デコイ効果(おとり効果)とは?収益を40%増やす価格戦略の科学
AIサマリー
0%しか選ばれなかったプランが、84%を生み出した。行動経済学が解明した選択操作の心理とは。3段階価格設計の科学的根拠を解説。

The Economist誌の購読プランに、誰も選ばない選択肢があった。0%の選択率。だが、その「無用なプラン」が消えた瞬間、全体の売上構造が崩壊した。
本記事の表記について
- 金額の日本円換算は1ドル=150円で計算しています
- 下線付きの用語にカーソルを合わせると解説が表示されます
この記事でわかること
- デコイ効果の定義と発見の歴史: Duke大学の1982年研究から始まった選択操作の科学
- 選好が変わる心理メカニズム: 人間は比較でしか価値を判断できない脳の特性
- 3段階価格の設計手法: SaaS・EC・サブスク各業界での実装パターン
- 実証された収益効果: 14.3%〜100%の売上増を記録した企業事例
- 失敗条件と倫理的配慮: 専門家には効かない、消費者保護法との関係
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 英語名 | Decoy Effect / Asymmetric Dominance Effect |
| 発見 | 1982年(Joel Huber, John W. Payne, Christopher Puto) |
| カテゴリ | 行動経済学、プライシング心理学 |
| 難易度 | 中級(実装には顧客理解と継続的テストが必要) |
デコイ効果の基本構造The Economist事例:0%が84%を生んだ
問題の価格表
2002年、Duke大学のDan Ariely教授は、The Economist誌の購読プランを学生に提示した。
| プラン | 価格 | 選択率 |
|---|---|---|
| Web only | $59(約8,850円) | 16% |
| Print only | $125(約18,750円) | 0% |
| Print + Web | $125(約18,750円) | 84% |
Print onlyを選んだ学生は0人。完全に無視された。
デコイを除くと起こった逆転
Ariely教授は次に、Print onlyプランを削除した。
| プラン | 価格 | 選択率 |
|---|---|---|
| Web only | $59(約8,850円) | 68% |
| Print + Web | $125(約18,750円) | 32% |
結果は劇的に逆転した。Print + Webの選択率は84%→32%に急落。52ポイントの減少。
収益への影響
- デコイあり版の方がはるかに収益性が高い
- 収益増加率: 43%
- 誰も選ばないプランが、全体の選好を操作していた
これが「デコイ効果」の衝撃的な実証例である。
デコイ効果とは
定義
デコイ効果(Decoy Effect)とは、消費者が2つの選択肢から選ぼうとしている時、3つ目の「非対称に劣った」選択肢(デコイ)を追加すると、特定の選択肢への選好が変化する心理現象。
別名:
- Asymmetric Dominance Effect(非対称優位効果)
- Attraction Effect(誘引効果)
重要な特徴
デコイは以下の構造を持つ:
- ターゲット選択肢に対しては、すべての点で劣る
- 競合選択肢に対しては、一部の点では優れている
この「非対称性」が、比較を誘発し選好を変える。
発見の歴史
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原著論文 | "Adding Asymmetrically Dominated Alternatives: Violations of Regularity and the Similarity Hypothesis" |
| 著者 | Joel Huber, John W. Payne, Christopher Puto(Duke University) |
| 掲載誌 | Journal of Consumer Research |
| 年 | 1982年(1981年カンファレンス発表) |
| 後続研究 | Itamar Simonson(Stanford, 1989)が妥協効果と正当化効果を確立 |
なぜデコイは選好を変えるのか
1. 比較の容易さ(Comparative Ease)
人間は絶対的な価値を評価するのが苦手だが、比較は得意。
- $59が妥当か判断できない
- だが「$125のPrint onlyより、同じ$125でPrint + Webが得られる」は即座に理解できる
- デコイは明らかにターゲット選択肢より劣るため、ターゲットが相対的に魅力的に見える
重要: デコイは説得ではなく、比較を通じて機能する。
2. 正当化効果(Justification Effect)
デコイが存在することで、ターゲット選択肢を選ぶ理由を正当化しやすくなる。
Simonson(1989)の研究結果:
- 他者に選択理由を説明する必要がある場合、デコイ効果がより強く現れる
- 引用: "Decoys provide an easy rationale for decisions"
人は「なぜその選択をしたのか」を説明できることを重視する。デコイはその説明材料を提供する。
3. 関連する認知バイアス
デコイ効果は、他の心理現象と連動して強化される。
| バイアス | 関係性 |
|---|---|
| アンカリングバイアス | デコイの価格が参照点(アンカー)となり、ターゲット選択肢がリーズナブルに見える |
| フレーミング効果 | デコイ効果は特定の比較コンテキストを作り出すフレーミングの特殊形態 |
| コントラスト効果 | デコイとターゲットの対比により、ターゲットの価値が強調される |
デコイの3つのタイプ
デコイには3つの主要パターンがある。状況に応じて使い分ける。
タイプ1: Asymmetric Dominance(非対称優位)
説明: 最も一般的なデコイ効果。デコイがターゲットに対してすべての点で劣る。
構造:
- デコイはターゲットによって支配されている
- だが、競合選択肢によっては支配されていない
事例: 映画館のポップコーン
| サイズ | 価格 | 役割 |
|---|---|---|
| Small | $3(約450円) | 競合 |
| Medium | $6.50(約975円) | デコイ |
| Large | $7(約1,050円) | ターゲット |
中サイズは大サイズとわずか$0.50(約75円)しか違わない。大サイズが圧倒的に魅力的に見える。
実績: ある全国チェーンで、中サイズの導入により大サイズの売上が85%増加。
タイプ2: Compromise Effect(妥協効果)
説明: 選択肢が中間的な位置になることで魅力が増す効果。
構造:
- デコイは両方の次元で評価範囲を拡大する
- ターゲットが極端なデコイと競合選択肢の間の「妥協案」に見える
研究: Simonson(1989)が確立。
事例: 3段階プランで中間プランが「ちょうど良い」選択に見える。
| プラン | 特徴 |
|---|---|
| Basic | 安いが機能不足と感じさせる |
| Professional | 「ちょうど良い」妥協案として選ばれやすい |
| Enterprise | 高すぎる(デコイ) |
タイプ3: Phantom Decoy(ファントムデコイ)
説明: 実際には選択できない(在庫切れ、販売終了等)が、選好に影響を与えるデコイ。
仕組み:
- 非対称に優位な選択肢が利用不可能でも、それが支配する選択肢への選好を増加させる
- 意思決定の自信を高める効果もある
活用場面:
- 在庫切れ商品を比較表に残す
- 「旧モデル(販売終了)」を新モデルと並べて表示
価格設定での活用法
デコイ効果は、様々な価格戦略で実装できる。
1. 3段階価格設計
構造: Basic(ベーシック)、Professional(プロフェッショナル)、Enterprise(エンタープライズ)
デコイの役割: 中間プランがデコイとして機能することが多い
ベストプラクティス:
- 60-70%の顧客が中間プランを選択するのが理想的(Patrick Campbell, ProfitWell創業者)
- 両者にとって価値-価格の方程式が最もバランスが取れている
典型的なパターン:
- 中間プランの機能は魅力的
- だが価格が最上位プランに近い、または制限がある
- 結果として、顧客は最上位プランを選ぶ
3段階価格設計フロー2. サブスクリプションモデル
構造: Individual、Duo、Family等
Spotifyの事例:
| プラン | 価格 | 役割 |
|---|---|---|
| Individual | 約$10(約1,500円) | ベース |
| Duo | $16.99(約2,548円) | デコイ |
| Family | $19.99(約2,998円) | ターゲット |
メカニズム:
- DuoプランはFamilyプランに価格が近い(差額わずか$3 / 約450円)
- だがメリットは少ない(2人まで vs 6人まで)
- Individualからアップグレードする顧客は、まずDuoを検討し$16.99を認識
- その後、わずか$3でより多くの価値を得られるFamilyプランを選ぶ
3. ECバンドル
応用: 商品バンドルの設計で、1つのバンドルを意図的に魅力を下げる
事例: Tシャツ販売
| バンドル | 価格 | 役割 |
|---|---|---|
| 1枚 | $20(約3,000円) | ベース |
| 2枚パック | $35(約5,250円) | デコイ |
| 3枚パック | $40(約6,000円) | ターゲット |
2枚パックが3枚パックよりわずかに安いだけ。3枚パックが圧倒的に魅力的に見える。
4. プロモーション階層
構造:
- 「10%オフ」
- 「15%オフ($300以上)」(デコイ)
- 「30%オフ($350以上)」
目的: 顧客を最も高い購入額に誘導。わずか$50(約7,500円)追加で30%オフ。
実証された収益効果
デコイ効果は学術研究と実務の両方で、大きな効果が確認されている。
Williams-Sonoma: 売上2倍
時期: 約30年前(1990年代初頭) 製品: 家庭用パン焼き機
背景
家庭用パン焼き機は当時新しい概念。消費者は$275(約41,250円)が妥当な価格か判断できなかった。
戦略
Before:
- オリジナルモデル: $275(約41,250円)(売れ行き不振)
After:
- オリジナルモデル: $275(約41,250円)
- プレミアムモデル(わずかに良い): $429(約64,350円)(デコイ/アンカー)
結果
- $275モデルの売上がほぼ2倍に増加(約100%増)
メカニズム
- アンカリング: $429が参照点となり$275が手頃に見える
- 妥協効果: $275が「中間的な選択」に見える(実際には2択しかないのに)
オンラインダイヤモンド小売業者: 粗利益14.3%増
研究: Marketing Science誌(2020年)
結果: デコイ効果の実装により粗利益が14.3%増加
重要性: 学術的に厳密な実験で、実ビジネスで効果を確認。
北米大手保険会社: 年間45億円増収
実装: 行動科学チームを立ち上げ、デコイ効果を組み込んだ戦略を展開
結果: 年間収益が$30M(約45億円)増加
示唆: 金融サービスのような高額・複雑な商品でも効果がある。
SaaS企業の事例
HubSpot(Marketing Hub)
プラン: Starter、Professional、Enterprise
デコイメカニズム:
- Starterプランの価格が非常に低い(アンカリング効果)
- Professionalプランは約18倍の価格だが、自動化ワークフロー、レポートダッシュボード、カスタムドメイン等の高度な機能を含む
- Starterプランがアンカーとなり、Professionalプランが成長企業にとって賢明な投資に見える
- Professionalプランのコンタクト数制限が意図的なペインポイントとなり、Enterpriseプランを魅力的にする
Salesforce
プラン: Essentials、Professional、Enterprise
デコイメカニズム:
- Professionalプランがデコイとして機能
- Enterpriseプランの自動化・カスタマイズ・統合機能が成長企業にとって合理的な選択に見える
効果サイズ(メタ分析)
学術研究による定量的な効果測定。
Heath & Chatterjee(1995)メタ分析
発見: 非対称に劣るデコイの導入により、ターゲット選択肢の選択率が平均11.3ポイント増加
範囲: 10%〜39%の範囲で選好逆転が発生
具体的な効果サイズ
| 研究 | 文脈 | 結果 |
|---|---|---|
| 大腸がん検診の選択 | 病院選択 | 39%→54%、37%→59%に増加 |
| オンライン調査の完了 | 質問票選択 | 32.7%→55.9%に増加(23.2ポイント増) |
| ConversionXL調査 | SaaS | 上位ティアプランへのコンバージョンが最大30%増加 |
| American Marketing Association調査 | 一般 | ターゲットプランの選択率が最大40%増加 |
収益への影響
| 企業/研究 | 収益インパクト |
|---|---|
| The Economist | 43%増 |
| Williams-Sonoma | 売上約2倍(100%増) |
| 映画館ポップコーン | 大サイズ売上85%増 |
| オンラインダイヤモンド | 粗利益14.3%増 |
| 保険会社 | 年間$30M(約45億円)増 |
限界・失敗条件
デコイ効果は万能ではない。効かない状況を理解することが重要。
1. デコイがあまりにも明白すぎる
結果:
- 消費者は操作されていると感じる
- 侮辱されたと感じる
- ブランドへの不信感
- ネガティブなブランド連想
推奨: 微妙さが重要(subtlety is key)。
悪い例:
- Basic: $10(約1,500円)、機能豊富
- Pro: $1000(約150,000円)、Basicとほぼ同じ機能(明白すぎるデコイ)
- Enterprise: $1200(約180,000円)
消費者は「騙されている」と感じる。
2. 専門知識がある消費者
研究仮説: ドメイン知識はデコイ効果に負の影響を与える
理由:
- 製品カテゴリに関する専門知識を持つ消費者は、デコイ効果の影響を受けにくい
- 専門家は製品に精通しているため、比較に頼らず絶対的な価値を評価できる
実務への示唆:
- デコイ効果は、初心者〜中級者向けの製品で最も効果的
- 専門家向けの製品では、透明性のある価格設定を優先すべき
3. 強い事前選好を持つ顧客
効果が薄い顧客:
- 常に品質を価格より優先する
- 特定ブランドへの忠誠心が高い
- 「一番安いものしか買わない」と決めている
デコイは選択を迷っている顧客にのみ効く。
4. 高額商品の購入時
理由: 消費者が選択により注意を払い、利用可能な情報をより正確に処理する準備ができている
具体例:
- 不動産
- 自動車
- 高額なB2Bソフトウェア(数百万円〜数千万円)
これらの購入では、デコイではなく実質的な価値評価が優先される。
5. 消費者がデコイの存在に気づいた場合
短期的影響: 操作されたと感じ、ブランドに害を与える可能性
長期的影響:
- 購入後の後悔
- 長期的なロイヤルティの低下
- 口コミでのネガティブ評価
対策: デコイを「正当な選択肢」として設計する(後述のベストプラクティス参照)。
倫理的考慮と規制動向
デコイ効果は強力だが、倫理的配慮が不可欠。
主要な倫理的懸念
| 懸念 | 説明 |
|---|---|
| 消費者の自律性の低下 | 心理的バイアスを利用して意思決定を操作する |
| 透明性の欠如 | 消費者は自分が影響を受けていることを認識していない |
| 不必要な支出の促進 | 実際のニーズや選好と一致しない高価格商品を選ばせる可能性 |
| 脆弱な消費者層への影響 | 価格に敏感な消費者や情報に乏しい消費者が不均衡に影響を受ける。ミレニアル世代とZ世代はデコイ効果のネガティブな影響を受けやすい |
倫理的実装のための推奨事項
1. 透明性の確保
価格戦略において透明性を維持する。研究によると、消費者がナッジの存在を知らされた場合、これらの戦術の公平性に対する認識が改善される。
具体例:
- 「お客様の選択をサポートするため、複数プランをご用意しています」と明記
- 各プランの価値を正直に説明
2. すべての選択肢に真の価値を提供
デコイを含むすべてのオプションが消費者に本物の価値を提供することを保証。
NG: 「誰も選ばない」ことを前提にしたダミープラン OK: 「一部の顧客には本当に適している」プラン
3. 脆弱な個人の保護
デコイ価格を脆弱な個人を搾取する可能性がある状況で使用しない。
NG例:
- 低所得者向けのローン商品で、複雑なデコイを使い高金利プランに誘導
- 高齢者向けの保険で、理解困難なデコイを設定
4. 消費者福祉の優先
マーケティング効率と消費者の権利を調和させるため、消費者福祉を最優先に置く。
判断基準: 「この価格設計は、顧客にとって本当に良い選択を促しているか?」
消費者保護法との関係
米国カリフォルニア州の動向
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 法律 | Honest Pricing Law(SB 478) |
| 施行日 | 2024年7月 |
| 内容 | 商品・サービスの隠れた手数料を禁止 |
| 示唆 | デコイ価格戦略が一部の管轄区域で消費者保護法に違反する可能性 |
二重戦略の必要性
デジタル消費者を保護するには、以下の二重戦略が必要:
- 法的基準の強化
- 行動インサイトを規制設計に組み込む
継続的な研究と規制に支えられた責任ある適用により、マーケティング効率と消費者の権利を調和させることができる。
実装のベストプラクティス
デコイ効果を成功させるための具体的なガイドライン。
実装ガイドライン
| ガイドライン | 根拠 |
|---|---|
| 60-70%の顧客が中間ティアを選択することを目指す | Patrick Campbell(ProfitWell創業者):両者にとって価値-価格の方程式が最もバランスが取れている |
| デコイは無視されるが、それでも選択に影響を与える時に最も強力 | デコイが実際に選ばれることを期待しない。The Economist事例では0%の選択率でも効果あり |
| デコイは物理的にターゲット商品の隣に配置する | 比較を容易にするため。Webサイトでは左から「競合、デコイ、ターゲット」の順が効果的 |
| 最も高価な2つの選択肢間の価格差は他よりも小さく、ほぼ無視できるものにする | 例:ポップコーン中$6.50、大$7のように$0.50の差。「わずかな追加で大幅な価値」を強調 |
| すべてのオプションが本物の価値を提供することを保証 | 単なる操作ツールではなく、真の選択肢として(倫理的配慮) |
テストと最適化
推奨: 定期的に価格ティアをテストする企業は、静的な価格構造の企業よりも30%高い収益成長を見る(Price Intelligently調査)
示唆: デコイ価格は継続的なA/Bテストと最適化が必要。
A/Bテストの具体的手法
- ベースライン計測: 現在の価格構造での選択率を記録
- デコイバリエーション: デコイの位置(中間 vs 最上位)、価格差、機能差を変える
- 選択率と収益を同時測定: 選択率だけでなく、全体の収益を見る
- セグメント分析: 新規顧客 vs 既存顧客、企業規模別で効果が異なる可能性
最適化の継続サイクル
- 月次レビュー: 選択率の推移を確認
- 四半期ごとの大規模テスト: 新しいデコイパターンを試す
- 年次の全面見直し: 市場の変化、競合の価格戦略、顧客ニーズの変化を反映
よくある質問(FAQ)
Q1. デコイ効果は日本でも効きますか?文化的な差はありますか?
回答: デコイ効果の文化的差異に関する具体的な研究は限定的ですが、一般的な異文化消費者研究では以下が示されています。
- 東アジアと西洋の消費者間で、分析的思考vs全体論的思考の違いが消費者行動に影響
- デコイ効果も文化的要因に影響される可能性があるが、具体的研究は今後の課題
一方、グローバル化により個人主義・独立性などの西洋的価値観が集団主義的なアジア社会でも採用される傾向があります。実務的には、日本市場でもデコイ効果は機能すると考えられますが、A/Bテストでの検証が推奨されます。
Q2. デコイプランを誰も選ばない場合、それは失敗ですか?
回答: いいえ、それは正常です。The Economist事例では、デコイ(Print only)の選択率は0%でしたが、それでも全体の選好に劇的な影響を与えました。
デコイの役割は「選ばれること」ではなく、「比較の基準を提供すること」です。Patrick Campbellによれば、理想的な選択率は以下の通りです:
- 下位プラン: 10-20%
- 中間プラン(多くの場合ターゲット): 60-70%
- 上位プラン(多くの場合デコイ): 10-20%
デコイプランが0-5%の選択率でも、ターゲットプランの選択率が60%を超えていれば成功です。
Q3. 競合がデコイ戦略を使っている場合、どう対応すべきですか?
回答: 競合のデコイ戦略を見破った場合、以下の対応が考えられます。
1. 透明性で差別化
競合が複雑なデコイ戦略を使っている場合、あなたはシンプルで透明な価格設定で差別化できます。「わかりやすい価格、隠れた費用なし」は強力な差別化要因です。
2. 価値提案の明確化
デコイに頼らず、各プランの価値を明確に説明することで、顧客の信頼を得られます。
3. 競合の価格を参照点として利用
競合の高価格デコイをアンカーとして、あなたの中価格帯プランを「合理的な選択」に見せることができます。
Q4. BtoB SaaSでデコイ効果を使う際の注意点は?
回答: BtoB SaaSでは、以下の点に特に注意が必要です。
1. 意思決定プロセスが複雑
- 複数の関係者が関与(購買担当、実際のユーザー、財務担当)
- デコイが明白すぎると、「誠実でない」と見なされリスク大
2. 専門家が多い
- BtoB購買担当者は専門知識を持つことが多い
- デコイ効果の影響を受けにくい
- 実質的な価値提供が最優先
3. 長期契約が多い
- 年間契約・複数年契約では、顧客は慎重に比較する
- デコイより、実際のROIが重視される
推奨: BtoB SaaSでは、デコイ効果を「補助的な要素」として使い、主要な価値提案は実質的な機能・サポート・統合能力に置くべきです。
Q5. デコイ効果を使った後、どうやって効果を測定すればいいですか?
回答: 以下の指標を継続的に測定します。
主要指標
| 指標 | 測定方法 | 目標 |
|---|---|---|
| プラン別選択率 | 各プランの選択数 / 全選択数 | 中間プラン60-70% |
| 平均契約単価(ACV) | 総収益 / 顧客数 | ベースラインから10-30%増 |
| アップグレード率 | 下位プランから上位プランへの移行率 | デコイ効果が長期的に機能しているか確認 |
副次指標
| 指標 | 測定方法 | 警戒すべき値 |
|---|---|---|
| 解約率(Churn Rate) | 月次解約顧客数 / 全顧客数 | デコイで不適切なプランに誘導していないか確認。上昇は要注意 |
| 顧客満足度(NPS) | Net Promoter Score調査 | 低下は「操作されたと感じている」サイン |
| 価格に関する問い合わせ数 | サポートチケット | 増加は「価格が不明瞭」のサイン |
測定の頻度
- 週次: プラン別選択率(早期警戒)
- 月次: ACV、解約率、問い合わせ数
- 四半期: NPS、セグメント別分析
- 年次: 全体戦略の見直し
まとめ
主要ポイント
- デコイ効果は実証済み: 学術研究と実務の両方で、10-40%の選択率増加、14.3-100%の収益増加が確認されている
- 心理メカニズムは比較と正当化: 人間は絶対的な価値を評価できないが、比較は得意。デコイは比較の基準を提供する
- 3つのタイプを使い分ける: 非対称優位、妥協効果、ファントムデコイを状況に応じて選択
- 失敗条件を理解する: 専門家、明白すぎるデコイ、高額商品では効果が薄い
- 倫理的配慮が不可欠: 透明性の確保、真の価値提供、脆弱な消費者の保護が長期的成功の鍵
デコイ効果が成功する条件
- 顧客が選択に迷っている
- 製品カテゴリに関する専門知識が限定的
- 比較が容易(3つの選択肢を並べて表示)
- デコイが「正当な選択肢」に見える(微妙さが重要)
- 継続的なA/Bテストと最適化
次のステップ
- 現在の価格構造を分析: 各プランの選択率、平均契約単価、解約率を測定
- デコイ候補を特定: どのプランをデコイとして機能させるか設計
- A/Bテストを開始: 小規模テストで効果を検証
- 倫理的配慮を確認: すべてのプランに真の価値があるか、透明性は十分か
- 継続的最適化: 月次レビュー、四半期ごとの大規模テスト、年次の全面見直し
関連記事
参考リソース
学術論文
- Huber, J., Payne, J. W., & Puto, C. (1982). "Adding Asymmetrically Dominated Alternatives." Journal of Consumer Research
- Simonson, I. (1989). "Choice Based on Reasons: The Case of Attraction and Compromise Effects." Journal of Consumer Research
- Profiting from the Decoy Effect: A Case Study of an Online Diamond Retailer. Marketing Science, 2020
書籍
- Ariely, D. (2008). Predictably Irrational: The Hidden Forces That Shape Our Decisions. HarperCollins.(邦題:『予想どおりに不合理』)
業界記事
- The Economist Magazine: A story of clever decoy pricing effect
- A Pricing Strategy From Williams-Sonoma and Apple
- The Art of Decoy Pricing: How Strategic Tier Design Drives Revenue
本記事はネクサフローのプライシング戦略シリーズの一部です。

