
顧客が製品・サービスから得る経済的価値の総和です。コスト削減、売上向上、時間短縮などを金額換算したものです。
WTPとEVCの詳細は、第2回(WTP)と第4回(EVC)で解説します。本記事では「顧客価値を定量化する指標がある」という理解で十分です。
コストベース・競合ベースとの違い
3大アプローチ比較表
価格設定には3つの主要アプローチがあります。バリューベースは、コストベース・競合ベースと並ぶ第3のアプローチです。
| 項目 | コストベース | 競合ベース | バリューベース |
|---|---|---|---|
| 基準 | 製造コスト | 競合他社の価格 | 顧客価値(WTP) |
| 価格決定要素 | コスト × (1 + 利益率) | 競合価格 ± α | 顧客価値 - 価値シェア |
| 適用製品 | コモディティ、量産品 | 成熟市場、比較容易な製品 | 差別化製品、B2B、SaaS |
| メリット | 計算が簡単、最低価格保証 | 市場標準に合致、価格競争力維持 | 利益率向上、差別化強化、顧客満足度向上 |
| デメリット | 市場価値を反映しない、利益機会損失 | 差別化困難、価格競争に巻き込まれる | 測定が難しい、営業スキル要、時間・コストがかかる |
3大アプローチ比較図3大アプローチは排他的ではありません。多くの企業はコストベースで最低価格を決め、バリューベースで上限を設定するなど、併用しています。詳細は既存記事「価格設定の3大アプローチ」を参照してください。
いつバリューベースを使うべきか
バリューベースが有効な4つの条件があります。
1. 差別化ポイントが明確
競合と比較して明確な価値提供がある製品・サービスに向いています。「同じような製品」では、顧客は価格で判断するため、バリューベースは機能しません。
2. 顧客価値が定量化可能
ROI、コスト削減、売上向上などが測定できることが重要です。定量化できない価値(ブランドイメージ等)はWTPの測定が難しくなります。
3. 営業チームのスキル
価値を「語れる」営業がいることが前提です。単なる価格提示ではなく、「なぜその価格なのか」を顧客に説明できる必要があります。
4. 顧客との対話機会
B2Bなど、顧客と直接対話できるビジネスモデルが望ましいです。B2Cでも可能ですが、WTPの測定コストが高くなります。
有効な業界
以下の業界でバリューベースが成功しています。
- SaaS: Salesforce、HubSpotなど。ARR増加額から価値を算定しやすい
- B2B製造業: 産業用ロボット、工作機械など。稼働率向上による価値算定が可能
- 医療機器: 診断機器など。誤診率低下、診断時間短縮の価値が明確
- 専門サービス: 法務・会計・人材紹介など。成果報酬型の価格設定が可能
バリューベースのメリット・デメリット
メリット:利益率向上、差別化強化、顧客満足度向上
バリューベースには4つの主なメリットがあります。
1. 利益率の大幅向上
コストベースと比較して高い価格設定が可能になる場合があります。これは「市場が支える価格」ではなく、「顧客が感じる価値」を基準にするためです。
例えば、原価100万円の産業用ロボットがあるとします。コストベース(利益率30%)では130万円ですが、顧客が「年間500万円のコスト削減」を実現できるなら、200-250万円で販売できる可能性があります。
2. 差別化の強化
価格競争から価値競争へのシフトが可能です。競合との直接比較を避け、「当社の製品がもたらす価値」で勝負できます。
3. 顧客満足度の向上
顧客が「価値に見合った価格」と感じるため、価格への納得感が高まります。高額でも「この価値なら妥当」と判断されます。
4. 戦略的パートナーシップの構築
価値共創により、顧客との長期的な関係構築が可能になります。単なる売り手・買い手の関係から、価値を共に創るパートナーへと変化します。
デメリット・課題:測定の難しさ、営業スキル、市場との乖離
バリューベースには4つの主な課題があります。
1. 顧客価値の測定が難しい
WTPの調査には時間・コスト・専門知識が必要です。「顧客がいくら払うか」を正確に測定するのは簡単ではありません。
測定手法には複数の選択肢があります(PSM分析、コンジョイント分析、A/Bテスト等)。詳細は第3回「WTP測定手法」で解説します。
2. 営業チームのスキル要求が高い
価値を「語れる」営業が必要です。単なる価格提示では不十分で、「なぜその価格なのか」「どれだけの価値があるのか」を説明できる必要があります。
営業スキルの育成方法は第5回「営業チームの価値訴求スキル」で解説します。
3. 市場との乖離リスク
顧客の価値認識と市場価格が大きく乖離する場合、販売困難になります。「価値は高いが、市場価格より高すぎて買えない」という状況です。
この問題の対処法は第7回「使い分けと組み合わせ」で解説します。
4. 継続的な価値測定が必要
市場環境や顧客ニーズの変化に応じて価値を再測定する必要があります。一度測定して終わりではなく、定期的なWTP調査やフィードバックループの構築が重要です。
バランスの重要性
バリューベースは「万能」ではありません。コモディティ商品や価格競争が激しい市場では適さない場合もあります。第7回で3大アプローチの使い分けを詳しく解説します。
バリューベース導入の全体像
シリーズ全8回のロードマップ
本シリーズは全8回で、バリューベースプライシングを体系的に学べる構成です。
Phase 1: 基礎理解
- 第1回(本記事): バリューベース入門
- 第2回: WTP(支払意思額)を理解する
Phase 2: 調査手法
- 第3回: WTP測定手法(PSM、コンジョイント、実験)
- 第4回: EVC(経済的顧客価値)の測定
Phase 3: 実践
- 第5回: 営業チームの価値訴求スキル
- 第6回: 業界別バリューベース事例
Phase 4: 応用
- 第7回: 3大アプローチの使い分けと組み合わせ
- 第8回: バリューベース導入の実践ロードマップ
シリーズロードマップ図推奨学習パス
直線的な学習パス(推奨)
1→2→3→4→5→6→7→8の順序で学習してください。基礎理解から始め、調査手法、実践、応用へと段階的に進みます。
実務優先の学習パス
1→2→6(事例)→5(営業)→3(測定)→4(EVC)→7→8の順序も可能です。理論より先に事例を見たい場合は、第6回を早めに読むことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. コストベースとバリューベースは併用できますか?
はい、併用可能です。多くの企業はコストベースで最低価格を決め、バリューベースで上限を設定します。コストは「下限」、顧客価値は「上限」と考えると理解しやすいです。詳細は第8回「バリューベース導入の実践ロードマップ」で解説します。
Q2. バリューベースは中小企業でも使えますか?
使えます。むしろ大企業よりも顧客との距離が近く、価値訴求がしやすい場合もあります。ただし、営業チームが価値を「語れる」ことが重要です。第5回「営業チームの価値訴求スキル」で詳しく解説します。
Q3. WTPの測定にはどれくらいコストがかかりますか?
手法により異なります。簡易的なPSM分析なら数万円から、本格的なコンジョイント分析なら数百万円からです。第3回「WTP測定手法」で手法別のコスト・精度・所要時間を比較します。
Q4. SaaS以外の業界でも有効ですか?
有効です。コンサルティング、B2B製造業、医療機器など「顧客価値が定量化できる」ビジネスで効果的です。第6回「業界別バリューベース事例」で成功・失敗事例を紹介します。
Q5. バリューベースが「最善」の方法ですか?
いいえ、万能ではありません。コモディティ商品や価格競争が激しい市場では適さない場合もあります。第7回「3大アプローチの使い分けと組み合わせ」で、どの手法をいつ使うべきかを解説します。
まとめ
主要ポイント
- バリューベースとは顧客価値から価格を決める手法: コスト・競合価格ではなく、顧客のWTPを出発点とする
- 利益率向上と差別化が主なメリット: コストベースと比較して高い価格設定が可能になる場合がある
- 測定の難しさと営業スキルが主な課題: 時間・コスト・専門知識が必要だが、シリーズ全8回で段階的に学べる
次のステップ
- 次回記事でWTP(支払意思額)の詳細を学ぶ
- シリーズ全8回で体系的にバリューベースをマスター
関連記事
次回記事(近日公開予定)
第2回:WTP(支払意思額)を理解する
WTPの定義、測定の重要性、影響要因を詳しく解説します。
参考リソース
- Monroe, K. B. (2003). Pricing: Making Profitable Decisions (3rd ed.). McGraw-Hill.
- Nagle, T. T., & Holden, R. K. (2002). The Strategy and Tactics of Pricing (3rd ed.). Prentice Hall.
- Hinterhuber, A. (2008). Customer value-based pricing strategies. Journal of Business Strategy.
- Anderson, J. C., Narus, J. A., & Van Rossum, W. (2010). Customer Value Propositions in Business Markets. Harvard Business Review.
本記事はネクサフローのAI研究シリーズの一部です。


