この記事の要約
Jason LemkinのSaaStr AI London AMAを、営業運用の読み筋として整理。インバウンド、AI SDR、製品理解、予算配分、moatの縮み方を、買い手の優先課題に入るための実務メモとして解説します。
Jason Lemkin の SaaStr AI London AMA は、「AI で営業が終わる」という話ではありません。むしろ、買い手の優先課題に入るには、営業・マーケ・プロダクト・導入支援をひとつの運用として束ねる必要がある、という実務メモとして読むのが自然です。
本稿では、インバウンド、アウトバウンド、AI SDR、製品理解、予算配分、moat の縮み方を、営業組織が明日から見直せる運用単位に分けて整理します。数字やモデル名は後半の snapshot に寄せ、ここでは変わりにくい判断軸から入ります。
本稿の読み方
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | SaaS営業運用、AI時代のGTM |
| カテゴリ | 対談解説 |
| 難易度 | 中級~上級 |
| 対象読者 | SaaS企業経営者、営業責任者、マーケター |
AMA の中心は、「戦術が壊れた」という嘆きではなく、「同じ戦術でも、勝てる場所と運用密度が変わった」という指摘です。ウェビナー、インバウンド、アウトバウンド、プロダクト主導の導線はまだ使えます。ただし、買い手が抱える上位の課題に刺さらないものは、AI 予算や値上げのしわ寄せで外されやすくなります。
AI SDR も同じです。ツール名より先に、人間の営業が勝てるスクリプト、CRM やデータウェアハウスの接続、毎日のレビュー、失敗した返信の修正が必要です。Lemkin 氏の論点は「AI で人が不要になる」ではなく、「人間側の勝ち筋を言語化できない組織ほど、AI に丸投げして失敗する」です。
moat の話も、単にスピードだけを煽るものではありません。機能が真似されやすいなら、顧客の業務に深く入る導入体験、プロダクトを説明できる営業、使用ログから改善する仕組みが重要になります。
SaaStr 公式記事の主張は、インバウンドが終わったという話ではありません。SaaStr 自身も、SEO が弱くなった一方で、AI GTM 関連コンテンツへの需要が伸びたと説明しています。
ここから読み取るべき実務上の論点は、チャネルを消すかどうかではなく、どのテーマに時間と制作力を配分するかです。従来の SaaS 運営論だけでは読まれにくくなっても、AI エージェント、GTM、導入運用のような強い関心領域では同じチャネルが動きます。
| 観点 | 旧来の読み方 | AMA からの読み替え |
|---|---|---|
| ウェビナー | 集客施策 | 高関心テーマで信頼を深める場 |
| インバウンド | SEO 流入の量 | 需要が強いテーマへ編集資源を寄せる運用 |
| アウトバウンド | 量を増やす営業 | 買い手の上位課題に刺さる相手だけへ絞る営業 |
| コンテンツ | 検索キーワードの量産 | 顧客が社内で予算を取りに行ける材料を渡す資産 |
ポイント: 「チャネルが終わった」と決めつける前に、買い手の関心が移った場所へ自社のテーマを寄せられているかを確認します。
SaaStr 公式記事では、AI 開発ツール、音声生成ツール、プレゼン生成ツールなどが、AI 領域で急速に伸びている例として紹介されています。重要なのは、これらの企業が「営業をやめた」わけではない点です。むしろ、B2B SaaS の経験者が、より強い需要をさばくために同じ基本動作を使っている、という読み筋です。
旧稿では個別企業の成長数字が本文の中心に置かれていました。しかし、その数字は動きやすく、記事の主張を古く見せます。本稿では、数字そのものよりも次の観点を残します。
AI B2B企業の成長曲線Lemkin 氏は、企業ソフトウェア予算が伸びても、すべてのベンダーが恩恵を受けるわけではないと説明しています。既存ベンダーの値上げや AI 関連の新規予算が優先されると、nice-to-have なツールは削られやすくなります。
企業ソフトウェア予算15%成長の内訳営業側の問いは、「市場全体に予算があるか」ではなく、「この買い手の上位課題に自社が入っているか」です。
SaaStr 公式記事では、AI SDR / BDR ツールの失敗理由として、買っただけで営業チームや代理店に渡してしまうパターンが挙げられています。Lemkin 氏の主張はかなり実務的です。人間で売れていないものを、AI が勝手に売れるようにはしてくれません。
AI SDR正しい実装フローAI SDR は、営業チームの代替品というより、営業チームの勝ち筋を増幅する運用レイヤーです。勝ち筋が曖昧なまま導入すると、誤った動作も増幅されます。
Lemkin 氏は、AI 時代の営業では「人柄」や「一般的な価値訴求」だけでは足りないと述べています。買い手はすでに製品を触り、技術的な制約や実装上の不安を持った状態で商談に来ます。そこで価値を出せるのは、プロダクトの機能、制限、回避策、導入手順を具体的に語れる人です。
| 従来の営業で評価されがちだった力 | AI 時代により重くなる力 |
|---|---|
| 関係構築 | 顧客の業務に合わせた導入設計 |
| 汎用的な ROI トーク | 実データ、実ワークフロー、短い検証で示す価値 |
| 機能の説明 | 機能の限界、回避策、他システムとの接続の説明 |
| クロージング | 導入後に成果が出るまでのレビュー設計 |
プロダクトに詳しいソリューションアーキテクトが商談の主役になる話は、この流れをよく表しています。営業は価値を語るだけではなく、価値が出るところまで連れて行く役割へ寄っています。
SaaStr 公式記事では、EchoSign 時代にはスタートアップに追随されるまで 12〜18ヶ月ほどあった一方、AI で機能を再現しやすくなった後は優位が短くなっている、という趣旨が語られています。旧稿の「2週間で消える」という表現は強いため、本稿では Lemkin 氏の例示として残し、一般論としては「月単位に縮みやすい」と扱います。
競争優位の寿命の変化moat が短くなるなら、差別化は機能単体から、顧客接点全体へ移ります。
技術的な優位だけで守るのではなく、運用と顧客理解を積み上げることが重要です。
Lemkin 氏は、Replit を使って短期間で複数のアプリを作った経験を紹介しています。ここでの示唆は、「誰でも何でも作れる」という万能論ではありません。作りたいもの、既存の参考形、入力と出力が明確なワークフローがあるほど、AI 開発ツールは速くなります。
Jason LemkinのReplit開発実績| 向いている場面 | 注意が必要な場面 |
|---|---|
| 既存業務の小さな自動化 | ゼロからの事業仮説づくり |
| 明確な社内ツール | 複雑な権限や監査を含む基幹機能 |
| prototype / demo | 本番運用のセキュリティ設計 |
| 既存アプリの近い再現 | 前例のない体験設計 |
営業やマーケの現場では、商談準備、FAQ、社内申請、簡易スコアリングなど、入力と出力が明確な作業から試すのが現実的です。
Lemkin 氏は、アウトバウンドそのものを否定していません。ただし、誰にでも大量に送ればよいという話でもありません。買い手の「上位3つの課題」に入っているなら、cold email でも読まれる余地があります。入っていないなら、どれだけ件数を増やしても反応は弱くなります。
アウトバウンド営業成功の条件営業チームが点検すべき問いは次の通りです。
重要: AI でメール量を増やすほど、弱い仮説も増幅されます。量を増やす前に、買い手の上位課題に入る言葉になっているかを確認します。
Lemkin 氏は、複雑な B2B ソフトウェアが一気に置き換わるとは見ていません。CRM、ERP、業務システムには、データ、権限、例外処理、監査、社内政治が絡みます。一方で、周辺機能や小さなワークフローは削り取られます。
この論点は、SaaS 企業にとって二つの問いに分かれます。
AGI という大きな言葉よりも、顧客が自分で小さな代替物を作れるようになった時、自社がどこで価値を出すのかを考える方が実務的です。
終わったというより、需要のあるテーマが変わっています。SaaStr の例では、SEO が弱くなった一方で、AI GTM への関心が traffic を押し上げたと説明されています。チャネルの否定ではなく、テーマ配分の見直しとして読むべきです。
買うだけでは難しいです。人間の営業で勝てるメッセージ、データ接続、毎日のレビュー、返信内容の修正が必要です。AI SDR は勝ち筋を増幅しますが、勝ち筋そのものを自動で発見してくれるわけではありません。
製品理解です。機能、制限、導入手順、他システムとの接続、顧客側の業務制約まで語れる営業が強くなります。人間関係だけでは、買い手がすでに製品を試している商談で価値を出しにくくなります。
機能だけで守るのではなく、導入体験、顧客データ、使用ログ、業務文脈、成果資料まで含めて守ります。コピーされる速度が上がるほど、顧客の仕事にどれだけ深く入れているかが差になります。
使えます。ただし、買い手の上位課題に入っている時だけです。AI で件数を増やすほど、弱い仮説も増幅されます。まずは、相手が今日解きたい課題と、自社が出せる具体的な価値を合わせる必要があります。
一部の小さな機能や社内ワークフローは置き換えられます。複雑な B2B ソフトウェア全体を一気に置き換えるというより、周辺作業が削られると見た方が実務的です。
SaaStr AI London AMA の要点は、「営業が終わる」ではなく、「営業運用の密度が上がる」です。
「AI で営業が置き換わるか」よりも、「AI を使う前に、自社の営業運用をどこまで言語化できているか」を問う記事として読むのがよいでしょう。
| 論点 | 一次情報 | 本稿での扱い |
|---|---|---|
| AMA の文脈 | SaaStr 公式記事は「SaaStr AI London 2025 AMA」に基づく記事として公開。YouTube の動画タイトルは "AI and the Death of the 2021 Sales Playbook..." | 冒頭では年次イベント記事ではなく、営業運用メモとして読む |
| Claude 4 | Anthropic は Claude Opus 4 / Claude Sonnet 4 を 2025-05-22 に発表 | 旧稿の「2024年初頭に Claude 4 登場」は採用しない。Lemkin 氏の発言は、AMA 時点の体感として扱う |
| SaaStr の読者動向 | SaaStr 公式記事では、SEO が下がる一方で総 traffic が伸びたという自社例が紹介されている | 「インバウンド終了」の一般論ではなく、テーマ配分の見直しとして扱う |
| AI B2B 企業の成長 | SaaStr 公式記事では Vercel、Replit、Bolt、11 Labs、Gamma などが例示されている | 動く企業数値は snapshot とし、普遍的な示唆は「需要が集中する市場では同じ play でも処理量が変わる」と整理する |
SaaStrトラフィック推移(2023-2025)本記事はネクサフローのAI研究シリーズの一部です。
この記事の著者

代表取締役
早稲田大学卒業後、ソフトバンク株式会社にてAI活用やCEO直下案件のプロジェクトマネージャーに従事。その後、不動産スタートアップPit in株式会社の創業、他スタートアップでの業務改善・データ活用を経験後、2023年10月、株式会社ネクサフローを創業し代表取締役CEO就任。