
Peter Thiel「世界の果てへの航海」論考を読み解く - 技術楽観主義と反キリスト文学
AIサマリー
ピーター・ティールの論考は、近代科学が人類を超越に導くのか、終末に導くのかという問いを探求し、4つの文学作品を通じて反キリスト的なテーマを分析しています。彼は技術楽観主義に対する懐疑を示し、科学と権力の関係を批判し、現代の中央集権的支配の危険性を警告しています。また、AIやグローバリゼーションの文脈で、技術の利用における倫理的な視点の重要性を強調しています。
PayPal共同創設者であり、シリコンバレーを代表する投資家Peter Thiel(ピーター・ティール)が、2025年10月にFirst Things誌に寄稿した論考「Voyages to the End of the World(世界の果てへの航海)」が話題を呼んでいます。
本論考は、フランシス・ベーコンから尾田栄一郎の『ワンピース』まで、4世紀にわたる文学作品を横断します。そして「近代科学は人類を超越に導くのか、それとも終末に導くのか」という根源的な問いに迫ります。
本記事では、日本の読者向けにこの知的挑戦に満ちた論考を解説します。
本記事の表記について
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この記事でわかること
- 反キリスト文学の系譜: 4世紀にわたる4作品(ベーコン、スウィフト、ムーア、尾田栄一郎)に共通する「反キリスト」というモチーフ
- 技術楽観主義への批判: 「すべてを可能にする」という技術的野心に潜む傲慢と危険性
- 現代への示唆: AI時代における中央集権的支配と分散型アプローチの対比
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | Peter Thiel「世界の果てへの航海」 |
| カテゴリ | 思想・哲学 |
| 難易度 | 上級 |
| 出典 | First Things誌(2025年10月) |
| 著者 | Peter Thiel & Sam Wolfe |
Peter Thielとは - PayPal創設者・著名投資家の思想背景
シリコンバレーの異端児 - その経歴と影響力
Peter Thielは1967年ドイツ生まれ、アメリカで育った起業家・投資家です。スタンフォード大学で哲学と法学を学びました。
主な実績:
- 1998年: PayPalを共同創設
- 2002年: eBayへ15億ドルで売却
- 初期投資: Facebookに50万ドル投資→10億ドル以上に
- 創設: データ分析企業Palantir Technologies
著書『ゼロ・トゥ・ワン』(2014年)は世界的ベストセラーです。「競争を避け、独占を目指せ」という逆説的なビジネス哲学で知られています。
独自の世界観 - 技術楽観主義への懐疑
Thielはシリコンバレーの中にありながら、その主流派とは一線を画す存在です。
多くのテック起業家が「テクノロジーがすべての問題を解決する」と楽観視します。しかしThielは技術進歩の停滞を指摘してきました。「1970年代以降、情報技術以外の分野で革新が起きていない」と警鐘を鳴らしています。
彼はまた、キリスト教的な世界観を持ちます。ルネ・ジラール(フランスの哲学者)の「模倣理論(人間の欲望は他者の欲望を模倣することで生まれるという理論)」に深く影響を受けています。
技術と宗教、進歩と終末論という一見相反するテーマを結びつける思考は、本論考にも色濃く反映されています。
なぜThielは文学論考を書いたのか
投資家が文学論考を書くのは珍しいことです。しかしThielにとって、文学作品の分析は現代社会を理解するための重要な手段です。
彼は共著者のSam Wolfeとともに、4つの文学作品に共通する「反キリスト」というモチーフを分析しました。そこから技術的楽観主義と世界統一政府という現代的テーマへの警告を発しています。
「世界の果てへの航海」論考の全体像
論考の核心的問い - 科学は超越か終末か
Thielの論考は、シンプルだが深遠な問いから始まります。
近代科学は人類を超越に導くのか、それとも終末(アポカリプス)に導くのか?
この問いに対して、4世紀にわたる文学者たちが「反キリスト」という象徴的人物を通じて答えを模索してきた、というのがThielの主張です。
反キリスト(Antichrist)という分析軸
反キリストとは、キリスト教において終末の時代に現れるとされる偽りの救世主です。聖書のダニエル書や黙示録に描かれています。
反キリストの特徴:
- 表向きの善: 平和と繁栄をもたらすように見える
- 実質的な支配: 世界を支配し、人々を欺く
- 神への僭称: 「すべてを可能にする」という神の属性を主張する
- 最終的破滅: 破滅をもたらす
Thielは、この反キリストのパターンが近代科学と世界統一政府を描く文学作品に繰り返し現れると指摘します。
4世紀にわたる文学作品の選定
論考で取り上げられる4作品は以下の通りです。
| 作品 | 著者 | 年代 | 時代背景 |
|---|---|---|---|
| ニュー・アトランティス | フランシス・ベーコン | 1627 | 科学革命 |
| ガリヴァー旅行記 | ジョナサン・スウィフト | 1726 | 啓蒙時代 |
| ウォッチメン | アラン・ムーア | 1986-87 | 冷戦期 |
| ワンピース | 尾田栄一郎 | 1997- | グローバリゼーション時代 |
これらの作品は、それぞれの時代において「科学技術による世界支配」というテーマを異なる角度から描いています。

作品1 - フランシス・ベーコン「ニュー・アトランティス」(1627)
科学革命期のユートピア小説
フランシス・ベーコン(1561-1626)は「知は力なり」の言葉で知られる哲学者です。近代科学の父とも呼ばれます。
彼の未完の小説『ニュー・アトランティス』は、大西洋上の孤島「ベンサレム」を舞台にした科学ユートピアです。
この島には「サロモンの家」と呼ばれる科学研究機関があります。自然の秘密を解き明かし、人間の能力を拡張する技術を開発しています。一見すると、科学とキリスト教が調和した理想社会に見えます。
ベンサレム島に隠されたメッセージ
しかしThielは、この作品に隠されたメッセージを読み取ります。
「平和の子」と聖書の預言
ベンサレム(Bensalem)という島の名前は、ヘブライ語で「平和の子」「安全の子」を意味します。Thielはこれを、新約聖書テサロニケ人への手紙第一 5章3節の預言と結びつけます。
「平和だ、安全だ」と人々が言っているとき、突如として滅びが彼らを襲う
この聖句は、キリスト教の伝統において反キリストの到来を示す警告として解釈されてきました。
「すべてを可能にする」という傲慢
ベーコンは科学の目標を「すべてのものを可能にすること」と述べています。
しかしThielは、これが神の属性を人間の技術に置き換える試みだと指摘します。マタイによる福音書19章26節には「神にはすべてのことが可能である」とあります。この神の属性を、科学技術が奪おうとしているのです。
Thielの解釈 - 表向きのキリスト教と実質的な反キリスト支配
Thielの解釈では、ベーコンは表面上キリスト教と科学を調和させています。しかし実際には科学による世界支配という反キリスト的プロジェクトを描いていました。
ベンサレムの真の支配者は「ジョアビン」というユダヤ人商人です。彼こそが隠された権力の中心だとThielは読み解きます。
この解釈は大胆です。しかし近代科学の起源に潜む野心と危険性を浮き彫りにしています。
作品2 - ジョナサン・スウィフト「ガリヴァー旅行記」(1726)
啓蒙時代の風刺文学
ジョナサン・スウィフト(1667-1745)はアイルランドの風刺作家です。
『ガリヴァー旅行記』は子供向けの冒険物語として知られています。しかし実際には啓蒙時代の科学主義と合理主義に対する痛烈な批判でした。
ベーコンへの反論としてのガリヴァー
Thielは、スウィフトがベーコンの科学楽観主義に対する「復讐の天使」として機能したと主張します。
『ガリヴァー旅行記』の各章は、科学主義のさまざまな側面を風刺しています。
ラピュタ(空飛ぶ島)と科学主義の悪魔性
第3部に登場する空飛ぶ島「ラピュタ」は、科学者たちが支配するディストピアです。
ラピュタの特徴:
- 名前の由来: イタリア語の「la puttana(娼婦)」
- 垂直支配: 空中に浮かび、下界の島バルニバービを支配
- 無益な研究: 「キュウリから日光を抽出する」など実用性のない実験に没頭
- 民衆の貧困: 支配される民衆は貧困に苦しむ
Thielはこの垂直的支配構造を、イザヤ書14章14節の反キリストの野心と結びつけます。「いと高き者のようになろう」という傲慢さです。
フウイヌム国 - 理性崇拝の限界
第4部のフウイヌム国では、理性的な馬(フウイヌム)が野蛮な人間(ヤフー)を支配しています。
一見理想的に見えるフウイヌムの社会です。しかし彼らは最終的に「ヤフーの絶滅」を議論します。これは純粋な理性が、人間性を排除するジェノサイド(大量虐殺) に至りうることを示唆しています。
スウィフトは、信仰なき理性の危険性をベーコンへの反論として描いたのです。
作品3 - アラン・ムーア「ウォッチメン」(1986-87)
冷戦期のグラフィックノベル
アラン・ムーアの『ウォッチメン』は、1986年から87年にかけて発表されたグラフィックノベル(アメリカンコミック)です。
核戦争の脅威が現実的だった冷戦末期に発表されました。スーパーヒーローというジャンルを通じて、権力と道徳の問題を深く掘り下げています。
オジマンディアスという反キリスト的人物
物語の中心人物の一人、エイドリアン・ヴァイト(オジマンディアス)は、Thielにとって現代の反キリスト像です。
「世界を救う」という傲慢
オジマンディアスは「世界最高の知性を持つ男」を自称します。米ソ核戦争を防ぐために恐るべき計画を実行しました。
オジマンディアスの計画:
- 偽りの脅威: 架空の宇宙人侵略を演出
- 大量殺人: ニューヨークで数百万人を殺害
- 強制的統一: 共通の敵を作ることで世界を統一
彼のスローガンは「One World, One Accord(一つの世界、一つの調和)」です。Thielはこれを、反キリスト的な世界統一政府の象徴と読み解きます。
偽りの敵による世界統一
オジマンディアスの計画は、偽りの脅威を作り出すことで人類を支配下に置きます。これは反キリストの古典的な手法です。表向きは「平和のため」ですが、その手段は大量殺人です。
Dr.マンハッタン - 神の属性を持つ人間の悲劇
もう一人の重要人物、Dr.マンハッタンは核実験事故で超人的な力を得た元物理学者です。
Dr.マンハッタンの能力:
- 物質操作: 物質を自在に操作できる
- 時間知覚: 過去・現在・未来を同時に知覚できる
- 奇跡の模倣: 水上を歩く(聖書的な奇跡の再現)
彼は「神の属性を持つ人間」です。しかしその結果として人間性を失い、人類への関心を失っていきます。
Thielはこれを、技術による神格化が人間性の喪失をもたらすことの警告と解釈します。
作品4 - 尾田栄一郎「ワンピース」(1997-)
日本の人気漫画が論考に登場する理由
Thielの論考で最も意外なのは、尾田栄一郎の『ワンピース』が分析対象に含まれていることです。
1997年から週刊少年ジャンプで連載され、全世界で5億部以上を売り上げた日本の漫画です。なぜ西洋の反キリスト文学の系譜に位置づけられるのでしょうか。
Thielは、『ワンピース』が現代のグローバリゼーション(経済・文化の世界的統合)と中央集権的支配の問題を最も鮮やかに描いていると評価しています。
イム様 - 800年間の秘密統治者
『ワンピース』の世界には「世界政府」が存在し、170以上の加盟国を統治しています。
表向きの最高権力者は「五老星」と呼ばれる5人の老人です。しかし物語が進むにつれて、彼らの上に立つ存在が明らかになります。それがイム様です。
世界政府の頂点に立つ存在
イム様は、「虚の玉座」と呼ばれる誰も座ってはならないはずの玉座に座る世界の真の支配者です。
イム様の特徴:
- 長期支配: 800年以上にわたって世界を支配している可能性
- 絶対的権力: 五老星さえも跪く存在
- 謎に包まれた正体: 目的・能力はほとんど明かされていない
- 本名: 「ネロナ・イム聖」という名が最近明らかに
「空白の100年」という歴史改竄
世界政府は「空白の100年」と呼ばれる歴史を禁忌とし、その調査を禁止しています。この時代に何が起きたのかを知る者は処刑される運命です。
Thielはこれを、支配者が歴史を改竄し真実を隠蔽することで権力を維持するパターンと解釈します。反キリスト的支配の典型例です。
「ひとつなぎの大秘宝」と世界の真実
主人公ルフィが追い求める「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」は単なる財宝ではありません。世界の真実を明らかにする何かであることが示唆されています。
海賊王ゴール・D・ロジャーはその秘宝を見つけ、「笑った」とされています。
Thielは、この秘宝が世界政府の嘘を暴くものと解釈します。ルフィによる発見が「反キリスト的支配の終焉」を意味する可能性を示唆しています。
Thielの視点 - グローバル統治の現代的表現
Thielにとって、『ワンピース』は現代のグローバリズムを最も鮮明に風刺した作品です。
現代への対応関係:
- 世界政府 = 国際機関や超国家的組織
- イム様 = 見えない権力の中枢
- 空白の100年 = 隠蔽された歴史
- 天竜人 = 特権階級
他の3作品と異なり、『ワンピース』はルフィという主人公が反キリスト的支配を打倒する可能性を描いています。Thielはここに希望を見出しているようです。
4作品を貫く共通テーマ
「すべてを可能にする」技術への警告
4つの作品に共通するのは、「すべてを可能にする」という技術的野心への警告です。
各作品の技術的野心:
- ベーコン: 科学は「すべてを可能にする」ことを目指す
- ウォッチメン: Dr.マンハッタンは物質を自在に操る
- ワンピース: 世界政府は「古代兵器」を恐れる
これらはすべて、人間が神の領域に踏み込もうとする傲慢を描いています。これをヒュブリス(人間の傲慢、神への挑戦)と呼びます。
世界統一政府(One World)の危険性
4作品すべてが、世界統一政府あるいはグローバルな支配構造を描いています。
| 作品 | 支配構造 | 特徴 |
|---|---|---|
| ニュー・アトランティス | ベンサレム島 | 科学による統治、隠された支配者 |
| ガリヴァー旅行記 | ラピュタ | 空中からの支配、民衆の貧困 |
| ウォッチメン | 偽りの世界統一 | 共通の敵による強制的統合 |
| ワンピース | 世界政府 | 800年の秘密統治、歴史改竄 |
Thielは、「世界平和」や「人類の統一」という美名のもとに行われる中央集権化の危険性を、これらの作品が警告していると主張します。

表向きの善と実質的な支配
反キリストの最大の特徴は、「善人のふりをする」ことです。4作品の支配者たちはすべて、表向きは善意や平和を掲げます。しかし実際には抑圧的な支配を行っています。
表向きの善と実質的な支配:
- ベンサレム: 「キリスト教国」を装う
- フウイヌム: 「理性的」だがジェノサイドを議論する
- オジマンディアス: 「世界を救う」ために大量殺人を行う
- 世界政府: 「正義」を掲げながら歴史を改竄する
技術楽観主義への批判的視点
シンギュラリティと神の属性
現代のシリコンバレーでは、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という概念が広く信じられています。
シンギュラリティとは、AIが人間の知性を超え、技術が指数関数的に発展する転換点です。この結果、人類は「神のような」存在になれるという考えです。
Thielはこの発想に、ベーコン以来の「すべてを可能にする」という野心を見出します。それは聖書的な観点からは、反キリスト的な傲慢にほかなりません。
AI時代における「すべてを可能にする」誘惑
ChatGPTの登場以降、AIへの期待は急速に高まっています。しかしThielの論考は、この楽観主義に冷水を浴びせます。
AIへの警告:
- 万能技術への期待: AIは「すべてを可能にする」技術として期待されている
- 中央集権の危険: その力が中央集権的に管理されれば支配の道具となる
- 世界最適化の傲慢: 「AIによる世界最適化」はオジマンディアスの計画と何が違うのか
Thielの立場 - 技術進歩と人間の限界
重要なのは、Thielが技術進歩そのものを否定しているわけではないことです。彼自身、PayPalやPalantirを創設した起業家です。技術の恩恵を十分に理解しています。
彼が警告しているのは以下の点です。
Thielが警告する3つのポイント:
- 万能薬視: 技術を「すべてを解決する万能薬」と見なす傲慢
- 中央集権的支配: 技術による中央集権的支配の危険性
- 人間性の軽視: 人間の道徳的・霊的次元の軽視
技術は道具です。それをどう使うかは人間の選択にかかっています。

現代への示唆 - AI・グローバリズム・世界政府
GAFAMと中央集権的支配
Thielの論考を現代に当てはめると、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)のようなビッグテック企業の存在が浮かび上がります。
GAFAMの特徴:
- データ支配: 世界中のデータを収集・管理
- 情報統制: プラットフォームを通じて情報の流通を支配
- 超国家的影響力: 国家を超えた影響力を持つ
これらの企業は、ある意味で「現代のベンサレム」と言えます。
デジタル監視社会の到来
中国の社会信用システムに代表されるように、デジタル技術による監視と管理は現実のものとなっています。
デジタル監視の実例:
- 顔認識: 顔認識技術による追跡
- 発言監視: SNSの発言監視
- 取引追跡: デジタル通貨による取引追跡
黙示録13章17節の「獣の刻印なしには売買できない」という預言が、デジタル時代に新たな意味を持ちつつあります。
分散vs中央集権 - ブロックチェーンとビッグテック
興味深いことに、Thiel自身はビットコインの支持者でもあります。
ブロックチェーン技術は、中央集権的な権力に対抗する分散型のシステムを可能にします。これはThielの思想の核心と一致しています。
技術そのものが悪いのではありません。それが中央集権的に使われることが問題なのです。
日本企業・読者が考えるべきこと
日本の読者にとって、本論考から学べることは何でしょうか。
日本企業・読者への示唆:
-
技術導入の際の批判的視点
- AIやデジタル技術を導入する際、「何のために」「誰のために」という問いを忘れない
-
分散型アプローチの価値
- 中央集権的なプラットフォームに依存しすぎないこと
-
人間性の維持
- 効率化や最適化だけでなく、人間の尊厳を守ること
よくある質問(FAQ)
Q1. Peter Thielはなぜ宗教的テーマを扱ったのですか?
Thielは技術進歩を無批判に礼賛するシリコンバレーの風潮に警鐘を鳴らしたいと考えています。
宗教的テーマを用いることで、「人間が神になろうとする試み」という普遍的な危険性を浮き彫りにしています。彼自身がキリスト教徒であり、ルネ・ジラールの思想に影響を受けていることも背景にあります。
Q2. ワンピースが選ばれた理由は何ですか?
ワンピースは現代における世界政府と秘密統治者(イム)という構造を描いています。グローバリズムと中央集権的支配という現代的課題を反映しているためです。
また、世界中で読まれている作品であり、西洋の古典文学とは異なる視点から同じテーマを描いています。さらに、主人公ルフィが支配構造を打倒する可能性を描いており、他の作品にはない希望を提示しています。
Q3. 技術楽観主義とは何が問題なのですか?
技術楽観主義は「技術がすべての問題を解決する」と信じることです。
問題は以下の点にあります。人間の限界や道徳的判断を軽視すること。「すべてを可能にする」という神の属性を技術に置き換えようとする傲慢さです。
また、技術が中央集権的に管理されると支配の道具となる危険性があります。Thielは技術進歩そのものを否定していません。技術と人間の謙虚さのバランスを訴えています。
Q4. 本論考は陰謀論ですか?
いいえ、違います。
Thielは文学作品の分析を通じて、権力の中央集権化と技術の無批判な受容という構造的問題を指摘しています。特定の陰謀を主張するのではありません。
歴史的パターンと文学的洞察から現代への警告を読み取る知的営為です。ベーコン、スウィフト、ムーア、尾田という異なる時代・文化の作家が、同様のテーマを描いていることに注目しています。
Q5. ビジネスパーソンは本論考から何を学べますか?
以下の3点を学べます。
- AIやグローバリゼーションを推進する際の慎重さ
- 中央集権的プラットフォームへの過度な依存の危険性
- 技術進歩と倫理のバランス
特にAIを活用する企業は、技術を「すべてを解決する万能薬」と見なすのではなく、人間の判断と責任を維持する重要性を再認識できます。分散型のアプローチや透明性の確保がますます重要になるでしょう。
まとめ
Peter Thielの「世界の果てへの航海」は、4世紀にわたる文学作品を通じて現代社会への重要な警告を発しています。
主要ポイント
-
技術は道具である
- 技術は「すべてを可能にする」ものではなく、人間の道具です
- 神の属性を技術に置き換える傲慢に注意
-
中央集権的支配の危険性
- 世界統一や中央集権的支配は、善意から始まっても危険を伴います
- 表向きの善と実質的な支配を見分ける批判的思考が必要
-
希望の可能性
- ワンピースのルフィのように、支配構造を打倒する希望も文学には描かれています
次のステップ
- 問いを持つ: AI導入時に「何のために」「誰のために」という問いを忘れない
- 依存を避ける: 中央集権的なプラットフォームへの過度な依存を避ける
- 分散型を検討: 分散型技術(ブロックチェーンなど)の可能性を検討する
参考文献
一次資料
- Peter Thiel & Sam Wolfe, "Voyages to the End of the World," First Things, October 2025
- Francis Bacon, New Atlantis (1627)
- Jonathan Swift, Gulliver's Travels (1726)
- Alan Moore, Watchmen (1986-87)
- 尾田栄一郎『ONE PIECE』(1997-、集英社)
二次資料
- Peter Thiel, Zero to One (2014)(邦訳『ゼロ・トゥ・ワン』NHK出版)
- 聖書:テサロニケ人への手紙第一、ダニエル書、ヨハネの黙示録
この記事の著者

中村 知良
代表取締役
早稲田大学卒業後、ソフトバンク株式会社にてAI活用やCEO直下案件のプロジェクトマネージャーに従事。その後、不動産スタートアップPit in株式会社の創業、他スタートアップでの業務改善・データ活用を経験後、2023年10月、株式会社ネクサフローを創業し代表取締役CEO就任。


