顧客セグメント別価格設計|SMB・エンタープライズで異なる戦略と事例
AIサマリー
SMBとエンタープライズで価格戦略はどう変えるべきか。3-4倍の価格差、営業プロセスの違い、成功企業の価格設計事例を解説します。

エンタープライズ顧客の価格はSMBの3-4倍が一般的。しかし、解約率はSMBの8.2分の1です。
セグメントによって価格戦略を変えることで、各顧客から最大の価値を引き出せます。
本記事では、SMBとエンタープライズの価格設計の違いと、Salesforce・HubSpot・Slackなどの具体的な設計事例を解説します。
この記事でわかること
- 価格差の業界相場: SMB vs Enterprise で3-4倍の価格差
- 営業プロセスの違い: セルフサーブ vs 営業主導型
- Enterprise専用機能: SSO、監査ログ、SLAの設計
- 成功企業の事例: Salesforce、HubSpot、Slack、Zoomの価格設計
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | 顧客セグメント別の価格戦略 |
| カテゴリ | 価格戦略 |
| 難易度 | 中級〜上級 |
| 対象読者 | SaaS事業の経営者・プロダクトマネージャー |
SMB vs Enterprise 価格戦略の比較SMB vs Enterprise の価格差
価格倍率の業界相場
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 価格倍率 | SMBの3-4倍が一般的 |
| 解約率の差 | SMBはEnterpriseの8.2倍高い |
エンタープライズ顧客は信頼性と包括的サポートを重視し、SMBと比較して3-4倍の価格を支払う意思があります。
出典: Monetizely - Enterprise vs SMB Software Pricing
解約率の違い
| セグメント | 月間解約率 |
|---|---|
| SMB | 3〜7% |
| 中堅企業 | 1〜2% |
| Enterprise | 0.5〜1% |
SMBの月間解約率3-7% に対し、Enterpriseは0.5-1%。この差がLTV(顧客生涯価値)に大きく影響します。
出典: Monetizely - SaaS Pricing Benchmark 2025
価格設定スタイルの違い
| セグメント | 価格設定スタイル | 特徴 |
|---|---|---|
| SMB | 固定・透明 | 事前定義プラン、限定的なカスタマイズ、ウェブサイト定価 |
| Enterprise | 柔軟・カスタム | カスタム契約、ボリューム割引、プレミアムサポート、交渉前提 |
セグメント別営業プロセス
プロセス比較
| セグメント | 営業モデル | 成約サイクル | ACV | 購買グループ |
|---|---|---|---|---|
| SMB | セルフサーブ型 | 30-90日 | $5K未満 | 1-4人 |
| Mid-Market | 営業アシスト型 | 2-8週間 | $5K-$100K | 4-6人 |
| Enterprise | 営業主導型 | 3-12ヶ月 | $100K超 | 6-13人 |
購買者特性
SMB
- 購買者: 小規模リーダーシップチームまたはオーナー
- 意思決定: 迅速、緊急性重視
- 価格感度: 高い(定価での購入が一般的)
Enterprise
- 購買者: 調達、IT、事業部門、法務、セキュリティ、財務
- 意思決定: 複雑、長期
- 価格感度: 低い(交渉前提、ボリューム割引を要求)
営業コストの経済性
| セグメント | 経済性の考慮 |
|---|---|
| SMB | $50/月の価格では営業担当を雇う余裕なし。1人のSDR給与をカバーするには200顧客が必要 |
| Enterprise | 長期サイクル(3-12ヶ月)でも案件規模が投資を正当化 |
結論: SMBはセルフサーブ、Enterpriseは営業主導が経済的に合理的です。
主要企業の価格設計事例
Salesforce
| ティア | 価格(/ユーザー/月) | 倍率 | 対象セグメント |
|---|---|---|---|
| Starter Suite | $25 | 1.0x | SMB |
| Pro Suite | $80 | 3.2x | SMB |
| Enterprise | $175 | 7.0x | 中堅・大企業 |
| Unlimited | $350 | 14.0x | 大企業 |
| Agentforce 1 | $550 | 22.0x | 大企業 |
価格差: SMB最安値からEnterprise最高値まで22倍
戦略:
- 機能階層が明確(基本CRM → 自動化 → 無制限カスタマイゼーション)
- 2025年8月にEnterprise/Unlimitedエディションに6%の値上げ実施
出典: Cargas - Salesforce Pricing Guide 2026
HubSpot
| ティア | 価格(/月) | 倍率 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Marketing Hub Starter | $20(1,000コンタクト) | 1.0x | メール送信制限: コンタクト数×5 |
| Marketing Hub Professional | $890(2,000コンタクト、3シート) | 44.5x | 高度な自動化、初期費用$3,000 |
| Marketing Hub Enterprise | $3,600(10,000コンタクト、5シート) | 180.0x | 広範なカスタマイゼーション、初期費用$7,000 |
価格差: StarterからEnterpriseまで180倍
戦略:
- 2024年3月にシート課金制を導入、2026年までに完全移行
- コンタクト数とシート数の組み合わせで柔軟な価格設定
出典: Email Vendor Selection - HubSpot Pricing 2026
Slack
| ティア | 価格(/ユーザー/月、年払い) | 倍率 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Free | $0 | - | メッセージ90日保持 |
| Pro | $7.25 | 1.0x | 24時間ミーティング、100参加者 |
| Business+ | $15 | 2.1x | 300参加者、カスタムURL、ブランディング |
| Enterprise+ | $45 | 6.2x | 高度なセキュリティ、集中管理 |
価格差: ProからEnterprise+まで6.2倍
戦略: 2025年6月に新Enterprise+プランを導入(旧「Enterprise Grid」からリブランド)
出典: ViewExport - Slack Pricing 2026
Zoom
| ティア | 価格(/ユーザー/月) | 倍率 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| Free | $0 | - | 基本機能 |
| Pro | $13.33 | 1.0x | 24時間ミーティング、100参加者 |
| Business | $18.33 | 1.4x | 300参加者、カスタムURL |
| Enterprise | カスタム(最低250ライセンス) | カスタム | 500参加者、専任CSM |
成長実績: TTM売上$100K超の顧客数がFY2020 Q4の641社からFY2021 Q4の1,999社へ212%増加
Microsoft 365
| ティア | 価格(/ユーザー/月) | 倍率 | セグメント |
|---|---|---|---|
| Business Basic | $6 → $7(2026/7/1) | 1.0x | 最大300ユーザー |
| Business Standard | $12.50 → $14(2026/7/1) | 2.0x | 最大300ユーザー |
| Business Premium | $22 | 3.7x | 最大300ユーザー |
| Office 365 E3 | $23 → $26(2026/7/1) | 4.3x | ユーザー制限なし |
| Microsoft 365 E3 | $36 → $39(2026/7/1) | 6.0x | ユーザー制限なし |
価格差: Business BasicからE3まで6倍
戦略: Businessプランは最大300ユーザー制限、Enterpriseはユーザー制限なし
出典: Datalink Networks - Microsoft 365 Plans
Enterprise専用機能の設計
セキュリティ・コンプライアンス機能
| 機能 | 説明 | 重要性 |
|---|---|---|
| SSO/SAML | 企業のIDプロバイダー経由でユーザー管理 | 5人以上の企業のコアセキュリティ要件 |
| 監査ログ | 全変更を日時・ユーザーとともに記録 | インシデント調査、規制コンプライアンスに必須 |
| SCIM(Directory Sync) | 企業ディレクトリ(AD等)と自動同期 | セキュリティ、調達部門向け |
| エンタープライズグレード認証 | SOC 2/HIPAA/GDPR準拠 | 規制業界での必須要件 |
出典: Enterprise Ready - Single Sign On
SSO Tax問題
SSO Taxとは: SSOを下位プランでは提供せず、高額なEnterpriseプランでのみ提供する慣行。
批判: 5人以上の企業にとってSSOはコアセキュリティ要件であり、「税金」として課すべきではないという主張。
サービスレベル機能
| 機能 | 説明 | 事例 |
|---|---|---|
| SLA(稼働保証) | 99.99%稼働時間 = 年間52分34秒のダウンタイム | WorkOS: SSO等に99.99%保証 |
| 専任CSM | 専任カスタマーサクセスマネージャーによる継続サポート | Zoom Enterprise: 専任CSM + Executive Business Review |
| カスタム契約 | 複数年契約、ボリューム割引、カスタム条件 | エンタープライズは交渉を前提 |
価格透明性 vs カスタム価格
価格透明性のメリット
| メリット | 詳細 |
|---|---|
| 信頼構築 | 価格を明確に伝えると、顧客は購買決定に自信を持つ |
| コンバージョン向上 | 「営業に連絡」を要求すると摩擦が生じる |
| SMBの選好 | SMBの**54%**は透明でシンプルな価格設定を好む |
エンタープライズでの非公開価格の効果
| 項目 | 効果 |
|---|---|
| 収益効果 | 効果的なエンタープライズ価格戦略で15-30%高い収益成長 |
| Good-Better-Best効果 | 見積内で3ティアを提示すると平均取引額35%増加 |
出典: HubiFi - Enterprise Pricing Strategies
ディールデスクの効果
- 特定製品・顧客セグメントを扱うディールデスクを持つ企業は、成長目標達成確率が20-30%高い
- ディールデスクなしの割合: SMB 62%、中堅26%、Enterprise 11%
出典: Growth Unhinged - State of SaaS Pricing 2025
2026年の戦略トレンド
デュアル戦略の必要性
| セグメント | 推奨戦略 |
|---|---|
| SMB | フリクションレスなデジタルファースト販売 |
| Enterprise | コンサルティング型アカウントベースエンゲージメント |
変革のロードマップ
- SMBを自動化セルフサーブに移行: ACV $10K未満の案件で獲得・オンボーディング・拡大を自動化
- 営業をエンタープライズにシフト: 中堅/SMB担当営業を$100K以上の案件にリトレーニング
- 変革期間: 18-24ヶ月、2つのGTMを並行運用
出典: Growth with Gary - Sales to Product-Led Transformation
よくある質問(FAQ)
Q1. SMBとEnterpriseの価格差は何倍が適切ですか?
業界相場は3-4倍ですが、企業によっては22倍(Salesforce)や180倍(HubSpot)の差があります。提供する価値(機能、サポート、SLA)に応じて設計してください。
Q2. Enterprise向けにどんな専用機能を用意すべきですか?
SSO/SAML、監査ログ、SCIM、SLA(99.9%以上)、専任CSMが代表的です。規制業界の顧客にはSOC 2/HIPAA/GDPR準拠も必須です。
Q3. SMBにも営業担当をつけるべきですか?
$50/月の価格では1人のSDR給与をカバーするのに200顧客が必要です。SMBはセルフサーブ、Enterpriseは営業主導が経済的に合理的です。
Q4. Enterprise価格は公開すべきですか?
ハイブリッドアプローチが推奨されます。価格決定要因とフレームワークは透明にしつつ、具体的な見積はカスタムで提供します。Good-Better-Best形式で3ティアを提示すると取引額が35%増加します。
Q5. SMBからEnterpriseへのアップセルはどう設計すべきですか?
機能ゲーティング(Enterprise専用機能)と利用量ベースの成長トリガーを組み合わせます。チーム規模や利用量が閾値を超えたタイミングでアップセル提案を行います。
まとめ
SMB vs Enterprise 価格設計の要点
| 項目 | SMB | Enterprise |
|---|---|---|
| 価格設定 | 固定・透明 | カスタム・交渉前提 |
| 営業モデル | セルフサーブ | 営業主導型 |
| 成約サイクル | 30-90日 | 3-12ヶ月 |
| 解約率 | 3-7%/月 | 0.5-1%/月 |
| 専用機能 | 基本機能 | SSO、監査ログ、SLA、専任CSM |
次のステップ
- 自社の顧客セグメント別の解約率を分析する
- Enterprise向けの専用機能を定義する
- ディールデスクの導入を検討する
参考リソース
- Monetizely - SaaS Pricing Benchmark Study 2025
- Orb - An Expert's Guide to Enterprise Pricing
- HubiFi - Enterprise Pricing Strategies
価格体系シリーズ
本記事はネクサフローの価格体系シリーズの一部です。


