
Personio CROが語るAI powered go-to-market 5つの教訓
AIサマリー
Personio CRO Philip Lorが語る、セールス組織のAI変革戦略。2時間のリサーチが15分に短縮、パイプライン生産性2倍を実現した4つの実践事例と、AI文化構築の5つの教訓を詳解。
セールス組織のAI変革は「実験」から「実装」のフェーズに入りました。Personio(従業員1,500名、顧客15,000社)のCRO Philip Lorは、SaaStrロンドンで自社のAI導入事例を公開しました。
本記事の表記について
- 金額の日本円換算は1ドル=150円で計算しています
- 下線付きの用語にカーソルを合わせると解説が表示されます
元動画: SaaStr Podcast - Philip Lor, Personio
本記事は、上記動画の内容をもとに、ネクサフローの視点で再構成したものです。
この記事でわかること
- AI powered go-to-marketの5つの教訓: ボトムアップ×トップダウン、クロスファンクショナル体制、Jobs to be done(達成すべき仕事の分析)、AI文化構築、Stack + Context
- 4つの実践事例と具体的ROI: リサーチ時間2時間→15分、パイプライン生産性2倍、7日で140ミーティング予約
- 失敗から学んだ教訓: AIチャットの不適切応答、最初の4週間の機会損失、データ重複33%の問題
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| トピック | AI powered go-to-market |
| カテゴリ | 企業分析・講演解説 |
| 難易度 | 中級(SaaS営業組織の責任者向け) |
| 登壇者 | Philip Lor (CRO, Personio) |
| イベント | SaaStr Podcast / SaaStr Conference |
| 企業規模 | 従業員1,500名、顧客15,000社、セールス400名 |
Personioとは?
Personioは、ミュンヘンを拠点とするHR・給与プラットフォームです。約1,500名の従業員を抱え、15,000社の顧客にサービスを提供しています。セールスチームだけで約400名という規模です。SaaS企業のAI導入事例として注目を集めています。
Philip Lorのプロフィール
- 現職: Personio CRO (Chief Revenue Officer)
- 経歴: 元Dropbox
- 専門領域: Go-to-market戦略、営業組織変革、AI活用
Philip自身が「毎日目覚めて『もっと速く進まなければ』と考えています」と語るように、AI導入に対して強い危機感を持っています。同時に、大きな機会として捉えています。
AI powered go-to-marketとは?
AI powered go-to-marketとは、セールス・マーケティング・カスタマーサクセスの全プロセスにAIを組み込み、営業組織の生産性を劇的に向上させる戦略です。
従来のGo-to-market戦略との違い
| 項目 | 従来のGTM | AI powered GTM |
|---|---|---|
| データ収集 | 手動、分散、重複あり | 自動、集約、リアルタイム |
| リサーチ時間 | 2時間/日(ESDR) | 15分/日(AI検索アシスタント) |
| 競合分析 | 四半期ごとの手動更新 | リアルタイム自動更新(Gong + LLM) |
| インバウンド対応 | 営業時間のみ(9-18時) | 24/7対応(AI SDR) |
| 意思決定 | 経験と勘 | データドリブン + AIレコメンデーション |
AIがもたらす営業組織の変革
Personioの事例では、以下のような非線形な効果が現れています:
- Deal velocity(商談速度)向上: 商談サイクルの短縮
- Win rate(勝率)改善: 成約率の向上(具体的数値は非公開)
- 顧客維持率向上: チャーン率(解約率)の低下
- 仕事の質向上: 営業担当者が単純作業から解放され、顧客対応に集中
"Can we double the business with the same headcount? That's for me the big question."
「同じヘッドカウントでビジネスを2倍にできるか?それが私にとっての大きな問いです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
AI導入の5つの教訓
Personioは2025年5月に「AI Search Week」を開催しました。全従業員にLLM(大規模言語モデル)アクセスを提供しました。6月中旬からAI powered go-to-marketワーキンググループを開始しました。現在では90%の従業員が週次でLLMを利用しています。
AI powered go-to-market 5つの教訓教訓1:ボトムアップとトップダウンの両輪
AI導入は、ボトムアップ(全員にツール提供)とトップダウン(予算・リソース決定)の両方が必要です。
ボトムアップ(実験フェーズ)
- 全従業員にLLMアクセスを提供
- AI Search Weekで社内の熱量を高める
- 現場からのアイデアを積極的に収集
トップダウン(スケールフェーズ)
- 予算確保とリソース配分の決定
- ワークフロー変更の許可
- ツール選定と契約交渉
重要: 実験フェーズから本格導入へ移行する際は、トップダウンの意思決定が必須です。これがないと「アイデアの乱立」で停滞します。
日本企業での適用ポイント
多くの日本企業では、ボトムアップの実験は進みます。しかし、トップダウンの予算承認に時間がかかります。CROやCEOが「AI予算は別枠で確保する」と宣言することが重要です。これでスピードが劇的に変わります。
教訓2:クロスファンクショナルチームが成功の鍵
Personioは15名のワーキンググループを組成しました。構成は以下の通りです:
15名のクロスファンクショナルチーム3つのチーム構成
| チーム | 役割 |
|---|---|
| Data & Systems Team | インフラ管理、Snowflake運用 |
| Revenue Operations | Go-to-market Engineers 2名を含む技術担当 |
| Business | Marketing、Sales、Customer Successの現場視点 |
Go-to-market Engineersとは?
Go-to-market Engineersは、RevOps内の技術担当者です。Personioは2名を配置し、以下の役割を担います:
- ビジネスコンテクストの理解: 2週間のジョブシャドウイング実施
- データチームとビジネスチームの橋渡し: 技術と現場をつなぐ
- アシスタントやエージェントの構築: 実装を担当
"We also made the initial working group fairly large. 15 people is a lot. And we did that also to have like broad coverage of all the functions."
「初期のワーキンググループをかなり大きくしました。15人は多いですが、すべての機能を広くカバーするためです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
日本の中小SaaS企業での適用
15名のワーキンググループを組成するのは難しいかもしれません。まずは以下の3名体制から始めることをお勧めします:
- RevOps担当者 1名
- エンジニア 1名(または技術に強いメンバー)
- 営業責任者 1名
段階的に拡大することが現実的です。
教訓3:Jobs to be done × カスタマージャーニーで優先順位付け
AI導入初期、Personioは「アイデアの乱立」に悩まされました。Slackチャンネルに次々とアイデアが投稿されます。しかし、最初のプロジェクトが完了しないまま新しいプロジェクトが始まる状態でした。
解決策:2つのフレームワーク
- Jobs to be done(JTBD): 各ロール(SDR、AE、CSなど)が「何を達成すべきか」をタスク分解
- カスタマージャーニーマッピング: タスクを顧客体験の各フェーズにマッピング
実践例:Account Managerのタスク分析
Go-to-market Engineerの1人が、Account Managerを2週間シャドウイングしました。
結果は以下の通りです:
- 7-8システムを横断してタスクを実行
- 情報収集だけで2.5時間/日を消費
- 単純な顧客対応に3時間/週を費やす
この分析により、「どのタスクにAIを適用すべきか」が明確になりました。
Jobs to be doneフレームワークとは
Clayton Christensen教授が提唱した概念で、「顧客が達成したい仕事(Job)」を分析するフレームワークです。Personioはこれを営業ロールに適用し、「このロールは何を達成するために雇われているか?」を明確化しました。
教訓4:AI文化の構築(Lead・Share・Celebrate)
技術的に優れたAIソリューションを導入しても、組織が受け入れなければ効果は出ません。
Personioは以下の方程式を重視しています:
変革効果 = プランの質 × 受容度
"The effect of a transformation is the quality of the plan times the acceptance. So 5 times 5 is a lot bigger than 10 times 1."
「変革の効果 = プランの質 × 受容度。5×5は10×1よりずっと大きい。」
— Philip Lor, CRO, Personio
AI文化構築の3つの柱3つの柱
| 柱 | 具体的施策 |
|---|---|
| Leading | リーダー自身がロールモデルに。Philip自身がGongのAI機能をデモ |
| Sharing | チームが構築したアシスタント(**RFP(提案依頼)**回答、顧客デッキ)を社内共有 |
| Celebrating | President's Clubに2-3席のAI貢献者枠を用意(翌年はさらに増席) |
Leadingの実践例
Philip自身が、Deal Review(商談レビュー)で以下のようにロールモデルを示しています:
- AEがPowerPointで商談戦略を説明しようとする
- Philip「PowerPointは開かずに、Gongのアカウント概要(AI機能)を開いてください」
- リアルタイムでGongの自動生成されたAccount Briefを確認
- 次回から、AEは自発的にGongのAI機能を使うようになる
教訓5:既存スタックにLLMを重ねる(Stack + Context)
Personioは「新しいツールを無限に試す」アプローチを避けました。既存スタックにLLMを重ねる戦略を取りました。
初期スタック(2025年6月時点)
Personioのテックスタック| レイヤー | ツール | 役割 |
|---|---|---|
| CRM | Salesforce / HubSpot | 顧客データの中核 |
| 会話インテリジェンス | Gong | 顧客会話データの心臓部 |
| Website Chat | Qualified | 高速ミーティング予約(AI SDR) |
| データウェアハウス | Snowflake | 構造化・非構造化データの集約 |
| LLM | Amazon Bedrock | 複数LLMを利用可能 |
| Sales Engagement | Gong Engage | アウトバウンド自動化 |
Contextの重要性
Personioは、Snowflakeに以下のデータを集約しました:
- 5,000件のGong通話
- メール、顧客会話
- ICP(理想顧客像)定義、ピッチデック、製品トレーニング資料(Personio固有のコンテクスト)
このコンテクストがあるからこそ、LLMは「Personio固有の回答」を生成できます。
データインフラ整備の重要性(日本企業向け)
Personioは、Salesforceの33%が重複データだったことを発見しました。自動重複排除を実施しました。日本企業でも、SalesforceとGongのデータが分断されているケースが多いです。まずは以下から始めることをお勧めします:
- データ重複のクリーンアップ: 同一顧客の重複を削除
- SnowflakeまたはBigQueryへの集約: データウェアハウスに一元化
- 構造化データと非構造化データの統合: CRMとGong通話を連携
実践事例1:Win/Loss分析とGo-to-market GPT
課題:競合分析の更新が遅い
従来、営業担当者はSalesforceに勝敗理由を入力していました。しかし、以下の問題がありました:
- **30%が「その他」**として分類され、詳細不明
- 詳細な理由が記載されていても、深掘りができない
- 競合Battle Card(競合対策シート)は四半期ごとの手動更新で、情報が古い
解決策:Gong + Snowflake + LLMで自動化
Personioは、以下のデータフローを構築しました:
Gong(会話データ)→ Snowflake → LLM → Battle Card自動更新
- Gongの通話、メール、Salesforceデータを Snowflake に集約
- LLMで「なぜ勝ったか?なぜ負けたか?」を分析
- 競合Battle Cardをリアルタイムで10-15%強化
成果
| 指標 | Before | After |
|---|---|---|
| Battle Card更新頻度 | 四半期ごと | リアルタイム |
| 競合分析の深さ | 表面的 | 10-15%詳細化 |
| 製品フィードバック | 主観ベース | データドリブン |
副次的効果:製品チームへのフィードバック
LLMで10,000件の通話を分析した結果、製品フィードバックが可能になりました。
具体例は以下の通りです:
- 「この機能は顧客から強く評価されている」
- 「この領域で競合に負けている」
製品チームへの提案が、経験ベースではなくデータドリブンになりました。これで信頼性が向上しました。
実践事例2:Expansion SDRアシスタント
課題:クロスセル準備に2時間/日のリサーチ時間
Personioには約15,000社の既存顧客がいます。**Expansion SDR(既存顧客担当営業)**がクロスセル(新製品の追加販売)を担当しています。
Jobs to be doneマッピングの結果、以下が判明しました:
- Expansion SDRは2時間/日をリサーチに費やす
- 10-20システムを横断して情報収集(Amplitude、Salesforce、契約管理システムなど)
- 情報収集に時間を取られ、アポ取りや顧客対応の時間が不足
解決策:Salesforce統合の検索アシスタント
Go-to-market Engineersが、Salesforceに統合された検索アシスタントを構築しました。
動作フロー
- SDRがSalesforceでアカウント名を入力
- アシスタントが10-20システムから情報を自動収集(Snowflake経由)
- クロスセルに最適な情報をフォーマット化して提示
- 「Green(推奨)」「Yellow(要検討)」「Red(非推奨)」のレコメンデーション付き
成果
Expansion SDR Before/After"The research time that an ESDR spent on this work went from 2 hours a day to 15 minutes."
「Expansion SDRのリサーチ時間は1日2時間から15分になりました。」
— Philip Lor, CRO, Personio
| 指標 | Before | After | 改善率 |
|---|---|---|---|
| リサーチ時間 | 2時間/日 | 15分/日 | 92%削減 |
| パイプライン/FTE | 基準値 | 2倍 | 100%向上 |
| アポ取り・顧客対応時間 | 少ない | 増加 | - |
この事例は、PersonioのAI活用事例の中で最もROIが高いものの1つです。
実践事例3:Intent Score(インテントスコア)
Account ScoreとIntent Scoreの違い
多くの企業は**Account Score(静的な企業属性)**でアウトバウンド優先順位を決めています。
Personioはこれに加えて、**Intent Score(動的な購買シグナル)**を導入しました。
| スコアタイプ | 内容 | 更新頻度 |
|---|---|---|
| Account Score | 企業規模、業種、地域などの静的属性 | 月次/四半期 |
| Intent Score | Web訪問、元ユーザー転職、G2レビューなど | 毎日 |
シグナルの種類
Personioのデータサイエンスチームが、以下のシグナルをIntent Scoreに組み込みました:
- Web訪問: 製品ページや価格ページへのアクセス
- 元ユーザーの転職: Personioを使っていた人が新しい会社に転職した場合
- G2やTrustPilotのレビュー: 競合製品への不満表明
実装:Salesforceに「炎」アイコン表示
Intent Scoreは、営業担当者がすでに使っているSalesforceに統合されています。
- 3つの炎🔥🔥🔥: 最優先でアプローチすべきアカウント
- 2つの炎🔥🔥: 中優先
- 1つの炎🔥: 低優先
これにより、営業担当者は「今日どのアカウントにアプローチすべきか?」を一目で判断できます。
アウトバウンド優先順位の最適化
従来のアウトバウンドは「Account Score Aのリスト」を上から順に電話していましたが、Intent Scoreを組み合わせることで、以下のような優先順位付けが可能になりました:
- Account Score A × Intent Score 🔥🔥🔥: 最優先
- Account Score A × Intent Score 🔥: 後回し
- Account Score B × Intent Score 🔥🔥🔥: Account Score Aより優先する場合も
Intent Score構築のヒント
Personioは独自開発しましたが、以下のような既存ツールでもIntent Scoreを構築できます:
- 6sense: インテントデータプラットフォーム
- Clearbit: Web訪問データ
- LinkedIn Sales Navigator: 転職情報
まずは小さく始め、徐々にシグナルを追加することをお勧めします。
実践事例4:AI Chat「NIA」の挑戦と学び
Qualified導入の背景
Personioは当初、QualifiedをAI目的ではなく導入しました。高速ミーティング予約とWeb訪問Intent把握のために導入しました。
しかし、QualifiedがAI SDR機能を追加しました。これでPersonioはAI Chat「NIA」を本格展開しました。
成果:7日間で140ミーティング予約、20万セッション
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| ミーティング予約 | 140件/7日間 |
| Webセッション数 | 200,000 |
| 稼働時間 | 24/7 |
24/7対応の価値
NIAは、金曜夜11時のデモリクエストにも即座に対応します。「なぜ金曜夜11時に?」と思うかもしれません。しかし、実際にそのタイミングでデモを依頼する顧客は存在します。
従来の営業時間(9-18時)では、この機会を逃していました。
課題と対策
課題1:不適切な応答
NIAは以下のような不適切な応答をすることがありました:
- 法的アドバイスを提供(「この契約条項は違法です」など)
- 競合批判(「競合Aは機能が劣っています」など)
対策:専任トレーナー(Ami)による毎日のフィードバック
Personioは、**Ami(専任トレーナー)**をNIAに配置しました。Amiは以下を毎日実行します:
- 前日のチャット履歴を全件レビュー
- 不適切な応答をフィードバック
- リアルタイムでAIをトレーニング
"We don't have an Amelia, but we have an AM. And she's she's here. She's sitting over there. And we did say like, yeah, someone needs to like take accountability for for NIA for the AIDR and train the chat like every day."
「Amelia(インタビュアーの名前)ではなく、Amiがいます。彼女は専任でNIAの訓練を毎日行います。」
— Philip Lor, CRO, Personio
課題2:最初の4週間の機会損失
Personioは、NIAのトレーニング不足により、最初の4週間でデモリクエストを無駄にした可能性を認めています。
「デモ予約 + 価格質問 + 製品質問」のように、複数質問が同時に来た場合です。AIがどのフローを優先すべきか迷うことがあります。結果としてミーティングを予約できないケースがありました。
エージェントの日々のトレーニングの重要性
Philip自身が週末にNIAのチャット履歴を読み、スクリーンショットをSlackで共有しています。
- 驚くほど深い回答:「私(CRO)でも答えられない質問に、NIAが答えている」
- 驚くほど単純なミス:「デモ予約ボタンを押してくれない」
この両極端な品質が、AIは毎日の監視・改善が必須であることを示しています。
Personioのテックスタック全体像
各ツールの役割
| ツール | 役割 | 導入時期 |
|---|---|---|
| Salesforce / HubSpot | CRM | 既存 |
| Gong | 会話データの心臓部 | 2025年初頭 |
| Qualified | AI SDR「NIA」 | 当初は非AI用途 |
| Snowflake | データウェアハウス | 既存(拡張) |
| Amazon Bedrock | LLM | 2025年6月 |
| Gong Engage | Sales Engagement(Grooveから切り替え) | 2025年中 |
試行中のツール
Personioは以下のツールを試行中です。しかし、深く使い込むことを優先しています:
| ツール | 用途 | 状況 |
|---|---|---|
| Clay | Outbound自動化 | PoC完了 |
| Artisan | AI SDR(Outbound) | 評価中 |
| Hyperbound | Rep coaching(営業コーチング) | テスト中 |
| Finn | Customer support agent | ロールアウト予定 |
"The point is not to take like test every single one of them. You got to pick a couple and and go really deep with them."
「すべてのツールをテストすることがポイントではありません。いくつかを選んで、深く使い込むことが重要です。」
— Philip Lor, CRO, Personio
データインフラの整備
Salesforceの33%が重複だった問題
Personioは、AI導入前にデータインフラの整備を優先しました。
Salesforceのデータ分析で、33%が重複データだったことが判明しました。
対策
- **自動重複排除(De-duplication)**の導入
- 数ヶ月かけてProspect Databaseのクリーンアップ
- 外部データソースの購入とクリーニング
Snowflakeへの集約
Personioは、以下のデータをSnowflakeに集約しました:
構造化データ
- Salesforce/HubSpotの顧客データ
- 契約情報、取引履歴
非構造化データ
- 5,000件のGong通話
- メール
- 顧客会話
Personio固有データ
- ICP(理想顧客像)定義
- ピッチデック
- 製品トレーニング資料
この「Context(文脈)」があるからこそ、LLMはPersonio固有の回答を生成できます。
構造化・非構造化データの統合
多くの企業は、構造化データ(CRM)と非構造化データ(Gong通話)が分断されています。
Personioは、Snowflakeでこれらを統合しました。LLMが「営業担当者Aの最近の商談で、顧客が『競合Bの機能が優れている』と発言した」というコンテクストを理解できるようにしました。
ROIと組織への影響
定量的成果
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| LLM利用率 | 90%(週次利用) |
| 構築アシスタント数 | 400個(トップ10が80%の価値) |
| リサーチ時間削減 | 2時間/日 → 15分/日(ESDR) |
| パイプライン向上 | 約2倍(ESDR) |
| ミーティング予約 | 140件/7日間(NIA) |
| Webセッション | 200,000(NIA) |
| AI投資額 | 6桁ドル以上(各AI SDRは約$100k) |
定性的効果
| 効果 | 説明 |
|---|---|
| Deal velocity向上 | 商談サイクルの短縮 |
| Win rate改善 | 勝率の向上(具体的数値は非公開) |
| 顧客維持率向上 | チャーン率(解約率)の低下 |
| 仕事の質向上 | 単純作業から解放され、顧客対応に集中できる |
非線形な効果の理解
ROIは「リサーチ時間削減」のような単一指標ではなく、複数の領域で非線形に現れることを理解する必要があります。
"I think the ROI isn't instant but I do think it shows up in many places. deal velocity, pipeline velocity, customer retention, pipeline quality, win rate, but also in making people works easier."
「ROIはすぐには現れませんが、多くの場所で現れます。Deal velocity、Pipeline velocity、顧客維持率、パイプライン品質、Win rate、そして仕事をより楽にすることです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
「同じヘッドカウントでビジネスを2倍にできるか?」という問い
Philipにとって、AIの究極的な目標は以下です:
"Can we double the business with the same headcount? That's for me the big question."
「同じヘッドカウントでビジネスを2倍にできるか?それが私にとっての大きな問いです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
これは、単なるコスト削減ではありません。成長加速を意図しています。
AI時代のキャリアアドバイス
「AIに積極的に取り組め」
セールス組織のメンバーから「AIで仕事がなくなるのでは?」という懸念が寄せられた際、Philipは以下のように答えています:
"The best career advice I can give you is lean into AI. And what we do know is that everybody's jobs will evolve including mine."
「最高のキャリアアドバイスは『AIに積極的に取り組め』です。全員の仕事が進化します。私も含めて。」
— Philip Lor, CRO, Personio
全員の仕事が進化する
Philipは「一部のチームは縮小し、別のチームは拡大する」と明言しています。
例えば以下の通りです:
- 縮小する可能性: インバウンドSDR(AI SDRに置き換わる部分)
- 拡大する可能性: Channel & Partner Team(AIでは代替できない領域)
重要なのは、リソースを再配分することです。
最重要スキルは「好奇心」
"Curiosity. For me the number one characteristic is curiosity."
「好奇心。私にとって最も重要な特性は好奇心です。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Philipは、AI時代の採用基準として「好奇心」を最重視しています。
好奇心がある人は、新しいツールを積極的に試します。改善方法を考え続けます。
「AIを学ぶ」より「AIを実践する」
"It's about doing AI instead of learning AI."
「AIを学ぶのではなく、AIを実践することが重要です。」
— Philip Lor, CRO, Personio
Philipは、SaaStrでの質問「避けるべき失敗は?」に対して、「ツールを無限にテストすること」と「AIを学ぶだけで実践しないこと」を挙げました。
今後の展開と課題
解決済みの課題
| 課題 | 解決策 |
|---|---|
| アイデアの乱立 | Jobs to be done + Customer Journey |
| AIチャットの不適切応答 | 専任担当者(Ami)の配置 |
| データ重複 | 自動De-duplication |
未解決の課題
| 課題 | 現状 |
|---|---|
| データの鮮度管理 | 古いデータをどう削除・更新するか検討中 |
| エージェント間連携 | 商用(NIA)と非商用(Finn)の連携方法を模索中 |
| 複数質問の同時処理 | デモ予約+価格質問+製品質問の優先順位フロー改善 |
今後のロードマップ
- Finn(カスタマーサポートエージェント)のロールアウト
- Clay、Artisan、Hyperboundの深掘り活用
- リニューアルへのAI拡張(現在は新規顧客のみ)
- 3-5個のエージェントへの収束
Personioは現在、400個のアシスタントを構築しています。しかし、トップ10が80%の価値を生み出しているため、最終的には3-5個のエージェントに収束する予定です。
よくある質問(FAQ)
Q1. セールス組織にAIを導入するには何から始めればいい?
ボトムアップ(全員にLLM提供)とトップダウン(予算確保)の両輪で進めることが重要です。まずはGongやSalesforceなど既存スタックのAI機能を試すことから始めましょう。
Personioでは90%の従業員が週次でLLMを利用しています。
Q2. 営業のリサーチ時間を短縮するAIツールは?
Personioは10-20システムを統合した検索アシスタントを構築しました。Expansion SDRのリサーチ時間を1日2時間から15分に短縮しました。
Salesforce統合がポイントです。パイプライン生産性は2倍に向上しています。
Q3. Win/Loss分析をAIで自動化する方法は?
Gongの通話データをSnowflakeに集約します。LLMで競合Battle Cardを自動更新することで、10-15%の強化とリアルタイム更新を実現できます。
製品チームへのデータドリブンフィードバックも可能になります。
Q4. AI Chatで営業アポを自動化する際の注意点は?
専任トレーナーによる毎日のフィードバックが必須です。PersonioはAmiを専任配置し、不適切な応答(法的アドバイス、競合批判等)を監視・改善しています。
最初の4週間はトレーニング不足で機会損失もありました。
Q5. SaaS企業のAI活用事例で最もROIが高いものは?
PersonioではExpansion SDRアシスタントがパイプライン生産性2倍を達成しました。
リサーチ時間を2時間から15分に短縮しました。アポ取りや顧客対応により多くの時間を割けるようになったことが成功要因です。
Q6. AI導入で組織文化をどう変えるべき?
『変革効果 = プランの質 × 受容度』の方程式を意識します。Lead(リーダーがロールモデル)、Share(事例共有)、Celebrate(President's Clubに2-3席のAI貢献者枠)の3つの柱で推進することが有効です。
Q7. AIエージェントは何個くらい導入すべき?
Personioは400個のアシスタントを構築しました。しかし、トップ10が80%の価値を生み出しています。
最終的には3-5個のエージェントに収束する予定です。深く使い込むことが重要です。
Q8. Go-to-market Engineersとは何か?
**RevOps(収益運営)**内の技術担当者です。PersonioはGo-to-market Engineers 2名を配置し、Data & Systems TeamとBusinessの橋渡し役を担っています。
ビジネスコンテクストと技術の両方を理解することが重要です。
まとめ:SaaS企業がAIファーストになるために
主要ポイント
- ボトムアップ × トップダウン: 全員にLLM提供(実験)+ 予算・リソース決定(スケール)
- クロスファンクショナル体制: Data / RevOps / Businessの15名ワーキンググループ
- Jobs to be done: タスク分析 → カスタマージャーニーマッピングで優先順位付け
- AI文化構築: プランの質 × 受容度。Leading/Sharing/Celebratingで推進
- 既存スタックにLLMを重ねる: 新ツール無限試行ではなく、深く使い込む
- 非線形なROI: リサーチ時間、パイプライン、Win rate(勝率)、仕事の質など多面的に効果
- 日々の監視・改善: AIは設定して終わりではない。専任担当者の配置が鍵
- 好奇心: AI時代の最重要スキル
- 実践優先: 「AIを学ぶ」より「AIを実践する」
Philip Lorの印象的な言葉
"I wake up every day thinking we need to go faster. We need to go faster. But that is the opportunity for everybody."
「毎日目覚めて『もっと速く進まなければ』と考えています。しかし、これは全員にとってのチャンスなのです。」
— Philip Lor, CRO, Personio
次のステップ
Personioの事例から学べることは、AI導入は技術だけでなく、組織文化と密接に関わるということです。
以下のステップで始めることをお勧めします:
- まずは実験: 全員にLLMアクセスを提供(ChatGPT、Claude等)
- 既存ツールのAI機能を試す: Gong、Salesforceなど
- Jobs to be doneマッピング: どのタスクにAIを適用すべきか分析
- 小さく始める: 1つのUse Caseから深く使い込む
- 文化を作る: Lead/Share/Celebrateで推進
参考リソース
本記事はネクサフローのAI研究シリーズの一部です。
この記事の著者

中村 知良
代表取締役
早稲田大学卒業後、ソフトバンク株式会社にてAI活用やCEO直下案件のプロジェクトマネージャーに従事。その後、不動産スタートアップPit in株式会社の創業、他スタートアップでの業務改善・データ活用を経験後、2023年10月、株式会社ネクサフローを創業し代表取締役CEO就任。


