キャプティブプライシングとは?本体・消耗品の価格構造と実践例
AIサマリー
Gillette、HP、Nespressoはなぜ本体を安く売るのか。キャプティブプライシング(囲い込み価格戦略)の仕組み、事例、SaaSへの応用を解説します。

カミソリ本体は数百円なのに、替刃は数千円。プリンターは1万円以下なのに、インクカートリッジは高額。
この一見不思議な価格構造には、キャプティブプライシングという戦略があります。本記事では、Gillette、HP、Nespressoなどの事例を通じて、この戦略の仕組みと応用方法を解説します。
この記事でわかること
- キャプティブプライシングとは: 本体を安く、消耗品を高く売る戦略
- 成功事例: Gillette、HP、Nespresso、ゲーム機、SaaS
- いつ使うべきか: 適用条件と業種別の活用法
- リスクと対策: 顧客離脱を防ぐ価格設計のポイント
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | キャプティブプライシング |
| カテゴリ | 価格戦略 |
| 難易度 | 初級 |
| 対象読者 | 製品・サービスの価格設計担当者 |
従来型 vs キャプティブ型キャプティブプライシングとは
キャプティブプライシングとは、コア製品(本体)を低価格で販売し、その使用に必要な消耗品や補完製品を高価格で販売する戦略です。
「レイザー&ブレード」モデルとも呼ばれます。
従来型との違い
| 項目 | 従来型 | キャプティブ型 |
|---|---|---|
| 本体価格 | 高価格(利益確保) | 低価格(時に赤字) |
| 消耗品価格 | 低価格 | 高価格(利益確保) |
| 利益源 | 本体販売 | 消耗品・サービス |
| 顧客ロックイン | 弱い | 強い |
なぜ効果があるのか
- 初期投資ハードルの低減: 低価格の本体で顧客獲得が容易
- ロックイン効果: 一度購入した顧客は継続的に消耗品を購入
- 顧客生涯価値(CLV)の最大化: 長期的な収益を確保
出典: HubiFi - Captive Pricing Guide
製造業の事例
Gillette(カミソリ・替刃)
最も有名なキャプティブプライシングの事例です。
価格構造:
- カミソリ本体: 数ドル(低価格)
- 替刃セット: 本体の3-4倍(高価格)
- 利益率: 60%以上
歴史:
- 1921年に現在の価格構造に転換
- プロプライエタリな刃の形状で顧客をエコシステムに囲い込み
- 2014年にオンラインサブスクリプションサービス開始(週$1プラン)
出典: FourWeekMBA - Razor and Blade Business Model
HP(プリンター・インク)
価格構造:
- プリンター: 原価またはそれ以下で販売
- インクカートリッジ: 利益率60%以上
2024年の動向:
- 94%のSKU(612製品)を2-6%値上げ(平均4%)
- HP All-In Planを開始(月額$6.99〜$35.99)
市場規模:
- 2023年: 191.7億ドル(約2.9兆円)
- 2029年予測: 250億ドル超(約3.8兆円)
- CAGR: 6.55%
出典: GlobeNewswire - Printer Ink Cartridges Industry Analysis
Nespresso(コーヒーマシン・カプセル)
収益構造:
- カプセル売上: 全体の92%
- マシン・アクセサリー: 4%のみ
価格設定:
- マシン価格: 99〜699ユーロ(約1.5万円〜10.5万円)
- カプセル価格: 0.70〜1.20ドル/個(約105〜180円)
課題: 特許切れにより競合の互換カプセルが市場に参入
出典: FourWeekMBA - Nespresso Business Model
ゲーム機(PlayStation、Xbox)
赤字販売戦略:
- Sony: 1台あたり$240〜$307の損失(業界関係者推定)
- Microsoft: 1台あたり$100〜$200を補助(CEO発言)
収益モデル:
- ゲーム機を低価格(時に赤字)で販売
- 各ゲームに対するライセンス料で利益を得る
- サブスクリプション(Xbox Game Pass等)、アクセサリーで継続収益
PlayStation 2、Xbox以降、複数世代にわたり赤字販売を継続しています。
出典: Gamedeveloper - Console Pricing Strategies
SaaSの事例
Slack
フリーミアム戦略:
- 業界平均2-5%に対して30%以上の転換率(6-10倍高い)
- 全ユーザーの26%が有料プラン利用者
- 4年で0から4億ドル(約600億円)ARRを達成
2024年の数値:
- 収益: 約15億ドル(約2,250億円)
- 評価額: 260億ドル(約3.9兆円)
- ネットドルリテンション率: 143%(2019年)
無料プランで顧客を獲得し、プレミアム機能やストレージ制限でアップグレードを促進します。
出典: Monetizely - Slack's Freemium Strategy
HubSpot
キャプティブ価格モデル:
- 基本的なCRM機能を無料提供
- 営業、マーケティング、カスタマーサービス、CMS機能を有料アドオンとして販売
特徴: Salesforceが追加料金を必要とする機能を標準装備しながらも、高度な機能は別料金で提供
出典: Paddle - Captive Product Pricing
Amazon Kindle
キャプティブ価格モデル:
- Kindle端末を競争力のある価格で販売(低マージン)
- 顧客をAmazonエコシステムに引き込む
- Kindleストアでの電子書籍購入、Kindle Unlimitedサブスクリプションで収益化
ロイヤリティ構造:
- 35%ロイヤリティ($2.99未満)
- 70%ロイヤリティ($2.99以上)
- 推奨価格帯: $2.99〜$5.99(約450〜900円)
出典: BizCognia - Amazon Kindle Business Model
業界別の適用事例
| 業界 | 本体(低価格) | 消耗品・サービス(高価格) |
|---|---|---|
| カミソリ | カミソリ本体 | 替刃 |
| プリンター | プリンター本体 | インクカートリッジ |
| コーヒー | コーヒーマシン | カプセル |
| ゲーム機 | ゲーム機本体 | ゲームソフト、サブスク |
| SaaS | 無料プラン | 有料プラン、アドオン |
| 自動車 | 車両本体 | 部品、メンテナンス |
| 電子書籍 | 端末 | 電子書籍、サブスク |
いつ使うべきか
適用条件
- 消耗品が必須: 本体の使用に消耗品が不可欠
- 継続購入が発生: 一度の購入で終わらない
- スイッチングコストが高い: 他社製品への乗り換えが困難
- 差別化可能: 独自規格や特許で互換品を排除できる
向いている業種
- 製造業: 本体+消耗品のビジネスモデル
- SaaS: フリーミアム+有料プランの構造
- ハードウェア+サービス: 端末+コンテンツ/サブスクリプション
向いていないケース
- 消耗品が汎用的で競合が多い
- スイッチングコストが低い
- 一度の購入で完結する製品
デメリット・リスク
1. 顧客の反発
消耗品の価格が高すぎると、顧客は「おとり商法」と認識する可能性があります。
対策: 消耗品の価格を「わずかに高い」程度に設定
2. 互換品の登場
特許切れにより競合の互換品が市場に参入するリスクがあります。
事例: Nespressoは特許切れ後、互換カプセルとの競争に直面
3. 価格感度の変化
オンラインの価格比較ツールにより、消費者はキャプティブ価格戦略への理解が深まっています。
対策: 価格の透明性を高め、価値を明確に伝える
4. チャーン(解約)リスク
価格上昇が顧客喪失の第1位理由(調査回答者の71%)
| 業界 | 平均チャーン率 |
|---|---|
| B2B SaaS | 3.8% |
| DTC | 6.5% |
| メディア業界 | 37.1% |
価格設計のポイント
合理的な価格バランス
重要: 顧客がわずかに高い支出をする場合は長期的にベンダーに留まります。しかし、2倍・3倍の料金を請求された場合はできるだけ早く離脱しようとします。
主要指標のモニタリング
| 指標 | 説明 |
|---|---|
| CAC(顧客獲得コスト) | 本体の赤字をどこまで許容できるか |
| CLTV(顧客生涯価値) | 消耗品購入による長期収益 |
| チャーン率 | 顧客離脱の兆候を早期発見 |
WTP(支払意欲)の調査
消耗品の価格設定前に、顧客の支払意欲を調査することで、最適な価格ポイントを発見できます。
出典: Paddle - Captive Product Pricing
よくある質問(FAQ)
Q1. キャプティブプライシングは違法ですか?
いいえ。適法な価格戦略です。ただし、独占禁止法に抵触しないよう、消費者に対する誤解を招く表示は避ける必要があります。
Q2. SaaSでキャプティブプライシングを適用するには?
フリーミアムモデルが最も一般的です。基本機能を無料で提供し、高度な機能やストレージ、サポートを有料プランで提供します。
Q3. 消耗品の価格はどのくらいが適切ですか?
本体価格との比率ではなく、顧客の支払意欲(WTP)に基づいて設定します。2倍・3倍の価格設定は離脱リスクを高めます。
Q4. 互換品対策はどうすべきですか?
独自規格、特許、品質保証、サブスクリプションモデルへの移行などの対策があります。HP All-In Planのようなサブスクリプション化が1つの解決策です。
Q5. フリーミアムとキャプティブプライシングの違いは?
フリーミアムはキャプティブプライシングの一形態です。本体(無料プラン)を低コスト/無料で提供し、プレミアム機能(消耗品に相当)で収益を上げます。
まとめ
主要ポイント
- キャプティブプライシングは本体を安く、消耗品で利益を得る戦略
- Gillette、HP、Nespressoが製造業の代表例(利益率60%以上)
- SaaSのフリーミアムもキャプティブ価格の一形態(Slack転換率30%超)
- 価格設定は慎重に: 2倍・3倍の価格は離脱リスクを高める
次のステップ
- 自社製品の「本体」と「消耗品」を特定する
- 消耗品の顧客支払意欲(WTP)を調査する
- CAC、CLTV、チャーン率をモニタリングする
参考リソース
- FourWeekMBA - Razor and Blade Business Model
- Shopify - Captive Product Pricing
- Monetizely - Slack's Freemium Strategy
価格体系シリーズ
本記事はネクサフローの価格体系シリーズの一部です。


