ミッドレンジ価格戦略|中間価格帯で勝つ差別化ポイント
AIサマリー
ミッドレンジ価格戦略の実践方法を解説。トヨタ、Canon、B2B SaaSの事例から、中間価格帯で勝つための差別化ポイントと、上下から攻められるリスクの回避方法を紹介します。

ミッドレンジ価格戦略は、品質と価格のバランスを重視し、中流層をターゲットにする戦略です。本記事では、トヨタ、Canon、B2B SaaSの実践例から、中間価格帯で勝つための差別化ポイントと、上下から攻められるリスクの回避方法を解説します。
本記事の表記について
- 金額の日本円換算は1ドル=150円で計算しています
- 下線付きの用語にカーソルを合わせると解説が表示されます
この記事でわかること
- ミッドレンジ戦略の定義: 他戦略(プレミアム、エコノミー、ラグジュアリー)との違いを理解
- 中間を選ぶ理由: 最大の市場規模、価格競争の回避、参入障壁の低さ
- 差別化の4つの視点: 機能、サービス、顧客セグメント、ブランドメッセージ
- リスク回避方法: 上下からの攻撃、特徴のない認識、中途半端なポジショニングを避ける
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | ミッドレンジ価格戦略 |
| カテゴリ | プライシング戦略・差別化 |
| 難易度 | 中級 |
| 対象読者 | 事業責任者、PM、経営企画、プロダクトマネージャー |
価格ポジショニングの4象限ミッドレンジ価格戦略とは
定義
ミッドレンジ価格戦略(Mid-Range Pricing Strategy) とは、品質と価格のバランスを重視し、中流層(年収500-1,000万円)をターゲットにする価格戦略です。
意図的に中間価格帯を選択し、エコノミーのような低価格競争を避けつつ、プレミアムのような高価格による参入障壁も作らない戦略です。
他戦略との違い
ミッドレンジと他戦略の比較| 戦略 | 価格帯 | ターゲット層 | 差別化の基準 | 代表例 |
|---|---|---|---|---|
| ラグジュアリー | 最高価格 | 富裕層のみ | 絶対的価値・希少性 | エルメス、ロレックス |
| プレミアム | 高価格 | 中間層~富裕層 | 相対的優位性・比較 | Apple、スターバックス |
| ミッドレンジ | 中間価格 | 中流層 | 品質と価格のバランス | トヨタ、Canon |
| エコノミー | 低価格 | 低所得層~中流層 | 圧倒的コスト優位 | UNIQLO、サイゼリヤ |
プレミアムとの主な違い:
- ミッドレンジは「バランス重視」、プレミアムは「高品質・高価格」
- ミッドレンジは中流層が中心、プレミアムは中間層~富裕層
- ミッドレンジは競合比+0-20%、プレミアムは+20-50%
エコノミーとの主な違い:
- ミッドレンジは「品質を妥協しない」、エコノミーは「低価格を最優先」
- ミッドレンジは中程度の販売数で利益確保、エコノミーは大量販売が前提
なぜ中間を選ぶのか
1. 最大の市場規模を狙う
中流層は市場で最も大きな顧客基盤です。
市場規模の比較:
| ターゲット層 | 人口比率(目安) | 市場規模 |
|---|---|---|
| 富裕層 | 1-5% | 小 |
| 中間層~富裕層 | 10-30% | 中 |
| 中流層 | 40-60% | 大 |
| 低所得層~中流層 | 50-80% | 大 |
中流層は最も購買力があり、かつ人数も多いため、市場規模が最大です。
2. 価格競争を避けつつ参入障壁を作らない
ミッドレンジ戦略は、エコノミーの価格競争とプレミアムの参入障壁の両方を避けます。
戦略的ポジショニング:
- エコノミーより高価格 → 価格競争に巻き込まれない
- プレミアムより低価格 → 幅広い顧客層にアクセス可能
- 中間価格帯 → 購入を検討しやすい価格
3. 多くのB2B SaaSがここにいる
B2B SaaS市場では、ミッドレンジ戦略が最も一般的です。
B2B SaaSのミッドレンジ例:
| サービス | 価格帯 | ポジショニング |
|---|---|---|
| Slack | $6.67-15/ユーザー/月 | 中間価格、優れたUX |
| Notion | $10-18/ユーザー/月 | 中間価格、多機能性 |
| HubSpot | $45-1,200/月 | ティアード、成長企業向け |
| Asana | $10.99-24.99/ユーザー/月 | 中間価格、プロジェクト管理 |
バリューベース価格設定を採用し、顧客が感じる「価値」に基づいて価格を設定する手法が主流です(78%のSaaS企業が採用、2023年の62%から+16%)。
出典: iPros Marketing - SaaSプライシング戦略2025
ミッドレンジで勝つ条件
1. 機能・サービスでの差別化
中間価格帯では、価格以外の差別化要素が必須です。
差別化の4つの視点:
| 視点 | 内容 | 事例 |
|---|---|---|
| 機能の充実 | 必要十分な機能を提供 | Notion(多機能ワークスペース) |
| 優れたUX | 使いやすさ・直感性 | Slack(チーム体験重視) |
| サポート体制 | 手厚いカスタマーサポート | HubSpot(無料トレーニング) |
| カスタマイズ性 | 顧客ニーズに応じた柔軟性 | Notion(テンプレート豊富) |
トヨタの差別化例:
- 品質・信頼性(故障が少ない)
- 燃費性能(ハイブリッド技術)
- リセールバリュー(中古市場で高値)
- グローバルサポート網
2. 顧客セグメントの明確化
ミッドレンジ戦略では、「誰をターゲットにするか」を明確にすることが重要です。
セグメンテーションの軸:
| 軸 | 内容 | 事例 |
|---|---|---|
| 企業規模 | 従業員数・売上規模 | Slack(成長期のスタートアップ~中堅企業) |
| 業界 | 特定業界に特化 | Salesforce(営業組織) |
| ユースケース | 特定の課題解決 | Asana(プロジェクト管理) |
| 成長段階 | スタートアップ~上場前 | HubSpot(成長企業向け) |
Canonの顧客セグメント:
- プロフェッショナル(フルサイズミラーレス)
- ハイアマチュア(APS-Cミラーレス)
- 一般消費者(エントリーモデル)
3. ティアード価格体系の活用
B2B SaaSでは、複数の価格レベルを提供するティアード価格体系が主流です。
典型的なティア構成:
| ティア | 価格帯 | ターゲット |
|---|---|---|
| Starter/Basic | 低価格 | 個人・スタートアップ |
| Professional/Plus | 中価格 | 成長期の中堅企業 |
| Business/Premium | 高価格 | エンタープライズ |
| Enterprise | カスタム | 大企業 |
業界平均:
- 公開ティア数の平均: 3.2個(Good-Better-Bestモデルが最も一般的)
- ハイブリッド価格モデル採用率: 61%(2024年の49%から+12%)
出典: Getmonetizely - SaaS Pricing Benchmark Study 2025
4. バリューベース価格設定
ミッドレンジ戦略では、顧客が感じる「価値」に基づいて価格を設定します。
バリューベース価格設定の3ステップ:
- 顧客価値の特定: 顧客がどこに価値を感じるか調査(WTP調査)
- 価格の設定: 価値に応じた価格を設定
- 価値訴求: マーケティングで価値を明確に伝える
Slackのバリューベース例:
- 価値: チームのコミュニケーション効率化、情報の一元管理
- 価格: $6.67-15/ユーザー/月(中間価格帯)
- 訴求: 「メール地獄からの解放」「情報が見つかる」
成功事例
1. トヨタ(Toyota)
戦略の特徴:
- 中間価格帯(競合比±10%以内)
- 品質・信頼性で差別化
- 幅広い車種ラインナップ
- グローバル展開
価格設定例(日本市場):
| 車種 | 価格帯 | ポジショニング |
|---|---|---|
| カローラ | 190-290万円 | 中間価格、高信頼性 |
| プリウス | 270-390万円 | 中間~やや高、ハイブリッド |
| ヤリス | 140-250万円 | 中間~やや低、コンパクト |
成功要因:
- トヨタ生産方式(TPS)によるコスト効率と品質の両立
- ハイブリッド技術による差別化
- リセールバリューの高さ(中古市場で高値維持)
- グローバルサポート網
2. Canon
戦略の特徴:
- 中間価格帯(Nikon、Sonyと同等)
- 幅広い製品ラインナップ
- プロ~一般消費者まで対応
- レンズエコシステム
価格設定例(カメラ本体):
| 製品 | 価格帯 | ターゲット |
|---|---|---|
| EOS R5 | 50万円~ | プロフェッショナル |
| EOS R6 Mark II | 35万円~ | ハイアマチュア |
| EOS R10 | 15万円~ | 一般消費者 |
成功要因:
- プロ向け~一般消費者向けまで幅広いラインナップ
- レンズエコシステムによる囲い込み
- 動画性能の強化(YouTuber需要)
- ブランド信頼性
3. B2B SaaS(Slack、Notion、HubSpot)
共通する成功パターン:
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| ティアード価格 | 3-4段階の価格設定 |
| フリーミアム | 無料版で導入障壁を下げる |
| バリューベース | 顧客価値に基づく価格設定 |
| ボトムアップ | 個人→チーム→エンタープライズ |
Slackの価格設定:
- Free: メッセージ履歴限定
- Standard: $6.67-8/ユーザー/月(約1,000-1,200円)
- Plus: $12.50-15/ユーザー/月(約1,875-2,250円)
- Enterprise Grid: カスタム価格
成功要因:
- 優れたUI・UXで継続利用を促進
- フリーミアムで導入障壁を下げる
- ボトムアップでエンタープライズに拡大
リスクと回避方法
1. 上下から攻められるリスク
ミッドレンジ戦略の最大のリスクは、エコノミーとプレミアムの両方から攻撃されることです。
上からの攻撃(プレミアム):
- プレミアムブランドが価格を下げて参入
- 「少し背伸びすればプレミアムが買える」と顧客が判断
下からの攻撃(エコノミー):
- エコノミーブランドが品質を上げて参入
- 「ほぼ同じ品質なのに安い」と顧客が判断
回避方法:
| 施策 | 内容 | 事例 |
|---|---|---|
| 差別化要素の強化 | 価格以外の明確な差別化 | トヨタ(信頼性・リセールバリュー) |
| 顧客セグメントの明確化 | 特定セグメントに特化 | Slack(成長企業のチーム向け) |
| ブランド価値の構築 | ブランドロイヤルティを醸成 | Canon(プロ~一般まで幅広く支持) |
| 継続的なイノベーション | 常に新しい価値を提供 | Notion(機能追加、テンプレート拡充) |
2. 特徴がないと認識されるリスク
中間価格帯は、「高くもなく安くもなく」という認識になりやすく、特徴がないと判断されるリスクがあります。
失敗事例: 大塚家具
大塚家具は高級志向の家具店として活動してきたが、中価格帯への路線変更で既存顧客が離れ、業績は悪化の一途をたどりました。
長年のブランディング戦略で、消費者は大塚家具に高級家具を求めていたため、中価格帯で差別化を図るのはニーズからずれていました。
出典: Shopowner Support - 失敗事例から学ぶ差別化戦略
回避方法:
| 施策 | 内容 | 事例 |
|---|---|---|
| 明確なメッセージング | 「なぜこの価格なのか」を説明 | 無印良品(「わけあって、安い。」) |
| 独自の価値提案 | 価格以外の強みを明示 | Notion(多機能ワークスペース) |
| ターゲット層の明確化 | 誰に向けた製品かを明示 | HubSpot(成長企業向け) |
3. 価格-価値のバランス崩壊
ミッドレンジ戦略では、価格と価値のバランスが崩れると顧客が離れます。
バランス崩壊のパターン:
- 価格を上げすぎる → プレミアムに移行できず、顧客離れ
- 品質を下げる → エコノミーに転落、ブランド価値低下
- 機能を削る → 顧客満足度低下
回避方法:
- 定期的な顧客調査(価格と価値の認識ギャップを測定)
- 競合比較分析(相対的なポジションを確認)
- 段階的な調整(急激な変更を避ける)
いつミッドレンジ戦略を選ぶべきか
判断基準
以下の条件を満たす場合、ミッドレンジ戦略が有効です。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 1. 最大市場狙い | 中流層が市場の中心で、規模が大きい |
| 2. 価格競争回避 | エコノミーの価格競争を避けたい |
| 3. 参入障壁低減 | プレミアムの高価格による参入障壁を避けたい |
| 4. 差別化可能 | 価格以外の差別化要素がある |
| 5. バランス重視 | 品質と価格のバランスを求める顧客層が存在 |
チェックリスト
ミッドレンジ戦略の導入前に、以下をチェックしてください。
市場・顧客:
- ターゲット市場の中心が中流層である
- 価格と品質のバランスを求める顧客層が明確に存在
- 市場規模が十分に大きい
製品・サービス:
- 価格以外の明確な差別化要素がある
- 必要十分な機能・品質を提供できる
- 継続的な改善・イノベーションが可能
組織・体制:
- コスト効率と品質の両立ができる
- 顧客セグメントを明確にできる
- ブランド価値を構築・維持できる
よくある質問(FAQ)
Q1. ミッドレンジ戦略とプレミアム戦略の違いは何ですか?
ミッドレンジは「品質と価格のバランス」、プレミアムは「高品質・高価格」です。
ミッドレンジは中流層が中心、プレミアムは中間層~富裕層をターゲットにします。価格差は、ミッドレンジが競合比+0-20%、プレミアムが+20-50%です。
Q2. トヨタはミッドレンジ戦略ですか、それともプレミアム戦略ですか?
トヨタはミッドレンジ戦略が中心ですが、レクサスブランドでプレミアム戦略も採用しています。
トヨタブランドは中間価格帯で品質・信頼性を訴求し、レクサスは高価格帯でラグジュアリー性を訴求しています。
Q3. B2B SaaSでミッドレンジ戦略が主流な理由は何ですか?
最大の市場規模(成長企業)をターゲットにできるためです。
スタートアップ~上場前の成長企業は、エコノミーの低機能では不十分、プレミアムの高価格は予算オーバーとなることが多く、ミッドレンジが最適です。
Q4. ミッドレンジ戦略で最も重要な差別化要素は何ですか?
顧客セグメントの明確化と、そのセグメントに特化した価値提供です。
「誰に向けた製品か」を明確にし、そのセグメントが最も価値を感じる要素(機能、UX、サポート等)に投資することが重要です。
Q5. ミッドレンジ戦略から抜け出すことはできますか?
可能ですが、ブランドイメージの変更は困難です。
大塚家具は高級志向から中価格帯への路線変更で失敗しました。移行する場合は、別ブランド・別商品ラインで展開することが推奨されます(例: トヨタ → レクサス)。
Q6. ミッドレンジ戦略で高い利益率を確保できますか?
可能ですが、コスト効率と品質の両立が前提です。
トヨタはトヨタ生産方式(TPS)により、コスト効率と品質を両立し、高い利益率を確保しています。B2B SaaSでは、バリューベース価格設定で高い粗利益率を実現しています。
Q7. ティアード価格体系は何段階が最適ですか?
業界平均は3.2個(Good-Better-Bestモデル)が最も一般的です。
各ティアに明確な価値の差を設けることが重要です。フリーミアムを提供する場合、無料版でも十分な価値を提供し、有料版へのアップグレード動機を明確にします。
出典: Getmonetizely - SaaS Pricing Benchmark Study 2025
Q8. ミッドレンジ戦略で上下から攻められた場合の対策は?
差別化要素の強化とブランドロイヤルティの醸成です。
価格以外の明確な差別化(機能、UX、サポート、ブランド)を持ち、顧客ロイヤルティを高めることで、価格競争から脱却します。
Q9. スタートアップでもミッドレンジ戦略は採用できますか?
採用可能で、B2B SaaSでは最も一般的です。
Slack、Notion、HubSpotなどはミッドレンジ戦略で成功しています。差別化された価値提供、優れたUX、フリーミアムによる導入障壁の低下が成功の鍵です。
Q10. ミッドレンジ戦略で最も重要な要素は何ですか?
顧客セグメントの明確化です。
「誰をターゲットにするか」を明確にし、そのセグメントに特化した価値提供を行うことが最重要です。中途半端なポジショニングでは、特徴がないと認識され、上下から攻撃されます。
まとめ
主要ポイント
- ミッドレンジ戦略の本質: 品質と価格のバランスを重視し、中流層をターゲットにする
- 中間を選ぶ理由: 最大の市場規模、価格競争の回避、参入障壁の低さ
- 差別化の4つの視点: 機能、サービス、顧客セグメント、ブランドメッセージ
- 成功事例: トヨタ(信頼性・リセールバリュー)、Canon(幅広いラインナップ)、B2B SaaS(ティアード価格)
- 回避すべきリスク: 上下からの攻撃、特徴のない認識、価格-価値のバランス崩壊
次のステップ
- 自社のターゲット顧客セグメントを明確にする
- 価格以外の差別化要素を特定する
- 競合との価格比較分析を実施する
- ティアード価格体系の設計を検討する(B2B SaaSの場合)
- 顧客調査で価格と価値の認識ギャップを測定する
関連記事
参考リソース
- iPros Marketing - SaaSプライシング戦略2025
- Getmonetizely - SaaS Pricing Benchmark Study 2025
- Shopowner Support - 失敗事例から学ぶ差別化戦略
- Stripe - Software Pricing Models and Strategies
- Cambridge - Porter's Generic Competitive Strategies
本記事はネクサフローのプライシング研究シリーズの一部です。


