Epic Games「無料配布」戦略:ユーザー獲得コストの計算式
AIサマリー
Epic Games Storeは毎週ゲームを無料配布しています。累計5億本以上、ユーザー獲得コストは1人あたり0.5-5ドル。この戦略のROIを分析します。

Epic Games Storeは、毎週1本以上のゲームを無料で配布しています。
2024年だけで2,229ドル相当のゲームを無料提供し、2,500万人の新規ユーザーを獲得しました。なぜEpicは「タダでゲームを配る」ことができるのでしょうか。
本記事では、Epic Gamesの無料配布戦略のROI(投資対効果)を計算し、この戦略の本質を分析します。
この記事でわかること
- 配布実績: 累計配布本数とユーザー獲得数
- コスト構造: 開発者への支払いと獲得コスト
- ROI分析: なぜこの戦略が成立するのか
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | Epic Games Storeの無料配布戦略 |
| カテゴリ | プライシング戦略、ユーザー獲得 |
| 難易度 | 中級 |
| 対象読者 | プラットフォーム事業者、マーケティング担当 |
Epic Games Storeの概要
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開始 | 2018年12月 |
| 運営 | Epic Games(Fortnite、Unreal Engineの開発元) |
| 手数料 | 12%(Steamの30%に対抗) |
| 特徴 | 毎週の無料ゲーム配布 |
競合との比較
| プラットフォーム | 手数料 | 月間アクティブユーザー |
|---|---|---|
| Steam | 30%(〜20%) | 1億3,200万人 |
| Epic Games Store | 12% | 非公開(推定6,800万人) |
| GOG | 30% | 非公開 |
Epicは「開発者に優しい手数料」と「無料ゲーム」の2つの武器でSteamに挑戦しています。
無料配布の実績
2024年の配布実績
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 配布ゲームの総価値 | 2,229ドル相当 |
| 新規ユーザー獲得数 | 2,500万人 |
| Epic全体のアカウント数 | 8億9,800万(クロスプラットフォーム含む) |
出典: TechRadar
累計実績(2018-2023年)
| 年 | 配布価値 | 請求本数 |
|---|---|---|
| 2019年 | 1,455ドル | 非公開 |
| 2020年 | 2,407ドル | 7.49億本 |
| 2021年 | 非公開 | 非公開 |
| 2022年 | 2,120ドル | 非公開 |
| 2023年 | 2,055ドル | 5.86億本 |
出典: Statista
印象的な配布事例
| ゲーム | 配布時期 | 新規ユーザー獲得 |
|---|---|---|
| GTA V | 2020年5月 | 700万人以上 |
| Star Wars Battlefront II | 2021年1月 | 1,900万人以上 |
| Control | 2021年6月 | 非公開 |
| Civilization VI | 2020年5月 | 非公開 |
GTA V配布時: サーバーが一時ダウンするほどのアクセス。この1回の配布だけで700万人以上の新規ユーザーを獲得しました。
ユーザー獲得コストの計算
Epic vs Apple裁判(2021年)で、Epicの内部データが公開されました。
Epic vs Apple裁判で判明したデータ
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 開発者への支払い(1タイトルあたり) | $100,000〜$1,000,000 |
| 1タイトルで獲得するユーザー数 | 約10万人〜数百万人 |
| ユーザー獲得コスト(CPA) | $0.50〜$5.00/人 |
出典: Kotaku
業界平均との比較
| 獲得手法 | CPA(1人あたりコスト) |
|---|---|
| Epic無料配布 | $0.50〜$5.00 |
| モバイルゲーム広告 | $2.00〜$10.00 |
| PC/コンソールゲーム広告 | $10.00〜$30.00 |
| インフルエンサーマーケティング | $5.00〜$20.00 |
ポイント: Epicの無料配布は、従来のマーケティング手法と比較して非常に低コストでユーザーを獲得しています。
ROI(投資対効果)の分析
なぜ無料配布が「投資」として成立するのか
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 直接コスト | 開発者へのライセンス料($100K〜$1M) |
| 獲得ユーザー | 数万〜数百万人 |
| LTV(顧客生涯価値) | 将来の購入、Fortnite課金etc |
LTVの構成要素
Epic Games Storeで獲得したユーザーは、以下の形で収益に貢献します。
| 収益源 | 内容 |
|---|---|
| ゲーム購入 | Epic Store手数料12% |
| Fortnite課金 | バトルパス、V-Bucks |
| Unreal Engine | ゲーム開発者からのロイヤリティ |
| Epic Gamesの評価額向上 | 投資家へのアピール |
ROI計算の例
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| GTA V配布のコスト(推定) | $1,000万〜$2,000万 |
| 獲得ユーザー | 700万人 |
| CPA | $1.43〜$2.86/人 |
| 仮にユーザーの10%が$20購入 | 700万人 × 10% × $20 × 12% = 約$168万 |
結論: 1回の大型配布のコストは、将来の購入収益でほぼ回収可能。さらにFortniteへの誘導、ブランド認知向上などの間接効果もあります。
Steamとの競争戦略
Steamの優位性
| 要素 | Steam | Epic |
|---|---|---|
| ライブラリ数 | 5万本以上 | 数千本 |
| ユーザーレビュー | あり | なし |
| コミュニティ機能 | 充実 | 限定的 |
| ワークショップ(MOD) | あり | なし |
| 実績システム | あり | あり |
Epicの差別化戦略
| 戦略 | 内容 |
|---|---|
| 低手数料 | 12% vs Steamの30% |
| 独占タイトル | 期間限定でEpic専売 |
| 無料配布 | 毎週のゲーム配布 |
| 開発者支援 | Epic Games grants、MegaGrants |
独占契約の事例
| タイトル | 独占期間 | 結果 |
|---|---|---|
| Borderlands 3 | 6ヶ月 | Steam解禁後も好調 |
| Metro Exodus | 1年 | 批判も多かったが成功 |
| Control | 1年 | 後に無料配布 |
批判: 一部のユーザーは独占契約を「ユーザー軽視」と批判しています。しかし、開発者にとっては「確定収入 + 高い手数料還元」が魅力です。
財務状況と持続可能性
Epic vs Apple裁判で判明した財務データ
| 期間 | 累計損失 |
|---|---|
| 2019-2020年 | 約4億ドル(約600億円) |
Appleの主張: Epic Games Storeは赤字事業であり、開発者への最低保証金、独占契約、無料配布のコストが収益を上回っている。
Epicの反論: これは「市場シェア獲得のための先行投資」であり、長期的には回収可能。
資金源:Fortniteの収益
| 年 | Fortnite推定収益 |
|---|---|
| 2018年 | 24億ドル |
| 2019年 | 18億ドル |
| 2020年 | 51億ドル |
| 2021年 | 58億ドル |
Fortniteの収益がEpic Games Storeの赤字を補填しています。これは、Amazonが「Prime Videoの赤字をECで補填」しているのと同じ構造です。
「無料」の心理学
なぜ無料配布がユーザー獲得に効果的なのでしょうか。
1. ゼロ価格効果(Zero Price Effect)
人は「無料」に対して非合理的に強い反応を示します。
| 価格 | ユーザー反応 |
|---|---|
| $60 | 「高い、検討する」 |
| $30 | 「セールか、考える」 |
| $0 | 「無料なら取っておこう」 |
行動経済学の知見: ダン・アリエリーの研究によると、$0.01と$0.00の違いは、$0.01と$1.00の違いより大きく感じられます。
2. 損失回避(Loss Aversion)
「今週だけ無料」という限定性が、「取り逃すと損」という心理を刺激します。
| 状況 | ユーザー心理 |
|---|---|
| 常時無料 | 「いつでも取れる」 |
| 期間限定無料 | 「今取らないと損」 |
3. 一貫性の原理(Commitment and Consistency)
一度Epic Storeでゲームを「所有」すると、その後も同じプラットフォームを使い続ける傾向があります。
| ステップ | 効果 |
|---|---|
| 無料ゲームを取得 | Epicアカウント作成 |
| ライブラリにゲームが増える | 「ここに資産がある」感覚 |
| 次のゲーム購入 | Epicで買う確率が上昇 |
よくある質問(FAQ)
Q1. Epic Storeは開発者にいくら払っているのか?
裁判で明らかになった範囲では、1タイトルあたり$100,000〜$1,000,000です。大型タイトル(GTA Vなど)はさらに高額と推測されます。
支払い形態は「バイアウト(買い切り)」で、配布後の売上に関係なく、開発者は確定収入を得られます。
Q2. 無料で取ったゲームは本当に遊ばれるのか?
データによると、無料取得ゲームのプレイ率は低いです。しかし、Epicの目的は「プレイしてもらうこと」ではなく「アカウントを作ってもらうこと」です。
アカウントを作れば、将来のマーケティング対象になります。
Q3. この戦略は他社も真似できるか?
資金力があれば可能ですが、持続は困難です。
| 企業 | 状況 |
|---|---|
| Amazon | Prime Gamingで毎月無料ゲーム提供(規模は小さい) |
| GOG | 時折無料配布(頻度は低い) |
| Humble Bundle | チャリティバンドル(異なるモデル) |
Epicはそれを続けられる資金(Fortnite収益)があるため、競合には真似しにくい戦略です。
Q4. Epic Storeは黒字化するのか?
現時点では不明です。Epicは「2027年までに黒字化」を目標にしていると報道されていますが、公式発表はありません。
無料配布の頻度や規模を維持しながら黒字化するのは困難であり、戦略の転換が必要になる可能性があります。
まとめ
主要ポイント
- 低コスト獲得: ユーザー獲得コストは$0.50〜$5.00/人
- LTV回収: 将来の購入、Fortnite課金で投資回収
- 持続可能性: Fortniteの収益が赤字を補填する構造
次のステップ
- 自社のユーザー獲得コスト(CPA)を計算する
- 「無料」を活用した獲得施策を検討する
- LTV(顧客生涯価値)を最大化する戦略を設計する
参考リソース
Epic Games公式
分析記事
- Kotaku - Here's What Epic Paid To Give Away All Those 'Free' Games
- TechRadar - Epic Games Store 2024 Statistics
- Accio - Epic Games Free Model
デジタルエンタメプライシング シリーズ
概念を理解する
モデル別に深掘り
事例から学ぶ
本記事はデジタルエンタメプライシングシリーズの一部です。
この記事の著者

猪良 幸太郎
東京理科大学卒業後、国内独立系コンサルティングファームに入社し、IT・業務コンサルタント兼マネージャーとして業務最適化やシステム導入プロジェクトを経験。その後プライシングスタジオに入社し、執行役員兼ビジネス本部長として顧客のプライシング変革支援をリードする傍ら、自社の新規事業立ち上げの推進にも従事。


