Good-Better-Best価格戦略:中間プラン60%選択の心理原則
AIサマリー
なぜStarbucksはサイズ変更で収益3.7%増を達成したのか。Good-Better-Best価格戦略の心理メカニズムと実装方法を解説します。

1990年代半ば、Starbucksはメニュー構成を変更しました。ShortサイズをメニューFrom削除し、Ventiを追加。結果、収益が3.7%増加しました。売れるサイズは常に「中間」。この原理を体系化したのがGood-Better-Best価格戦略です。
本記事の表記について
- 金額の日本円換算は1ドル=150円で計算しています
- 下線付きの用語にカーソルを合わせると解説が表示されます
この記事でわかること
- Good-Better-Best価格戦略とは: 3段階価格設定で中間プラン選択率60-70%を達成する手法
- 心理メカニズム: 妥協効果と極端回避性がどう働くか
- 設計原則: 最適価格比率1.6.5と機能配分のルール
- 実装方法: B2C/B2B別のベストプラクティスと失敗パターン
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 戦略名 | Good-Better-Best Pricing(松竹梅プラン) |
| 理論的基盤 | Simonson & Tversky(1992) |
| 採用率 | 成功スタートアップの41.4% |
| 収益影響 | 11-30%増加(価格最適化により) |
Good-Better-Best価格戦略とは
定義
製品やサービスを3つの価格帯・機能レベルで提供する価格戦略です。基本版(Good)、標準版(Better)、上位版(Best)の3段階を設定し、顧客に選択肢を提供することで、中間プランの選択率を高め収益を最大化します。
3段階価格の基本構造日本の松竹梅との関係
日本では「松竹梅(しょうちくばい)」として江戸時代から存在しました。
- 松(Matsu): 最高級
- 竹(Take): 中級
- 梅(Ume): 標準
江戸時代の商人が、顧客が「標準」を気兼ねなく注文できるように考案したシステムです。面子を保ちながら手頃な選択肢を選べる文化的配慮が背景にあります。
なぜ効くのか:心理メカニズム
妥協効果(Compromise Effect)
選択肢が中間的な位置になることで魅力が増す心理現象です。極端な選択肢を避け、バランスの取れた「安全な」中間を選ぶ傾向があります。
研究の根拠:
- Simonson & Tversky(1992)の論文"Choice in Context"で理論的基盤を確立
- 中間オプションは他のオプションより有意に高い頻度で選択される
極端回避性(Extremeness Aversion)
選択肢の魅力は、それが中間オプションである場合に増し、極端なオプションである場合に減少する行動現象です。3つの選択肢を提示されると、中間オプションが「極端すぎない」「リスクが低い」「ちょうど良い」と認識されます。
選択のパラドックス回避
選択肢が多すぎると意思決定が困難になり、購入行動が減少します。有名なジャム実験では:
- 24種類のジャム: 購入率3%
- 6種類のジャム: 購入率30%
3-4つの選択肢は「選びやすさ」と「十分な選択肢」のバランスが最適です。Forrester Researchによると、3つの価格ティアを提供する企業の64%がバイヤーに好まれます。
設計原則
最適なティア数
推奨: 3〜4つ
成功したスタートアップの41.4%がちょうど3つのプランを使用しています。5つ以上の選択肢はコンバージョン率を急低下させます。
価格比率の推奨
推奨比率: 1 : 1.6 : 2.5
例: Basicが$100(約15,000円)の場合、Standard $160(約24,000円)、Premium $250(約37,500円)
価格設定フロー知覚価値ルール: ティア間の知覚価値の差は、価格差の2〜3倍であるべき(Madhavan Ramanujam、価格戦略専門家)
機能の差別化
各ティアの機能差を明確にし、アップグレードの価値を視覚的に伝える必要があります。
ベストプラクティス:
- 中間プランに「成長企業の80%が必要とする機能」を配置
- 最上位プランには「大企業向け機能」を配置
- 機能制限(ユーザー数、ストレージ容量)で差別化
成功事例
Panasonic(電子レンジ、1992年)
背景: 市場シェアが43%で停滞
戦略: 2サイズ($109.99 / $179.99)から3サイズに拡大。最上位$199.99を追加
結果:
- 最上位モデルが新しい顧客層を獲得
- $179.99モデルの売上が増加(中間オプションとしての魅力向上)
Starbucks(コーヒーサイズ)
変更前: Short / Tall / Grande → ほとんどの顧客がTallを注文
戦略: メニューからShortを削除し、Ventiを追加
変更後: Tall / Grande / Venti → Grandeが新しい中間オプションに
心理メカニズム:
- 妥協効果: Grandeが新しい中間オプションに
- デコイ効果: Ventiの価格をGrandeに近づけることで、Tallが魅力を失う
- 収益向上: 顧客が大サイズを選ぶことで、わずかな原価増で収益が3.7%増加
重要な洞察: 最も売れるサイズは常に「中間」。メニュー構成を変えることで、顧客を高収益サイズに誘導できます。
航空会社(エコノミー / ビジネス / ファースト)
収益貢献:
- ビジネスクラス: 20.1%(IATA)
- ファーストクラス: 6.7%(IATA)
- プレミアム合計: 26.8%
重要: プレミアムクラスは座席数の半分未満ですが、収益の50%以上を生み出しています。
価格差: ビジネスクラスはエコノミーより平均250%高い(3〜5倍の価格)
実装のベストプラクティス
B2C vs B2B
| 項目 | B2C | B2B |
|---|---|---|
| 意思決定速度 | 高速(数分〜数時間) | 低速(数週間〜数ヶ月) |
| 価格感度 | 高い | ROIとビジネス成果重視 |
| 推奨構造 | Basic / Premium / Ultimate | Starter / Growth / Enterprise |
| 強調ポイント | 即座の価値提案、感情的ベネフィット | ビジネスインパクト、統合、サポート |
| 典型的価格 | 月額$9.99 / $19.99 / $39.99 | 月額$49 / $199 / $499 |
価格ページデザイン
視覚的階層:
- 大きさ、色、余白で重要な要素を強調
- 中間ティアをソフトに強調(淡い背景色、「Most Popular」バッジ)
- 機能リストは重要機能を上部に、箇条書きで明確に
効果: 「Most Popular」バッジにより、中間ティア選択率が12-15%増加します。
注意: 強調が第一印象になると強すぎます。第二印象で気づく程度が理想です。
失敗パターンと注意点
選択肢が多すぎる
問題: 5つ以上の価格ティアは選択麻痺を引き起こし、コンバージョン率を急低下させます。
推奨: 3-4つのティアに制限
価格差が不適切
パターン1(小さすぎる): Basic $10、Pro $12、Enterprise $14 → ほぼ全員がEnterpriseを選択
パターン2(大きすぎる): Basic $10、Pro $50、Enterprise $100 → 最安ティアに集中
アップグレード速度の問題
遅すぎる(12ヶ月以上): ティア間の機能差または価格差が大きすぎる
速すぎる(30日未満): エントリーティアの価格が安すぎる、または機能が不足
理想: 3〜9ヶ月
2026年のトレンド
ハイブリッド価格(Hybrid Pricing)
モデル: 固定プラットフォーム料金 + 従量課金コンポーネント
採用率: 43%が現在採用、61%が年末までに採用予定
利点:
- 予測可能性(固定費)
- 成長と共に収益拡大(従量課金)
- 顧客の使用量に応じた公平な価格
例: 基本プラン$49/月 + APIコール1,000件ごとに$5
よくある質問(FAQ)
Q1. Good-Better-Bestは全ての製品に適用できますか?
全ての製品に適用できるわけではありません。低価格商品(軽自動車、コンパクトカー)では妥協効果が現れますが、高付加価値商品(SUV、ミニバン)では現れない研究結果があります。製品特性によって妥協効果の強さが異なります。
Q2. 中間ティアの選択率が60-70%に達しない場合、どうすればよいですか?
以下を確認してください:
- ティア間の機能差が明確か
- 価格比率が1.6.5に近いか
- 中間ティアに「成長企業に必須の機能」が配置されているか
- 価格ページで中間ティアをソフトに強調しているか
Q3. B2B SaaSで「お問い合わせ」プランを設定すべきですか?
はい。最上位プランを「お問い合わせ」にすることで、大企業向けにカスタマイズした価格を提示できます。ただし、標準の3ティアは明確な価格を表示し、「お問い合わせ」は4つ目のオプションとして追加するのがベストです。
Q4. 価格を定期的に変更すると顧客に嫌われませんか?
価値を追加してから価格を調整すれば問題ありません。単なる値上げは避けてください。定期的に価格ティアをテストする企業は、静的価格の企業より30%高い収益成長を達成しています。
Q5. 日本の松竹梅と欧米のGood-Better-Bestに違いはありますか?
心理メカニズム(妥協効果)は文化を超えて機能します。ただし、表現方法は文化に応じて調整すべきです。日本では「面子を保つ配慮」が重要で、中間プランが「標準」として認識されます。欧米では「バリューフォーマネー」が重視され、中間プランが「推奨」として提示されます。
まとめ
主要ポイント
- 理想的な中間ティア選択率: 60-70%。これにより収益を11-30%増加できます
- 推奨価格比率: 1 : 1.6 : 2.5。知覚価値の差は価格差の2-3倍であるべき
- 最適ティア数: 3-4つ。5つ以上は選択麻痺を引き起こします
- 心理メカニズム: 妥協効果、極端回避性、選択のパラドックス回避を活用
次のステップ
- 現在の価格構造を1.6.5の比率で見直す
- 中間ティアに「成長企業の80%が必要とする機能」を配置する
- 価格ページで中間ティアをソフトに強調する(「Most Popular」バッジ)
- A/Bテストで各ティアのコンバージョン率を追跡する
参考リソース
- Choice in Context: Tradeoff Contrast and Extremeness Aversion - Simonson & Tversky (1992) - Stanford GSB
- Good-Better-Best pricing strategy - Minderest
- Enterprise vs SMB Software Pricing - Monetizely
- Pricing Table Best Practices - HTML Burger
本記事はネクサフローのビジネス戦略シリーズの一部です。


