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AIサマリー
Personio CRO Philip Lorが語る、セールス組織のAI変革戦略。2時間のリサーチが15分に短縮、パイプライン生産性2倍を実現した4つの実践事例と、AI文化構築の5つの教訓を詳解。
セールス組織のAI変革は「実験」から「実装」のフェーズに入りました。Personio(従業員1,500名、顧客15,000社)のCRO Philip Lorは、SaaStrロンドンで自社のAI導入事例を公開しました。
元動画: SaaStr Podcast - Philip Lor, Personio
本記事は、上記動画の内容をもとに、ネクサフローの視点で再構成したものです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | AI powered go-to-market |
| カテゴリ | 企業分析・講演解説 |
| 難易度 | 中級(SaaS営業組織の責任者向け) |
| 登壇者 | Philip Lor (CRO, Personio) |
| イベント | SaaStr Podcast / SaaStr Conference |
| 企業規模 | 従業員1,500名、顧客15,000社、セールス400名 |
Personioは、ミュンヘンを拠点とする後期ステージのHR・給与プラットフォームです。約1,500名の従業員を抱え、15,000社の顧客にサービスを提供しています。セールスチームだけで約400名という規模で、SaaS企業のAI導入事例として注目を集めています。
Philip自身が「毎日目覚めて『もっと速く進まなければ』と考えています」と語るように、AI導入に対する強い危機感と機会認識を持っています。
AI powered go-to-marketとは、セールス・マーケティング・カスタマーサクセスの全プロセスにAIを組み込み、営業組織の生産性を劇的に向上させる戦略です。
| 項目 | 従来のGTM | AI powered GTM |
|---|---|---|
| データ収集 | 手動、分散、重複あり | 自動、集約、リアルタイム |
| リサーチ時間 | 2時間/日(ESDR) | 15分/日(AI検索アシスタント) |
| 競合分析 | 四半期ごとの手動更新 | リアルタイム自動更新(Gong + LLM) |
| インバウンド対応 | 営業時間のみ(9-18時) | 24/7対応(AI SDR) |
| 意思決定 | 経験と勘 | データドリブン + AIレコメンデーション |
Personioの事例では、以下のような非線形な効果が現れています:
"Can we double the business with the same headcount? That's for me the big question."
「同じヘッドカウントでビジネスを2倍にできるか?それが私にとっての大きな問いです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Personioは2025年5月に「AI Search Week」を開催し、全従業員にLLMアクセスを提供しました。6月中旬からAI powered go-to-marketワーキンググループを開始し、現在では90%の従業員が週次でLLMを利用しています。
AI powered go-to-market 5つの教訓AI導入は、ボトムアップ(全員にツール提供)とトップダウン(予算・リソース決定)の両方が必要です。
重要: 実験フェーズから本格導入へ移行する際、トップダウンの意思決定がないと「アイデアの乱立」で停滞します。
日本企業での適用ポイント
多くの日本企業では、ボトムアップの実験は進むものの、トップダウンの予算承認に時間がかかります。CROやCEOが「AI予算は別枠で確保する」と宣言することで、スピードが劇的に変わります。
Personioは15名のワーキンググループを組成しました。構成は以下の通りです:
15名のクロスファンクショナルチーム| チーム | 役割 |
|---|---|
| Data & Systems Team | インフラ管理、Snowflake運用 |
| Revenue Operations | Go-to-market Engineers 2名を含む技術担当 |
| Business | Marketing、Sales、Customer Successの現場視点 |
RevOps内の技術担当者です。Personioは2名を配置し、以下の役割を担います:
"We also made the initial working group fairly large. 15 people is a lot. And we did that also to have like broad coverage of all the functions."
「初期のワーキンググループをかなり大きくしました。15人は多いですが、すべての機能を広くカバーするためです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
日本の中小SaaS企業での適用
15名のワーキンググループを組成するのは難しいかもしれません。まずは以下の3名体制から始めることをお勧めします:
段階的に拡大することが現実的です。
AI導入初期、Personioは「アイデアの乱立」に悩まされました。Slackチャンネルに次々とアイデアが投稿されるものの、最初のプロジェクトが完了しないまま新しいプロジェクトが始まる状態でした。
Go-to-market Engineerの1人が、Account Managerを2週間シャドウイングしました。結果:
この分析により、「どのタスクにAIを適用すべきか」が明確になりました。
Jobs to be doneフレームワークとは
Clayton Christensen教授が提唱した概念で、「顧客が達成したい仕事(Job)」を分析するフレームワークです。Personioはこれを営業ロールに適用し、「このロールは何を達成するために雇われているか?」を明確化しました。
詳細はJobs to be doneフレームワークを参照ください。
技術的に優れたAIソリューションを導入しても、組織が受け入れなければ効果は出ません。Personioは以下の方程式を重視しています:
変革効果 = プランの質 × 受容度
"The effect of a transformation is the quality of the plan times the acceptance. So 5 times 5 is a lot bigger than 10 times 1."
「変革の効果 = プランの質 × 受容度。5×5は10×1よりずっと大きい。」
— Philip Lor, CRO, Personio
AI文化構築の3つの柱| 柱 | 具体的施策 |
|---|---|
| Leading | リーダー自身がロールモデルに。Philip自身がGongのAI機能をデモ |
| Sharing | チームが構築したアシスタント(RFP回答、顧客デッキ)を社内共有 |
| Celebrating | President's Clubに2-3席のAI貢献者枠を用意(翌年はさらに増席) |
Philip自身が、Deal Review(商談レビュー)で以下のようにロールモデルを示しています:
Personioは「新しいツールを無限に試す」アプローチを避け、既存スタックにLLMを重ねる戦略を取りました。
Personioのテックスタック| レイヤー | ツール | 役割 |
|---|---|---|
| CRM | Salesforce / HubSpot | 顧客データの中核 |
| 会話インテリジェンス | Gong | 顧客会話データの心臓部 |
| Website Chat | Qualified | 高速ミーティング予約(AI SDR) |
| データウェアハウス | Snowflake | 構造化・非構造化データの集約 |
| LLM | Amazon Bedrock | 複数LLMを利用可能 |
| Sales Engagement | Gong Engage | アウトバウンド自動化 |
Personioは、Snowflakeに以下のデータを集約しました:
このコンテクストがあるからこそ、LLMは「Personio固有の回答」を生成できます。
データインフラ整備の重要性(日本企業向け)
Personioは、Salesforceの33%が重複データだったことを発見し、自動重複排除を実施しました。日本企業でも、SalesforceとGongのデータが分断されているケースが多いため、まずは以下から始めることをお勧めします:
従来、営業担当者はSalesforceに勝敗理由を入力していましたが、以下の問題がありました:
Personioは、以下のデータフローを構築しました:
Gong(会話データ)→ Snowflake → LLM → Battle Card自動更新
| 指標 | Before | After |
|---|---|---|
| Battle Card更新頻度 | 四半期ごと | リアルタイム |
| 競合分析の深さ | 表面的 | 10-15%詳細化 |
| 製品フィードバック | 主観ベース | データドリブン |
LLMで10,000件の通話を分析した結果、以下のような製品フィードバックが可能になりました:
製品チームへの提案が、経験ベースではなくデータドリブンになったことで、信頼性が向上しました。
Personioには約15,000社の既存顧客がおり、Expansion SDRがクロスセル(新製品の追加販売)を担当しています。
Jobs to be doneマッピングの結果、以下が判明しました:
Go-to-market Engineersが、Salesforceに統合された検索アシスタントを構築しました。
Expansion SDR Before/After"The research time that an ESDR spent on this work went from 2 hours a day to 15 minutes."
「Expansion SDRのリサーチ時間は1日2時間から15分になりました。」
— Philip Lor, CRO, Personio
| 指標 | Before | After | 改善率 |
|---|---|---|---|
| リサーチ時間 | 2時間/日 | 15分/日 | 92%削減 |
| パイプライン/FTE | 基準値 | 2倍 | 100%向上 |
| アポ取り・顧客対応時間 | 少ない | 増加 | - |
この事例は、PersonioのAI活用事例の中で最もROIが高いものの1つです。
多くの企業は**Account Score(静的な企業属性)**でアウトバウンド優先順位を決めています。Personioはこれに加えて、**Intent Score(動的な購買シグナル)**を導入しました。
| スコアタイプ | 内容 | 更新頻度 |
|---|---|---|
| Account Score | 企業規模、業種、地域などの静的属性 | 月次/四半期 |
| Intent Score | Web訪問、元ユーザー転職、G2レビューなど | 毎日 |
Personioのデータサイエンスチームが、以下のシグナルをIntent Scoreに組み込みました:
Intent Scoreは、営業担当者がすでに使っているSalesforceに統合されています。
これにより、営業担当者は「今日どのアカウントにアプローチすべきか?」を一目で判断できます。
従来のアウトバウンドは「Account Score Aのリスト」を上から順に電話していましたが、Intent Scoreを組み合わせることで、以下のような優先順位付けが可能になりました:
Intent Score構築のヒント
Personioは独自開発しましたが、以下のような既存ツールでもIntent Scoreを構築できます:
まずは小さく始め、徐々にシグナルを追加することをお勧めします。
Personioは当初、QualifiedをAI目的ではなく、高速ミーティング予約とWeb訪問Intent把握のために導入しました。
しかし、QualifiedがAI SDR機能を追加したことで、PersonioはAI Chat「NIA」を本格展開しました。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| ミーティング予約 | 140件/7日間 |
| Webセッション数 | 200,000 |
| 稼働時間 | 24/7 |
NIAは、金曜夜11時のデモリクエストにも即座に対応します。「なぜ金曜夜11時に?」と思うかもしれませんが、実際にそのタイミングでデモを依頼する顧客は存在します。
従来の営業時間(9-18時)では、この機会を逃していました。
NIAは以下のような不適切な応答をすることがありました:
Personioは、**Ami(専任トレーナー)**をNIAに配置しました。Amiは以下を毎日実行します:
"We don't have an Amelia, but we have an AM. And she's she's here. She's sitting over there. And we did say like, yeah, someone needs to like take accountability for for NIA for the AIDR and train the chat like every day."
「Amelia(インタビュアーの名前)ではなく、Amiがいます。彼女は専任でNIAの訓練を毎日行います。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Personioは、NIAのトレーニング不足により、最初の4週間でデモリクエストを無駄にした可能性を認めています。
「デモ予約 + 価格質問 + 製品質問」のように、複数質問が同時に来た場合、AIがどのフローを優先すべきか迷うことがあり、結果としてミーティングを予約できないケースがありました。
Philip自身が週末にNIAのチャット履歴を読み、スクリーンショットをSlackで共有しています。
この両極端な品質が、AIは毎日の監視・改善が必須であることを示しています。
| ツール | 役割 | 導入時期 |
|---|---|---|
| Salesforce / HubSpot | CRM | 既存 |
| Gong | 会話データの心臓部 | 2025年初頭 |
| Qualified | AI SDR「NIA」 | 当初は非AI用途 |
| Snowflake | データウェアハウス | 既存(拡張) |
| Amazon Bedrock | LLM | 2025年6月 |
| Gong Engage | Sales Engagement(Grooveから切り替え) | 2025年中 |
Personioは以下のツールを試行中ですが、深く使い込むことを優先しています:
| ツール | 用途 | 状況 |
|---|---|---|
| Clay | Outbound自動化 | PoC完了 |
| Artisan | AI SDR(Outbound) | 評価中 |
| Hyperbound | Rep coaching | テスト中 |
| Finn | Customer support agent | ロールアウト予定 |
"The point is not to take like test every single one of them. You got to pick a couple and and go really deep with them."
「すべてのツールをテストすることがポイントではありません。いくつかを選んで、深く使い込むことが重要です。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Personioは、AI導入前にデータインフラの整備を優先しました。Salesforceのデータ分析で、33%が重複データだったことが判明したのです。
Personioは、以下のデータをSnowflakeに集約しました:
この「Context」があるからこそ、LLMはPersonio固有の回答を生成できます。
多くの企業は、構造化データ(CRM)と非構造化データ(Gong通話)が分断されています。Personioは、Snowflakeでこれらを統合し、LLMが「営業担当者Aの最近の商談で、顧客が『競合Bの機能が優れている』と発言した」というコンテクストを理解できるようにしました。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| LLM利用率 | 90%(週次利用) |
| 構築アシスタント数 | 400個(トップ10が80%の価値) |
| リサーチ時間削減 | 2時間/日 → 15分/日(ESDR) |
| パイプライン向上 | 約2倍(ESDR) |
| ミーティング予約 | 140件/7日間(NIA) |
| Webセッション | 200,000(NIA) |
| AI投資額 | 6桁ドル以上(各AI SDRは約$100k) |
| 効果 | 説明 |
|---|---|
| Deal velocity向上 | 商談サイクルの短縮 |
| Win rate改善 | 勝率の向上(具体的数値は非公開) |
| 顧客維持率向上 | チャーン率の低下 |
| 仕事の質向上 | 単純作業から解放され、顧客対応に集中できる |
ROIは「リサーチ時間削減」のような単一指標ではなく、複数の領域で非線形に現れることを理解する必要があります。
"I think the ROI isn't instant but I do think it shows up in many places. deal velocity, pipeline velocity, customer retention, pipeline quality, win rate, but also in making people works easier."
「ROIはすぐには現れませんが、多くの場所で現れます。Deal velocity、Pipeline velocity、顧客維持率、パイプライン品質、Win rate、そして仕事をより楽にすることです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Philipにとって、AIの究極的な目標は以下です:
"Can we double the business with the same headcount? That's for me the big question."
「同じヘッドカウントでビジネスを2倍にできるか?それが私にとっての大きな問いです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
これは、単なるコスト削減ではなく、成長加速を意図しています。
セールス組織のメンバーから「AIで仕事がなくなるのでは?」という懸念が寄せられた際、Philipは以下のように答えています:
"The best career advice I can give you is lean into AI. And what we do know is that everybody's jobs will evolve including mine."
「最高のキャリアアドバイスは『AIに積極的に取り組め』です。全員の仕事が進化します。私も含めて。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Philipは「一部のチームは縮小し、別のチームは拡大する」と明言しています。例えば:
重要なのは、リソースを再配分することです。
"Curiosity. For me the number one characteristic is curiosity."
「好奇心。私にとって最も重要な特性は好奇心です。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Philipは、AI時代の採用基準として「好奇心」を最重視しています。好奇心がある人は、新しいツールを積極的に試し、改善方法を考え続けます。
"It's about doing AI instead of learning AI."
「AIを学ぶのではなく、AIを実践することが重要です。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Philipは、SaaStrでの質問「避けるべき失敗は?」に対して、「ツールを無限にテストすること」と「AIを学ぶだけで実践しないこと」を挙げました。
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| アイデアの乱立 | Jobs to be done + Customer Journey |
| AIチャットの不適切応答 | 専任担当者(Ami)の配置 |
| データ重複 | 自動De-duplication |
| 課題 | 現状 |
|---|---|
| データの鮮度管理 | 古いデータをどう削除・更新するか検討中 |
| エージェント間連携 | 商用(NIA)と非商用(Finn)の連携方法を模索中 |
| 複数質問の同時処理 | デモ予約+価格質問+製品質問の優先順位フロー改善 |
Personioは現在、400個のアシスタントを構築していますが、トップ10が80%の価値を生み出しているため、最終的には3-5個のエージェントに収束する予定です。
ボトムアップ(全員にLLM提供)とトップダウン(予算確保)の両輪で進めることが重要です。まずはGongやSalesforceなど既存スタックのAI機能を試すことから始めましょう。Personioでは90%の従業員が週次でLLMを利用しています。
Personioは10-20システムを統合した検索アシスタントで、Expansion SDRのリサーチ時間を1日2時間から15分に短縮しました。Salesforce統合がポイントで、パイプライン生産性は2倍に向上しています。
Gongの通話データをSnowflakeに集約し、LLMで競合Battle Cardを自動更新することで、10-15%の強化とリアルタイム更新を実現できます。製品チームへのデータドリブンフィードバックも可能になります。
専任トレーナーによる毎日のフィードバックが必須です。PersonioはAmiを専任配置し、不適切な応答(法的アドバイス、競合批判等)を監視・改善しています。最初の4週間はトレーニング不足で機会損失もありました。
PersonioではExpansion SDRアシスタントがパイプライン生産性2倍を達成しました。リサーチ時間を2時間から15分に短縮し、アポ取りや顧客対応により多くの時間を割けるようになったことが成功要因です。
『変革効果 = プランの質 × 受容度』の方程式を意識します。Lead(リーダーがロールモデル)、Share(事例共有)、Celebrate(President's Clubに2-3席のAI貢献者枠)の3つの柱で推進することが有効です。
Personioは400個のアシスタントを構築しましたが、トップ10が80%の価値を生み出しています。最終的には3-5個のエージェントに収束する予定で、深く使い込むことが重要です。
RevOps内の技術担当者です。PersonioはGo-to-market Engineers 2名を配置し、Data & Systems TeamとBusinessの橋渡し役を担っています。ビジネスコンテクストと技術の両方を理解することが重要です。
"I wake up every day thinking we need to go faster. We need to go faster. But that is the opportunity for everybody."
「毎日目覚めて『もっと速く進まなければ』と考えています。しかし、これは全員にとってのチャンスなのです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Personioの事例から学べることは、AI導入は技術だけでなく、組織文化と密接に関わるということです。以下のステップで始めることをお勧めします:
本記事はネクサフローのAI研究シリーズの一部です。
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