
SaaStrが明かす:20以上のAIエージェント導入で6万通の営業メールを自動化した方法
AIサマリー
SaaStr AI London 2025でJason LemkinとAmeliaが語った、20以上のAIエージェント導入で6万通の営業メールを自動化し、売上15%増を実現した方法。Artisan・Qualified・Agentforceの使い分けと、70%開封率の秘密を解説。
SaaStr AI London 2025で、SaaStr CEO Jason LemkinとGTM責任者Ameliaが、過去6ヶ月で60,000通の高度にパーソナライズされた営業メールを自動化し、人間SDRの32倍の生産性を実現した方法を公開しました。
元動画: SaaStr AI London 2025 - AI SDR Implementation 本記事は上記動画の内容を日本語で解説し、実践的な洞察を追加したものです。
本記事の表記について
- 金額の日本円換算は1ドル=150円で計算しています
- 下線付きの用語にカーソルを合わせると解説が表示されます
この記事でわかること
- 6万通の自動化実績: SaaStrが6ヶ月で達成した具体的な数値データと導入方法
- 正しい導入プロセス: 「買って放置」が失敗する理由と、成功する8ステップ
- 3つのツールの使い分け: Artisan・Qualified・Agentforceの具体的な運用事例
- 70%開封率の秘密: 人間が手を付けない領域でAIが真価を発揮する理由
- 必須人材: Forward Deployed EngineerとGTMエンジニアの役割
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| イベント | SaaStr AI London 2025 |
| 登壇者 | Jason Lemkin(SaaStr CEO)、Amelia(GTM責任者) |
| トピック | AIエージェント導入実績、営業自動化、AI SDR戦略 |
| 難易度 | 中級(AI導入検討中の企業向け) |
| 対象 | SaaS企業経営者・CRO・営業責任者・RevOps担当者 |
登壇者プロフィール
Jason Lemkin(SaaStr CEO/創業者)
SaaStrの創業者であり、SaaS業界で最も影響力のある人物の一人です。年間10,000人以上が参加するSaaStr Annualを主催し、SaaSビジネスのベストプラクティスを発信し続けています。
本セッションでは、AI SDR(AI営業担当) の現実的な期待値設定と、人間が手を付けない領域でのAI活用について語りました。
Amelia(SaaStr GTM/運用責任者)
SaaStrのGTM(Go-to-Market:市場投入戦略) と運用を統括。過去6ヶ月で20以上のAIエージェントを導入し、60,000通の営業メールを自動化した実務責任者です。本セッションでは、具体的な数値データと失敗・成功パターンを惜しみなく共有しました。
SaaStrの驚異的な数字:6ヶ月で6万通のパーソナライズドメール
人間SDRの32倍の生産性
過去6ヶ月(SaaStr Annual 2025後)で、SaaStrは約60,000通の高度にカスタマイズされた営業メールをAIエージェントで送信しました。これは人間SDRの平均的な生産性と比較して、32倍という驚異的な数字です。
| 指標 | 人間SDR | AIエージェント | 倍率 |
|---|---|---|---|
| 月間メール送信数 | 75-300通/人 | 10,000通 | 32倍 |
| 返信率 | 2-4% | 6%(平均) | 1.5-3倍 |
| パーソナライゼーション率 | 3% | 大多数 | 30倍以上 |
| チケット売上貢献 | 片手で数える程度 | 15% | - |
生産性比較図返信率データ:AIは人間SDRを上回る
Ameliaが公開した実績データによると、以下の返信率・開封率を達成しています:
- Artisan(アウトバウンド営業): 返信率6%(人間SDR平均2-4%を上回る)
- Qualified(インバウンド対応): 返信率6%、130件のミーティング予約(8月以降)
- Agentforce(放置リード): 開封率70%
"At scale, Artisan overall... it's about a 6% overall response right now. You know average for normal SDR is 2 to four."
「全体で見ると、Artisanは約6%の返信率です。通常の人間SDRの平均は2-4%です。」
— Amelia, SaaStr GTM責任者
チケット売上の15%をAIが獲得
特筆すべきは、SaaStr AI London 2025のチケット売上の**15%**をAIエージェントが直接販売したことです。過去に人間SDRにチケットを売らせようとした時は「片手で数えられるほど」しか売れなかったと言います。
"Between our two agents that I empowered to sell, they sold 15% of the ticket revenue for this event, which is kind of crazy cuz in the past when we've had human SDRs try and sell tickets, I think they sold like literally I could count on one hand."
「販売権限を与えた2つのエージェントが、このイベントのチケット収益の15%を売り上げました。これは驚異的です。過去に人間のSDRにチケットを売らせようとした時は、片手で数えられるほどしか売れませんでしたから。」
— Amelia, SaaStr GTM責任者
この15%は完全な「純増」です。人間SDRが「時間の無駄」と判断して手を付けなかった領域で、AIが成果を出しました。
AI SDRの正しい導入方法:「買って放置」が失敗する理由
導入の大原則:人間がまず成功パターンを確立する
Jason Lemkinは、AI SDR導入で最もよくある間違いを明確に指摘しました。
"Take what humans have nailed, document it, and then train an agent with what works. If you're expecting an agent to sell when you can't sell, that's never worked."
「人間が成功したことを記録し、それをエージェントに学習させる。自分が売れないのにエージェントに売らせようとしても、それは絶対に機能しない。」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
これは2024年から2025年初頭にかけて、多くの企業が犯した失敗です。「AIツールを買って、何もせずに数百万円の売上を期待する」というアプローチは、Claude 4以前も以後も機能していません。
8ステップの導入プロセス
SaaStrが実践した正しい導入プロセスは以下の通りです:
- 人間が成功パターンを確立:まず人間が成功するメール、スクリプト、objection handling(反論処理)を確立
- エージェント選定(3社に絞る):10社でのベイクオフ(比較検討)は避ける
- 顧客参照を確認:実際のユーザーと話し、ベンダーの信頼性を確認
- トレーニング(2週間):各エージェントに2週間のトレーニング期間を確保
- 800-1,000件のバッチでテスト:特定のペルソナに絞り、小規模バッチから開始
- 全メッセージをチェック:初期は全メッセージを人間が確認
- 段階的にロールアウト:まず「放置リード」など、ミッションクリティカルでない領域から
- 継続的なモニタリング・改善:成功パターンを学習させ、サブエージェントを作成
導入プロセス図重要: セルフサーブでの導入は現時点では不十分です。Zendeskの事例では、トレーニングありで60-80%の自動化を達成できますが、セルフサーブでは20%のみです。ベンダー側のサポートが必須です。
使用しているAIエージェントツール:Artisan・Qualified・Agentforce
SaaStrは現在、20以上のAIエージェントを運用していますが、その中核となる3つのツールがあります。
エージェント戦略マップArtisan - アウトバウンド営業特化
用途: アウトバウンド営業メール
実績:
- 返信率6%(人間SDR平均2-4%を上回る)
- 複数のサブエージェントを作成し、ペルソナ別に運用
特徴: ハイパーパーソナライゼーションが可能。SaaStrでは、過去のイベント参加データや企業情報を元に、カスタマイズレベル3-6/10のメールを大量に送信しています。
Qualified - インバウンドリード対応
用途: ウェブサイト訪問者への即座の対応、ミーティング自動予約
実績:
- 130件のミーティング予約(8月以降)
- 返信率6%
- 24/7稼働で、夜間・休日もミーティングを自動予約
メリット:
- 従来の「フォーム送信→手動ルーティング→2-24時間後に返信」から「即座に資格確認→その場で予約」へ
- 人間より良い資格確認体験(yucky qualification「不快な資格確認」を排除)
Ameliaは、Qualifiedを「眠っている間にミーティングが予約される」と表現しています。朝起きると、夜間に複数のミーティングが予約されており、営業チームはすぐに商談に進むことができます。
Agentforce - 放置リードへの再アプローチ
用途: 人間SDRが「時間の無駄」と無視していた小規模リードへのフォローアップ
実績:
- 開封率70%
- チケット売上の15%を生成
成果の秘密: このAgentforceの高い開封率は、人間SDRが無視していた小規模リードや、5日間返信がなかった問い合わせへのフォローアップという用途に特化しているためです。
Jason Lemkinは実体験を共有しました。彼はロンドン滞在中、ある**$10,000(約150万円)** の製品について問い合わせをしましたが、5日間返信がありませんでした。最終的に別の担当者に回され、「電話で話しましょう」と言われた時点で、商談は失注しました。
"I reached out to a vendor for a $10,000 product and I said, 'I want to buy it while we're here. I don't have a lot of time. We're here at SaaStr London. I have two questions.' I didn't hear back till yesterday afternoon... 5-day response. Get on. I mean, you lost the deal, right?"
「私はロンドン滞在中に$10,000(約150万円)の製品について問い合わせをし、『すぐに買いたい。時間がない。2つ質問がある』と伝えました。しかし5日間返信がありませんでした。昨日の午後になってようやく返信が来て、『電話で話しましょう』と言われました。その時点で商談は失注したのです。」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
このような「人間が手を付けない領域」こそ、AIが真価を発揮する場所です。
返信率比較図ハイパーパーソナライゼーション at スケール
従来は3%、現在は大多数
SaaStrでは、人間SDRを雇用していた時代、パーソナライズされたメールは全体の**わずか3%**でした。残りの97%は、テンプレートをそのまま使った汎用的なメールでした。
現在、AIエージェントを導入したことで、大多数のターゲットアカウントが高度にカスタマイズされたメッセージを受信しています。
カスタマイズレベル:3-6/10で十分
重要なのは、カスタマイズレベルは3-6/10で十分だということです。10/10の完璧なカスタマイズは必要ありません。
"The bar is as good or better than like your average human SDR... They're just pretty good with not a lot of errors. That's that's good enough to to crush it."
「基準は平均的な人間SDRと同等かそれ以上。かなり良い品質でエラーが少ない。それで十分に成果を出せる。」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
Jason Lemkinは、「30人のトップティアOxford卒業生SDRを雇って、1日1通の完璧なメールを書かせる」という幻想を否定します。そのようなSDRは3ヶ月でAE(Account Executive:商談担当) に昇進したがり、すぐに退職します。
必要なのは、平均的な人間SDR以上の品質と24/7の一貫性です。
最初のメールで返信が来る
AIによる高度なカスタマイゼーションの結果、最初のメールで返信が来ることが多いとAmeliaは言います。人間SDRの場合、通常は数回のフォローアップメールが必要ですが、AIは最初のメールで価値を提供できるため、返信率が高まります。
70%開封率の秘密:人間が手を付けない領域でのAI活用
人間SDRの「時間の無駄」という判断
Agentforceの70%という驚異的な開封率の背景には、人間が手を付けない領域でのAI活用があります。
Jason Lemkinは、人間SDRの行動パターンを率直に語りました。
"Every salesperson is managing their time. They're going to force rank their leads in their head. They're going to put all their effort into that one big deal that's going to close this quarter, a little bit of effort into the small ones, and nothing to the bottom."
「すべてのセールスパーソンは自分の時間を管理しています。彼らは頭の中でリードを優先順位付けします。今四半期にクローズする大型案件にすべての労力を注ぎ、小規模案件には少しだけ労力を割き、最下位のリードには何もしません。」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
SaaStrでは、6年間にわたって人間SDRにチケット販売を依頼し、インセンティブやスターバックスカードまで用意しました。しかし、彼らは「時間の無駄」と判断して実行しませんでした。
Momentumなどのツールでトラッキングすると、「やる」と言いながら実際にはやっていなかったことが判明しました。
AIにとっては常に返信する価値がある
一方、AIにとっては、常に返信する価値があるのです。
"It's always worth the AI's time to get back to them. It's always worth and your leads deserve it."
「AIにとっては常に返信する価値がある。常に価値があるし、あなたのリードはそれに値する。」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
Jason Lemkinは、古いブログ投稿を引用し、「すべてのリードは女王や王のように扱われるべき」と語りました。$10,000(約150万円) の商談でさえ、ロンドンでは「たくさんのFlat Ironステーキを買える金額」であり、決して無視すべきではありません。
15%の売上増は完全な「純増」
Agentforceが生成したチケット売上の15%は、完全な純増です。人間SDRがいても、この売上は存在しませんでした。
"Even if you grow 15 or 20% faster in 2026 because of AI, it's a gift from heaven, right?"
「AIのおかげで2026年に15%か20%速く成長できるなら、それは天からの贈り物だろう?」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
インバウンド革命:Qualifiedで130件のミーティング自動予約
従来のフロー vs 現在のフロー
| ステップ | 従来のフロー | 現在のフロー(Qualified) |
|---|---|---|
| 1 | ウェブサイトでフォーム送信 | ウェブサイトでAIと対話開始 |
| 2 | 手動でルーティング(担当者決定) | 即座に資格確認(会社規模、ニーズ等) |
| 3 | 2-24時間後にAEから返信 | その場でミーティング予約 |
| 4 | Zoomリンク送信(時々動作しない) | 予約完了(24/7稼働) |
Ameliaは、Qualifiedを導入してから、朝起きると夜間に複数のミーティングが予約されていると言います。
彼女は営業チームに、予約されたミーティングの背景情報を共有し、すぐに商談に進むことができます。
24/7稼働の価値
Qualifiedは24/7稼働するため、タイムゾーンや休日を気にする必要がありません。
見込み客は、自分の都合の良い時間にウェブサイトを訪問し、即座にAIと対話し、ミーティングを予約できます。
実装の低ハードル: Jason Lemkinは「Claude 4やGPT-4以降、これらのツールはすべて非常に良くなった。実装しない理由がない」と語りました。
2026年にまだ人間がインバウンドリードを手動で資格確認している企業は、すぐに改善すべきです。
AIエージェント導入に必要な人材:FDEとGTMエンジニア
2人の人間が必須
Jason Lemkinは明確に述べました。
"You need two humans to make the AI work. One, you need someone generally speaking at the vendor to help you deploy it. A forward deployed engineer... And then the second point is you need a GTM engineer in house."
「AIを機能させるには2人の人間が必要です。1つ目は、ベンダー側のForward Deployed Engineer。2つ目は、社内のGTMエンジニアです。」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
必要な体制図Forward Deployed Engineer(FDE)とは?
FDE(Forward Deployed Engineer:顧客常駐エンジニア) とは、ベンダー側のエンジニアが顧客先に常駐または密接に連携し、カスタマイズ・トレーニング・デプロイをサポートする役割です。
重要性: セルフサーブは現時点では不十分です。
Jason Lemkinは、ZendeskのCOOとの対談で以下のデータを共有しました。
- トレーニングあり: 60-80%の自動化を達成
- セルフサーブ: 20%の自動化のみ
20%でも意味がある場合もありますが、アウトバウンド営業ツールでは不十分です。より高い自動化率を達成するには、FDEのサポートが必須です。
Ameliaの推奨: ベンダーを選定する際、FDEサポートの有無を必ず確認してください。
FDEが提供されない場合、そのベンダーは避けるべきです。
GTMエンジニアとは?
役割: 社内の技術に強いマーケター、またはRevOps(Revenue Operations:営業・マーケティング・カスタマーサクセスの統合運用) 担当者です。
スキル:
- Clay、HubSpot、マーケティングオートメーションの経験
- 複雑なキャンペーンを構築した経験
- 技術的な実装が可能
誰が適任か?:
- 技術に強いマーケター(マーケティングオートメーション経験者)
- 技術寄りのRevOps担当者
- ❌ 平均的なRevOps担当者(技術的でない場合)
- ❌ 一般的な営業チームメンバー
Jason Lemkinは、「GTMエンジニアは、社内の1人のnerd(技術オタク)」と表現しました。
その人物を見つけ、昇進させ、AIエージェント導入を任せるべきです。
SaaStrの体制:FDE + Account Manager + Sales Rep
Ameliaは、Salesforce Towerで撮影した写真を共有し、現在の「核」となるアカウントチームを紹介しました。
- FDE(Forward Deployed Engineer): カスタマイズ・トレーニングをサポート
- Account Manager: 通常のアカウント管理
- Sales Rep: 営業担当
彼女は、これら3人と日常的にテキストでやり取りし、信頼関係を構築しています。
データを共有する相手として、このようなチームが揃っているベンダーを選ぶべきです。
AIに販売させる:低価格商品での成功事例
よくある間違い:すべてをミーティング予約に誘導
多くの企業は、AIエージェントを導入しても、すべてをミーティング予約に誘導してしまうという間違いを犯しています。
Ameliaは、低価格商品(チケット、$500(約7.5万円)以下 のサブスクリプション等)は、AIに直接販売させるべきだと語りました。
SaaStrの事例:15%のチケット収益
SaaStrでは、2つのエージェントに販売権限を与え、チケット売上の15%を生成しました。
過去に人間SDRにチケットを売らせようとした時は、「片手で数えられるほど」しか売れませんでした。
彼らは「6桁のスポンサーシップを獲得したい」と考え、チケット販売を「時間の無駄」と判断していました。
AIは販売が得意
AIは、製品知識を完璧に理解し、24/7稼働し、一貫した品質で販売します。
"AI will also know your product a lot better than most entry level SDRs and so whatever you tell it about the product it will contextualize for them and add value."
「AIは、ほとんどのエントリーレベルSDRよりも製品をよく理解しています。製品について伝えた内容を、見込み客のコンテキストに合わせて説明し、価値を提供します。」
— Amelia, SaaStr GTM責任者
よくある失敗パターンと成功の秘訣
5つのよくある失敗パターン
Ameliaは、過去6ヶ月で多くの企業から相談を受けた中で、よくある失敗パターンを5つ挙げました。
- 全データベースに一斉送信
"You should never just unleash an AI agent on your entire entire database. Like do not do that. It will not be customized. It's not going to work like this."
「AIエージェントをデータベース全体に一斉に解き放ってはいけません。絶対にやめてください。カスタマイズされず、機能しません。」
— Amelia, SaaStr GTM責任者
- 新人SDRに丸投げ
Ameliaが相談を受けた、売上$1 billionのB2B SaaS企業は、「AIツールを購入して、新しく雇ったSDR/BDRに配布し、彼らに学習させる」という計画を立てていました。
Ameliaはこれを強く否定しました。
理由:
- 社内にAIツールの使い方を理解している人がいない
- 成功パターンが確立されていない
- 誰がコンタクトを供給するのか決まっていない
- 返信が来た時に誰が対応するのか決まっていない
- トレーニング期間を取らない
各エージェントには2週間のトレーニング期間が必要です。
Qualifiedの動画撮影には丸1日かかりました。この時間投資を惜しんではいけません。
- 10社でベンダー選定(ベイクオフ)
Ameliaは「10社でのベイクオフは多すぎる。3社に絞れ」とアドバイスしました。
前述のB2B SaaS企業のCMOは、10社でのベイクオフを計画していましたが、Ameliaに説得され、3社に絞ることにしました。
- すぐに辞める人に依存
AIエージェントのトレーニングや運用を、すぐに退職しそうな人に依存してはいけません。
その人が退職すると、すべてのエージェントを再トレーニングする必要があります。
Ameliaが相談を受けた前述のCMOは、その後6週間で退職しました。彼がAI戦略を推進していたら、会社は大きな損失を被っていたでしょう。
失敗vs成功図成功の秘訣
| 失敗パターン | 成功の秘訣 |
|---|---|
| 全データベースに一斉送信 | 800-1,000件のバッチで、特定のペルソナに集中 |
| 新人SDRに丸投げ | 成功パターン確立後に導入 |
| トレーニングなし | 2週間のトレーニング期間を確保 |
| 10社でベンダー選定 | 3社に絞り、顧客参照を確認 |
| すぐ辞める人に依存 | 長期在籍が見込まれる人材への依存 |
トレーニング時間と段階的ロールアウト
各エージェントに2週間必要
各AIエージェントのトレーニングには2週間が必要です。
Qualifiedの動画機能(Amelia AI)の撮影には、丸1日かかりました。この時間投資を惜しんではいけません。
初期は全メッセージをチェック
導入初期は、全メッセージを人間がチェックする必要があります。
Ameliaは現在、スポットチェックと「フラグ機能」を使っています。AIが問題を検知した時に、彼女にアラートが送られます。
ミーティングが自動予約された場合、彼女は内容を確認せず、信頼しています。このような信頼関係は、段階的に構築されます。
まず「放置リード」から始める
Jason LemkinとAmeliaは、まずミッションクリティカルでない領域から始めることを強く推奨しています。
具体的には:
- 人間SDRが無視していた小規模リード
- 問い合わせから5日間返信がなかったリード
- 過去のイベント参加者で、フォローアップされていない人
これらの領域で成功パターンを確立してから、より重要な領域に拡大します。
段階的にロールアウト
SaaStrの例:
- 5月(SaaStr Annual後): 人間SDR退職 → Artisan導入決定
- 6月: Artisan導入、トレーニング開始
- 8月: Qualified導入 → 130件のミーティング予約開始
- 最近: Agentforce導入 → 70%開封率達成
- 現在: 6ヶ月で60,000通のメール送信
チャット vs 音声 vs 動画:どれを選ぶべきか?
85%がチャット、15%が音声
SaaStrのAmelia AIでは、約150,000回のやり取りを分析した結果、以下の比率でした。
- チャット: 85%
- 音声: 15%
Jason Lemkinは「これはAI業界のトレンドトピックだが、過剰に分析する必要はない」と語りました。
推奨:まずチャットから始める
チャットは最も実装しやすく、すぐに機能します。音声は5-10分でセットアップ可能(11 Labsを使用)ですが、やや手間がかかります。
動画は最も時間がかかります。
Ameliaは丸1日をQualifiedでの撮影に費やし、カメラを見つめ、ゆっくりまばたきし、奇妙な単語を発音しました。
動画の価値:信頼構築
Ameliaは、動画を追加した理由を以下のように語りました。
"I wanted to start it to ramp to literally ramp our AI like a human to be able to start to sell more. So that's why we added the video because I was like, 'Okay, I need it to add a layer of trust where I feel like on a chat. I I wouldn't I wouldn't buy something on a chat necessarily.'"
「AIを人間のようにランプアップ(段階的に成長)させ、より多く販売できるようにしたかったのです。だから動画を追加しました。チャットだけでは信頼の層が足りないと感じたからです。」
— Amelia, SaaStr GTM責任者
多くの人がSaaStrのポッドキャストやイベントでAmeliaを知っているため、動画は「これは本当にAmeliaだ」という信頼を構築します。
人々はAIと話すことを気にしない
Jason Lemkinは、重要な洞察を共有しました。
"What they want is help. And I really think especially in 2026, we're all going to work in these heterogeneous worlds where we mix AIs and humans. And imagining that I somehow mind talking to a great AI is backwards. A great AI is often going to add more value than a mediocre human."
「人々が求めているのは助けです。特に2026年には、私たちはAIと人間が混在する異種混合の世界で働くことになります。優れたAIと話すことを嫌がるという考えは時代遅れです。優れたAIは、平凡な人間よりも多くの価値を提供します。」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
見込み客は、5日間待たされるよりも、即座に対応してくれるAIを好みます。
よくある質問(FAQ)
Q1. AI SDRは人間のSDRを完全に置き換えるのか?
いいえ、完全な置き換えではありません。
AI SDRは、人間が「時間の無駄」と判断する領域(小規模リード、放置された問い合わせ等)で真価を発揮します。品質基準は「平均的な人間SDR以上」でOKです。
Jason Lemkinは、「SDRの大部分は2026年に消えるだろうが、特にBDR(Business Development Representative:リード発掘担当) の役割は消える」と予測しています。しかし、戦略的な営業活動は人間が担当し続けます。
Q2. 導入にどれくらいの時間がかかる?
各エージェントのトレーニングに2週間〜1ヶ月必要です。
導入初期は全メッセージをチェックし、段階的に自動化レベルを上げます。
まずは800-1,000件のバッチで特定のペルソナに絞って開始することを推奨します。
SaaStrの例では、6ヶ月で20以上のエージェントを導入しましたが、最初の1つ(Artisan)に最も時間がかかりました。3つ目のエージェント(Agentforce)は、より迅速にロールアウトできました。
Q3. セルフサーブで導入できる?
現時点では不十分です。
Zendeskの例では、トレーニングありで60-80%の自動化を達成できますが、セルフサーブでは20%のみです。
ベンダー側のForward Deployed Engineer(FDE)と社内のGTMエンジニアの2人の人間が必要です。
Q4. どのツールを選ぶべき?
用途によって使い分けます。
- アウトバウンド営業: Artisan(返信率6%)
- インバウンド対応: Qualified(130件のミーティング予約実績)
- 放置リードへの再アプローチ: Agentforce(開封率70%)
10社でベンダー選定(ベイクオフ)は避け、3社程度に絞ってください。顧客参照を確認することが重要です。
Q5. 最初に何から始めるべき?
自社の「人間が手を付けていない領域」を特定してください。
具体的には、800-1,000件の放置リードを抽出し、まず1つのエージェントから始めます(ミッションクリティカルでない領域)。
人間がまず成功パターンを確立し、それをエージェントに学習させることが成功の鍵です。
Q6. 返信率はどれくらい期待できる?
人間SDRの平均は2-4%です。
SaaStrの実績では、Artisanで6%、Qualifiedで6%、Agentforceで70%の開封率を達成しています。
Agentforceの高い開封率は、人間SDRが無視していた小規模リードへのフォローアップという用途に特化しているためです。
Q7. AIエージェントに販売させるべき?
低価格商品(チケット、$500(約7.5万円)以下 のサブスクリプション等)は直接販売させるべきです。
SaaStrでは15%のチケット収益をAIが生成しました。
よくある間違いは、すべてをミーティング予約に誘導してしまうことです。商品の価格帯に応じて戦略を変えましょう。
Q8. 社内に技術的な人材がいない場合は?
GTMエンジニアを見つけるか、育成する必要があります。
候補者:
- 技術に強いマーケター(HubSpot、Clay等の経験者)
- 複雑なキャンペーンを構築した経験のあるマーケター
- 技術寄りのRevOps担当者
見つからない場合は、採用を検討してください。
AIエージェントの導入と運用には、このような人材が必須です。
まとめ:2026年のGTM戦略としてのAIエージェント
15-20%の成長は「天からの贈り物」
Jason Lemkinは、AIエージェントに対する現実的な期待値を示しました。
"Even if you grow 15 or 20% faster in 2026 because of AI, it's a gift from heaven, right?"
「AIのおかげで2026年に15%か20%速く成長できるなら、それは天からの贈り物だろう?」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
AIエージェントは魔法ではありません。しかし、適切に導入すれば、15-20%の成長加速という「贈り物」をもたらします。
問題は「エージェントに追いつくこと」
Ameliaは、現在の課題を的確に表現しました。
"Your problem becomes not having agents. Your problem is keeping up with your agents."
「問題はエージェントを持っていないことではなく、エージェントに追いつくことです。」
— Amelia, SaaStr GTM責任者
SaaStrでは、AIエージェントが24/7稼働し、常に通知が来ます。「あなたのAIがこれをしました」「ミーティングが予約されました」「新しい返信があります」。
朝起きると、夜間に複数のミーティングが予約されています。この新しい世界では、人間の課題は「エージェントを導入すること」ではなく、「エージェントが生成するリードやミーティングに追いつくこと」です。
すべてのリードは女王や王のように扱われるべき
Jason Lemkinは、AIエージェントの真の価値を語りました。
"Every lead should be treated like a queen or king. Every lead is precious."
「すべてのリードは女王や王のように扱われるべきです。すべてのリードは貴重です。」
— Jason Lemkin, SaaStr CEO
人間SDRは、時間の制約から、小規模リードを無視します。しかし、そのリードは**$10,000(約150万円)** の商談かもしれません。
AIエージェントは、すべてのリードを平等に、丁寧に扱います。
主要ポイント
- 6万通の自動化:SaaStrは6ヶ月で60,000通のパーソナライズドメールを送信し、人間SDRの32倍の生産性を実現
- 「買って放置」は失敗:人間がまず成功パターンを確立し、それをエージェントに学習させる必要がある
- 3つのツールの使い分け:Artisan(アウトバウンド)、Qualified(インバウンド)、Agentforce(放置リード)
- 70%開封率の秘密:人間が手を付けない領域でAIが真価を発揮
- 2人の人間が必須:ベンダー側のFDEと社内のGTMエンジニア
- 各エージェントに2週間:トレーニング期間を確保し、段階的にロールアウト
- 低価格商品は直接販売:SaaStrはチケット売上の15%をAIが生成
次のステップ
- 自社の「人間が手を付けていない領域」を特定する
- 800-1,000件の放置リードを抽出する
- 3つのAI SDRベンダー候補をリストアップ(10社は多すぎる)
- 各ベンダーのFDEサポートの有無を確認
- 顧客参照を依頼し、実際のユーザーと話す
- 社内でGTMエンジニア候補を探す(技術に強いマーケター/RevOps)
- まず1つのエージェントから始める(ミッションクリティカルでない領域)
- 2週間のトレーニング期間を確保
- 初期は全メッセージをチェックする体制を整える
関連記事
参考リソース
- 元動画: SaaStr AI London 2025 - How We Deploy 20+ AI Agents
- SaaStrのAIエージェント一覧: saastr.ai/agents
- 関連ツール:
本記事はネクサフローのAI研究シリーズの一部です。
この記事の著者

中村 知良
代表取締役
早稲田大学卒業後、ソフトバンク株式会社にてAI活用やCEO直下案件のプロジェクトマネージャーに従事。その後、不動産スタートアップPit in株式会社の創業、他スタートアップでの業務改善・データ活用を経験後、2023年10月、株式会社ネクサフローを創業し代表取締役CEO就任。


