
AGIは2030年に実現?Google DeepMind CEOとSergey Brinの未来予測
AIサマリー
AGIは2030年前後に実現する見込みで、Sergey Brinは2030年前、Demis Hassabisは2030年直後と予測。Deep Thinkという推論パラダイムが重要で、600 ELO以上の性能向上を実証。AGIにはスケーリングとアルゴリズムの両方が必要で、物理世界の理解が次世代AIの鍵。Google Glassの失敗から学び、スマートグラスの再挑戦が期待される。
Google DeepMindのCEO Demis Hassabisと、Google共同創業者Sergey Brinが「AGIはいつ実現するか」について予測を語りました。結論は2030年前後です。Deep Thinkなど推論パラダイムの進化、スケーリングとアルゴリズムの両輪が鍵となります。業界トップ2人の見解を徹底解説します。
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この記事でわかること
- AGIの実現時期: Sergey Brinは「2030年前」、Demis Hassabisは「2030年直後」と予測
- Deep Thinkとは: AlphaGoで実証された推論パラダイムの進化形。モデル単体より600+ ELO(棋力指標)向上
- Sergey Brin復帰の理由: 「コンピュータ科学者なら今は引退している場合ではない」
登壇者プロフィール
| 登壇者 | 役職 | 経歴 |
|---|---|---|
| Demis Hassabis | Google DeepMind CEO | 神経科学者・ゲーム開発者。AlphaGo、AlphaFold開発を主導 |
| Sergey Brin | Google共同創業者 | Larry Pageと共にGoogleを創業。AI開発のため現場復帰 |
| Alex Kantrowitz | Big Technology Podcast | テック業界を代表するポッドキャストのホスト(モデレーター) |
AIの進化に限界はあるのか?スケーリングとアルゴリズムの議論
「スケーリングの限界が近い」という声が業界で高まっています。これに対し、2人の見解は明確でした。
結論: スケーリングとアルゴリズム改善の両方が必要です。どちらか一方だけでは不十分です。
Demis Hassabisは、AIの進化について次のように語りました:
"We're seeing incredible progress... but we're also inventing new things all the time as well. And to get all the way to something like AGI, I think may require one or two more new breakthroughs."
(私たちは信じられないほどの進歩を目にしています...同時に常に新しいものを発明しています。AGI(人間並みまたはそれを超えるAI) のようなものに到達するには、あと1-2個の新しいブレークスルーが必要かもしれません)
スケーリングとアルゴリズム、どちらが重要か
Sergey Brinは、歴史的なデータを引用して興味深い視点を示しました:
"Historically, if you look at things like the N-body problem and simulating gravitational bodies... the algorithmic advances have actually beaten out the computational advances, even with Moore's law."
(歴史的に見ると、N体問題(多数の天体の運動をシミュレーションする計算問題) や重力シミュレーションなどでは、ムーアの法則があってもアルゴリズムの進歩が計算能力の進歩を上回ってきました)
Deep Thinkとは?AlphaGoで実証された推論パラダイムの威力
対談で最も技術的に深い議論となったのが「Deep Think」と呼ばれる推論パラダイムについてです。
Deep Thinkは、AIに「考える時間」を与えることで性能を飛躍的に向上させる手法です。AlphaGoで実証され、思考ありなしで600 ELO以上の差が確認されました。

AlphaGoで実証:思考ありなしで600 ELO差
Demis Hassabisは、AlphaGoでの実験データを明かしました:
"We had versions of Alpha Go with the thinking turned off... it's maybe like master level. But then if you turn the thinking on, it's way beyond world champion level. You know, it's like a 600 ELO plus difference."
(思考をオフにしたAlphaGoのバージョンでは、おそらくマスターレベルでした。しかし思考をオンにすると、世界チャンピオンレベルをはるかに超えます。その差は600 ELO以上です)
| モード | 強さ |
|---|---|
| 思考なし | マスターレベル |
| 思考あり | 世界チャンピオン超え |
その差は600 ELO以上です。ELO(イロレーティング) とは、チェスや囲碁で使われる棋力指標です。この差は将棋で言えば、アマチュア有段者とプロ棋士以上の差に相当します。
Deep Thinkの仕組み
今回発表されたDeep Thinkは、この推論パラダイムの進化形です:
- 並列推論: 複数の思考パスを同時に探索します
- 相互検証: 各パスの結果を比較・評価します
- 最適解選択: 最も信頼性の高い回答を出力します
Demis Hassabisは「高価値・高難度のタスクには、長時間考えさせる価値がある」と強調しました。
AGIはいつ実現する?2030年前後が転換点

Demis HassabisによるAGIの定義
Demis Hassabisは、AGIの定義について独自の見解を示しました:
"For something to be called AGI, it would need to be consistent, much more consistent across the board than it is today. It should take like a couple of months for a team of experts to find a hole in it."
(AGIと呼ばれるためには、今日よりもはるかに一貫性が必要です。専門家チームが穴を見つけるのに数ヶ月かかるレベルでなければなりません)
現在のシステムは「数分で穴が見つかる」レベルです。真のAGIは「専門家チームが数ヶ月かけて初めて穴を見つけられる」レベルの一貫性が必要です。
また、「典型的な人間の能力」と「人類の脳アーキテクチャの可能性」を区別することも重要だと指摘しました。後者は、アインシュタインやモーツァルト、キュリー夫人といった歴史上の天才たちが達成したことも含みます。
AGI実現時期の予測:2030年がターニングポイント
直接的な質問に対し、2人は予測を示しました:
| 登壇者 | AGI実現予測 |
|---|---|
| Sergey Brin | 2030年前 |
| Demis Hassabis | 2030年直後 |
Sergey Brinが先行する予測を示したのに対し、Demis Hassabisは「just after(直後)」と慎重な姿勢です。ただし、いずれも5年以内という点では一致しています。
なぜSergey BrinはGoogleに復帰した?AI開発の最前線へ
Google共同創業者が現場に復帰したことは、業界で大きな話題となりました。その理由を問われ、Sergey Brinは熱く語りました:
"Honestly, anybody who's a computer scientist should not be retired right now, should be working on AI. I mean there's just never been a greater sort of problem and opportunity, a greater cusp of technology."
(正直に言って、コンピュータ科学者なら今は引退している場合ではありません。AIに取り組むべきです。これほど大きな問題と機会、技術の転換点はかつてありませんでした)
Web 1.0、モバイル革命を経験してきたSergey Brinでさえ、こう断言します。「AIは科学的にはるかにエキサイティングで、世界へのインパクトはさらに大きい」と。日々、Geminiチームと技術的な深掘りを行っています。
GoogleのAIエージェント戦略:なぜビジュアルAIに注力するのか
マルチモーダルとエージェントの未来
他のテック企業がテキストベースのエージェントに注力する中、GoogleはカメラやスマートグラスなどビジュアルAIに力を入れています。
Demis Hassabisはその理由を説明しました:
"We want it to be useful in your everyday life for everything. And so it needs to come around with you and understand your physical context."
(日常生活のあらゆる場面で役立つようにしたいのです。そのためには、あなたと一緒に動き、物理的なコンテキストを理解する必要があります)
真に有用なアシスタントは、コンピュータや単一デバイスに縛られるのではなく、ユーザーの物理的なコンテキストを理解する必要があります。
Geminiがマルチモーダル設計を選んだ理由
Geminiは最初からマルチモーダル(テキスト・画像・音声など複数の情報を扱える) に設計されました。これは「より困難な選択」でしたが、Demis Hassabisは「正しい決定だった」と振り返ります。テキストのみのモデルより難しいですが、今その果実を得ています。
Google Glassの失敗から学んだこと
スマートグラスの新製品発表に際し、Sergey BrinはGoogle Glassの失敗について率直に語りました:
"I definitely feel like I made a lot of mistakes with Google Glass. I'll be honest."
(Google Glassでは多くの間違いを犯したと感じています。正直に言います)
Google Glassから得た3つの教訓
- 技術的ギャップ: 当時のAI能力では、真に有用な体験を提供できませんでした
- サプライチェーン: コンシューマー電子機器の製造・管理の難しさを過小評価していました
- パートナーシップ: 今回は優れたパートナーと協業しています
Demis Hassabisは「ユニバーサルアシスタントがスマートグラスのキラーアプリ」と位置づけます。技術とハードウェアが追いついた今、再挑戦の時が来たという見解です。
SynthIDとは?AI生成コンテンツの見分け方
モデル崩壊問題への対策
AIが生成したコンテンツがインターネットに溢れると、それを学習データに含めることでモデルの品質が低下します。これを「モデル崩壊(Model Collapse)」と呼びます。AI生成コンテンツでAIを訓練すると、徐々に質が劣化する現象です。
Demis Hassabisは、Googleの対策を説明しました:
"All of our generative models, we attach SynthID to them. So there's this invisible AI-generated watermark."
(すべての生成モデルにSynthIDを付与しています。不可視のAI生成ウォーターマークです)
SynthIDは不可視のAI生成ウォーターマークで、18ヶ月経った今も堅牢性を維持しています。これにより以下が可能になります:
- ディープフェイク対策: AI生成画像・動画を検出
- 誤情報対策: 偽情報の拡散を防止
- トレーニングデータの品質維持: AI生成コンテンツを学習データから除外
シミュレーション仮説:私たちはシミュレーションの中にいるのか
対談の最後、Demis Hassabisの「nature to simulation at the press of a button」というツイートが話題に上がりました。
シミュレーション仮説とは、私たちの現実が高度な文明によって作られたコンピュータシミュレーションである可能性を主張する哲学的仮説です。
Demis Hassabisは明確に否定しつつ、興味深い見解を示しました:
"I don't think this is some kind of game... I do think that ultimately underlying physics is information theory. So I do think we're in a computational universe, but it's not just a straightforward simulation."
(これがゲームのようなものだとは思いません...物理学の根底には情報理論があると考えています。私たちは計算可能な宇宙にいますが、単純なシミュレーションではありません)
一方、Sergey Brinは論理的な問題を指摘しました:
"If we're in a simulation, then by the same argument, whatever beings are making the simulation are themselves in a simulation... you're going to have to either accept that we're in an infinite stack of simulations, or that there's got to be some stopping criteria."
(もし私たちがシミュレーションの中にいるなら、同じ論理で、シミュレーションを作っている存在自身もシミュレーションの中にいることになります...無限のシミュレーションの階層を受け入れるか、どこかで停止基準があるかのどちらかです)
よくある質問(FAQ)
Q1. AGIは何年に実現しますか?
Sergey Brinは2030年前、Demis Hassabisは2030年直後と予測しています。両者とも5年以内という点で一致していますが、AGIの定義自体が曖昧なため、何をもってAGI達成とするかは議論の余地があります。
Q2. Deep Thinkとは何ですか?
Deep ThinkはGoogle DeepMindが開発した推論パラダイムです。複数の並列推論プロセスが動作し、互いに検証し合うことで、より高品質な回答を生成します。AlphaGo/AlphaZeroで実証された「思考システム」の発展形で、モデル単体と比較して600 ELO(棋力指標)以上の性能向上が確認されています。
Q3. なぜSergey BrinはGoogleに復帰したのですか?
Sergey Brinは「コンピュータ科学者として、今は歴史上最もユニークな時期」と語っています。Web 1.0やモバイル革命を経験した彼でさえ、AIはそれらを超える変革であり、「すべてのCS研究者はAIに取り組むべき」と考えて復帰を決めました。
Q4. スケーリングだけでAGIは実現できますか?
いいえ。Demis HassabisとSergey Brin両者とも「スケーリングとアルゴリズム改善の両方が必要」と回答しています。Sergey Brinは「歴史的にはアルゴリズムの進歩がムーアの法則による計算能力の向上を上回ってきた」と指摘しています。
Q5. SynthIDとは何ですか?
SynthIDはGoogle DeepMindが開発した不可視のAI生成ウォーターマーク技術です。AI生成画像や動画に埋め込まれ、ディープフェイク対策や誤情報対策に使用されます。18ヶ月以上にわたり堅牢性を維持しており、「モデル崩壊(AI生成コンテンツでAIを訓練すると質が劣化する現象)」の防止にも役立ちます。
まとめ
Google DeepMind CEOとGoogle共同創業者が語ったAGIの未来予測を解説しました。
主要ポイント
- AGIは2030年前後に実現の見込み。Sergey Brinは2030年前、Demis Hassabisは2030年直後と予測
- Deep Thinkなど推論パラダイムが次のブレークスルー。600 ELO以上の性能向上を実証済み
- スケーリングとアルゴリズム革新の両輪が必要で、どちらか一方では不十分
次のステップ
- Deep ThinkやAlphaGoの論文を読み、推論パラダイムを理解する
- マルチモーダルAIの最新動向をフォローする
- SynthIDなどAI生成コンテンツ対策技術を把握する
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参考リソース
本記事はネクサフローのAI研究シリーズの一部です。
この記事の著者

中村 知良
代表取締役
早稲田大学卒業後、ソフトバンク株式会社にてAI活用やCEO直下案件のプロジェクトマネージャーに従事。その後、不動産スタートアップPit in株式会社の創業、他スタートアップでの業務改善・データ活用を経験後、2023年10月、株式会社ネクサフローを創業し代表取締役CEO就任。


