コンジョイント分析とは:機能と価格のトレードオフを数値化する手法
AIサマリー
コンジョイント分析は、顧客がどの機能にいくら払うかを定量化する統計手法です。基本原理、実施手順、活用事例を解説します。

「この機能は顧客にとっていくらの価値があるのか?」この問いに、数値で答える手法がコンジョイント分析です。
本記事では、複数属性のトレードオフを定量化する統計手法の仕組みと実践方法を解説します。
本記事の表記について
- 金額の日本円換算は1ドル=150円で計算しています
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この記事でわかること
- コンジョイント分析の仕組み: 複数属性を同時評価する原理
- 4つの分析手法: Full-Profile、CBC、Adaptive、MaxDiffの使い分け
- 実施6ステップ: 設計から市場シミュレーションまで
- 活用事例: Apple訴訟、VIVO、SaaS企業の成功例
- 他手法との比較: PSM法やGabor-Grangerとの違い
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | コンジョイント分析(Conjoint Analysis) |
| カテゴリ | プライシング・市場調査 |
| 難易度 | 中級〜上級 |
| 対象読者 | プロダクトマネージャー、プライシング担当者 |
コンジョイント分析の概念図コンジョイント分析とは
定義
製品の複数属性(価格、機能、ブランド等)に対する顧客の選好を定量化し、機能と価格のトレードオフを数値化する統計手法です。
顧客が実際の購買で行う「この機能のためにいくら追加で払うか」という判断を模擬します。
歴史
| 年代 | 出来事 |
|---|---|
| 1960年代 | Luce & Tukeyが数理心理学で理論基盤を確立 |
| 1971年 | Paul E. Green(Wharton School)がマーケティングへ応用 |
| 1975年 | Harvard Business Reviewが経済界に紹介 |
| その後 | Jordan LouviereがChoice-Based Conjoint(CBC)を開発 |
なぜ重要か
「どの機能が重要ですか?」と聞いても、顧客は「全部重要」と答えます。
コンジョイント分析は、トレードオフを強制することで、真の選好を引き出します。
| 従来の調査 | コンジョイント分析 |
|---|---|
| Q: 価格と品質、どちらが重要ですか?<br>A: 両方です | 製品A: 高品質・高価格<br>製品B: 標準品質・低価格<br>→ どちらを選びますか? |
4つの手法
コンジョイント分析には、回答形式によって4つの主要手法があります。
1. Full-Profile Conjoint(従来型)
特徴: 全属性を含む製品プロファイルを評価します。
メリット:
- 包括的な評価が可能
デメリット:
- 属性数が6程度に制限される
- 回答者の認知負荷が高い
用途: 属性が少ない製品(スマートフォン、家電等)
2. Choice-Based Conjoint(CBC)
特徴: 複数の製品プロファイルから1つを選択する形式です。
メリット:
- 現実の購買意思決定に最も近い
- 直感的で回答しやすい
デメリット:
- 分析に高度な統計モデル(MNL、HB)が必要
分析手法:
- Multinomial Logit(MNL)
- Latent Class MNL(顧客セグメンテーション)
- Hierarchical Bayesian(HB)
用途: B2C製品、SaaSプラン選択
3. Adaptive Conjoint Analysis(ACA/ACBC)
特徴: 回答内容に応じて質問が適応的に変化します。
メリット:
- 多数の属性(20-25)を扱える
- 回答者ごとに最適化された質問
デメリット:
- 実装が複雑
- 質問数が多く30分以上かかる場合がある
用途: B2B複雑製品、エンタープライズソリューション
4. MaxDiff(Best-Worst Scaling)
特徴: 最も好きな項目と最も嫌いな項目を選択します。
メリット:
- 回答者負荷が低い
- 属性の優先順位付けが簡単
デメリット:
- 属性の組み合わせ効果は測定できない
用途: コンジョイント分析の前段階調査
手法比較表
| 手法 | 属性数上限 | 回答者負荷 | 現実性 | 分析の複雑さ |
|---|---|---|---|---|
| Full-Profile | 6 | 高 | 中 | 低 |
| CBC | 6-8 | 中 | 高 | 高(MNL, HB) |
| Adaptive | 20-25 | 高(30分+) | 高 | 非常に高 |
| MaxDiff | 多数 | 低 | 中 | 低 |
実施6ステップ
コンジョイント分析の実施プロセスは以下の6ステップです。
実施フローStep 1: 属性と水準の設計
製品を構成する属性と、各属性の水準を決定します。
例: スマートフォンの属性設計
| 属性 | 水準 |
|---|---|
| ブランド | Apple / Samsung / Google |
| 価格 | $600 / $800 / $1,000 |
| RAM | 6GB / 8GB / 12GB |
| ROM | 128GB / 256GB / 512GB |
ベストプラクティス:
- 属性数は最大6(Full-Profile)、6-8(CBC)
- 各属性の水準は2-4が理想
Step 2: 直交設計による選択セット作成
統計的に効率的な製品プロファイルの組み合わせを生成します。
重要概念:
| 概念 | 説明 |
|---|---|
| 直交性(Orthogonality) | 属性間の相関がゼロ。独立して効果を測定できる |
| Level Balance | 各水準が同じ回数出現する |
これにより、少ない質問数で正確な推定が可能になります。
Step 3: 調査実施
回答者に選択セットを提示し、選好を収集します。
回答形式:
- 選択(CBC): 3つの製品から1つを選ぶ
- 評価(Full-Profile): 各製品を1-10点で評価
- ランキング: 複数製品を順位付け
Step 4: Partworth Utility(部分効用値)の推定
各属性の水準が、全体の効用にどの程度寄与するかを数値化します。
解釈: 0を基準とした相対値
- 正の値: 基準より好まれる
- 負の値: 基準より好まれない
例: スマートフォンの部分効用値
| 属性 | 水準 | Partworth |
|---|---|---|
| ブランド | Apple | +0.8 |
| ブランド | Samsung | 0.0(基準) |
| ブランド | -0.3 | |
| 価格 | $600 | +1.2 |
| 価格 | $800 | 0.0(基準) |
| 価格 | $1,000 | -0.9 |
この例では、顧客はAppleブランドを好み、低価格を強く選好することがわかります。
Step 5: Willingness to Pay(支払意思額)の推定
価格の部分効用値を用いて、他の属性を金銭価値に変換します。
計算式:
MWTP(機能Aから機能Bへのアップグレード)
= (Utility_B - Utility_A) / 価格係数
例: AppleブランドのWTP
価格係数 = (1.2 - (-0.9)) / $400 = 0.00525 per dollar
AppleのWTP = (0.8 - 0.0) / 0.00525 = $152
顧客はAppleブランドに対して約152ドル(約2.3万円)のプレミアムを支払う意思があることがわかります。
注意: 競合製品や「購入しない」選択肢を考慮しないと、WTPを過大評価するリスクがあります。
Step 6: 市場シミュレーション
様々な製品構成における市場シェアを予測します。
用途:
- 製品ラインの最適化
- 価格設定の影響予測
- 競合分析
例: 新製品の市場シェア予測
| 製品 | 構成 | 予測シェア |
|---|---|---|
| 自社新製品 | Apple / $800 / 8GB / 256GB | 32% |
| 競合A | Samsung / $700 / 6GB / 128GB | 28% |
| 競合B | Google / $600 / 8GB / 128GB | 25% |
| 購入しない | - | 15% |
メリット
1. 現実的なトレードオフ分析
顧客が実際の購買で行う「この機能のためにいくら追加で払うか」という判断を模擬します。
単純な「どちらが重要ですか?」という質問より、真の選好を引き出せます。
2. 複数属性の同時評価
価格、ブランド、機能を同時に評価し、相互作用を捉えられます。
例: VIVOの発見
VIVOはコンジョイント分析により、「RAMが増加すると、追加ROMの重要性が低下する」という相互作用を発見しました。
これは単一属性の調査では発見できません。
3. 市場セグメンテーション
Latent ClassやHierarchical Bayesianにより、顧客セグメントごとの選好差を特定できます。
例:
- エンタープライズ顧客: セキュリティ機能を重視、プレミアム価格を受け入れる
- SMB顧客: 価格を重視、基本機能で十分
4. ブランド価値の定量化
ブランド名を属性として組み込むことで、ブランドプレミアムを金銭換算できます。
5. 価格弾力性の推定
価格変動が需要に与える影響を予測できます。
デメリット
1. 設計の複雑さ
直交設計、統計モデリングに専門知識が必要です。設計ミスがバイアスを生みます。
2. 仮説バイアス
実際の金銭支出がないため、回答者が高級オプションを過大評価する傾向があります。
3. 測定誤差
調査設計が複雑なため、回答者内の一貫性が低くなりがちです。
4. 回答者負荷
Adaptive Conjointでは20-25属性で30分以上かかる場合があります。
5. 感情的価値への不向き
ラグジュアリー商品など、感情・イメージが主な購買要因の場合には適用困難です。
6. 高コスト
専門リサーチ会社に依頼すると以下のコストがかかります。
| 規模 | コスト |
|---|---|
| 標準的な調査 | $15,000-$50,000(約225万円-750万円) |
| エンタープライズB2B | $150,000以上(約2,250万円以上) |
実際の活用事例
1. Apple vs. Samsung訴訟(2012年)
背景: 特許訴訟における損害賠償額の算定
アプローチ: MIT教授John Hauserがコンジョイント分析を用い、Appleの特許機能に対する消費者需要を定量化しました。
ツール: Sawtooth Softwareのコンジョイント分析
成果: スマートフォンとタブレットで2つの選好調査を実施し、経済的損害を推定しました。
2. VIVO(スマートフォンメーカー)
背景: RAMとROM容量の最適な組み合わせを決定
サンプルサイズ: 約500人の回答者
発見: RAMが増加すると、追加ROMの重要性が低下する相互作用を発見しました。
ツール: Sawtooth Softwareのコンジョイント分析
ビジネス影響: この発見により、最適な製品ラインアップを設計できました。
3. IT Infrastructure Management Software(年間売上$10M、約15億円)
背景: SaaSパッケージングの最適化
アプローチ: コンジョイント分析により、4パッケージから2パッケージに再編しました。
成果: 機能セットの再マッピングにより、より効率的なパッケージ構成を実現しました。
4. Dogo(犬トレーニングアプリ、2024年)
背景: SaaS価格最適化
アプローチ: MaxDiffで優先順位を特定後、コンジョイント分析で機能と価格の組み合わせを最適化しました。
2段階アプローチ:
- MaxDiff: どの機能が重要かを特定
- Conjoint: 機能の組み合わせと価格のトレードオフを最適化
SaaS・B2B領域での活用
トレンド
B2Bソリューションへのコンジョイント分析適用が増加傾向にあります。
課題
| 課題 | 詳細 |
|---|---|
| 属性の特定困難 | 大企業向け複雑ソリューションでは、消費財市場で有効な属性が欠如 |
| 長期プロセス | 意思決定者が複数存在し、購買プロセスが長期化 |
活用例
エンタープライズ顧客がセキュリティ機能をSMB顧客より重視し、プレミアム価格を受け入れることを発見しました。
これにより、セグメント別価格設定が可能になります。
インパクト
価値ベース価格設定(コンジョイント分析含む)を採用した企業は、コストベースや競合ベース価格設定より25%高い売上成長を報告しています。
主要ツール・ソフトウェア
1. Sawtooth Software Discover
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| タイプ | Webベースプラットフォーム |
| 価格 | $4,500/ユーザー/年(約67.5万円) |
| 無料トライアル | 50人まで無料 |
| 機能 | Choice-Based Conjoint(CBC)、MaxDiff、無制限の回答者数 |
| 対象 | 標準的なCBC・MaxDiff調査 |
2. Sawtooth Software Lighthouse Studio
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| タイプ | Windowsデスクトップアプリケーション |
| 価格 | $10,900/年(約163.5万円) |
| 機能 | Adaptive CBC(ACBC)、Menu-Based Choice(MBC)、高度なコンジョイントモデル |
| 対象 | 複雑な調査設計が必要な研究者 |
| サポート | ワークショップ、カンファレンス、コンサルティングサービス |
3. Conjointly
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| タイプ | Webベースプラットフォーム |
| 価格 | 無料プラン(Basic tier)あり。回答者を自社調達する場合、追加課金なし |
| 機能 | Generic Conjoint、Brand-Specific Conjoint、SaaS-specific feature/pricing conjoint、TURF、BPTO、MaxDiff |
| 統合 | Typeform、SurveyMonkey、Qualtrics等と統合可能 |
| 対象 | コスト重視、中小規模の調査 |
4. Qualtrics Conjoint Analysis
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| タイプ | エンタープライズ市場調査プラットフォームのアドオン |
| 価格 | $13,040(初年度最低コスト、約195.6万円)= $5,040/年(Strategic Researchプラン1席)+ $8,000(コンジョイント分析アドオン)。1,000回答まで含む。追加は$1/回答 |
| 機能 | Choice-Based Conjoint、エンタープライズ統合 |
| 批判 | 機能が限定的で、2009年以降アップデートされていないような印象 |
5. その他
1000Minds、Survey Analytics、Package 'support.CEs'、Number Analytics、QuestionPro
PSM法・Gabor-Grangerとの比較
| 手法 | 測定対象 | 属性数 | 複雑さ | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| PSM法 | 価格のみ | 1 | 低 | 単一製品の価格帯探索 |
| Gabor-Granger | 価格のみ | 1 | 低 | 需要曲線の推定 |
| コンジョイント | 価格+機能+ブランド | 6-25 | 高 | 複数属性のトレードオフ |
使い分け:
- 単純な製品: PSM法やGabor-Grangerで十分
- 複雑な製品: コンジョイント分析が必須
いつ使うべきか
適している場合
- 複雑な製品で複数属性のトレードオフを評価したい場合
- 価格設定の根拠を顧客の選好から導きたい場合
- 製品パッケージングの最適化
- 市場シェア予測が必要な場合
適していない場合
- 属性が少ない単純な製品(Van WestendorpやGabor-Grangerで十分)
- 感情・ブランドイメージが主な購買要因の製品
- B2B大企業向けの超複雑ソリューション(意思決定者が多数、プロセスが長期)
ベストプラクティス
- 属性数を6以下に制限(Full-Profile)、6-8以下(CBC)
- 各属性の水準は2-4が理想
- 直交設計とlevel balanceを確保
- 価格を属性に含め、WTPを推定可能にする
- 「購入しない」選択肢を含めることで現実性を高める
- MaxDiffで属性の優先順位を特定してから、コンジョイント分析で最適パッケージを設計するという2段階アプローチ
よくある質問(FAQ)
Q1. コンジョイント分析とMaxDiffの違いは何ですか?
MaxDiffは属性の優先順位付けに特化しています。コンジョイント分析は属性の組み合わせ効果を測定できます。
実務では、MaxDiffで属性を絞り込んでから、コンジョイント分析で最適パッケージを設計する2段階アプローチが推奨されます。
Q2. サンプルサイズはどれくらい必要ですか?
Choice-Based Conjoint(CBC)では、最低200-300人、理想的には500-1,000人です。
B2B市場では、ターゲット顧客の母集団が小さい場合、100人程度でも実施可能です。
Q3. 調査期間はどれくらいかかりますか?
| フェーズ | 期間 |
|---|---|
| 設計(属性・水準決定) | 1-2週間 |
| 調査実施 | 1-2週間 |
| 分析・レポート作成 | 1-2週間 |
| 合計 | 3-6週間 |
Q4. 社内で実施できますか?
可能ですが、以下の専門知識が必要です。
- 直交設計の理解
- 統計モデリング(MNL、HB)
- 調査ツールの操作
初めての場合は、専門リサーチ会社に依頼するか、Conjointlyなどのプラットフォームを利用するのが確実です。
Q5. B2B SaaSでも有効ですか?
有効です。ただし、以下の点に注意してください。
- 意思決定者が複数いる場合、各役職の選好を個別に調査
- 複雑な機能は、顧客が理解できるレベルに簡略化
- 長期契約の場合、年間コストに換算して提示
価値ベース価格設定を採用した企業は、25%高い売上成長を報告しています。
Q6. Adaptive Conjoint(ACA)はいつ使うべきですか?
属性が20以上ある複雑なB2B製品で使用します。
ただし、回答者負荷が高い(30分以上)ため、B2C製品では避けるべきです。
Q7. 「購入しない」選択肢を入れるべきですか?
入れるべきです。これにより以下が改善されます。
- 市場シェア予測の精度向上
- WTP推定の過大評価を防止
- 現実の購買状況を模擬
まとめ
主要ポイント
- トレードオフの定量化: コンジョイント分析は、顧客がどの機能にいくら払うかを数値化します
- 4つの手法: Full-Profile、CBC、Adaptive、MaxDiffを用途に応じて使い分けます
- 6ステップの実施: 属性設計→直交設計→調査→Partworth推定→WTP計算→市場シミュレーション
- 高い投資対効果: 価値ベース価格設定を採用した企業は25%高い売上成長を報告
- 専門性が必要: 設計と分析には統計知識が必要。初めての場合はプラットフォームや専門家を活用
次のステップ
- MaxDiffで重要属性を特定する
- Conjointlyなどのプラットフォームで小規模パイロット調査を実施
- PSM法やGabor-Grangerとの併用を検討
関連記事
参考リソース
- What is Conjoint Analysis? (with examples) - Conjointly
- History of conjoint analysis | dobney.com research
- Choice-Based Conjoint (CBC) Analysis - Sawtooth Software
- How to interpret partworth utilities - Conjointly
- How To Interpret Marginal Willingness To Pay - Conjointly
- 5 Examples of Conjoint Analysis Studies in the Real World - Sawtooth Software
- Top 10 Conjoint Analysis Software Tools (Free vs Paid) - OpinionX
本記事はネクサフローのAI研究シリーズの一部です。

