PSM分析(Van Westendorp法)とは?4つの質問で最適価格を導く
AIサマリー
PSM分析は、消費者の価格感度を測定し、適正価格帯を導き出す調査手法です。4つの質問と簡単な集計のみで、許容可能価格帯を把握できます。

新製品の価格をいくらに設定すべきか。この問いに消費者データで答えるのがPSM分析です。
この記事でわかること
- PSM分析の基本: 4つの質問で価格感度を測定する手法
- 実施プロセス: アンケート設計から価格指標の導出まで
- 活用シーン: メリット・デメリットと他手法との比較
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Price Sensitivity Meter(価格感度測定) |
| 開発者 | Peter H. van Westendorp |
| 開発年 | 1976年 |
| カテゴリ | 価格調査手法 |
| 難易度 | 初級〜中級 |
PSM分析の4つの質問PSM分析とは
定義
PSM分析(Price Sensitivity Meter) は、消費者の価格感度を測定し、適正価格帯を導き出す調査手法です。
1976年、オランダ統計協会のPeter H. van Westendorpが開発しました。
開発背景
従来の価格調査は、単一価格の受容性のみを測定していました。
「この商品を5,000円で買いますか?」という質問では、消費者の価格に対する多面的な感覚を捉えられません。
Van Westendorpは、価格に対する心理的な境界線を複数測定する手法を導入しました。
4つの質問
PSM分析では、同一回答者に以下の4つの質問を順次提示します。
Q1. 高いと思う価格
この商品はいくらから「高い」と思いますか?
目的: 高いと感じ始める価格(acceptable expensive)を把握。
Q2. 安いと思う価格
この商品はいくらから「安い」と思いますか?
目的: 安い・お買い得と感じる価格(acceptable cheap)を把握。
Q3. 高すぎて買えない価格
この商品はいくらから「高すぎて買えない」と思いますか?
目的: 購入をあきらめる価格(too expensive)を把握。
Q4. 安すぎて品質不安を感じる価格
この商品はいくらから「安すぎて品質に不安を感じ始める」と思いますか?
目的: 品質不安を感じる価格(too cheap)を把握。
設計上の注意点
- 質問のニュアンスが変わると分析結果に影響します。文言はそのまま使用してください
- 商品説明文や画像を添えて、正しくイメージできるよう工夫します
- 自由記述形式で金額を回答してもらいます(選択肢は避ける)
分析プロセス
PSM分析は4ステップで実施します。
PSM分析のフローステップ1: 調査設計
調査の目的と対象を明確にします。
- 調査ゴール: 新商品の価格検証/既存商品の値上げ・値下げ等
- ターゲット: 年齢・性別・購買経験等でセグメント定義
- 母集団: 誰を対象にするか明確化
- 価格レンジ: 市場・競合データから仮設定
ステップ2: アンケート実施
4つの質問を同一回答者に順次提示します。
- 商品説明: 画像、スペック、用途を明記
- 質問順序: 固定(順番を変えない)
- 回答形式: 自由記述で金額を記入
- サンプルサイズ: 最低30人以上
| 対象 | 推奨サンプルサイズ |
|---|---|
| 最低限 | 30人 |
| BtoC | 100人以上 |
| BtoB | 50人以上 |
BtoCでは回答の幅が広いため、多めのサンプルが必要です。
ステップ3: 累積分布曲線の作成
Excelで累積分布曲線を作成します。
手順:
- 4つの質問の回答を価格ごとに集計
- 累積構成比を計算(「COUNTIF」「COUNT」関数を使用)
- 「高い」「高すぎて買えない」: 価格の低い方から累積(右肩上がり)
- 「安い」「安すぎる」: 価格の高い方から累積(右肩下がり)
- 縦軸:回答者の割合、横軸:価格で折れ線グラフ作成
ステップ4: 交点の確認と解釈
4つの曲線の交点から、4つの価格指標を導出します。
4つの重要な価格指標
PSM分析では、累積分布曲線の交点から4つの価格指標が導出されます。
PMC(Point of Marginal Cheapness)- 下限価格
- 定義: 「高い」と「安すぎて買いたくない」の交点
- 意味: 許容可能価格帯の下限。これより低いと品質不安が購入意欲を上回る
活用例: セール特価はPMC付近で設定。
OPP(Optimal Price Point)- 妥協価格
- 定義: 「高すぎて買えない」と「安すぎて買いたくない」の交点
- 意味: 「高すぎる」と「安すぎる」と感じる人の割合が等しくなる価格。理論上の最適価格
活用例: 初期価格設定の基準値。
IDP(Indifference Price Point)- 理想価格
- 定義: 「高い」と「安い」の交点
- 意味: 「高い」と「安い」と感じる人の割合が等しくなる価格
活用例: 価格感度が低い商材では、IDPがOPPより高くなる傾向があります。
PME(Point of Marginal Expensiveness)- 上限価格
- 定義: 「高すぎて買えない」と「安い」の交点
- 意味: 許容可能価格帯の上限。これより高いと購入拒否が急増
活用例: ハイブランド戦略ではPME付近で設定。
RAP(Range of Acceptable Price)- 許容可能価格帯
- 範囲: 下限価格(PMC)〜 上限価格(PME)
- 意味: 消費者が特定の商品に持つ値ごろ感
この範囲内では価格差はあまり認識されず、範囲外だと「高い」「安い」と強く感じます。
戦略的な価格設定
4つの価格指標を、戦略に応じて使い分けます。
| 戦略 | 価格設定範囲 | 目的 |
|---|---|---|
| 市場シェア重視 | PMC〜OPP | 多くの顧客に受け入れられる価格 |
| 収益重視(スキミング戦略) | OPP〜PME | 利益率を最大化 |
| ハイブランド戦略 | PME付近 | ブランド価値の強調 |
| セール特価 | PMC付近 | 在庫処分・新規顧客獲得 |
購買可能性の推定:検討内顧客割合
4つの交点の限界
PSM分析の4つの価格指標(PMC、OPP、IDP、PME)は、価格帯の境界を示すものです。
しかし、厳密には**「この価格にした場合、買う可能性がある顧客はどの程度存在するのか」を特定することができません**。4つの交点はその問いに直接答えていないからです。
検討内顧客割合による応用
そこで、PSM分析の応用的な考え方として、検討内顧客割合を用いる手法があります。
検討内顧客の定義: その価格を「高すぎる」とも「安すぎる」とも思っていない人。
つまり、ある価格帯において:
- 「高すぎて買えない」と回答していない
- 「安すぎて品質不安を感じる」と回答していない
この条件を満たす回答者の割合を算出することで、「買う可能性がある顧客がどの程度存在するか」に対する示唆を得ることができます。
計算方法
ある価格Pにおける検討内顧客割合は、以下の式で算出します。
検討内顧客割合(P) = 100% − 高すぎる累積%(P) − 安すぎる累積%(P)
この指標を価格ごとにプロットすることで、検討内顧客割合が最大となる価格帯を特定できます。
注意: 検討内顧客割合は「購入確率」ではありません。あくまで「検討対象から外れていない顧客の割合」であり、購買意欲や購入確率とは別の概念です。
Newton-Miller-Smith拡張(1993年)
PSM分析の標準版には限界がありました。
限界: 受容価格帯は分かるが、実際の購入率は予測できない。
1993年、Newton、Miller、Smithの3名が、PSM分析を拡張しました。
追加質問
- 「安い」価格での購入意向(5段階評価)
- 「高い」価格での購入意向(5段階評価)
追加メリット
- 価格受容性データを実際の購入確率に変換
- 需要曲線(Demand Curve) の作成が可能
- 収益曲線(Revenue Curve) の作成が可能
- 収益最大化価格の算出が可能
- 市場シェア最大化と収益最大化のトレードオフを可視化
この拡張により、PSM分析は価格受容性の測定から購買行動予測へと進化しました。
メリット
実装の簡易性
4つの質問項目と簡単な集計のみで分析可能です。専門的なツールが不要。
低コスト
Excelやスプレッドシートだけで実施できます。外部ツール費用が不要。
回答バイアスの低減
自由記述形式のため、選択肢による誘導が少なくなります。
直接質問法と比べて、実際の支払い意欲より低い価格で回答が集まるリスクが低い。
定量的な根拠
消費者データに基づく客観的で根拠のある価格設定が可能です。
価格帯の幅を把握
単一の最適価格だけでなく、許容可能価格帯(RAP)を把握できます。
戦略的活用
4つの価格指標を用途に応じて使い分け可能です。
デメリット・限界
PSM分析は万能ではありません。以下の限界を理解して使用してください。
| デメリット | 説明 | 重要度 |
|---|---|---|
| 競合考慮の欠如 | 標準実装では競合製品の価格を明示的に考慮しない。競合が多い市場では現実との乖離が発生しやすい | 高 |
| ブランド価値の未反映 | 消費者が価格のみで評価し、ブランド価値、品質、市場トレンドを考慮しない前提。プレミアムブランドや高級品には不向き | 高 |
| 新製品・革新的製品への不向き | 対象者に価格イメージがない商材では非現実的な価格が算出される。住宅など高額商品にも不向き | 中 |
| 原価・収益性の未考慮 | 導出される価格が原価割れする可能性がある。コスト構造や利益率を別途検証する必要がある | 高 |
| 購買行動予測の限界 | 標準版では「受容価格帯」は分かるが、実際の購入率は予測できない(Newton-Miller-Smith拡張で一部解決) | 中 |
| 仮想バイアス | 回答者は実際の購入コミットメントなしに価格を述べるため、実際の支払い意欲とズレる可能性がある | 中 |
| 理論値の限界 | あくまで理論上の適正価格であり、実市場での検証が必要 | 低 |
推奨される使用シーン
- 価格帯が未確定の新製品の初期価格設定
- 競合が少ない市場
- BtoB商品で顧客数が限定的な場合
- 既存商品の値上げ・値下げの影響度測定
推奨されないシーン
- 競合が多い成熟市場
- プレミアムブランド・高級品
- まったく前例のない革新的製品
- 住宅・自動車など超高額商品
活用事例
事例1: SurveyMonkey(SaaS)
課題: アンケート配信ツールの価格変更
アプローチ: 顧客セグメンテーション、質的インタビュー、PSM分析を組み合わせ
結果: 顧客数と売上の増加に成功
事例2: 動画配信サービス
課題: 価格感度の測定と複数プラン設定
アプローチ: PSM分析で価格帯を把握し、異なる価格帯で複数プランを設定
結果: 新規加入者増加、解約率削減
事例3: 小売・新ジャンル商品
課題: 競合のいない新製品の価格設定
アプローチ: PSM分析で許容可能価格帯(3,000〜5,000円)を把握し、妥協価格4,000円で設定
結果: 限定地域販売で想定を上回る販売数を達成し、全国展開へ
事例4: 小売・既存主力商品
課題: 主力商品の価格設定見直し
アプローチ: PSM分析で受容価格帯7,000〜9,000円を把握。一時的に理想価格7,500円で販売後、9,000円に設定
結果: 販売数が継続して伸びた
事例5: 食品(醤油・ケチャップ等)
課題: 特売品カテゴリでの価格設定
アプローチ: PSM分析で理想価格が妥協価格より高くなる傾向を発見
結果: ワンランク上の付加価値商品(丸大豆醤油等)のヒントに
他手法との比較
PSM分析以外にも、価格調査の手法は複数あります。
Gabor-Granger法
概要: 各回答者が支払う最大価格を見つけ、価格弾力性を予測する手法。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 実装が高速で簡単、収益最大化価格の算出が可能 |
| デメリット | 価格上昇シナリオに限定、既存製品にのみ適用、「価格ゲーム」であることが明白で回答バイアスが発生、競合考慮が不足 |
| PSMとの違い | Gabor-Grangerは収益最大化に特化、PSMは許容価格帯の把握に特化 |
コンジョイント分析
概要: 価格と非価格属性(品質、ブランド、機能等)を組み合わせて、顧客選好を測定する手法。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| メリット | 価格感度だけでなく属性重要度も測定可能、数百〜数千の製品バリエーションの価格感度を推定可能、競合を含む選択シナリオを設定可能 |
| デメリット | 実装が複雑、高コスト、分析に専門知識が必要 |
| PSMとの違い | コンジョイント分析はPSMやGabor-Grangerを大きく上回る分析能力を持つが、複雑さとコストがトレードオフ |
手法選択の推奨
| 手法 | 使用シーン |
|---|---|
| PSM | 市場が受容可能な価格帯が不明な場合 |
| Gabor-Granger | 需要の弾力性測定と収益最大化価格の算出(ただし限界が多い) |
| コンジョイント分析 | 価格と非価格属性の両方を考慮し、競合を含む複雑な価格設定が必要な場合 |
実践のヒント
調査設計
- 商品説明文は具体的に: 画像、スペック、用途を明記
- 質問順序は固定: 4つの質問の文言を変えない
- 市場価格の事前調査: 価格レンジの上下限を仮設定
- サンプル選定: 実際の販売対象に近い回答者を選定
データ分析
- Excelテンプレート活用: 専門ツール不要
- COUNTIF、COUNT関数: 累積分布曲線の作成に使用
- グラフの範囲調整: 交点が明確に確認できるよう価格軸を調整
価格設定戦略
- 市場シェア重視: PMC〜OPP の範囲で設定
- 収益重視(スキミング戦略): OPP〜PME の範囲で設定
- ハイブランド戦略: 上限価格(PME)付近で設定
- セール特価: 下限価格(PMC)付近で設定
検証
- PSM分析は参考指標: 実市場での検証が必須
- 総合判断: 競合価格、コスト構造、利益率を考慮
- テスト販売: 限定地域でテスト販売し、実際の購買データで検証
- Newton-Miller-Smith拡張: 購買意欲データと組み合わせる
よくある質問(FAQ)
Q1. PSM分析で最適価格は1つに決まりますか?
いいえ、決まりません。
PSM分析は、許容可能価格帯(RAP)を示します。戦略に応じて、その範囲内で価格を決定します。
Q2. サンプルサイズはどのくらい必要ですか?
最低30人以上が推奨されます。
BtoCでは回答の幅が広いため、100人以上が望ましいです。BtoBでは50人以上が目安です。
Q3. 既存商品の値上げにも使えますか?
はい、使えます。
値上げ前後の価格感度を比較することで、値上げの影響度を測定できます。
Q4. 競合が多い市場でも使えますか?
注意が必要です。
PSM分析は競合価格を明示的に考慮しません。競合が多い成熟市場では、現実との乖離が発生しやすくなります。
競合を含む分析が必要な場合、コンジョイント分析の方が適しています。
Q5. 原価割れする価格が算出されたらどうすればよいですか?
PSM分析はコスト構造を考慮しません。
導出された価格が原価割れする場合、別途コスト構造や利益率を検証し、価格設定を調整してください。
まとめ
主要ポイント
- PSM分析の基本: 4つの質問で消費者の価格感度を測定し、許容可能価格帯を導出
- 実施は簡単: Excelだけで実施可能。外部ツール費用が不要
- 限界を理解: 競合考慮の欠如、ブランド価値の未反映などの限界を理解して使用
次のステップ
- PSM分析のExcelテンプレートを探して試してみる
- 自社商品の価格設定をPSM分析で検証してみる
- Newton-Miller-Smith拡張を学び、購買行動予測に活用する
関連記事
参考リソース
- Van Westendorp's Price Sensitivity Meter - Wikipedia
- 価格調査に使えるPSM分析とは?基本をわかりやすく解説 - freeasy
- PSM分析のメリット・デメリットや活用・調査方法を解説 - NTTコム オンライン
- Van Westendorp Price Sensitivity Meter - Conjointly
- Van Westendorp's Price Sensitivity Meter - Wikipedia
本記事はネクサフローのAI研究シリーズの一部です。
