価格調査の質問設計|直接質問と間接質問の使い分け
AIサマリー
直接質問法(Gabor-Granger、Open-ended WTP)と間接質問法(PSM、コンジョイント分析)の違いを解説。製品特性と調査目的に応じた最適な手法を選ぶフレームワークを提示します。

価格調査の質問設計は、調査結果の信頼性を左右する重要な要素です。本記事では、直接質問法と間接質問法の違いを解説し、製品特性と調査目的に応じた最適な手法選択のフレームワークを示します。
この記事でわかること
- 直接質問法と間接質問法の定義: 両者の違いと使い分けの基準
- 各手法の特徴: メリット・デメリット、適用場面、実装コスト
- 手法選択フレームワーク: 製品・予算・目的に応じた最適手法の選び方
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | 価格調査の質問設計 |
| カテゴリ | プライシング手法 |
| 難易度 | 中級 |
| 想定時間 | 直接法3-10分、間接法15-30分(回答) |
比較図直接質問法とは
直接質問法は、製品説明の後に「いくら払いますか?」と直接価格を尋ねる方法です。顧客が競合製品や他の価格情報を持たない状況で、単独の製品に対する支払い意思額を表現します。
主な手法
シンプルで低コスト、短時間で実施可能という特徴があります。
| 手法 | 特徴 | 回答時間 | 分析難度 |
|---|---|---|---|
| Open-ended WTP質問 | 自由形式で金額を入力 | 3-5分 | 高い |
| Gabor-Granger法 | 順応的に価格を調整し購買意欲を測定 | 3-5分 | 低い |
| BDM(Becker-DeGroot-Marschak)メカニズム | 実際のインセンティブと結びつく | 10分以上 | 低い |
間接質問法とは
間接質問法は、競合製品と価格を含む現実的なシナリオを提示し、選択や比較を通じて支払い意思額を推測する方法です。「このプロダクトを買いますか?」ではなく「AとB、どちらを選びますか?」という選択を通じて価値を測定します。
主な手法
成熟市場や複雑な購買環境に適しており、実際の選択行動に近い測定が可能です。
| 手法 | 特徴 | 回答時間 | 分析難度 |
|---|---|---|---|
| Van Westendorp PSM | 4つの質問で心理的価格帯を間接測定 | 5分 | 中程度 |
| コンジョイント分析(Conjoint) | 複数属性の価値を分解し市場シミュレーション | 20-30分 | 非常に高い |
| BPTO(Brand Price Trade-Off) | ブランドと価格の相互作用を測定 | 15-20分 | 中程度 |
| 離散選択分析(Discrete Choice) | 実際の選択シーンを再現 | 20-30分 | 非常に高い |
直接質問法の詳細
Gabor-Granger法
André GaborとClive Grangerが1960年代に開発した手法です。複数の価格ポイントを順序立てて提示し、各価格での購買意欲を測定します。
実施手順
- スクリーニング質問: 任意の価格で購入意欲があるか確認
- 初期価格の提示: 想定される許容価格の中点から開始
- 順応的価格調整: 前の回答に基づいて次の価格を上下
- 複数反復: 数回〜十数回の質問で最大WTPに収束
質問形式: 「この製品が$99で販売されていれば、購入しますか?」→Yes/No
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 購買意欲を直接測定 | 価格順序バイアス(上昇 vs 下降) |
| 単純で直感的 | 一貫性バイアス(前の回答に影響される) |
| 200人以上の回答者で信頼性が高い | 新製品には不適切(購買経験なし) |
| 低コスト | 複雑な機能を反映しにくい |
| 需要曲線を生成 | - |
適用場面: 購買確率の推定が目的、複雑な製品(ROI訴求可能)、B2B製品
推奨サンプル数: 最低200人
Open-ended WTP質問
顧客に自由形式で「いくらなら購入しますか?」と尋ねる方法です。
質問形式: 「この製品にいくら支払いますか?」→テキストボックスで金額入力
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 実装が簡単で低コスト | 回答が主観的で分析が難しい |
| 顧客の率直な期待が得られる | テキスト分析が必要 |
| 複雑な機能を持つ製品に対応可能 | 新製品の場合、回答が困難 |
| - | 閉じた質問より精度が低い傾向 |
適用場面: 新製品・革新的製品、顧客の価格期待が不明確な場合、上限価格の探索
間接質問法の詳細
Van Westendorp Price Sensitivity Meter(PSM)
オランダの経済学者Peter Van Westendorpが1976年に開発した手法です。「いくら払いますか?」と直接聞くのではなく、「高い/安い」の感覚を4つの質問で間接的に測定します。
4つの質問
| 質問 | 概念 | 測定内容 |
|---|---|---|
| Q1 | Too Cheap(安すぎて不安) | 品質への懸念を示す下限 |
| Q2 | Good Value(良い値段) | 価値を感じる下限 |
| Q3 | Expensive but Acceptable | 受け入れられる上限 |
| Q4 | Too Expensive | 購買意欲が失われる上限 |
Q1の例: 「この製品が安すぎて、品質を疑うくらいの価格はいくらですか?」
Q4の例: 「この製品が高すぎて、購入を考えないような価格はいくらですか?」
なぜ間接質問法なのか
PSMは価格を直接聞かず、「高い/安い」という相対的な感覚を通じてWTPを推定します。回答者は具体的な金額を自分で決めるのではなく、提示されたシナリオに対する反応を示します。これにより、直接質問法のバイアス(過少申告・過大申告)を軽減できます。
主要な分析結果
- 最適価格点(OPP): 「安すぎる」と「高すぎる」の割合が同じ価格
- 許容価格帯: Q2とQ3の交差点(下限)からQ3とQ4の交差点(上限)
- 無差別点: 価格に対する反応が中立的な価格帯
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| シンプルで実装が容易 | 直接的な購買意欲を測定していない |
| 回答者が理解しやすい | 新製品には不適切(比較対象がない) |
| 低コストで実施可能 | 競合製品を考慮していない |
| 心理的価格ポイントを捉える | - |
| 50年近い実績(1976年から) | - |
適用場面: 既知カテゴリーの製品、競合製品が存在する市場、心理的価格知覚の測定が目的の場合
コンジョイント分析(Conjoint Analysis)
製品の属性(価格、機能、ブランド等)を組み合わせた複数の選択肢を提示し、選択を通じて各属性の価値を測定します。
アンケート設計
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 属性数 | 3-6個(例:価格、容量、ブランド) |
| 各属性の水準 | 2-4段階(例:価格=$99, $199, $299) |
| 選択セット | 各セットに3-5個の製品を提示 |
| 総タスク数 | 通常8-16個の選択タスク |
| 直交性 | 各属性組み合わせが独立して変動 |
質問形式: 「3つの製品A、B、Cの中から買いたいものはどれですか?」→選択
フロー図主要な分析結果
- Partworth Utility: 各属性水準の効用値(相対的な重要度)
- 価格係数: 価格属性の弾力性(1ドル上昇あたりの選択確率低下)
- WTP推定: 価格から他属性への支払い意思額を推定
- 市場シミュレーション: 新製品や価格変更のシミュレーション
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 複雑な製品でも属性別の価値を分解可能 | アンケート設計が複雑 |
| 現実的な選択シーン(複数選択肢) | 回答者の負荷が高い |
| 各属性のWTPを推定可能 | 統計分析が高度(ロジスティック回帰) |
| 機能価値と価格の関係を明確化 | 時間コストが大きい |
| 市場シミュレーションで予測精度が高い | サンプル数が多く必要(最低500人) |
| - | 実施コストが高い |
適用場面: 複数機能・属性を持つ製品、新製品開発と価格設定、セグメント別の価値判断の違いを把握したい場合
推奨サンプル数: 最低500人(属性数が多い場合は1000人以上)
BPTO(Brand-Price Trade-Off)
ブランドと価格の相互作用を測定します。複数のブランド×複数の価格組み合わせを提示し、選択を通じて「どのブランドなら、どの価格を受け入れるか」を測定します。
実施手順
- ラウンド1: 3-5ブランド × 初期価格帯で提示 → 最も購入したいものを選択
- ラウンド2-N: 前のラウンドの結果に基づいて価格を段階的に上昇 → 各ラウンドで選択を繰り返す(通常10-20ラウンド)
質問形式: 「以下の製品から購入したいものはどれですか?」→複数ブランド×価格の選択肢から1つ選択
主要な分析結果
- ブランド別の価格感応度曲線: 各ブランドの価格弾力性
- 市場シェア予測: 価格変更時のシェア変動
- プレミアムポテンシャル: 競合より何%高い価格を受け入れるか
事例: 工業機器メーカーが民間セクター向けに6-8%のプレミアム価格を維持可能、公共セクター向けに2-3%のみ→セグメント別価格戦略に活用
メリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ブランドと価格の動的関係を測定 | コンジョイント分析ほど細かくない |
| 各ブランドの価格弾力性を把握 | ブランドと価格の2要素に限定 |
| 市場シェア予測が可能 | 新規ブランドや新カテゴリーでは困難 |
| セグメント別戦略の立案に有効 | 市場既存ブランドをすべて含める必要 |
| 実装が比較的簡単 | - |
適用場面: ブランド価値が重要(B2B、ハイエンド製品)、複数競合ブランドの相互作用を測定
推奨サンプル数: 200-300人
直接法 vs 間接法の比較
実装・コスト面での比較
| 項目 | 直接質問法 | 間接質問法 |
|---|---|---|
| 実装の複雑さ | シンプル(1-4質問) | 複雑(8-20タスク) |
| アンケート設計 | 簡単 | 非常に複雑(属性設計等) |
| 回答者の理解度 | 高い(直感的) | 中程度(複雑な判断が必要) |
| 回答時間 | 短い(3-10分) | 長い(15-30分) |
| 統計分析の難しさ | 簡単(記述統計) | 難しい(ロジスティック回帰) |
| 実装コスト | 低い | 高い |
| 必要サンプル数 | 100-300人 | 500-1000人以上 |
測定内容・信頼性での比較
| 項目 | 直接質問法 | 間接質問法 |
|---|---|---|
| 測定対象 | 単一製品の価格知覚または購買意欲 | 属性間のトレードオフと相互作用 |
| 複数属性対応 | 不向き | 得意 |
| 新製品対応 | 不向き(回答が仮想的) | やや対応可(競合類似製品があれば) |
| バイアスの強さ | 強い(想像のみ) | 弱い(選択行動に近い) |
| 信頼性と妥当性 | 低い(回答と実購買に乖離) | 高い(実際の購買判断に近い) |
| 市場シミュレーション | 限定的 | 可能(詳細なシミュレーション) |
手法選択フローチャート
目的による選択
1. 目的は何か?
- 心理的知覚を測定 → Van Westendorp PSM
- 購買確率を推定 → Gabor-Granger法
- 複数属性のトレードオフ → コンジョイント分析
- ブランド×価格 → BPTO
2. 製品は複雑か?
- シンプル(単機能、単価格) → 直接法推奨
- 複雑(多機能、多属性、B2B) → 間接法推奨
3. 予算と時間は?
- 限定的($5,000以下、2-3週間) → Gabor-Granger または PSM(低コストで迅速)
- 十分($15,000以上、1-3か月) → コンジョイント分析 または BPTO
4. 精度要求は?
- 概略把握で十分 → 直接法
- 高精度の需要予測が必要 → 間接法
5. セグメント分析が必要か?
- 不要 → 直接法
- 必要 → 間接法
意思決定基準一覧
| 判断基準 | 直接法を選ぶ場合 | 間接法を選ぶ場合 |
|---|---|---|
| 目的 | 購買意欲の直接測定、上限価格の探索 | 心理的価格知覚(PSM)、複数属性のトレードオフ、市場シミュレーション |
| 製品の複雑さ | シンプル(単機能、単価格) | 複雑(多機能、多属性、B2B) |
| 製品ライフサイクル | 既知カテゴリー、市場に存在 | 新製品 or 類似競合がある |
| 予算制約 | 低予算($5,000以下) | 予算十分($15,000以上) |
| 時間制約 | 短期決定(2-3週間) | 中期プロジェクト(1-3か月) |
| 精度要求 | 概略把握で十分 | 高精度の需要予測が必要 |
| セグメント分析 | 不要 | セグメント別戦略が必要 |
ハイブリッドアプローチ
直接法と間接法を組み合わせて使用する方法です。迅速性と精度のバランスを取り、段階的にリスクを低減します。
典型的な実施手順
| Phase | 期間 | 手法 | 目的 | 成果物 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 1-2週間 | Van Westendorp PSM or Gabor-Granger | 許容価格帯を素早く把握 | $99-$299の大まかな範囲 |
| 2 | 3-4週間 | コンジョイント分析 | 各機能のWTPを詳細測定 | 機能別の価値測定 |
| 3 | 1-2週間 | 市場シミュレーション+モニタリング | 最終価格と売上予測 | 需要予測と利益最大化 |
コスト・時間・精度のトレードオフ
| アプローチ | 期間 | コスト | 精度 |
|---|---|---|---|
| 直接法のみ | 2-3週間 | 低($3,000-$5,000) | 低 |
| 間接法のみ | 4-6週間 | 高($20,000-$50,000) | 高 |
| ハイブリッド | 6-8週間 | 中〜高($10,000-$25,000) | 高 |
ハイブリッドのメリット
- 迅速性と精度のバランス: 初期探索を素早く、詳細測定を後から
- 初期の間違った方向付けを回避: 段階的に仮説を検証
- 複数の視点から価格戦略を検証: 心理的知覚と実際の選択の両面
- 段階的にリスクを低減: 小さな投資から始めて、効果を見て拡大
調査設計のベストプラクティス
バイアス回避
| バイアスタイプ | 説明 | 回避策 |
|---|---|---|
| アンカーバイアス | 最初に見た価格が基準となり影響 | 価格順序をランダム化 |
| 社会的望ましさバイアス | 「安い製品を買うのは恥ずかしい」 | 匿名性を保証、社会的証拠を示す |
| 仮想シナリオバイアス | 想像だけで回答する傾向 | 実際の選択シーンを再現 |
| 一貫性バイアス | これまでの回答と矛盾しないよう調整 | 質問順序をランダム化 |
回答者疲労の防止
- 短くシンプルに: 目標3-10分で完了
- 段階的な難度上昇: 簡単な質問から始める
- スキップロジック活用: 不要な質問は表示しない
- 視覚的な工夫: スライダー、画像等で単調さを回避
- 進捗表示: 「あと3問です」という完了までの見える化
ワーディング(質問文の書き方)
| ガイドライン | 悪い例 | 良い例 |
|---|---|---|
| 中立性 | 「このプレミアム製品に...」 | 「この製品に...」 |
| シンプル性 | 「機能、品質、ブランド価値を...」 | 「この製品に...」 |
| 明確な単位 | 「妥当な金額は?」 | 「いくらなら購入しますか?(円で入力)」 |
よくある質問(FAQ)
Q1. 直接質問法は簡単だから正確ですか?
いいえ。回答と実購買に乖離が大きい傾向があります。新製品の場合、想像のみで回答が困難なため、信頼性が低くなります。
Q2. コンジョイント分析ならすべての価格設定問題が解決しますか?
いいえ。複雑な属性設計が必要で、実装が大変です。初期探索には向かず、ある程度の仮説がある段階での使用が適しています。
Q3. サンプル数が多いほど精度が高くなりますか?
必ずしもそうではありません。設計品質(バイアス回避、属性設計)の方が重要です。1000人の悪い調査より200人の良い調査の方が価値があります。
Q4. 一度の調査で最適価格が決まりますか?
いいえ。市場は変動します。定期的なモニタリング、複数時点での調査が必要です。初回調査は方向性の把握と考えてください。
Q5. B2B製品ではどの手法が適していますか?
複雑な購買判断が行われるため、コンジョイント分析が推奨されます。ROI訴求が可能で、各属性の価値を分解できるためです。ただし、初期探索ではGabor-Granger法も有効です。
まとめ
主要ポイント
- 直接質問法: シンプルで低コストだが、バイアスの影響を受けやすい。購買意欲の直接測定(Gabor-Granger)や上限価格の探索(Open-ended WTP)に適している
- 間接質問法: 実際の選択行動に近く信頼性が高い。心理的価格知覚(PSM)、複数属性のトレードオフ(コンジョイント)、ブランド価値(BPTO)の測定に適している
- ハイブリッドアプローチ: PSMやGabor-Grangerで初期探索し、コンジョイント分析で精緻化する方法が迅速性と精度のバランスを実現
次のステップ
- 自社製品の複雑さと調査目的を明確にする
- 予算と時間制約に応じて手法を選択する
- 小規模テストでバイアス回避策を検証する
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参考リソース
- SurveyMonkey: Willingness to Pay Research
- Sawtooth Software: Conjoint Analysis
- B2B International: Pricing Research Methods
- Conjointly: Choice-Based Conjoint Guide
本記事はネクサフローのプライシング研究シリーズの一部です。


